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第34話 最も交尾に近い女性VS最も好かれている女性


「(突然こんな場所に連れてきて申し訳ない。本当は寝込みを襲うようなことはしたくなかったんだが、昼間に連れて行こうとしたら太った狼に殴られてしまってねぇ……本気で死ぬかと思ったよ)」


 ギュッ――!


「や、やめてください。アウラさんにハグされるとなんだかクラクラするので……」


 アウラさんが現れたかと思えば、対抗する間もなく問答無用で抱きかかえられる。


 スリスリ♡


 前々から思っていたけれど、この世界にいる大きな女性の中でも、アウラさんは別格の大きさだ。

 その体格と優しさが合わさると、母性というか、安心感があって自然と体が甘えてしまう。


「(おやおや、そんなに身体をこすりつけて発情でもしてしまったのかい?念のため言っておくが、私はいつでも準備万態さ♡)」


 僕はいったい、どうしてしまったんだろう。


 この前再会してからますますアウラさんのことが頭から離れなくなっている。顔を見るだけで、身体の奥がじんわり熱くなって正気を保てない。


 スリスリ♡


「(ふふ、これは同意として間違いないかい?では失礼して……)」


 ぎゅっ♡


 僕が甘えるように身を預けると、まるで何かを確かめるように、首元の匂いをしつこく嗅いでくる。


 お城の人たちもよくこんな仕草をしていたけど、これって一種の愛情表現だったりするのかな。


 だったら、アウラさんに好意を向けられるのは悪い気はしない。むしろうれしい♡


「(すぅ……はぁ……なるほど。これがルナくんが言っていた“人吸い”か。思った以上に心地のよい香りで、確かにクセになりそうだよ。匂いに敏感な獣人族がこれにハマるのも納得だねぇ)」


「ふにゃ~♡」


 体格差が倍近くあるせいで、頭のてっぺんから足の先まですっぽりと、もちもちすべすべの肌に包まれてしまう。


 ギチギチ……


 決して逃げられず、抗えない。


 体の自由を奪われていく感覚が、不思議と心地よく――気づけば癖になりかけていた。


 スリスリ♡ヘコヘコ♡


「(ふふ、ケンちゃんはもう私の毒に依存しきってるみたいだし、どうせならこのまま公開交尾ショーでも……)」


「きゅい(べチン!)」


「(いったぁぁ!いきなり顔を殴るなんてひどいじゃないか!……って、このハムスターは何なんだい? )」


「きゅいきゅい!」


「(何か文句があるようだが、私とケンちゃんはこれから大事な時間を過ごす。これからは夫婦の時間だから邪魔しないでほしいねぇ)」


 プシュ!


 抱きしめから解放されたのもつかの間、足元に糸が絡みつき地面に固定されてしまう。


 なんでこんなことをするのだろうと、困惑しながらアウラさんの顔を見るけれど、ニヤニヤと笑っているだけでその意図がよくわからない。


「(まぁいい。ケンちゃんさえ糸で拘束してしまえば、また前みたいに毒を注入して交尾ができ……)」


 カリカリカリカリ……


「(なっ!糸を嚙むんじゃない!まったく厄介な小動物だねぇ!そんなにかまってほしいなら、君から拘束してあげようじゃないか!)」


 プシュ!……プシュ!プシュ!


 アウラさんが四方に向かって勢いよく糸を吐き始めた。


 頭がふわふわとしてよくわからないが、その表情は明らかに不機嫌そうで、苛立ちが見て取れる……あ、足元の糸がちぎれてる。


「(ちょこまかとすばしっこいねぇ……)」


「キュッキュ~」


 バチン!


「(いたっ!顔を殴るのはやめたまえ!君のパンチ、骨に響いて結構痛いんだよ!)」


「ふわぁ♡……あ、あれ?」


 ぽわぽわとしていた頭がようやくはっきりしてきた頃には、部屋の中は大騒ぎだった。


 アウラさんが次々と糸を部屋に放ち、壁を跳ねるように逃げ回るハムリンさんを追って部屋中を駆け回っている。


 設置されていた遊具などは、もうめちゃくちゃだ。


「すご……」


 流石は残像が見れるほど速いハムリンさん。

 スピードに緩急をつけ、まるで風のようにアウラさんの攻撃を次々と避け続けている。


 プシュ!


