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第17話 デッド・オア・ケンちゃん 前編

【私は人間族のオスを無理矢理襲いました】

【私は人間族のオスに火球を放ちました】


 地べたに座らされた私たちの首には、罪状が書かれた看板がぶら下がっている。


【さて、今から貴様らを処刑させてもらうが言い残すことはあるか?】


 目の前には、騒ぎを聞きつけた魔王軍幹部の牛族ラッテ君が立ち、その中央には額に青筋を浮かべた魔王様が仁王立ちしている。こちらを見下す表情は、今にも襲いかかってきそうなほど険しい。


 こんな表情の魔王様は久しぶりに見たねぇ。


「待て待て!こいつはともかくオスを助けた俺は無罪のはずだろ!そりゃあ、全身燃えそうになったのは悪かったけど、なんで俺が襲った張本人と同じ扱いなんだよ!」


「おやおや、襲っただなんて随分な言いがかりだねぇ。私はケンちゃんの方から結婚の申し出を受けたから交尾をしたまでさ。むしろ、新婚夫婦の初夜を邪魔したドラコ君の方が重罪だと思うんだがねぇ」


「そんなバレバレの嘘をつくんじゃねぇ!また燃やすぞ!」


 自分が処刑されるのが納得いかないのか、さっきからドラコ君が声を荒げて抗議している。


 まったく……こちらは先ほどの交尾を忘れないよう、頭の中で何度も繰り返しシミュレーションしているのにうるさくてかなわないねぇ。これじゃあ心に刻み込む際にノイズになるじゃないか。


「ところでケンちゃんは大丈夫かい?こんな場所で座り込むよりも、早く診察をさせてほしいのだけどねぇ」


【ケンちゃん?ああ、あのオスのことか。あの子はラミィの回復魔法で火傷や毒の治療を完了して、今は深い眠りに落ちている。だから貴様大人しく死ね】


 病気が治った矢先に今度は火傷とは……ケンちゃんもつくづく運がないねぇ。次からは私がしっかり守ってあげないと♡


【ドラコ、貴様『自分は無関係です』みたいな顔をしているが、吾輩が駆け付けた時に燃える体でケンちゃんと交尾しておっただろ!みんなドン引きしてたぞ!】


「ぐ、別にいいだろ。あんなの竜族からしたらかすり傷だよ………」


「さすがにその主張は無理があるねぇ……発情して体温が一気に上がったのかなんなのか知らないけど、ケンちゃんの顔には手形の火傷痕がくっきり残ってたよ?あれは明らかに意図的だったねぇ」


「だって私が駆け寄った時にあんなに体が熱かったんだぞ!あれは『燃えながらでも交尾したい!』っていうケンちゃんの熱烈なアピールだろ!私が持っている交尾本では、マグマの中で交尾している描写があったし、炎の中ぐらいなら全然問題ないと思ったんだよ!」


「交尾本を基準に判断するのはやめたまえ。あれ、ほとんどが嘘っぱちだ。マグマの中に入ったら人間族なんてすぐに死んでしまうよ?」


「え?じゃあ『もっと私の愛を感じろ!オラァ!』って叫びながら、300℃の体でオスを抱擁する『だいちゅき(ホムラ)ホールド』はさすがにできるよな? まさかあれもダメってことはないよな? な、な!?」


「う~ん……対火の魔法を使えばできなくはないけど、300℃なら火傷は避けられないだろうねぇ」


「噓だそんなこと!!あんなに気持ち良さそうにしていたのに!」


 理想のプレイ内容が空想の中だけとわかって相当ショックなのだろうか。あの強気で堂々としていたドラコ君の瞳に涙が浮かび、肩を落として俯いている。


「うぅ、オスの熱とマグマの熱に挟まれて昇天するほど気持ちいいって書いてあったのに……」


 まぁ、追い求めてた理想が砕け散って悲しくなる気持ちはなんとなくわかる。私もオスに過度な期待をしていた側の人間だからねぇ………でもさすがにマグマの話は有り得ないと気づいてほしい。さすがにあほすぎる。


「そういう特殊プレイは同族のオスだけにしてくれたまえ……あ、そういえば竜族のオスはもういないんだったねぇ。すまない、すまない。配慮が足りていなかったよ。ふはははは!」


「おいおいおい……その発言はライン越えだろうだ!ぶっ殺す!丸焦げにして、骨ひとつ残さず消し去ってやるから覚悟しやがれ!」


 ドン!


【貴様ら一旦黙れ!まったく……それで、我々としては満場一致で貴様らは死刑なのだが、本人が納得しないまま刑を執行するのは吾輩の信念に反する】


「よって、これからお二人の生死を決める裁判を行います~」


 ラッテ君が楽しそうに宣言すると魔王様が裁判の準備を始めた。


「はっ!いいぜ。俺が無実だってことを証明してやるよ!」



===================



【判決を言い渡す………被告人ドラコは死刑!明日の朝に刑を執行する!】


「はぁぁぁぁぁ!!!!ふざけんな!こんなのおかしいだろ!さっきも言った通り、ちょっと感極まって燃やしただけじゃねぇか!」


【それがアウトだって言ってるだろ!この者を牢屋に放り込んでおけ!】


「え、マジなの?ちょっ…離しやがれぇ!!!!せめてケンちゃんの子供を産んでからでないと死ねねぇぞ!おらぁぁぁ!!!」


 バタン!


 先に裁判を受けたドラコ君は、裁判長である魔王様から容赦なく死刑判決を受け、連れ去られてしまった。


 まあ、いくら回復魔法が発達しているとはいえ、オスを傷つけるのは一部の例外を除いて重罪だからねぇ。


【次の被告人……前へ】


 おっと、次は私の番か。


 まぁすぐにケンちゃんとの愛が本物だと証明されるだろう。なんたって私にはあれがあるからねぇ。


「それでは愛の証明といこうか!」


 自信に満ちた態度で、私は魔王様の前に堂々と立つのであった。



 ==================




【オス保護法第???条について】


・魔王の名のもとに、オスに対する肉体的および精神的な傷害を一切禁じる。

・本条に違反し、オスに傷害を与えた者は、傷害の程度に応じて、魔王の裁量により適切な判決が下されるものとする。

・罰則としては、違反者に対し罰金または死刑が科されることがあるが一切の反論を禁じる。


『例外事項』


・交尾中における怪我や催眠等により状態異常については、本条の適用外とする。

・ただし、怪我や状態異常は必ず回復魔法により治癒可能な範囲内で行うこととし、それを超える傷害は許可されない。



2041年版 『異世界の歩き方』より抜粋

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