第8話 かまどに火を入れよう
ちょうど村の真ん中あたり、ちょっと開けた場所まで戻ってきたあたりで……なぜか家の外に出ているゴルドンさんとばったり出会った!
「あ、ガルー様とセフィラ様! 村からアンデッドがいなくなりましたが、これはいったいどんな魔法を使ったのですか……!? 何かお手伝いをしなければならないと、今さっき出てきたのですが……。私が鎧を着るのに手間取っているうちに、すべて倒してしまったのでしょうか……?」
息を切らして困惑しているゴルドンさん。
鎧の着方はぐちゃぐちゃだけど、私たちの力になろうと急いでくれたのがわかる。
「なぜアンデッドがこの村に現れたのか、どうして急にいなくなったのか、すべてお話しします。急いできてくださったところ悪いのですが、お話はまたゴルドンさんの家で……」
そんなことを言っていると、家々の窓や扉がどんどん開き、中から村の人たちが顔を出した。
きっとガルーの遠吠えを聞いたのと、ダークスケルトンたちの攻撃の音が止んだから外の様子が気になっていたんだ。
安全になったことを察した村の人たちが、どんどん周りに集まってくる。
ついにはゴルドンさんの家にいた子どもたちまで走ってきて、私たちの周りは騒がしくなる!
「だから家に残り、子どもたちをよーく見ていろと言ったのだ、ゴルドンよ……」
ガルーがため息交じりに言うと、ゴルドンさんは慌てて外に出た理由を説明する。
「申し訳ございません! ただ、子どもたちは不安がるどころか、私にワンちゃんがどうなったのか見に行けと言って聞かなかったもので……! なかば追い出されるように外へ出てきてしまいました……」
「……うっかり言葉をしゃべって、さらに子どもたちの興味を惹いてしまった我も悪いか。まあ、みんな無事だったのだからよい!」
ゴルドンさんの家で事情を説明しようと思ったけど、これはもうこの場で村のみんなにすべてを伝えるしかないみたい。
「では皆さん、聞いてください!」
それから5分くらいかけて、私とガルーでかくかくしかじかと村の人たちに事情を説明した。
「なんとっ! 魔造結晶がこの村の小麦畑に!? 我々だけではとても対処出来ない代物でした……! ガルー様とセフィラ様には何とお礼を申し上げたらよいか!」
「神獣としての役目を果たしたまでだ……と言っておこうか」
「私も神獣の契約者として、勇者の娘として、やるべきことをやっただけです!」
照れくさそうなガルーの隣で、むふーっと胸を張る!
誰かに感謝されるのは、やっぱりとっても嬉しい気持ちになる!
「セフィラさんが……勇者様の娘!? 確か勇者様には養子がいたという話で……いや、ガルー様と共に行動しておられるのですから、それが勇者様の娘である何よりの証! セッ、セフィラ様、そうとは知らずこれまでの無礼をお許しください……!」
ゴルドンさんは深々と頭を下げる……!
「いえいえっ、何も無礼なことなんてされてませんよ! こちらこそ正体を隠していてすいません!」
「正体を隠していたのは、その必要があったからなのでしょう? ガルー様とセフィラ様がこの村に来た本当の目的を果たすために……!」
「あー、この村に来た目的というか、流れはですね……」
バジルに婚約破棄された件、そこから王都を抜け出して、美味しいパンを食べたいがためにフラウ村に来たことまで正直にすべて白状する。
「あはは……神獣の契約者がこんなんじゃガッカリしちゃいますよね?」
「いえいえ、そんなことはございません! 魔境戦争の終戦直前に先代国王が暗殺されて以来、王族もいい話を聞きませんからね……。あまり大きい声では言えませんが、関係を断てたのはある意味幸運だと思います」
「そう言っていただけると、ありがたいです……!」
やっぱり隠し事って苦手だ。
ぜーんぶ話せたらスッキリしちゃった!
そして、スッキリするとお腹が空いてきて……ぐぅ~っとお腹が大きな音を鳴らす!
「そ、そういえば今日は何も食べてないかも……! 朝からバタバタしてたから……恥ずかしっ!」
「では、我らフラウ村の一同がセフィラ様の目的を果たしましょう!」
ゴルドンさんは自信ありげに自分の胸をドンと叩いた。
「というと……?」
「今からセフィラ様に焼き立てのパンをご堪能いただきましょう! さあ、アンデッドの脅威は去った! みんな、かまどに火を入れよう!」
「「「「「おおーっ!!」」」」」
ゴルドンさんの呼びかけに村の人たちは声を上げ、それぞれの家へと駆け足で戻っていく。
「い、今からパンを焼くんですか?」
「はい! セフィラ様とガルー様がアンデッドを倒し、村の平和を取り戻してくださったことを祝って、ちょっとしたパーティーを開こうかと! ちょうど私たちも夕食がまだでしたので!」
ゴルドンさんはそう言ってにっこりと笑う。
すでに村の人たちは私を中心にしてテーブルやイスをどんどん並べている。
これは要するに……夜空の下で焼き立てパンのパーティーが開催されるということ!
くぅ~、なんて魅力的な響きなのっ!
これはもうお言葉に甘えて、焼き立てのパンが運ばれてくるのを待つしかないよね!