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第31話 ケンちゃん普通交尾免許試験 前編


「(さてルナ君。通常なら接触を禁じられている私が、こうして姿を現している。その理由……君には心当たりがあるんじゃないかい?)」


『(さぁ……なんでじゃろうなぁ……ケンちゃんと交尾するためとかかのう)』


 部屋の動物たちと、並んで朝ごはんを食べていたそのとき、アウラさんが芝生の部屋にやってきた。


 今すぐにでも抱きついて、お礼の言葉とたくさん描いたアウラさんの絵を渡したかったが、なんだか怒っている雰囲気を感じたのでやめておいた。


「まぁ、後で渡せばいいか……ハムリンさ~ん!まるちゃんさ~ん!あっちで追いかけっこしよ!とりあえずハンデとして両手両足使うのは禁止ね……え、はや」


 動物たちの名前はなんとなくでそう呼んでいるが、ルナさんがそう呼ぶとちゃんと向かっていくので、たぶん合ってると思う。


「(私がここにきたのは君がケンちゃんを危険にさらしているからだ!なんだねあの写真は!なんで猛獣たちと一緒に暮らしているんだい!論理的な説明を今すぐ求めるよ!)」


『(別になんとかないのだから、そのくらい良いではないか。それにほら見てみろ。みんな仲良く遊んでいて、平和そのものじゃぞ)』


<ふにゃ~


「あ、新しく見る顔だ………よしよ~し。この前襲ってきた猫に似てるけど、模様が違うから別の子かな?よかったら一緒に追いかけっこする?あれ、なんか口に加えてる」


 まるちゃんさんとじゃれていると、横から僕と同じくらいの大きさの猫がやってくる。

 スリスリと体を擦り付けてかわいい。


<ペッ


 頭を優しく撫でていると、猫が口にくわえていた物をポトリと落とす。

 そして、落としたそれを前足でバシバシと叩いて、まるで「見て、見て!」と言いたげにアピールしてくる。


「ふふ、かわいいなぁ」


 案外、この生き物だらけの空間も悪くないのかもしれない。

 かわいいが溢れていて癒されるし、一部例外の子はいるがみんな僕に甘えてくれる。


 入院中なんて、スマホでペット動画を見るくらいしかできなかったしな……アニマルセラピー最高!


 ベシベシ!


「ああ、ぼーっとしてごめんね。これをくれるってことかな?ありがとう……って、虫の死骸か……ちょっと反応に困るな」


「があぁう!(バシン!)」


「え?ちょっとまるちゃんさん!なんでいきなり猫を殴ったんですか!?え、ハムリンさんもファインディングポーズ取ってる!なんでぇ!」


 突如として大乱闘が始まり、何が何だかわからず困惑してしまう。

 喧嘩っぱやいところだけは、ちょっと苦手かも。


「(わかった。ケンちゃんにまだ大きな被害が出ていないから、この部屋で過ごすことは百歩譲ってって良しとしよう)」


『(なら……)』


「(だが問題はそれだけじゃないのさ!君が出したあの報告書!あれはなんなんだい!)」


『(別に普通の報告書じゃが?)』


「(普通!?ああわかった。ではここで一部報告書を読ませてもらうおう……こほん)」


「(まずは高い高いで頭を天井に打ちつけて頭部損傷、次に腕をぶんぶんと振り回した結果肩の脱臼!なんで事あるごとにケンちゃんが怪我しているんだい!)」


『(違うのじゃ!わしとしてはケンちゃん第一に考えて行動しているのじゃ!でもなぜかいつもケンちゃんを怪我をさせて嫌われてしまうのじゃ~)』


「(それは君の認識が甘いせいだねぇ。ケンちゃんはガラスよりも繊細な存在なんだ。正直言って、今の君のままじゃケンちゃんを傷つけかねない。専門医として君に任せておくことは反対。即刻、魔王城での保護を推進するよ!)」


『(な、それだけは勘弁してくれ!そんなことをされたらわしは魔王様を殺さなきゃいけなくなる!ケンちゃんを血で血を洗う争いに巻き込みたくはないのじゃ!)』


「(殺すって……抵抗するにしてももっと穏便に解決しておくれ)」


『(いやじゃ!いやじゃ!いやじゃ!ケンちゃんはわしのお婿さんなのじゃああああああぁぁぁぁぁ!!!)』


「(相変わらず君はうるさいねぇ)」


『(ケンちゃんはわしの生きがいなんじゃ~!奪わないでくれ~!)』


 アウラさんの足元で必死に暴れるルナさん。

 一体二人は何の話をしているのだろうか。


「(だが、安心してくれたまえ。そんな死刑一歩前のルナ君のために、あるものを用意した)」


 そんなルナさんに向かって、アウラさんは一冊の本を取り出す。


「(ほへ?なんじゃこれ?【ケンちゃんの生態はどっち?魔王様公認〇×クイズ!】」


「(これはケンちゃんに会えない間、魔王様に頼まれて作成した問題集さ)」


『(ケンちゃんと仲直りするにはありがたいのじゃが、なんでこんな物を作ったんじゃ?しかも結構分厚いのう)』


「(実は魔王様との話し合いの結果、ケンちゃんと交尾するのを免許制にしようという案が出てね。これはその試験に必要となる教科書さ。確か高額な値段で一般販売もするらしい)」


