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第36話 破産したって構わない!


【開園:9日目】



『マリィ!着いたわよ!ここがこの世で唯一、ケンちゃん成分を合法的に摂取できる聖域……ケンちゃん園!!』


「ようやくですね。あの映画公開から2週間……はやくケンちゃん成分を体の芯まで浴びたいです。裏社会に潜入してまで落札した、ケンちゃんの使用済みスプーンではもう満足できませんから」


 私たちは今、ケンちゃんを間近で見られるとして新設された「ケンちゃん園」に来ている。


 ここに来るまでに貯金を全使い果たしてしまいましたが後悔はありません。

 ケンちゃんには私の人生全てを犠牲にしてまで得る価値があります。


 問題があるとすれば、私と同じ熱意を持った人が魔界中にたくさんいて、お金預かり所から一斉に現金が消えてしまったことでしょうか。


 一部地域ではお金貸すことが出来ず、破綻寸前の場所も出てきていてパニック状態とか。


 まあ、ケンちゃんのために飢え死にできるなら彼女らも本望でしょう。


「それにしても、並ぶだろうと思っておりましたがこれは……想像以上ですね」


『当然でしょ。映画のチケットと違って魔界全土の住人がライバルなんだから。ルナ様が統治する私たちの土地が優先されたとはいえ、9日目で入れたなんて奇跡よ奇跡!』


「抽選会に参加するための抽選会とかありましたからね……チケット狩りを何人殺……倒したか」


 並び始めてからすでに3時間が経つというのに、まだ入り口がうっすら見える程度。

 目の前にはまだ長蛇の列が続いており、前方からは興奮を抑えきれない人々のざわめきが熱気となって聞こえてくる。



<ケンちゃんに会える!一目惚れからの交尾に申し込まれたらどうしよう!今のうちに心と体の準備しておかないと♡


<なぁ、映画では大切に育てようとか言ってたけど、ケンちゃんはあの下等な人間族だろ?なら別にみんなでハメ殺してもいいんじゃないか?


<確かに!種族の祖だなんて言われてるけど、それってただ進化もできずに取り残された“原始の劣等種”ってだけだしね~♪


<前に誘拐してきた人間族のオスは、回復魔法と併用して年中フル稼働で交尾してたよね?今回もそうすればいいのに。


<あ~クソッ!数が多いからってオスを独占しやがって……イライラしてきた!代わりに今日はケンちゃんをぐちゃぐちゃにしてやる!



 一部不穏な声が聞こえた気がしますが、皆それぞれ思い思いに感情を爆発させている。

 私も早くケンちゃんに会ってあんなことやこんなことをする予定です。


『そういえば、あの話知ってる?』


「あの話……とは?」


『魔狼の森で起きている人間狩りのことよ』


「魔狼の森……ああ、確かケンちゃんがいたという森のことですね」


『そう。今あそこには、ケンちゃん園に来れるほどの財力はないけど腕っぷしだけはある魔族が、人間族のオスを探して、金稼ぎがてら森を荒らしまくってるって話よ』


「なるほど……」


 よくよく考えてみれば、ケンちゃんがいた以上、彼以外にもオスがいる可能性は否定できない。


 私も以前、ケンちゃんが着ていた服装がどうにも気になって、図書館で調査を試みたことがある。

 けれど、人間族から輸入した歴史書にも、魔界の古い伝承にも、あの服装に関する記録は一切存在しなかった。


 もしかすると、あの森には独自の文化をもった民族がいて、そこからケンちゃんは逃げ出してきた……なんてのは考えすぎでしょうか。


「興味深くはありますが、どうして急にその話を? 知ってると思いますが、私は人間族との戦争に参加しないくらいには戦闘が苦手ですので、絶対に行きませんから」


『別に人間狩りに誘ってる訳ではないわよ。ほら、私の親ってあの森の管理に関わる仕事をしてるじゃない? 実は今度大規模な……』


「次の方!こちらへどうぞ〜」


『あら、まぁこの話はまだ今度でいいかしらね』


 気になる話の途中だったが、係員の方に呼ばれたのでそのまま前へと足を進める。


「今から持ち物検査を行いますので、ポケットの中、カバンの中身もすべてかごにいれてくださ~い」


 私たちは係員の指示に従い、ポケットやカバンの中身をすべて取り出し、順番にボディチェックを受けていく。


 どうやらここで持ち物検査が行わうようです。

 ケンちゃんに害を及ぼす可能性のある物や、オスに刺激が強すぎる服装の者はここで弾かれるのだとか。


「ハンカチに獣人族用ブラシ……ん?このながい筒状の物はなんですか?」


『これは銃よ!護身用にいつも持ち歩てるの。ほら?最近何かと物騒じゃない?』


「銃?ああ、よく人間族が使う武器ですね。確認のため一発撃ってもらっていいですか?」


『オッケ~』


バキューン!


