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第41話「あの新入り食べてもいいかな?きっと私にメロメロだよね」


『ケンちゃ~ん!体調はもう良くなったかのう?怖い思いをさせてごめんねぇ~。今日もこの部屋でゆっくりしようねぇ~』


 ぷるぷる……


 いったい誰のために作ったのか、持ち手が1メートル以上もある巨大スプーンで、ルナさんがスープを口元に運んでくれる。


『たくさん食べられてえらいねぇ~なでなで……は抑えないといけなかったんだな』


 あれほど距離が近かったルナさんのスキンシップが、最近は驚くほど控えめになっていた。

 確かにちょっと乱暴ではあったけど、嫌いなわけではなかったかので、少しだけ寂しい。


「ルナ様……いい加減近づいてご飯をあげたらどうですか?ケンちゃんも困惑していますよ?」


『ダメじゃ!どんな行為がケンちゃんに不愉快にさせるかわかってないのじゃぞ……わしはもうあのビリビリを受けたくないのじゃ!』


ぷるぷる……


 ルナさんの持つスプーンがますます震えだして、これでは食べそうにない。


『よし!今日も人吸いの代わりに他の魔獣吸いをするかのう。キング!ティアラ!こっち来るのじゃ!』


「ワン!」「にゃあ!」


『よーしよし!いい子じゃのう。あぁ……関節的にケンちゃんの匂いがしてきて落ち着く~』


 スプーンを横に置き、以前僕を攻撃してきたペットたちの匂いをひたすら嗅ぐルナさん。

 僕もあれをやってみたいれど、やれば絶対に嚙まれるで我慢するしかない。


「これは重症ですね……」


 ちなみに今僕がいるのは、やたらと自然に溢れたいつもの部屋。

 どういう経緯か、以前いたガラス張りの“動物園みたいな部屋”からここに移されたのだが、ここに至るまでの記憶が完全に抜け落ちている。


 唯一覚えているのは、騎士団に勤めながら隣に住んでる幼なじみの女性と一緒に遊んでいた夢だけ。何故かそれだけは妙に覚えている……いや、なんで? 


「がう!」


「わわっ、ちょっと待って!」


 不思議な現実に頭を悩ませていると、ご飯を先に食べ終えたまるちゃんさんが背中を引っ張ってきた。

 完全に油断していた僕は、そのまま後ろに倒れこむ。


 ペロペロ!


 ルナさんの代わり――というわけではないだろうが、この部屋にいる生き物たちからのスキンシップが異様に増えている。


 というのも、朝起きるとよく分からない小動物の残骸が丁寧に並べられていてたり、顔を無限に舐める者もいれば、「撫でて!」と言わんばかりに仰向けのポーズを取る子までいる。


「がう!」


 まるちゃんさんに至っては、こちらが少しでも油断するとすぐに服の裾を引っ張ってきて、今の僕みたいにその大きな体の下にすっぽり収納してくる。


 もふもふの毛は心地いいし、包まれていると眠くなるほどの安心感すらあるのだが、まるで「赤ちゃん」扱いされているようでちょっと複雑だ。


「がう♡」


「あーはいはい、分かってますよ。いつものやつやりますから落ち着いてください」


 そう優しく声をかけ、手をお腹に当ててもみもみと丁寧に揉みながら、柔らかいふわふわの毛を指でわしゃわしゃと撫でる。


 尻尾を嬉しそうにフリフリ、足をバタバタと動かして喜ぶ姿がなんとも面白い。


「がう~♡♡♡♡♡」


 リアクションが大げさすぎて、気づいたらこっちまでつい笑ってしまう。


 ペットとの戯れは、この世界のなかで数少ない娯楽だ。


 もにゅもにゅもにゅ……何よりこの手のひらに吸い付くような弾力は癖になる。


 「がう!」


 「(いたたた……)」


 まぁ、このようにお腹をつまむと甘噛みされるのはお約束だけどね……それでもやめられない。


 まぁ、唯一の難点をあげるとするなら、服も体もすっかり獣臭くなったり、ベトベトになっているくらいだろうか。


「「…………」」


「キング?ティアラ?ケンちゃんの方を見てどうしたんじゃ?ほら~大好きな嚙むおもちゃじゃぞ~」


 相変わらず、犬と猫っぽい生き物の二匹に睨まれている。


 あの夜以来、直接襲われたりはしていないけれど、「お前なんかいらない」とでも言いたげなオーラを毎日浴びせられていてちょっと居心地が悪い。


 僕としては、もっと仲良くなりたんだけどなぁ……


 ガチャ!


「やぁやぁ!ただいま戻ったよ!」


 そんな感じで二匹を警戒していると、アウラさんが元気に扉を開けて入ってくる。


「おかえりなさいませアウラ様。魔王城までの遠路、お疲れ様です」


「いやぁ、長距離移動は腰に来るねぇ。おや、ケンちゃんが起きてるじゃないか。顔色も悪くなさそうだし元気になってよかっ……」


「がう!」


「あぶなっ!」


 僕にまたがっていたまるちゃんさんが、突然立ち上がった次の瞬間。アウラさんが差し出した手に向かって、鋭く腕を振り上げた。


「なんだい!ちょっと頭を撫でようとしただけなのに殴ろうすることないだろう!?」


 どうやらこの二人は相性が悪いらしい。


 そういえばハムリンさんにも嫌われていたな。もしかすると、この大きな体格が動物たちにとっては脅威に見えてしまうのかもしれない。


「(アウラさんは優しくてこんなにも魅力的なのに……)」


 大きな見た目に囚われず、もっと中身を見てくれたらいいのに。


「おや、ケンちゃん。そんなに私を見つめてどうしたんだい?」


 視線を向けられるだけで胸が温かくなる。


 やっぱりアウラさんは美しい。前みたいに優しくギュッと抱きしめてほしいなぁ………


 ドキドキ♡ドキドキ♡


「がう!」


「いたたたた!」


 アウラさんに見惚れていると、理由もわからずにがっつり嚙まれた。

 冗談で済ませるにはちょっと厳しいくらいには痛い……もしかして怒ってる?なんで?