「(む、今のをよけるとは大したものだねぇ)」


 あの速さでどうやって制御しているのか分からないが、目の前に飛んできた糸をジグザグにかわしていく。


 よく観察してみると、ハムリンさんはアウラさんの股下を巧みにすり抜けて移動している。

 逃げるならもっと距離をとった方がいいと思うのだけど……


 プシュ……


「(なるほどねぇ……どうにもやりにくいと思っていたが、そういうことか)」


 プシュ……


「(君の動きにはまったく迷いが見られない。フェイントを入れるタイミング、視線を外す際への移行パターン。自分よりも大きな相手に対してどう戦えばいいのかを熟知している)」


「きゅい!(バチン!)」


「(いたたた……たしか、君たちの種族は自分より小さい虫を捕らえるのに特化した生態をしていると本で読んだ記憶があるんだが……記憶違いだったかねぇ?)」


 プシュ!


「(それとも君の育った環境があまりにも異常すぎて、種族としての本能が捻じ曲がってしまったか…………そこだね?)」


「きゅい!?」


 アウラさんはまるで予知していたかのように、背後にいたハムリンさんを振り返ることなく拘束した。


 あまりにも迷いのない行動に、後ろに目でもついているのかと疑いたくなるほどだ。


「(はーはっは!私がただ何も考えずに糸を飛ばしていると思っていたのかい?君の動きを先読みし、進路を糸で狭めておくことで移動先を限定していたのさ)」


「きゅいい!」


「(ふふ、たしかに戦闘経験では君に分があるかもしれないが、知恵比べで私がハムスターごときに負けるはずはないだろう?いやぁ、勝利というのは実に気分がいいねぇ!)」


「きゅい!きゅい!きゅい!!!!」


「(そう暴れても無駄さ。拘束された時点で私の勝ちは揺るぎないからねぇ!)」


 壁に貼りつくように拘束されたハムリンさんは、アウラさんの指先で頭をぐりぐりとなでられている……なんだか苦しそうにもがいていて、少し可哀そうだな。


「(ケンちゃんのボディーガードだかなんだか知らないが、そこで私たちが交尾する所を指をくわえて見てるがいいねぇ!はーはっは!)」


 あれ?ぼーっとしててあんまり覚えてないけど、そもそもなんでこの二人は追いかけっこしてたんだ?


<ぐ~~~……僕のお腹が元気に鳴り響く。


 もしかして、ごはんの時間だからハムリンさんを捕まえようとしてたのかな?

 別にそんな乱暴なことしなくても名前を呼べばすぐに寄ってくるのに……


「ハムリンさ~ん、今助けますからね。アウラさんもあんまりやりすぎてはダメですよ?」


「きゅい、きゅい~♡」


 いい加減お腹も空いてきたので、ハムリンさんに絡まった糸を取ってあげることにした。


 きっとアウラさんなりの理由があって拘束してたんだろうけど、ハムリンさんは頭もいいし、僕がちゃんと見ていれば問題ないだろう。

 それに、小動物が苦しんでるのは見るのは良心が痛む。


「む……結構頑丈だな」


「(なっ……ケンちゃんはそっちの味方をするのかい!!!私のことを何度も大好きといってくれたのに!)」


「きゅいきゅ〜いw」


「(おい!そんなドヤ顔をするな!!!種抜きにするぞ!!)」



 結局、ハムリンさんの糸は解けなかったので、僕が植物の種を「あーん」して食べさせてあげた。


「きゅい♪きゅい♪」


「(あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"……!)」


 ハムリンが種を頬張るのを微笑ましく見ていると、突然アウラさんがその場に崩れ落ちて、号泣しながら床をごろごろ転げまわった。


 その狂乱っぷりに思わず理由を尋ねたくなるほどだったが、そもそも言葉通じないのでよしよししてあげるだけにした……のだが。


「きゅい!(バシバシ!)」


「わ、わかったってば!すぐに種持ってくるから、バシバシしないでください」


 今度はハムリンが不機嫌になるわの無限ループで大変だった.....


「(なでなでぇぇぇ!!!今すぐケンちゃんのなでなでを所望する!!それに、そちらは戦闘で負けたんだぁ!!論理的に考えて私にケンちゃんを譲るべきだねぇ!!)」


「きゅい!」


「(うるさい!!食事なんていつでもできるだろう?いいか!この身長になってから10年!!じゅうねんだぞ!?こっちはなでなでゼロの人生を歩んできたんだ!!)」


「きゅいww」


「(笑うんじゃない!毎日ケンちゃんに撫でられている小動物風情に私の気持ちはわからないだろうねぇ!断言しよう。今ここでケンちゃんに撫でられないと私はここで死ぬ!!)」



「ああもう!二人ともうるさい!こっちは何言ってるかわからないんですから静かにしてください!」


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