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第93話 魔法の勉強は命がけ

【ケンちゃんいいですか?魔法というのは魔力があればだれでも使える物です。ケンちゃんは魔力口が小さいので最初は大変かもしれませんがめげずに頑張りましょう!】


 今日も例のガラス張りの部屋でゴンさんとだらだら寝転がっていると、ルナさんたちがやってきた。


 フィーリアさんのテレパシーによれば、今日は魔法特訓をするらしい。


 この世界に来てから気づけばもう半年。

 そんな中でついに始まる魔法の特訓!ずっと夢見ていた瞬間が訪れ、ワクワクが抑えきれない。


「わかりました!よろしく……フィーリア先生!」


「お”っ……」


「フィーリア先生?」


 元気よく返事をすると、フィーリアさんはなぜか顔を真っ赤にしてぽたぽたと鼻血を垂らした。


「な、ななななんでもありませんっ!べ、別にその……押し倒し系家庭教師物で『先生、ダメ…我慢できない♡こっちの勉強も教えて♡!』とか言いながら結局受け入れちゃう展開を想像してニヤニヤしてたわけじゃない……です!」


「意味不明……」


 かなり言語をマスターしたはずなのに、フィーリアさんの言葉は理解できなかった。


『ふむ……ケンちゃんが次々に言葉を覚えていくせいで、会話の威力がヤバいことになっているのう。聞いているだけで胸が張り裂けそうじゃ』


「そもそも、オスから笑顔を向けられるだけでも奇跡に近いのに、ましてや親しく名前を呼ばれるなんて、都合のいい交尾本そのものですからね」


『やはりケンちゃんという存在は、我らにとって神そのものじゃな!ケンちゃ~ん!わしの名前を呼んでおくれ~』


 なでなで


「ルナさん……少し邪魔」


『……っ!じゃ、邪魔……わしはケンちゃんにとって邪魔な存在だったのか!?』


 毎度のことながら、ルナさんが頭を撫でて邪魔してくるが適当にあしらう。


 撫でるのが前より多少上手くなったし、普段なら相手をするのだが、今は魔法が使えるか使えないかの瀬戸際。


 関わっている余裕などない!


『ぐすん……そういえば、エルフの森でケンちゃんの魔法濃度がどうとか言われたが、それでもちゃんと魔法を使えるのかのう?』


「え、あ、はい。私もケンちゃんの魔法適性を見ましたが、魔力はあるので理論上は使え……ます。ただ人間族の方法はわかりませんので、エルフ式の特訓になりますが……すみません」


「こういう時、人間族に詳しいアウラ様がいてくれたら心強いのですけどね。私たちは人間族の魔法事情に疎いですから」


『仕方ないじゃろ。どうしても外せない任務があるらしいからのう』


 ルナさんの言う通り、最近アウラさんをみないから心配だ。

 エッチを避妊せずにしたのだから、直接会って確かめたいのに……


「まぁ私としては、あの人大きくて怖いので助かり……ます。では」


【ケンちゃん。コップの中に体内で生成されたオーラでローリングした物でパージしてアブチョベットしてください】


「待て!意味不明……アブチョベットってなに?」


 本を開き、ようやく読めるようになった文字を追っていると、頭の中に意味不明な単語が響いてくる。


 アブチョベット……


 これは確か、かなり前にダリスさんから言われた意味不明な単語だ。

 アブチョベットって、あの人が適当に言った単語じゃなくて一般知識なのかよ!


「そこからですか。意味不明といわれてもアブチョベットはアブチョベット……です。説明のしようがない……です」


 説明を求めたのだが、フィーリアさんは困惑した表情で頭を抱え込んだ――そんな説明するまでもないほどの常識なの?アブチョベットが?


「フィーリア様。ケンちゃんは魔法の知識はおろか、言語すらほとんどわからない状態で発見されました。ここは賢いケンちゃんに信じて、焦らずゆっくり進めていきましょう」


「それもそうですね。で、では仕方がないということで、ここはあの方法で……」


『ふん!ならもっと簡単に説明すればいいのじゃ!』


 フィーリアさんが何かを始めようとしたとき、ルナさんはそっと僕の手を握る。


 目を細めてニヤニヤとした表情をしていて、ちょっと気持ち悪い。


『ケンちゃん!体内の力をグワー!ってやって指先に力が貯まったらドバ―じゃぞ!』


「??????」


「ルナ様……それはもっとわかりにくいかと」


『なぜじゃ!私はお母様からそう教わって魔法を覚えたのじゃぞ!残念ながらわしは使えなかったが、ラミィもそれで魔法が使えたではないか!』


「私は拾ってもらった恩を返すために、書物を漁り死ぬほど努力しましたから。その説明、私には何の役にも立ちませんでしたよ」


『ぐぬぬ……そうなのか』


「あの……実は、もっと簡単な方法があり……ます」


『なんじゃ!そんな方法があるなら、さっさとやるのじゃ!』


「でも……この方法ちょっとあれですけど、怒らないでください。絶対に怒らないでくださいね!」


『いいから、さっさとするのじゃ!』


「は、はい!では……行きます!」


 ギュッ!


