ウラ第4話 追う者たちは動き始める
『こいつは……ひでぇな』
佐藤から渡された調査内容を見て、思わず絶句する。
『一定の食事量の下回る配給に、点滴の量も基準値より少ない……これじゃあ【さっさと死んでくれ】と突きつけているようなもんだ』
「本当に酷い話ですよ!元看護師たちに聞き込みをしてましたけど、思わずその場で怒鳴りつけそうになったくらいです!」
『記者が感情を表に出すんじゃねぇよ……だが妙だな。いくら死後解剖が目的とはいえ、世間に露見すれば一発で終わるような危険行為をわざわざするかぁ?』
それに、死んだあとの情報よりも生きている間のデータこそ本来欲しいはずだ。
それを犠牲にしてまで調べようとした物……一体何だ?
「チッチッチ……その程度の情報で頭を抱えてもらっては困りますよ。実は、先ほどお渡しした調査内容すら霞んでしまうほどの、とっておきの新情報があるんです!」
『なら早く言えよ。こっちは段ボールの片づけを一時中断して聞いてんだぞ』
仕事が山積みだからだろうか、自慢げに口角を吊り上げる佐藤の顔が余計に腹立たしい。
「もう……先輩は相変わらずせっかちですね~。このままだと将来結婚したとき大変っすよ」
『うるせぇ!俺は自分のペースに合わせてくれる奴としか結婚しねぇから問題ないんだよ!』
「ふふ~ん♡なるほど♡……じゃあ話を戻しますけど、心して聞いてくださいよ?」
『いいから早くしろ』
「あ、はい。健斗くんは死後すぐ解剖されたはずなんですが……実はその時に遺体が消えたって証言がいくつもあったんです!」
「遺体が……消えた?」
あまりにも突拍子のない話に思考が止まる。
「しかもそれだけじゃないんです。遺体が消えたその際、謎の光に包まれてから遺体が消えたんです!信じられますか?まさに世紀の大発見!奇跡の瞬間ですよ!」
『そうか……俺も酒は飲むから人のことは言えないが、現実と妄想は混同するなよ。胃薬置いとくから今日は休め』
「ち~が~い~ま~す!酔ってるとかじゃなくて本当なんですって!実際に元担当の看護師がその現場を目撃していて、この事件のせいで業界を追放されちゃったらしいんです!信じられますか?」
『そんなに力説されてもうちはミステリーなんか担当してねぇし、光をまとって消えるなんて話があるわけ……ん?待てよ』
くだらない話と一蹴し、机の資料を整理しようと手を伸ばしたその瞬間、得体の知れない既視感が走った。
原因不明で衰弱したあと光を纏って消える……この話どこかで。
『おい佐藤、向こうの段ボールから雑誌を引っ張り出してくれ……確か2年前に出たミステリー本のやつだ』
「だーかーら!これはオカルトとか作り話じゃなくてマジで現実にあった話なんですってば!信じてくださいよ!」
『できる記者はこういうとき無言で取りに行くんだ!早くしろ!』
「は、はいっす!」
ドタバタと前回片付けた資料の山をかき分けながら、慌てて段ボールを抱えて持ってくる。
「これっすか?」
『おう〜それだそれだ。確かどこかのページに……あった!おい、ここを読んでみろ!』
「えーと、なになに……」
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【怪奇!誘拐されるペットたち!?】
【近頃、犬や猫、爬虫類といった多種多様なペットが突然失踪する事件が報告されています。これは、ペットのミーちゃんを失った長野県在住の飼い主に行った取材内容をまとめたものです】
【「ミーちゃんはまだ生まれたばかりのオス猫で、数年前から原因不明の病気にかかっていました。動物病院でも治療が叶わず、ぐったりしているミーちゃんを看護していたところいきなり体が光り……気づいたら姿が消えていました。周囲を探してますどこにもおらず…………」】
【このように、消えたペットたちは謎の病で衰弱しきった直後、光に包まれ跡形もなく消え去るという不思議な現象が発生している。これは病か誰かの陰謀か……次に標的になるのは、もしかするとあなたの大切なペットかもしれない】
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「これって……完全に今回の事件と同じ状況じゃないですか!こんな事件が起きているなら、どうしてもっと大きく報道されないんですか!」
『映像が一切なく証言だけだからあまり話題にはならなかったんだよ。内容も正直嘘臭いからな』
「ぐ……確かに。普通に考えたらフェイク記事っぽいというか、典型的なミステリー記事ですもんね。それにしても先輩、よくこんな小さな記事を覚えてましたね。さすがです!」
『まあな。この人にインタビューしたのが昔からの友人で、酒の席で「嘘には聞こえなかった」とか「どうにか真相を突き止めたい」と愚痴ったことを覚えてただけだよ』
まあ、こんな嘘臭い事件が長期にわたって記事になるわけもなく、結局ここで打ち切られたんだけどな。
まったく、真実だけでなく面白さや需要も満たさなければならないとは――記者という仕事はやはり辛いな。
「それでどうするんすか!ここまで闇が深そうな事件、追わずにはいられませんよ!一緒に真相を突き止めましょう!」
『そう言われてもなぁ……たとえ真相を突き止めたとしても、最終号の記事はもう完成してるから意味ないぞ』
「なら最悪ネット版にでも記事をあげればいいっすよ。それに、私この事件を絶対解決するって決めたんす!あの親御さんの悲しそうな表情を見たら、なんでもいいから成果を出さなきゃって思ったんす!!!」
佐藤は手帳を強く握りしめ、唇をわずかに震わせながら悲しみを宿した表情を浮かべる。
『はぁ……あとはのんびり老後を楽しむつもりだったんだがな……』
クソ……そんな顔されたら……
『仕方ねぇ。記者人生最後の記事が、どこの誰かも知らない芸能人の不倫話よりはマシだろう。さっさと準備して行くぞ!』
「ちょっ!龍堂先輩、どこ行くんすか!」
『この出版社のところだよ。ここで確認作業を済ませたら、次は病院を徹底的に洗い直すぞ!』
「はいっす!!!」




