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第38話 魔王様は今日も過労死

<住民みんながケンちゃん用に金貨を引き出した結果、街中の金貨が底をつきました。このままだと町の経済が崩壊するので助けてください!>


<非合法で売られているケンちゃんグッツを皆が買い、村全員が一文無しになりました。人によっては商売道具を売ってしまい、お金を稼ぐ手段がなくなっています。ぜひ魔王様の知恵をお貸しください>


【はぁ……さっきから頭が痛くなる報告書ばかりだ】


 手元に届いた大量の書類を見て、一人ため息を漏らす。


 流石にこれほどまでの終わっている村からの報告書は全体の数パーセントに満たないが、一歩でも対応を間違えれば魔界全土が崩壊してもおかしくない状況だ。


【どうしてこうなったんだ………】


 ケンちゃんの存在を一般公開してから早一か月。


 最初の頃は魔王軍の財政も潤い、毎日酒を飲みまくるほどのお祭り騒ぎだった。

 けれどここにきて、一つ大きな問題が浮上している。


 そう、それは魔界の住人たちがケンちゃんに夢中になりすぎていることだ。


 手持ちの財産を惜しげもなくケンちゃんにつぎ込み、まだ余力のある者たちも「次こそは」と、次回のイベントに備えて財布の紐を固く縛り上げている。


 その結果、ケンちゃんとは一切関係のない食料品や工芸品は誰からも見向きもされず、売り上げが見るも無残に落ち込んでしまったのである。


【中には、少しでもお金をケンちゃんに回したいがために食料を自力で調達する者。犯罪に手を染める者まで現れているという……いくらなんでも、文明レベルが地を這う勢いで落ち過ぎだろ】


 一番最悪なのは、ケンちゃんのグッズを非公式に高額で売り捌く裏組織が存在している点だ。


 収益の大半を吸い上げられていることも大いに遺憾だが、それ以上にまずいのは、まだ大量生産すらできない段階で商品が市場に出回っていることだ。

 そんなことをすればグッツの価格は跳ね上がり、魔界中で混乱は必至――目の前のオスに全力で金を費やして破産する未来が、誰の目にも明らかだったはずだ。


 だからこちらは、あらゆる可能性を見越してグッズ販売を先延ばしにしていたというのに!


【つまりだ!吾輩の政策にミスなどなかった!あいつらさえいなければ、村も破産なんかぜす想定通りの好景気が訪れていたはずなのだ!】


 拳を握りしめながら一人で声を荒げる。


 はぁ……苦し紛れに考えた経済対策も、ケンちゃん園の建設作業や運営スタッフの一般公募を通じて、雇用問題の解決()できた。


 だがその一方で、雇われた一部の者がケンちゃんの使ったスプーンなどを盗み、例の裏組織に横流しする事件が続出したのである。


【あーもういやだ!わかってはいたが、魔界の住民は下半身で動きすぎである!やるべきことが多すぎて何も考えたくない!ケンちゃんに癒されたいよぉ……】


 一つ問題を解決するたびに、まるで吾輩を嘲笑うかのように二つ、三つと次々問題が噴き出してくる。


【もう限界だ……適当な理由でも言ってケンちゃんの元へ向かおうか?】


 全ての問題をほっぽり出してケンちゃんとペットプレイがしたい。

 今度は逆に吾輩の頭をなでなでしてもらったり、ご飯をあーんしてもらいたい。


 首輪とリードをつけられて、魔王城の広い廊下を並んで歩く――力では圧倒できるはずなのに、精神的には支配されているあの背徳感……考えただけでも頭がクラクラしてくる。


【でもなぁ……】


 吾輩の視線の先には、手つかずのまま積み上がった書類の山が威圧感を放っている。

 これら一つひとつが国民の嘆きである以上、王たる吾輩が背を向けるわけにはいかない。


【…………仕事しよ】


 気持ちを切り替え、書類作業用の椅子にぐっと腰を沈める。目の前に積まれた書類を一枚一枚確認しながら、手際よく処理を進めていく。


 泣きたい……だがこれも全てケンちゃんのため!


