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義勇兵

 スクレの砦で挙兵した四か国連合解放軍は、オーロールに向けて出発することになった。

 最初の目的地は、オーロールの港湾都市に定められた。ここを解放できれば、陸路だけではなく海路を使用したコティからの物資の輸送が可能になる。

 アンネリーゼには、ティエト商会とボウ商会の用意した白塗りの馬車が与えられた。

 白地に金色で装飾が施された車体は、アンネリーゼの真珠色の髪と琥珀色の目を思わせる意匠だ。

 アンネリーゼの護衛に就くロデリックとシャルルも、彼女のドレスに似た、白地に金色の縁取りを施した胸当てを身に着けている。


「これは、少し目立ち過ぎないか」


 眉を(ひそ)めるロデリックに、フィリップが答えた。


「ステラ姫の存在を知らしめる必要がありますから。街や村では、騎馬で、そのお姿を民衆にも見てもらうつもりです。ロデリック殿は、護衛のほう、よろしくお願いします」

「言われずとも、あの子だけは守ってみせる」


 フィリップの言葉に、ロデリックは頷いた。

 

 エルッキとウジェーヌは後方からの支援を続けるとコティへの帰途につき、いよいよ解放軍が砦を発つときが来た。

 フィリップことエティエンヌ王子と、彼のお付きの騎士であるベルトランを先頭に、アンネリーゼを乗せた馬車が続く。

 ロデリックも用意された馬に乗り、アンネリーゼの馬車の傍らに付き添った。反対側には、やはり騎馬のシャルルが配置されている。

 アンネリーゼは、馬車に設けられた窓から、時折ロデリックとシャルルの姿を確認しているようだ。

 各国の王族たちも騎馬や馬車で、それぞれの手勢を率いている。

 千人を超える解放軍の隊列が、平原を貫く街道を進む様は、遠目にも目立つだろう。

 やがて、解放軍の前方に一つの街が見えてきた。近隣に点在する自治都市の一つ、ドゥイエだ。

 ロデリックは、ドゥイエが、かつて帝国の侵攻から逃れるべく、アンネリーゼを連れて移動していた際に立ち寄った街であるのを思い出した。

 コティほどの大都市ではないが、この辺りは帝国から少し離れていた為、難を逃れたのだろう。

 と、先頭を進んでいたフィリップが馬の歩みを緩め、ロデリックに近付いてきた。


「ロデリック殿、もう少しドゥイエに近付いたら、ステラ姫を、あなたの馬に乗せて先頭に来てください。街で、姫に解放軍への支援を募る演説をしてもらいます。その前に、民衆たちにお姿を見せたほうが良いと思われるので」

「了解した。アンネリーゼは一人で馬に乗れないから、それしかないだろう」


 馬車の窓越しにフィリップと話していたアンネリーゼは、嬉しそうな顔をしている。

 隊列を一旦停止させ、アンネリーゼがロデリックの馬に乗り換えてから、行軍が再開された。


「馬車ではなく、ずっと、お父さんと馬で移動のほうがいいな」


 ロデリックの前に座ったアンネリーゼが、甘えるように言った。


「俺も、そうしたいのは山々だが……常に外にいるのは危険だし、普段は馬車の中にいたほうがいいと思うぞ」


 久々に見た娘の無邪気な顔に、ロデリックも微笑んだ。

 そこへ、先行していたフィリップの配下の者がやってきた。


「ドゥイエは我々を歓迎する模様で、城門を解放しています」

「宣伝の効果があったようだな」


 報告を受けたフィリップは、隣にいるロデリックたちを見た。


「ドゥイエで休息ができそうですね。ステラ姫、民衆へ我々の目的と意気込みを訴える好機です」

「はい、分かりました」


 ロデリックが傍にいる為か、アンネリーゼは落ち着いた表情で答えた。

 開かれた城門の先へ、アンネリーゼとロデリックを乗せた馬を先頭にして、解放軍は進んでいった。

 道の両脇に集まった住人たちが、アンネリーゼの姿を見て(ざわ)めいている。


「ステラ姫、民衆に向かって手を振ってやってください」


 フィリップに促され、アンネリーゼが手を振ると、住人たちは沸き立った。


「ステラ様!」

「綺麗な人ねぇ」

「お付きの人も素敵じゃない?」

「頑張れよ!」


 野生動物の聴覚で住人たちの声を聞いたロデリックは、アンネリーゼに対し敵対的な雰囲気がないことに安心した。

 再び、フィリップに配下の者が近付き、報告した。


「街の代表者より、我々解放軍が休息できそうな、街の中央広場その他の場所を解放するとの申し出がありました」

「よし、後続の隊にも知らせてくれ」


 フィリップの指示で、アンネリーゼとロデリックは中央広場へと向かった。

 広場には解放軍全てを収容できない為、街の代表者から提示のあった場所へ隊を分散させた。

 噂のステラ姫の姿を一目見ようというのだろう、広場には多くの住民が集まっている。

 アンネリーゼは即席の演説台に登り、エルッキに貰った拡声の魔導具を手にした。


「私はフォルトゥナ帝国先帝の孫、ステラ・フォルトゥナです。この度は、急な来訪にもかかわらず、住民の皆さんからは温かな歓迎をいただき、感激しております。ありがとうございます」


