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閑話 独房の大型新人……NTRのアウラ!

「よっこらせっと……」


 蜘蛛糸でぐるぐるに縛った石を引きずり、指定の場所に置く。


「たまに運動をするのも悪くないねぇ。まぁ、ケンちゃんに会えないのは少し……いやだいぶ寂しいが」


 普段しない肉体労働に肩で息をしつつ、汗を乱暴にぬぐった。


 ここは魔王軍の支配する金鉱山兼独房。

 私は刑務作業の一環として、毎日毎日金貨に加工される金を掘り上げている。


 大昔なら大罪人は処刑か火あぶりが当たり前だったが「どうせなら働かせた方がいい」と現魔王様が考え、この施設が作られたそうだ。


「おら!そこ!何さぼってんだ!前に来た竜人族はもっと働いていたぞ!さっさと金を掘り起こせ!」


 ぺチン……すぐそばでダウンしていた魔族に鞭が飛ぶ。


 こうした労働施設は魔界中いくつもあり、中でも大当たりと呼ばれるのは“ケンちゃんぬいぐるみ工場”だ。


 これは最近できた施設で、なんでもケンちゃんの髪の毛の中に入れたぬいぐるみを集団で作っているらしい。


 クソ!私もそっちが良かった。

 よりにもよってこんな面白みのない場所に放り込むなんて……ちょっとケンちゃんと交尾しただけで怒りすぎだねぇ。


 だいたい私の罪状は「交尾妨害による禁固刑」だと宣告されたけれど、そもそもケンちゃんに触れただけで気絶する魔王様のクソ雑魚メンタルが悪いんだろう?


 いくらケンちゃんの子種をこの身に宿した私が羨ましいからって、嫉妬するのはやめてほしいねぇ。


<罪人どもぉ!お昼の時間だ!さっさと作業を終わらせて食堂に来い!足元には気を付けて転ぶんじゃねぇぞおらぁ!


 魔王様への愚痴を漏らしていると、スピーカーからアナウンスが流れ始め、昼食の時間を知らせる。


「はぁ……ここの料理あんまりおいしくないが仕方ない。この子の為にも栄養は取らないとねぇ♡」


 さすさす……


 ゆっくりとお腹に手を滑らせると、まるでそこに小さな温もりがあるような気がして胸が高鳴る。


 ケンちゃんと交尾した以上、新しい命が宿っているは決して低くない。

 ならば、妊娠初期に必要な栄養素……野菜に多く含まれる葉酸を多く摂取する必要がある。


 亜人種のように複雑な身体構造を形作るうえでは、なくてはならない存在だからねぇ。


「ふふ、まさかオスの探求のために集めた知識を自分のために使う日が来るとはねぇ。これもすべてケンちゃんのおかげだ」


 正直、まだ子どもを宿したと確定したわけではないし。


 それでも、私は新しい命があると確信している!だってあんなに深く愛し合ったんだ、妊娠しないほうがおかしいねぇ!


「なら今日はの子の為に、野菜を多めに取っておこうかねぇ」


『おいそこの新入り!』


 厨房に向かい野菜炒めをオーダーしようとしたその時、囚人服を着た4人組に絡まれる。


「この独房の野菜炒めは、我ら獣人族・ウサギ種専用なんだぴょん!わかったら別の列に並べぴょん!」


「「「そうだ!そうだぴょん!」」」


 うっとうしいほど耳の長い魔族が、便乗するように私に向かって吠える。

 私より二回りも小さいというのに随分と威勢がいいねぇ。


「すまない。私は最近ここに来たばかりで、まだこの場所のルールを把握していないんだ。許してくれたまえ」


『ふん!わかったらいいぴょん!新入りは大人しく年長者に従うべ…………』


「でも、私は野菜炒めをどうしても食べたい理由がある。申し訳ないが断らせてもらうよ。そこの君、私に野菜炒めを大盛りで作ってくれないか?」


<はいよー


『ま、待つぴょん!私はこの独房のリーダーなんだぴょん!無視なんて許さないぴょん!!』


「そう言われても、君の態度からはまるで威厳を感じられないねぇ……仮に強いならまだ理解できるけど、ここでは戦闘が禁止だから証明もできないだろうし。あ、シェフ君。なるべく緑の野菜を多めにしてくれよ?」