 ケンちゃんが少しでも平穏な毎日を過ごせるよう頑張れるのは、他ならぬ吾輩しかいないのだ!


【げ……この問題もあったか。時期的にそろそろだとは思っておったが……】


 積み重なった書類の中から、厳重に密閉された宛名も何も書かれていない封筒を手に取る。

 中の書類を引き出すと、想定通りの厄介ごとが記載されていた。


【人間族王女との極秘会合について(本書類は最高機密扱いとする。受領後、即時に焼却し、痕跡を一切残さぬこと)】


 年に一度行われる人間族との定例会議。


 例年通りなら、お互いの内政事情や、契約および借金の確認といった当たり障りのない話題だけで済む……だが今回はケンちゃんという爆弾を抱えている。


【どう動くべきか……ケンちゃんの存在が人間族の女王に露見すれば、面倒事になるは確実だ】


 男女問わず誘拐や奴隷化は厳しく禁じられている。

 たとえ森で偶然ケンちゃんを拾っただけと主張したとしても、奴らは都合よく解釈しケンちゃんの返還を強要してくるだろう。


 何なら貸してもらっている()()()の状態について知られるのもかなりまずい。

 魔族側にまともな危機管理能力がないと断定され、反論の余地すら失ってしまう。


【ここは隠しておくのが無難だろうな】


 もっとも、これほど魔界で騒ぎ立てた以上、遅かれ早かれ人間族にも情報は漏れるに決まっている。

 ならばその時に備え、誘拐の事実を否定できるような証拠をでっち上げておかねばならぬ。


【やはりケンちゃんに言葉を覚えさせ、こちらの都合のいいように教育していくのが一番確実か……】


 コンコン――


 対人間族用の作戦を考えていたところへ、扉を叩く小さな音が響く。


【入れ】


 ガチャ....


「やぁやぁ、お久しぶりだねぇ魔王様」


【アウラか。そういえば話があると手紙が来ておったな。ルナの城からわざわざご苦労だ】


「そっちは…………だいぶ疲れているようだねぇ。睡眠不足は思考を大きく低下させる。どんなに大変でも最低限の睡眠をとることをおすすめするよ」


【そういうわけにはいかん。最悪、回復魔法で疲れは癒す】


 たかが三日間寝ていない程度だ。

 気絶したとしても、数時間おきに回復魔法をかけてもらう手配してある。精神が崩壊しそうなこと以外は特段の問題はない。


「あんまりそれに頼りすぎると、寿命が縮まるからやめたほうがいいねぇ……ところで、以前私が提出した報告書は読んでくれたかな?」


【ああ、あれか。目を通したぞ。『ケンちゃんには呪いがかけられていて、人間族、それも宮廷魔術師のような位の高い者が施した可能性が極めて高い。呪文の特性として、術者がオンオフを自由に切り替え、対象を意のままに操ることが可能。現状を鑑みるに、人間族が何かしら大きな計画を進めている可能性がある』……と。随分と厄介な状況になっているな】


「ああ、あくまで仮説に過ぎない話だが、少しきな臭い状況だねぇ」


 ある程度人間族側の情報を把握しているが、オスに呪いをかけているなどという話は今まで聞いたことがない。

 これはアウラの言う通り、裏で何か大きな計画が進行している可能性が高いな。


【ふむ……】


 とはいえ、吾輩は今魔界の混乱だけでも手一杯だ。


 正直、人間族の問題まで対応する余力はない……ならば多少のリスクは伴うが、ここは専門家に頼むのが最善だな。


【アウラ……貴様は口が堅い方か?】


「それなりには堅いさ】


【なら、ここから話す内容は他言無用で頼む………貴様は人間族との間に結んだオスティン協定をしっているか?】


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