東南東のそんなに悪くない魔女
「はいはーい、お客様?」
「へ? いや知りませんけど。初対面ですよね?」
「はぁ、王太子殿下で。それはそれは、遠いところをようこそお出でくださいました」
「えぇ? 毒薬ですか? まぁ一応作れますけど……ちなみに用途は?」
「あー、ではいいです、記憶を読むので。ふむふむ、邪魔になった婚約者の方の毒殺ですかぁ……えー、でも私に罪被せるのはやめて欲しいんですけど……」
「いや、魔法ですけど。魔女を何だと思ってたんですか?」
「あれ、取り巻きの人はあれですけど、兵士の人も知らなかったんです? 大変ですねぇ。いや、知ってたら来ませんよね、こんなとこ」
「うわあ武力行使。じゃあ正当防衛でーす」
「なんでびっくりしてるんですか、殿下。そりゃ殺されるでしょ。魔女に切りかかったら」
「最近の若い子はここまで魔女をナメてるんですねぇ。誰か、止めてくれる人はいなかったんです?」
「いたんですか? 何でそれを聞かなかったんですかね……」
「でも私がそんなに悪くない魔女で良かったですねぇ。今回は責任者の殿下が死ぬだけで許してあげまーす」
「あ、そうですね、もう死んじゃった人は残念ですけど……ゾンビで良ければ一応生き返らせましょうか?」
「えぇ……逆に何で殺されないと思ったんですかね……」
「いや、だって国より私の方が強いですし」
「あのですねぇ。魔女を馬鹿にしたんですよ? もし私が悪い魔女だったら、たぶん国ごと滅ぼしてますよ? それが殿下の命だけで我慢してあげるんですから、実質ボロ儲けでは?」
「うーん、話が通じてないですね……とりあえず、殿下のご自宅に伺いましょう」
「こちらのお姫様が妹殿下で? こちらの王太子殿下とは仲良しなんです?」
「実はこの殿下が魔女をナメて喧嘩を売ってきた上に、いまいち自分が何をしたか理解してくれないんですよね……」
「なのでとりあえず、姫殿下を弑させていただきますね」
「お父上の国王陛下……だと、国が回らなくなるかもですし、内乱になると実質国を滅ぼしちゃいますね。では殿下のお母上にしましょう」
「そういえば、魔女に手を出さないように進言した側近の方がいるんでしたっけ?」
「不興を買うことを恐れず、殿下のためを思って苦言を呈する。忠臣ですねぇ。殿下にとっては、とても大切な人だと思いますよ。だから殺しまーす」
「他には、えーと、面倒なので記憶を覗かせていただきましょう。ちょっと失礼……あらー……殿下、あんまり交遊関係には恵まれなかったようで……とりあえず乳母の人、あとその息子さん……は私の家で殺してましたね。それと剣の師匠の騎士団長だけ殺しときましょう。サクサク行きますよー」
「そろそろご理解いただけたでしょうか? これで駄目だと、微妙な顔見知りとかも順番に殺さなきゃなんですけど……一応婚約者の方と、浮気相手の御令嬢も殺しときます? そんなに重い感情もないみたいですけど……」
「ぱちん、はい、死にました。え? あ、もう別に遠隔でいいかなーって。ちゃんと殿下が原因だってことは血文字で書いておきましたよ!」
「あっ、よかったぁ! ご理解いただけましたか、ご自分が何をやらかしたのかを。では、最後に殿下の番でーす」
その後、王家は公爵家から養子を迎え、なんやかんやで150年くらい繁栄しました。