『(ほぇ~そんな制度が……で、これをわしに見せて何が言いたいんじゃ?本を買えって言うのであれば、そのくらい一冊二冊買ってやってもよいが……)』


 ペラペラ……


『(あ!わかった!ケンちゃんの保護者として最終確認をしてほしいんじゃろ!ふふーん。自慢じゃないが、この世で一番ケンちゃんの側にいるのはわしじゃからな!任せておけ!)』


「(さっきまで泣きじゃくっていたのに、よくそんな都合のいいことを言えたものだねぇ)」


『(違うのか?)』


「(まったくもって全然違う。これを取り出したのは、今から君に試験を受けてもらうためさ)」


『(げ....)』


 本を手にしながら、露骨に嫌そうな顔を浮かべるルナさん。


 あの本……何だろう?さっき一瞬、僕の顔が載っていたように見えたけど、流石に見間違いかな?後でこっそり読んじゃおう。


「(ちなみに、もしルナ君が赤点だった場合はケンちゃんとの接触を一切禁止するつもりだから、張り切ってくれたまえ!)」


『(はぁぁぁぁ!誰の権限でこんなことを決めておるんじゃ!横暴じゃ!わしは絶対に認めんぞ!)』


「(残念ながらこれは魔王様命令さ。それにさっきも言ったけど、ケンちゃんとの交尾は免許制になる予定だから、この試験はいずれ君も受けることになる。つまり、今やるか後でやるか、ただそれだけの違いさ)」


『(ぐぬぬぬぬぬ……)』


「(そんな苦しそうな顔してどうしたんだい?まさか合格できないんじゃないかと心配しているんじゃないだろうねぇ。確かルナ君はこの世で一番ケンちゃんの側にいると言っていたし、そんな君が赤点なんてありえないよねぇ)」


『(あ、当たり前じゃ!さっさと問題を出さぬか!)』


「(了解した。まぁ、不合格の場合はケンちゃんを私の家に連れ去って、毎日愛を育むことになるから、むしろ間違ってくれるとありがたいねぇ。ちなみに一問2点で合格点は90点だからよろしく頼むよ)」



===================



【第一問、人間族のオスは、骨折しても1週間もあれば自然に治る】


「ふむ、これは難しいラインじゃな。魔族だったら1週間もあれば直るが人間族だしのう……よし、答えは×じゃ!」


「うむ、正解だ。一応これはサービス問題として入れたのだが、お城の魔族たちのほとんどが間違えてしまってねぇ。ケンちゃんに合わせるのが怖くなってしまったよ」


『わしらには回復魔法があるからのう、怪我なんてほぼ無いようなものじゃ。正直、骨折なんかよりも頻繫に起こるささくれの方が嫌いじゃ』


「ふむ、怪我の認識については、一度魔界全体の意識改革が必要かもねぇ。では次の問題といこう」


【第二問、人間族は昆虫を好んで食べる】


『これは〇じゃろ!いつも芋虫の塩焼きを美味しそうに食べているからわかるぞ!時々、嬉しさのあまり涙を流すことだってあるくらいじゃ!』


「正解だ。ただ最近の見解では、昆虫を好んで食べているのは人間族にとって魔獣の肉を狩るのが非常に困難な為、比較的狩りやすくい昆虫食が定着したという考えもあるがね」


 ふふ、なんじゃなんじゃ。


 試験と聞いて、もっと難しい問題が来ると思ったら案外簡単な問題ばかりでないか。これなら全問正解も楽勝じゃな。



【第三問、人間族のオスは脆弱な為、《《交尾中の時のみ》》優しく良しなければいけない】


『はっはっは!わしをバカにしておるのか?こんな簡単な問題考えなくてもすぐわかるわ。答えは〇!ケンちゃんにはいつも優しく接しておるぞ!』


「残念、答えは×だ」


『はああぁぁぁ!!ふざけるな!そんなの筋が通らんじゃろうが!じゃあ何だ、ケンちゃんにはわざとイジワルをせよというのか!?』


 納得できぬ答えに、わしは怒り狂い声を張り上げた。


「いやそうじゃない。交尾中に限らずオスには常日頃から優しく接するべきだから答えは×。実に簡単な話だろう?」


『なら『交尾中以外にも』としっかり記載しておけ!こんなのただの屁理屈ではないか!!!』


「そんなこと言われてもそういう答えなのだから仕方ないねぇ。では次」


【第四問、風邪をひいている人間族のオスは、回復の為《《どんな時でも》》睡眠させなければならない】


『〇じゃ!』


「×。睡眠は確かに大事だが、寝るのが困難な時に無理やり眠らせようとすると、逆にストレスになることもある。だから《《どんな時でも》》というのは間違いさ。一個前に似た問題が出たばかりだろう?」


『ぐあああああああ!!!!うざいのじゃぁぁぁぁ!!!!』


 あまりに性格の悪い問題に、イライラがピークへと達する。


「では次、【オスと10秒以上目が合った際は交尾OKのサインである為無理やり襲っても……」


「ちょ……勝手に進めるでないわぁ!」


 それからわしは、ひたすら屁理屈だらけの問題を解き続けた。


 こんなにも苦しんでいるというのに、ずっと部屋にいたラミィがケンちゃんとボールで遊んでいるのを見て、正直泣きそうになった。


 わしだって、ケンちゃんと一緒に楽しく過ごしたいのに……


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