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第44話 とあるアイドルペットの日常 後編

「がう♡がう♡」


 パンッ!パンッ!パンッ!……


「がうぅ~♡♡♡」


 バタン!


『(ケンちゃん!戻ったぞ!もう交尾は始まってしまったか!……ってまるちゃん?壁を見つめて一人で何してるんじゃ?ケンちゃんとの交尾は?)』


 勢いよく扉を開けたルナさんは、壁に向かって激しく動いているまるちゃんさんを見て困惑している。


「はぁ……社会的に死ぬかと思った。ありがとうございます、ゴンさん」


「コンコ~ン!」


 まるちゃんさんの態度が急変したのを見るに、ゴンさんが以前僕に使った幻を見せて救ってくれたのだろう。

 下半身がさらけ出されたときはどうなるかと身構えたけど、結果的には助かり安堵の息をつく。


「がうっ!がうっ!がうっ……!」


 まるちゃんは壁を執拗にペロペロ舐めたかと思うと、何かを叩きつけるような動作を延々と繰り返している。

 もしあれをまともに食らっていたと思うとゾッとする。あの巨体なら、骨の一本や二本、簡単に折られてしまうだろう。


「そもそもなんであんなに怒ってるんだろ。不思議だね」


「コンコン!」


 一方僕はというと、破かれていた衣服の代わりに新品同様の服を着せられていた。しかも偶然にも、日本で日常的に着ていたものとまったく同じ服で、違和感と同時に妙な不気味さを覚える。


 何がどうなったのかよくわからないけど、これもゴンさんが魔法を使っているのだろうか。


 今はせめてものお礼で、僕のお腹の上に横たわるゴンさんの体を優しく撫でていた。


「コーン....♡」


 それを受けて、ゴンさんは舌を垂らし、満足げでどこか恍惚としたような顔をしている。


「それにしてもこの服すごいな。動きやすいっていうか、布の感覚はあるのに何も着てないみたいに軽い」


 ゴンさんの魔法は便利だなぁ……


「ん、ちょっと待てよ?これも魔法だとしたら、ちゃんと服を着てるように見えてるけど実は全裸なんじゃ.....」


 なんだか嫌な予感がする。


 そもそも異世界なのに、どうして日本の会社のロゴが入った服があるんだ?普通に考えてこの世界にないだろア〇ィダス。


 それともあれか?ア〇ィダスも異世界転移したのだろうか。


「うーん。考えれば考えるほどこの服には違和感しかない…………って、ちょっ、やばい!下半身がスースーしてきた」


 この服に対する違和感が強くなるにつれて、服がだんだんと透け始めていく。


「く......仕方ない!」


 僕は動揺しながらも、地面に落ちていたズボンをすぐさま掴んで頑張って履く。


 ズタズタに裂けてはいるが今はこれを履くしかない。かなり破れてはいるけど大事な部分はちゃんと隠せるはずだ。


「ふぅ……これで良し」


 僕は超超ダメージジーンズに足を通す。


 ペラ.....


「おっとと.....」


 腰の部分を手で押さえてないと、まるで魚の開きみたいにビロビロになってしまい大変だ。


『(おーい!まるちゃ~ん?わしの声が届いておらんか~そろそろごはんじゃぞ~)』


「がう~~~~♡♡♡」


 ぺろぺろぺろぺろ♡


「コンwwwコンコンwww」


 ペチ!ペチ!


 ゴンさんは僕のなでなでに満足したのか、今度は壁に張り付いて腰を振っているまるちゃんさんの頭を叩いてる。

 まるでからかうようにケラケラと笑っていて、理由はわからないが楽しそうだ。


 バタン!


