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第28話  あああん!ケンちゃんに嫌われてしまったのじゃゃぁぁぁl!!!

『ケンちゃんご飯ですよ~。ブブ~ン!お!元気な羽虫がケンちゃんのお口に突っ込むぞ~』


 プイッ!


「(意地悪なルナさんからご飯食べたくないです。自分で食べるので離れてください!)」


 薬草スープが入ったスプーンを差し出すも、ケンちゃんは『ぷい』っと可愛らしく顔を背けてしまう。

 以前はちゃんと食べていたし、アウラに貰った資料通りに作っているから問題はないはずなんじゃが。


「(離れろ~!頭に虫を乗せやがって~!昨日なんて虫に食われる夢を見たんですよ!横になるたびに【あれ?このぞわぞわする感覚、もしかして足元にいるんじゃ……】って気が気じゃないんですよ!)」


 しまいには全身を激しくバタつかせて、私の膝から離れようと必死にもがいている。

 元気に動く姿は可愛らしいが、こうも暴れられるとさすがに心が痛むのう。


「ルナ様……この前の映画撮影から随分と嫌われましたね」


『なんでじゃ!わしは何もしておらんぞ!』


「(離せ~!これは立派な人権侵害だぁ~!なでなでは首ごとゴシゴシ擦るから痛いし、お腹いっぱいなのに肉を詰め物みたいに口に突っ込んでくるし、やっと眠れたと思ったらニヤニヤしながらほっぺをツンツンしてくるし!)」


 バシ!バシ!バシ!バシ!


「(一つ一つは小さいけど、全部絶妙に不快なラインを攻めてくるせいでストレスたまりまくりなんですよ!少しはそっと出来る時間を頂戴!)」


「……でも、本当に何もしてないなら、ここまで嫌われることはないと思うんですけどね。ほら、ケンちゃんにこっちおいで~」


 ギュ!


「(その点ラミィさんは優しくので好きです。尻尾がスベスベで気持ちいいですしね)」


 なでなで……


「……私ならおとなしくなりますし、機嫌が悪いわけじゃないみたいですね」


 ラミィは、わしの膝から移ったケンちゃんを尻尾でぐるぐる巻きにして、優しく頭を撫でている。

 わしのときよりも明らかに高い声で鳴くケンちゃんの様子に、モヤモヤとしたなんとも言えない感情がわいてくる。


『ぐぬぬぬ……正論は嫌いじゃ!ケンちゃんの保護を任されておる身として、この状況は到底容認できん。魔王軍幹部秘書のそなたに問う!解決法をわしに聞かせい!正論反対!正論反対!』


「えぇ……そう言われてもオスに好かれる方法なんて資料のどこにも載ってませんよ?何せ、執筆者があのアウラさんですからね」


『…………お主時々毒を吐くよな』


「私蛇ですので。これが私の生き様です」


『お主の種は毒を持っておらんだろ!』


「毒を持っていないのは確かですが、隣に手のかかる人がいる生活を長年してきたので、毒を吐いて息抜きしないとやっていけないんですよ」


 ほーん、ラミィの近くにそんな奴がいるのか。

 長いこと一緒にいたけど全然知らなかったのう。ラミィも結構大変な生活をしておるんじゃな……ん、生活?



『あ!いい案を思いついた!オスの特性で無理なら”はぐれ”の特性を利用してみればいいんじゃ!』




===================




「死ぬ!死ぬ!死ぬ!死ぬ!食われる!」


 拝啓、お母さん、お父さん。


 僕は今、人生最大の危機を迎えています。助けてください!!!!!


『(おお~二人とも元気に走り回っておるのう。ここはわしが管理する私有地じゃから、思う存分遊んでいいからのう!)』


「がうぅ!」


「ひぃ!」


 いきなり外に連れ出され「久しぶりに運動できる!」とワクワクしていた。

 だが現実は悲惨。僕は今お城で見かけていた丸い狼に追いかけ回されている。


「あぶねっ」


 今まで珍しい存在だから保護されていると勝手に考えていた。


 けれど、この現状を見るに僕はただの生け贄だったのかもしれない。蛇を飼うときのネズミみたいな。


『(おお~小さな足でよちよち歩いて、かわいいのう。まるちゃんもケンちゃんを気に入ったのか、ペースを合わせてのんびり走っておるわ)」


「がうがう!」


「(まったく、普段はお気に入りのおもちゃを見せないと走らないというのにのう)』


「(そういえば、普通の魔獣はもっと瘦せてますよね。まるちゃんはなんであんなに太ってるのですか?)」


『(だって食べる時の仕草がかわいいんじゃもん)』


「(はぁ……)」


『(た、ため息をつくでないわ!一度嚙まれる覚悟でお腹を触ってみるとその魅力に気づくはずじゃ!タプタプで気持ちいいぞ~)』


「(はいはい、でもケンちゃんは絶対に太らせないでくださいね。蛇族は細ければ細いほど魅力的に感じますので)」


『(そうなのか?)』


「(はい!瘦せた方がより多く体を巻きつけますし、身体の骨が折りやすくなりますので。さすがにケンちゃんを拾った時のようなガリガリな体型は避けたいですけど、今の健康的でちょっとふっくらした体型が理想的です!)」


