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第6話 小麦畑の村の異変

 戦争の時、私は勇者様やガルーと一緒に前線にいた。


 魔人たちにはモンスターを従える技術があって、戦線にたくさんのモンスターが投入されていた。

 だから、私は少しでも仲間のみんなの戦いが楽になるように、モンスターの知識を頭に詰め込んだんだ。


 終戦から1年経った今、ちょっと知識が抜け落ちかけてる気もするけど……それでも普通の人と比べればモンスターの話題は得意分野のはず!


「アンデッドは死骸の肉や骨に邪悪な魔力が蓄積されることで生まれるモンスターで、体は脆く知能も低いですが、とにかく大量発生することが多くて厄介なんですよね。特に埋葬が済んでいない戦場の跡では、倒したはずのモンスターがアンデッドとなってよみがえることもあるので、本当にしっかり処理をしないと……」


 いい感じに記憶から情報を引き出せたと思っていると、ゴルドンさんが慌てて私の話を止める。


「ほ、本当によく知っているんだね……! それくらいで十分だよ……!」


「そうですか? まだいくつかエピソードが……」


「いやいや、それだけご存じなら話は早い! このフラウ村には、数日前から夜になるとアンデッドが発生するようになってしまったんだ。食べ物が豊富な村だから、モンスターが寄って来ることはよくあるんだけど……アンデッドは初めての経験でね。人も家畜もモンスターも、丁重に葬ってきた。死体を放置なんてしていない。だから、発生の原因もわかっていないんだ」


 一気にわっと飛び出してくるゴルドンさんの話を、隣にいるガルーを撫でながら静かに聞く。


「村には戦力が少なく、敵の数は多い……。毎晩必死に戦って、何とかアンデッドが消える朝を迎えられてはいるけど、それもいつまで続けられるか……。もちろん、近隣の村や王都に人を送って救援を求めてはいるよ。でも、最も頼りになるはずの王国騎士団は、平民相手にはとにかく腰が重いからね……」


 ガルーが「グルル……」と不満げにうなる。

 戦争の時は頼りになる味方だった騎士団も、今では評判が悪くなっている。

 こういうのを組織の腐敗って言うらしい。


 平和な時代になるとよく起こることだ――って、勇者様がぼやいていたのを覚えている。


「今のままでは小麦畑の世話に手が回らない……。日が出ているうちは怪我人の治療と、建物の補強で時間が尽きてしまう……。いったいどうすれば……」


 カタ、カタカタ、カタカタカタカタ…………。


 外から乾いた木と木を打ち合わせたような音が響いてくる。

 それも一方向からじゃなくて、いろんな方向から聞こえてくる。


 窓の外はすでに真っ暗――夕暮れから夜に変わっていた。

 このカタカタした音はアンデッドたちの骨がぶつかり合う音だ!


「来たか……。セフィラちゃんはガルー君と家の中にいなさい。絶対に夜が明けるまで外に出てはいけないよ」


 そう言ってゴルドンさんは立ち上がる。


「ゴルドンさんも戦うんですか?」


「もちろんさ! 戦える人間が戦わなければ、明日の朝は迎えられない。ずっと小麦農家一筋、親のコネの力で徴兵された経験もないが……大人として、男として、村長として、村の人々を守るために戦わなければならない!」


 力強く叫んだゴルドンさんの体は震えていた。

 戦いを恐れながら、それでも外へ向かおうとしているんだ。


「……ゴルドンよ、そなたは外に出るな」


「えっ……!? だ、誰の声だ!?」


 低く響く男性のような声――。

 その声の主がわからないゴルドンさんは、きょろきょろと周りを見渡している。


「ガルー、いいんですか? 人の言葉をしゃべっちゃって」


「この男になら構わんと、私が判断した。ゴルドンよ……そなたは家に残り、子どもたちを安心させてやるのだ」


 その声の主がガルーだと察したゴルドンさんの目が飛び出そうなくらい開かれる。


「犬がしゃべって……! いやまさか、ガルーというのは本物の……!?」


「察しがいいな。その通り! 我こそが神獣のガルーだっ! わけあって今はこのような愛らしい姿をしているが、正真正銘の神獣ガルーなのだ!」


 今の姿でも存在感を出そうと、ガルーはソファーの背もたれに乗ってピンと脚を伸ばす。

 それに効果があったのかはわからないけど、ゴルドンさんは「ははーっ!」と両ひざをついて頭を下げた。


「……自分からやっておいてすまんのだが、今はこんなことをやっている場合ではない。頭を上げるのだ、ゴルドン。我は今からセフィラと共に外へ出て、アンデッドを全滅させてくる」


「そ、そんなことが可能なのですか……!?」


「可能だ。それもほんのわずかな時間で決着はつく。だから、その間この家の者を誰一人として外に出すな。特に子どもたちは元気が有り余っているようだから、よーく見ておくのだ!」


「わかりました! どうかこの村をお救いください、神獣様……!」


 やることは決まった!

 アンデッドを倒すため、ガルーと一緒に応接室の外へ出る。


「ワンちゃん出てきたぁーーーーーーーーーっ!!」


 子どもたちが応接室の扉の前でガルーを構えていた!

 すぐにガルーは捕まり、全身をなでなでされてしまう……!


「うおおおっ!? もう少し待つのだ、子どもたちよ!」


 ガルーが叫ぶけど、子どもたちは言うことを聞かない!


「やーだー! お話が終わったら遊んでくれるって言ったじゃん! 嘘ついたらダメなんだよ~!」


「う、嘘をついているわけではない! 我々は今から外のアンデッドを退治しに行くのだ! お前たちを……この村の人々全員を守るためにな!」


「そうなの? ……あれ? なんでワンちゃんがしゃべってるの?」


 子どもたちはハッとして、ガルーを撫でる手が止まる。

 その隙をガルーは見逃さなかった。


「とにかく家の中でおとなしくしているのだ! 我らがすべて解決する! 行くぞ、セフィラ!」


「ふふっ、はーい!」


 ガルーにとってはアンデッドより子どもたちの方が強敵みたいね!

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