「ありがとうございます。特に媚薬や閃光弾でもないみたいですし問題ないですね。施設内の発泡に関しては特に問題はありませんが、大きな音はケンちゃんがびっくりしちゃうのでなるべくお控えください」


『もちろん、魔族にだけしか発砲しないわ』


「ありがとうございます。他にはナイフやしびれ薬、小型爆弾……うん、特に危険なものはなさそうですね。次の方どうぞ~」


 そこからは先ほどの混雑が嘘のように進み、気づけば私たちは入場門の近くまで来ていた。


 ふと耳に入った係員同士の会話によると、どうやら最近ケンちゃんに対して催眠術をかけた悪質な客がいたそうです。


 その影響で以前より持ち物チェックが強化され、それが長蛇の列の原因になっていたらしい。


 なんて羨まけしからん客がいたものだ……ちなみにケンちゃんはどのような催眠をかけられたのでしょうか?とても気になります。


「では、今から施設の説明を致しますので、静かにしてください」


 そんなことを考えていると、ぶっきらぼうな係員が現れて、時計を配り始める。


「お客様は本施設を1時間で退場していただきます。今お渡しした時計を出口で回収しますが、一秒でも時間を過ぎてしまった場合には、多額の罰金が発生しますのでご注意ください!」


 罰金という言葉が気になり、注意事項に記載されている料金を確認する。


 う……ありえないほど高額ですね。あれでは、ほんの1秒過ぎただけで日給が消えてしまします。気をつけてなくては。


『殴り合い程度ならいいですが、自慰行為や過度な露出はなるべく控えてください。え~それでは、皆さん節度を守って楽しんでくださ~い』


 ガコン!


 勢いよく門が開くと、まるで雪崩のように多くのお客さんが施設内へと足を踏み入れた。


『はぁ……はぁ……私、心臓がドキドキして死んじゃいそうだわ』


「私もです。この空間のどこかに生ケンちゃんが……」


 今から始まる1時間――それはきっと、私の人生で2番目に重要な時間になる。

 もちろん1番はいつか絶対に訪れるであろうケンちゃんと交尾です。


 より良い交尾にするためにも、今日は絶対に私の魅力でメロメロにさせてみせます。

 わざわざガーベラとちょっと透ける服と特別な下着を買ったのですから……準備は万端です!


「ケンちゃん!ケンちゃんはどこなの!?(くんくんっ)……っは あっちからケンちゃんの濃い匂いがするぅ!」


 隣にいるガーベラは、ケンちゃんの匂いにあてられたのか目がとろんとしてしまっています。


 私も奥の方からほんのりと良い匂いを感じ取りましたが、これがケンちゃんの匂いなのでしょうか?確かに下半身が疼く気がします。


「はぁ……はぁ……こんなところで止まってる場合じゃない!待っててねケンちゃん!」


「っ!待ってくださいガーベラ!」


『ちょっと何なのよ!いくらマリィでもケンちゃんの恋路を邪魔するなら容赦しないわよ!』


 そう言ってガーベラは躊躇なく銃をこちらに構える。


「いいからあれを見てください!」


『あれってなによ!ケンちゃんより優先するものなん……て 』


【ここでしか見れない限定写真が沢山!ケンちゃん写真館はこちら!】


『げっ、限定写真!?いつも魔新聞の切り抜きを眺めて我慢してたのに……そんなもの見ちゃって大丈夫なの!?法に触れない!?』


「万が一にもないと信じたいですが、ケンちゃんに会えなかった場合、こんなに苦労したというのに収穫はゼロです。ここはリスク管理としてこの施設を見ておくのも悪くない思いませんか?」


 3日前に読んだ魔新聞のインタビュー記事によれば、ケンちゃんがただ寝ているだけだったり、来場者の体液で濡れたガラスのメンテナンスが重なる場合があると記載されていた。


 そうなると、もうメロメロにするどころじゃなくなりますし、私はショックで死にます。


『で、でも!すぐそこで生のケンちゃんが待ってるのよ!昨日の夜から”ガーベラに会いたいよぉ……早く迎えに来てぇ”……って私の頭に直接SOSを発信しているのよ!将来の婚約者として見過ごせないわ!』


「でもほら、こんなことも書かれていますよ?」


【一部写真に関しては複製も販売しております】


「いくぅぅぅぅぅ!」


 そう叫ぶと同時に、ガーベラは体を90度きれいにひねって、ケンちゃん写真館へ一直線に向かっていく。


「ま、待ってください!」


 置いていかれるわけにはいかない。


 私も急いで足を動かし、彼女の後ろ姿を追いかけた。


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