 突然、フィーリアさんが背後からぴったりと抱きついてきて、両手で僕の手首をしっかりと押さえる。


 髪の毛からほのかに漂う甘い香りに、思わず心も体も少しくすぐったく感じた。


「はぁ……♡はぁ……♡では、今ケンちゃんの体に魔力を少量流して、魔力の流れを整備します♡」


 そう言われると、全身の力が手の方へと自然に流れていくのを感じる。


 まるで点滴を入れたときに、血液の中にじわりと変化が起きたような、不思議で少しぞくっとする感覚だ。


【ケンちゃん。手に力を込めて"ウォーター"と叫んでください。体中の血液を一点に集中する感じです】


「わかった……【ウォーター】」


 ちょろ……ちょろ……


「水!水出た!やった!」


 指先からぽたぽたと落ちる水を見て、思わず笑みがこぼれる。初めて魔法を生み出せたことに、胸の奥から喜びと興奮が湧き上がった。


「フィーリアさん……見て!」


「んんん♡♡♡」


「フィーリアさん?」


 抱きつかれたまま上を向くと、なぜかうっとりと恍惚な表情が浮かべているフィーリアさんの顔が現れる。


 口をにんまりとして、僕が魔法を使えたことがそんなに嬉しいのだろうか?


 バンバン!バンバン!バンバン!!!


<こら!ケンちゃんが怖がりますのでガラスから離れてくださ~い!


『おお……ガラスがすごい勢いで叩かれておるのう』


「抱きついたことに不満を訴えたいお気持ちは理解できますが、それでも些か激しいですね……何かあったのでしょうか?」


「えへへ♡……実はこの体の魔力を同期させる行程ってぇ♡ 魔力が高い種族がよく交尾の前にする行為なんです……♡なんでも、お互いの心と体を同調させてより気持ち良くなるとか♡ だから、あんなに怒っていると思い……ます♡」


『じゃあなんじゃ?お主はこの大勢の前で公開交尾したようなものなのか?』


「はい!大変興奮しました!ケンちゃんとこれ以上ないほど密着して、私の魔力でぴゅっぴゅって水を出してる……あ、これマズいです♡私も水出ちゃいそう……です♡」


「おっとっと……」


 ぬいぐるみを抱きしめるようにぎゅっとホールドされると、背中がじんわりと湿ってくるのを感じた。


 フィーリアさんは、勉強を優しく教えてくれるほど清楚で可憐な美人だから、こんなにもスキンシップをされるとドキドキしてしまう。


 まぁ、僕にはアウラさんとゴンさんがいるからそういった勘違いはしないんだけど……


「ん?待てよ」


 この前交わったアウラさんはともかく、どうして今ゴンさんまで恋人扱いしたんだ?


 確かにゴンさんは顔を埋めたくなるほど愛くるしいけど、そういった感情はないはずなのに……そもそも狐だし。


「おぉっ♡ケンちゃん♡このまま、こ、交尾しちゃいましょう!私の魔力を受け入れたってことは、襲ってもいいってことですよね!ね!!!」


『よし……このまま客席に投げ込むかのう』


「かしこまりました。粉砕骨折ぐらいなら私の回復魔法でどうにかできますので、事前にアナウンスしておきます」


 ガシッ!


「え?二人とも顔が怖い……です。怒らないって言いましたよね?」


 ポキッ!


 その日を境に、【ケンちゃんの体から生まれ出た聖水♡】が発生され、販売されるや否やあっという間に完売。


 特に海に住む種族や森の奥深くの植物族の村に渡ったときには、金塊を軽く超える価値がついたとか。



===================



【魔法の発現】


 世の少年少女は、魔法が使えるようになると聞き、夢見心地で異世界へ来ることだろう。

 しかし、魔法の「ま」の字も知らない我々人間が魔法を操るには、まず異世界の住人の指導を受けて、初めて魔法を発動する感覚を体験する必要がある。


 その際、魔法の取り扱いに慣れた種族、特にエルフ族に依頼することが必要であり、最も安全で確実なのは魔王軍認定店舗を利用する方法です。

 くれぐれも、道端の人に頼むことや、費用が安いという理由で認定外の店舗を利用することは、重大なトラブルの原因になりますので絶対に避けてください。


(なお、魔法が使った際に生じた被害は、全て自己責任でお願いします。また、魔王軍認定店にお願いした場合も勝手に結婚が成立してしまったケースが過去に数件報告されていますが、そのようなトラブルに関する相談は一切受け入れませんのでご注意ください)



 2048年『異世界の歩き方』より抜粋

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