『(わしには理解できんのう)』


「はぁ……はぁ……くそ、食後だから横っ腹が痛い。この感じも5年ぶりだから懐かしいな……はぁ……はぁ……嬉しいけど嬉しくない!」


「がうぅ!がぅががう!」


 後ろを走る狼が吠えるたび、ギラリと光る鋭い歯が目に入る。

 それを見ていると、つい先ほど肉を骨ごと食べる光景が思い出され、心臓がバクバクと音を立てる。


 あんなのに嚙まれたら……


「いやだ!せっかく病が治って走れるようになったのに、始めての全力疾走が死へ向かうデスロードだなんて!絶対に逃げ切ってやる!ここのカーブで差をつけ……ぐえ!」


 曲がろうと体を傾けた瞬間、背後から猛烈な衝撃受けて地面に倒れ込んでしまった。

 気づけばマウントポジションである。


「は、話をしよう!お互いに何か勘違いしているはずだ!なんならあのルナってやつを食ってもいいぞ!」


 仰向けに倒れたまま、覆い被さる狼に命乞いをしたが……


 がぶ!


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 無慈悲にも大きな口で喉元を噛まれる。


 ガシ!


 抵抗しようと必死にもがくも、両腕を狼に押さえつけられていて身動きが取れない。


 わかっていたことだが、狼の力は圧倒的で貧弱な僕ではびくともしない。


 がぶ!がぶ!がぶ!がぶ!がぶ!


「あああぁぁぁぁ!!!!たすけて〜〜〜!」



「(あの……思いっきり首を嚙まれてますけど大丈夫なのでしょうか?)」


『(はぁ……まったくラミィはわかっていないのう。あれはただじゃれているだけじゃ!その証拠にケンちゃんからは血が出ていないじゃろ?あんなのは狼の群れではよく見る光景じゃ)』


「(まぁ、狼種のルナ様が言うならそうなんでしょうけど…ちょっと絵面が可哀想ですね)」


 ペロペロペロペロ……


「うえ……顔を舐めないでくださいぃ。ぼっ僕、全然美味しくないですよ!確かに最近たくさんお肉を食べたけど、本当はまだガリガリで食べるところなんて(ペロン)ひぃ!」 


 怖いよぉ……生きたまま食べられるなんて最悪だ。

 こんなことなら異世界になんて来なければよかった……ぐすん。うわぁぁぁ、また顔を舐められたぁ……



「(そういえばルナ様。今のところただ二人で遊んでいるだけのようですが『はぐれの特性を利用する』とは、いったいどんな特性なのですか?)」


『(簡単じゃ。野生の魔物がこの過酷な魔界で生き残るためには、統率力が全てじゃ。今回はその習性を利用する)』


「(というと?)」


『(つまり!まるちゃんが主人であるわしに従っているのを見れば、リーダーに従う習性を持つ”はぐれ”のケンちゃんも、自ずとわしに従うようになるという作戦じゃ!上司の上司はまた上司作戦じゃな!)』


「(……そんなにうまくいくでしょうか?)」


『(大丈夫じゃ。狼社会は特に上下関係に厳しいからリーダーには絶対服従じゃ。それに、もしケンちゃんを育てた魔獣が群れの意識が薄い種でも、ケンちゃんは頭がいいから次第にまるちゃんの行動を学ぶじゃろ)』


「(まぁ……”はぐれ”ならそうかもしれませんね。ただ、本当に”はぐれ”ならの話ですが)」


『(お主の言いたいことはわかる。じゃが残念ながら、わしはアウラの人に育てたられたという仮説を信じておらん。そもそもアウラからしか情報を得ていない事柄を、領主として軽々しく信じるわけにはいかんのだ)』


「(確かにそうですが……)」


『(それにわしはあいつが嫌いじゃ!二度と顔を見たくないほど大嫌いじゃ!!!)』


「(本音はそっちで、ただの嫉妬ですよね?)」


『(うるさい!それに、ひとりぼっちでいるよりもみんなで過ごす方がケンちゃんも楽しいじゃろ!どうせあの部屋に連れ込む時は、ボディガード役のまるちゃんと一緒におる予定じゃたしな!)』


「がうがう!」


『(ほれ見てみろ!二人とも密着してもう仲良くなってるぞ!)』


 むぎゅ~~~~~~


「お、重い.....潰れ...る」


 さっきまで顔を舐めたり鼻をこすりつけてきた狼は、身体を少し丸めて全体重を僕に押し付けてくる。


 すりすりすり………すりすりすり………


 これは一体何をしているんだ?まったく理解できない。


 たただ、身体全体を狼に覆われているせいか、甘い匂いが漂ってきている。


 この匂い、もしかしてこの子が使っているシャンプーとかだろうか?嗅げば嗅ぐほど頭がぽわぽわしてきて気持ちがいい。


 むぎゅ〜〜〜


「そんなことより……息が…………ぐふ」


 捕食の影が目の前に迫る中、絶体絶命の数秒を残して――僕はそこで力尽きる。


 次に目を覚ましたとき、また異世界転生しているかもしれない。


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