 彼女の澄んだ声が響くと、広場は水を打ったように静まり返った。

 

「帝国の政治形態が大きく変化し、幾つもの国が侵略され、今もなお、周辺諸国の方々は不安な気持ちで過ごされていることと思います。しかし、私が帝国に帰還した暁には、かつてのように平和な国を取り戻すことを誓います」


 アンネリーゼの言葉に、集まった住民たちが歓声を上げた。


「いいぞ! あの(にせ)皇帝は気に入らなかったんだ」

「昔の帝国は良かったよなぁ」


「……まずは、併合状態にある四か国を解放し、近隣地域に平穏をもたらすことが必要です。皆様にも、お力をお貸しいただきたく思います」


 演説を終え、アンネリーゼが小さく息をついた時、広場の一角から数十人の男たちが前に進み出た。

 咄嗟に、ロデリックは剣の柄に手をかけ、アンネリーゼを庇うべく男たちの前に立った。

 シャルルとフィリップ、ベルトランも、それに続いた。


「待ってくれ。我々は敵ではない」


 男たちの先頭にいた、三十代半ばと見られる屈強な男が言った。


「私はバルド、元はフォルトゥナ帝国に使える騎士だった。この方がステラ様か……たしかに、皇太子妃殿下に生き写しだ」

「何だって?」


 アンネリーゼに近付こうとするバルドを、ロデリックは睨んだ。


「話は最後まで聞くものだ」


 バルドは、ロデリックが警戒心を剥き出しにしているのを見て取ったのか、苦笑いした。


「私は先帝陛下に忠誠を誓っていた。陛下や皇太子殿下夫妻がお亡くなりになり、ステラ様までが行方知れずになるに至って、あのオディウムを疑い弾劾しようとしましたが……奴の子飼いの魔術師に殺されそうになり、恥を忍んで逃亡したのです」


「そんなことが……」


 アンネリーゼが、バルドの話に目を丸くしている。


「いつの日か、刺し違えてでもオディウムを討とうと機会を窺っていましたが、ステラ様が生きておられる、そして、この街道をお通りになると聞いて、お待ちしておりました。私と、賛同してくれた同志たちも、どうか解放軍の末席に加えていただきたく思います」


 言って、バルドはアンネリーゼの前に(ひざまず)いた。彼の仲間も、それに(なら)い、(ひざまず)(こうべ)を垂れた。


「ありがとうございます。フィリ……エティエンヌ様、よろしいですよね」

「もちろんです。戦力は多いに越したことはありませんから」


 アンネリーゼに尋ねられ、フィリップは(こころよ)く承諾した。

 バルドたちの他にも、傭兵や志願兵が集まり、ここドゥイエで加わった兵は二百人ほどになった。


「あんたは、ステラ様の護衛か。これから、よろしく頼む」


 バルドが、ロデリックに声をかけてきた。


「俺はロデリックだ、よろしく。バルド殿は、かなりの達人と見受けた」


 それは世辞ではなく、ロデリックの正直な感想だった。


――立ち居振る舞いからも分かる。彼は相当な修練を積んできた剣士だ。これほどの腕をもってしても、オディウムの手下とやらには敵わなかったというのか……


「なに、ロデリック殿も、敵としては戦いたくないと感じたぞ」


 そう言って、バルドが快活に笑った。


「そうです、父は、とても強いんですよ」


 傍らで二人の話を聞いていたアンネリーゼが、口を挟んだ。


「ちち??」


 バルドが素っ頓狂な声を上げ、改めてロデリックの顔を見つめた。


「いや、アンネリーゼ……ステラ姫が赤子の頃に保護して、皇族と知らずに娘として育てたということだ」


 ロデリックが説明すると、バルドは納得したのか、何度も頷いた。


「そうだったのか! よくぞ、ステラ様を守ってくれた。これからも、共に姫様をお守りしようぞ!」

「ああ……もちろんだ」


 感激した様子のバルドに何度も肩を叩かれ、たじたじとなるロデリックを見て、アンネリーゼが微笑んだ。

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