「(ルナ様、カメラをお持ちしました……って何をされてるんですか?)」


「(いや、さっきからまるちゃんがずっと変な動きをしておってな。こうして目の前で手を振ってもまったく反応せんのじゃ)」


 パタパタ……


「がうがう♡」


『(な?)』


「(寝ぼけているだけでは?それより、交尾をしないのならはやくケンちゃんを馬車に乗せましょう。朝のうちに出発しないと日が落ちるまでに村に着きません)」


『(おお、そうじゃったな。交尾を見て忘れておった。ケンちゃ~ん!お出かけの時間じゃよ~)』


「ん?呼ばれてる……なんですかー」


 優しく僕を呼ぶ、ルナさんの声に応えて足を踏み出したそのとき――


 グイッ……


 何かが僕の服を引っ張った。


「えっ……なんで?」


 驚いて振り返ると、そこにはさっき撫でていた動物たちが勢揃いしていた。


 皆、無言のまま腕や足、服の端を器用に掴み、まるで一つの意思を持つかのように、ズルズルと部屋奥へと引きずっていく。


「ふしゃー!!!」「プーッ!!!」


 そして、僕の周りを取り囲むように体で壁を築いたかと思うと、一斉に声をあげた。


 その鳴き声は怒っているようでもあり、なにかを警告しているようでもある……正直ちょっと怖い。


「(動物たちがケンちゃんを囲んでますね。ずいぶんと私たちを警戒してるようですが……)」


『(ふむ。思い当たる節はある。わしらがケンちゃんを連れて行くたび、何日も戻ってこんからのう。きっと、ケンちゃんとは離れたくないのじゃろう)』


『(皆と仲良くしてくれてるのは嬉しいことじゃが……今回はその好かれっぷりが裏目に出てしまったようじゃな)』


「(それはまた……ケンちゃんの魅力は魔物にも通じるのですね)」


『(仕方ないじゃろ。強制発情攻撃を常時展開しているケンちゃんにひれ伏さないメスはおらんからな!)」


「(それもそうですね)」


 なでなでなでなでなでなで……


「チュンチュン!」


 まるで「大丈夫、心配しないで」と言い聞かせるように、僕の頭や背中を優しく撫でててくれる。


「いや、普通にルナさんの元に行きたいんですけど……」


 体を動かそうと試みるが、全身をがっちりと固定されていて、腕はもちろん体の向きさえ変えられない。これでは、逃げることなど到底できそうにない。


「(時間がありません。ちょっと可哀そうですが、私の魔法で氷漬けにしますか?)」


「(いや待て。わしはこの動物たちのリーダーだ。一言ガツンと言えば、大人しくケンちゃんを渡すじゃろ)」


 スタスタ……


 一触即発の状態だというのに、ルナさんは堂々とこちらへと歩いてくる。


 何かとっておきの秘策でもあるのかその顔には一切迷いがない。


『(皆の者よく聞くのじゃ!ケンちゃんはこれから、どうしても外せぬ大切な用事がある!速やかにこちらに引き渡すのじゃ!これは命令じゃ!もし、それでも逆らうというのなら――心苦しいが、今日のおやつは抜きじゃ!)』


 ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ!


  猫のような動物が素早く飛びかかると、その爪でルナさんの顔を躊躇なく引っ掻いた。


「(あの……大丈夫ですか? もし痛むようなら回復魔法を使いますけど……?)」


『(……………頼む)」


 ついさっきまで堂々としていたルナさんが、引っかき傷だらけの体をさすりながら縮こまっている。

 ラミィさんの手で回復してもらっているがその姿は痛々しく、見ていると可哀想だ。


「(もう色んな意味で泣きそうじゃ。わしがリーダーなのに……誰も従ってくれん……よよよ)』


 威勢はどこへやら、すっかり意気消沈している。


「(従わないのであればやはり魔法で拘束するしか……)」


『(な、ならぬ!みんなわしにとっては家族のような大切な存在なんじゃ!ケンちゃんのためだとしても、誰一人として傷つけることは許さぬ!)』


「(ですが、それではどうするつもりですか?今さら、エルフの森へ行くことを取り消すわけにはいきませんよ?)」


『(ぐぬぬぬ……こうなったらやむを得ん。最終手段じゃ!)』


 ルナさんは再びこちらに向かって歩いてくる。


「ぐるるるる…………」


 周囲の動物たちも警戒心を露わにして、一斉に低いうなり声をあげ、威嚇している。まるで次は容赦はしないぞと警告しているかのようだ。


「(皆の者!聞くがよい!)」


 一体何が始まるんだ…………


「(今から注射の時間じゃぞ!病院に行くから集合!)」


「「「「「 !!!!!! 」」」」」


 ダダダダダ!ヒュー!ビュン!バサバサ!


「(えっ、皆さんが大急ぎで逃げ出しましたけど……なぜですか?)」


『(ふっふっふ。皆注射が苦手じゃからな。こうすると、数日間は逃げまくるのじゃ……ただ、問題はご飯の時間すら隠れるから後が大変なのじゃがな)」


「(なるほど、そういうとなのですか。一応、そのことは臨時のお世話係に伝えておきます)」


「(助かる。さ~て……ケンちゃんはおとなしく、わしの言うことを聞いてくれるかのう?こっちにおいで~)」


 ぎゅっ!


 動物たちが突然パニックを起こして四方八方に散っていく。


 事態が飲み込めずに戸惑っていると、ルナさんがそっと抱き上げてくれた。


『(ケンちゃんは素直で偉いでちゅね~、よしよし♪さぁて、一緒に馬車に乗るぞ~)』


 ヒラ……。


「あ……」


 不意に腰元が軽くなったかと思うと、ボロボロのズボンがパタリと足元に落ちる。


『(あびゃびゃびゃ!!!やっぱりその前に交尾じゃ!ふふふ、これがケンちゃんの……)」


【ブリザードケージ】


 カチ―ン!


 僕をつかんでいたルナさんの腕。その肘から下が一瞬で凍りつき、見事なまでに氷漬けにされる。


「(ふむ……やはりルナ様が相手では、心が痛みませんね。むしろ少しだけ、清々しさすら感じます)」


「よし、セーフ」


 なんとかラミィさんに気づかれる前に、なぜか近くにあった新しいズボンを履き直せた。


「あぶないあぶない……これで露出狂だなんて誤解されずにすんだ。バレてたら追い出されてたかもしれないな」


 多少のゴタゴタはあったものの、僕はまた、あの布で覆われた檻に乗せられるのだった.....


「………………(にやり)」

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