「ふっ……まぁいい。太った狼なんて敵じゃないさ。それで早速だけど、魔王様からの伝言を伝えても構わないかい?」


「人払いをいたしますか?」


「いや、()()()屋敷の使用人に聞かれる程度なら問題ない。今回持ち帰った情報は主に2つだ」


 なにか真剣な話をするのだろうか、ラミィさん達の表情が変わる。


「まず1つ目だが、ルナ君が強く訴えていたケンちゃんの公開中止について。これは問題なく許可が下りた」


『おお……!さすがは魔王様じゃ。金にはうるさい守銭奴だが、物事の取捨選択については完璧じゃな』


「まぁ公開中止に関しては、例の4人の処刑台を作ったりとか色々と準備が必要だがねぇ」


「おや、処刑なさるのですか?ケンちゃん様に手を出した者ですから、私も大いに賛成いたします。個人的には火炙りが見せしめとしても効果的かと」


「いや、あくまでも処刑のふりだけさ。とはいえ、本人たちにとっては、死ぬよりもずっと辛い1か月が待っているだろうけどねぇ」


 そう言って、口元に不敵な笑みを浮かべるアウラさん。


「まぁ一つ目はそんな感じだ。そして二つ目なんだけど……ケンちゃんにはこれから二週間、エルフの森へ滞在してもらうことになった」


『エルフの森……?なぜそんなどこにあるかも分からぬ田舎にケンちゃんが行かねばならぬのじゃ?』


「理由はいくつかあるが、エルフのほとんどはテレパシーの魔法が使える。この休養を機にケンちゃんに言語を覚えさせたいと魔王様は仰っていたよ」


『言葉か……確かに今のままでは不便だし、ケンちゃんがより良い生活を送るためには不可欠じゃな。ふむ、納得はした……が、ケンちゃんをそんな所に連れていって平気なのか?ダリスみたいな危ない奴がうじゃうじゃいると思うと不安じゃのう』


「それが、森のエルフたちはダークエルフとは違って性欲がほとんどない……らしい」


『……“らしい”ってなんじゃそれ』


「いや、私も魔王様から話を聞かされただけで、エルフたちとはそこまで深く関わったことがないからわからない。けど、前任者のオスには見向きもしなかったらしいから大丈夫じゃないかい?」


『そうなのか………まぁ最悪誘拐されそうになっても、エルフくらいの小柄な魔族なら敵ではないじゃろう。ワンパンで黙らせればそれで済む話じゃ!』


 ルナさんは手足を素早く動かしながらシャドーボクシングを披露する。拳が空気を切る音が軽快に響き、その表情には余裕と自信が満ちていた。


「だが、あまり油断しないでくれよ?エルフは力よりも頭を使うのが得意だからねぇ。それと『魔族』って言葉はエルフの森では使わない方がいいよ」


『なぜじゃ?』


「エルフたちは“魔族”って呼ばれると、どうやら差別的に感じるらしい。人間ベースに進化したが亜人、魔物ベースに進化したのが魔族や一部の亜人。昨今はどちらの総称でも問題ないが、彼女らにとって“魔物とは違う”ってのは重要なアイデンティティなんだろうねぇ」


『はぁぁぁぁ……まったくめんどくさいやつらじゃのう。魔族だの亜人だの、そんなのどっちでもいいではないか!』


「気持ちはわかるが郷に入っては郷に従えさ。くれぐれも気を付けたまえよ?」


『仕方ないのう……』


 めんどくさそうに頭を書く。


「そういえばアウラ様。先ほどから他人事のような言い方をされていますが、ご一緒されないんですか?」


「ああ、残念ながら私はいけない。ちょっと外せない用件があってねぇ」


「そうなのですね。しかしそうなると、ケンちゃんにもしものことがあったら対処できないのでは?」


「そこは安心してくれ。エルフってのは人間族に最も近い亜人だし、私の代わりにケンちゃんの体を見てくれる医者もどきが現地にいるらしい……」


「らしい……なんとも不確定要素が多いですね」


「引きこもり連中なのだから仕方ないだろ……あ、そうだ。玄関先で預かっていたものがあったんだ。君に渡しておくようにと言われてねぇ」


 アウラさんは四角く包まれた包みを差し出し、ルナさんがそっと受け取る。


『む?これは…………おお!ドワーフ工房からようやく首輪が届いたか!』


 ビリビリビリ……


『なになに……暗闇でも光る機能に、不審者用のマヒ針が出る機能……やはり妙な機能を勝手に追加しておったか……なぬ!』


「そんなに驚いて……なにか変なことでも書いてあったんですか?」


『【この首輪には、ケンちゃんの発する言葉を認識して自動翻訳する機能があります】……じゃと!』


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