<はいよー


『もう怒ったぴょん!あんたに罪状バトルを申し込むぴょん!』


「…………罪状バトル?なんだいそれは?」


『罪状バトルとは、お互いが捕まった理由を明かし悪質な方が勝つというシンプルなルールだぴょん!種族間の差が関係しない、この独房に古くからの伝統ある戦いなんだぴょん』


「なるほどねぇ……」


 どうにも胡散臭い内容だ。

 だって、もう既に決まった事象で戦うルールが「伝統ある戦い」なんてどう考えてもおかしい。


『黙ってどうしたぴょん?諦めて列を退くなら許してやるぴょん』


 大前提として、ここは極悪非道な悪人があつまる監獄。


 おそらくその罪状バトルとやらは、嘘を使うのも容認されるのだろう。そもそも、容認されていなくても馬鹿正直にいう理由はない。


 つまりこれは、相手の嘘を見破るか、それとも相手を言い負かすの――そんな心理戦がこの勝負の核心だろうね。


『で、どうするぴょん!やるのかやらないのか!』


「まあ、何事も経験だろう。独房に入るのもこれが最後になるだろうし、その誘いに乗ってあげようかね」


『ふふ……いい心意気だぴょん!まずは下っ端が手本を見せるぴょん!』


 そういって、独房の中にいるにしてはおどおどとした貧弱そうな魔族が前に出る。


「えっと……私がここに来た理由は、お気に入りの交尾本『主従逆転オスプレイ!強気のオスは嫌いですか?』を村中に特殊性癖だと馬鹿にされたことが始まりです。その時つい頭に血が上ってしまい、悪口を言ってきた奴をボコボコに殴りまくって、その後腹いせに井戸の水に毒を混ぜました……被害は50人ほどが病院に運ばれた程度で、拘留は1か月です」


「1か月の拘留か……まぁ、井戸に毒を混ぜた程度ならそれくらいの軽い刑だろうねぇ」


『一番の下っ端だからそんなもんだぴょん。さぁ!次は貴様が罪を教える番だぴょん!』


 さて、どうしようか。


 嘘を織り交ぜる方法もあるが……ここは素直に答えたほうが良さそうだねぇ。


「じゃあ……私の罪状を言わせてもらおうかな」


 にやり………!


『(ふふふ……ここにいる審査員たちはすべて私が買収済みぴょん。国家転覆級の大罪でない限り私の勝利は揺るがないぴょん!)』


「私の罪状はシンプルさ。本来交尾する人の代わりにケンちゃんの貞操を奪った──たったそれだけだよ」


『……え』


 私が放った言葉に食堂中の人々が驚きの声をあげ、ざわめきが広がる。


『は………あ、ありえないぴょん!ケンちゃんはまだ交尾を解禁してない!そんなのハッタリぴょん!』


「ふふ、さぁ?どうだろうねぇ」


 お腹をゆっくり撫でながら余裕たっぷりに微笑むと、うさぎくんの顔はみるみる青ざめて耳までぴんと固まっていった。


『ち、ちなみ、本来交尾する相手は誰だったぴょん?』





「魔王様さ」



 この日を境に、独房の頂点は変わった。




 ==================



【異世界の法律について】


 この世界は『弱肉強食』をよしとする文化と『回復魔法があるから大丈夫でしょ!』という価値観が社会全体に長く浸透しています。その結果人間社会の常識からすると奇妙な刑法体系が成立していますのでご注意を。


<以下参考例>


・暴行罪・意図的な毒物の流布

(禁固1ヶ月~半年)

・殺人罪・強盗罪・竜族以外への放火・浄化魔法でも消せないレベルの毒物流布

(禁固半年~3年)

・交尾以外でオスを不快にさせる

(禁固5年~死刑)



 ですから、軽い気持ちで痴漢冤罪を仕掛け、金品を巻き上げようとするのは大変危険です。

 冤罪をかけられた相手の魔族の人生が終わる以前に「でもそれってあなたを快楽堕ちさせたらセーフだよね♡」という常識が横行しています。仕掛けた側が逆に捕まり、一生日本には帰れなくなるのでご注意ください。


 もし冤罪ではなく実際に痴漢に遭った場合も上記と同じ事態が頻繫に起こり得ます。その場合は感情を見せず、真顔でやり過ごしてください。そして後日、必ず魔王管轄の施設に報告をお願いします。なお、その場で少しでも照れたりする場合も、一生日本には帰れなくなるのでご注意ください。



2041年版 『異世界の歩き方』より抜粋

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