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閑話 異世界性的用語集

 これはケンちゃん達がエルフの村に行く少し前の出来事……


「ふぅ……資料としてはだいたいこんなものかねぇ」


「お疲れ様ですアウラ様」


 大量の箱を部屋に運び入れ、今日から私たちの城に住むことになったアウラ様の荷造りが、ようやく終わりを迎える。


「それにしても、かなり多くの資料がありますね。【オスの体の構造】【オスが食べて失神した食べ物集】【なぜオスは数を減らしたのか!】【オスの体の構造】……おなじ内容の本が二つもありますね」


 これはうっかり二冊も購入してしまったのでしょうか。しっかり者のアウラ様も可愛らしいところがあるのですね。


「ふふふ、実は同じ内容の本があるのにはちゃんと理由があるのさ」


「そうなのですか?」


「あぁ……というのも、オスについての研究はどれも決定的ではなくてね。"絶対に正しい資料は存在しない"、なんて言われているくらいなんだよ」


「絶対に正しい資料は存在しない……」


「特に体の構造に関しては分からないことだらけでねぇ。死んだオスを解剖しようにも、”オスは神聖な存在だから体を傷つけることは大罪にあたる”って反対する意見が大半。体を裂いて器官を調べられない以上、細かい違いまで把握できないのさ」


「なるほど……そうなのですね」


「しかも前見た資料なんて胃が複数あると書かれていたんだよ?普通に考えたらそんなことあり得ない話だが……悲しいことに実際に確かめる方法がないから否定が出来ないのがもどかしいねぇ」


 そう言いながら困ったように眉をひそめるアウラ様。その言葉を聞くと、なんだかこの本に興味が湧いてきました。


「おや……これは何ですか?」


 他の本も気になって部屋を物色していると、ひときわ目を引く一冊の本を手に取る。


「あぁ、それは前興味本位で買った種族別の性的用語集だね。わかりやすくいうと、獣人族は未婚および交尾してないオスを白首という……みたいな奴さ」


「なんだか面白そうですね。少し読んでみていいですか?」


「ふふ、別に構わないよ。私も読書仲間が増えるのは大変嬉しいからねぇ」


 ペラリ……アウラ様から許可をいただき、期待に胸を躍らせながらページをめくった。


===================



【魔界性的用語集】


 本稿は、魔界に生息する魔族の間で用いられる性的用語をまとめたものです。内容はすべて私個人の聞き込み調査に基づいており、いかなる種族を中傷・侮辱する意図も含んでいないことへのご理解をお願いします。



【竜人族】


 竜人族のメスは、性行為を経験していないオスを【痣無し】と呼ぶ。


 竜人族は交尾中、体温が異常なほど高まる性質なため、彼女らがオスを強く抱きしめると、その熱によって腕や手の跡がオスの肌にくっきりと残る。それがまるで所有を示す烙印のように見えて大変エッチだっため、急速に広まった。


 つまり、痣がないことは「まだ誰のものでもない」という意味として扱われ、【痣無し】という呼称が定着したのである。



【鳥獣族】


 鳥獣族のメスは、性行為を経験していないオスを【鶏】と呼ぶ。


 この呼称は、鳥獣族特有の空中交尾の習慣に基づくものである。彼女らの交尾は、まずオスを宙に持ち上げ、乱高下や地面すれすれを飛行させながら交尾を行う。


 この行為は浮遊感とスリルを快感に変える目的として行われ、空に慣れていないオスは泣き叫んだり気持ち悪さを感じることがあり、こうした空中経験のないオスに愛称を込めて【鶏】と呼ぶのである。


 逆に、何度も空中交尾を経験し、空の中での浮遊やスリルにまったく動じず、空に恐怖を抱かない熟練のオスは【鷹】と呼ばれ、こうしたオスは特に貴重で重宝されている。


(一説では、まったく動じないのは交尾の熟練によるものではなく、永遠に続く交尾人生に絶望して無反応になっているという説もあるがその詳細は不明である)



【ダークエルフ族】


 彼女らは野外での乱交を好み、オスがいたら種族みんなで別け合おうという精神が強いため「未経験」を示す特別な呼称は存在しない。


 ただし、近い意味を持つ言葉として【熟成期】という言葉をオスに使われることがある。

これは、人が成長の過程で大地や空気から魔力を吸収し、魔力濃度が食べごろになるまでの期間になぞらえた表現である。その為。たとえオスが性行為を経験していても、彼女らの好みに達していない場合は【熟成期】と総称される。


【エルフ族】


 村に行ってもインタビュー不可の為記録なし。



【蜘蛛族】


 蜘蛛族のメスは、性行為を経験していないオスを【自然栽培】と呼ぶ。


 彼女らは交尾の際に毒の牙から体内へ毒を流し込み、オスの体質や精神に影響を与える。そのため、蜘蛛族と一度も交尾を経験していないオスは”何も混じり気のない自然のままな存在”であり、自然に育った作物になぞらえて【自然栽培】と呼ばれるようになった。


 なお、交尾を経験したオスは【有機栽培】と呼ばれる。これは交尾の際に毒素を注ぎ込まれたことで、体に変化が生じた様子を「外部から養分を加えられた作物」にたとえたものである。



【一部、獣人族】


 獣人族の多くは、性行為を経験していないオスを【白首】と呼ぶが、角を生やす一部の獣人族はその限りではない。


 彼女らは交尾の際にお互いの角を折る習慣があり、交尾の経験を積んだ個体はオスメスを問わず【角無し】と称され、逆に経験のないオスは【角有り】と呼ばれている。


 大昔では、角を有する獣人族のオスは「いまだ所有者に属していない証」とされ、時に周囲から標的とされる危険があった。そのため彼らは自己防衛の一環として、誇りでもあった角を泣く泣く自ら折るという選択を余儀なくされていた。

(ちなみに、角を追っても普通に襲われていたという資料があり、この行為に意味があったのかは不明)



【魔王様】


 存在ごと消されたかけた為、記録なし



===================



 パタン……


「どうだい、実に興味深い文献だろう?ちなみにこれは第一弾で、同じ作者の手による第二弾、第三弾が次々と刊行されているのさ!」


「……魔界の住人って暇なんですか?」



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