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第29話 下山完了!

 オデコさんが冒険者と捜索隊の人々を連れてアジトまで戻ってきてからは、とんとん拍子に話が進んだ。


 冒険者たちはアジト及びその周辺の調査、そして人攫いたちを改めて捕縛して連行の準備をする。

 やたらと物資が揃っているアジトだと思っていたけど、調査の結果本当に野菜を育てる畑や小規模ながらも養鶏場がアジトの近くで発見されたんだからびっくりだよね!


 あまりにも生活設備が整っているものだから、このアジトはこれから冒険者ギルドの施設として利用していくみたい。

 クラグラ山脈を越える旅人たちが立ち寄れる場所になれば、それだけ旅の安全性も増しそうだ。


 冒険者たちが調査をする中、捜索隊は子どもたちの保護に動く。

 捜索隊の中には攫われた子の家族も数人混じっていて、一足早く再開を喜び合っていた。


 でも、大多数の子は山から下りないと家族に会えない。

 捜索隊の人たちは子どもたち1人1人に故郷がどこにあるのかを聞き、山をどの方角に下りれば最短で故郷へ到着出来るのかを話し合った。


 その結果、子どもたちは二手に分かれて山を下りることになった。

 私たちが山を登ってきた方角――つまりフラウ村などがある方向、そして私たちが向かうべき方角――アスパーナへ向かう方向だ。


 私たちはアスパーナ方面へ下山し、山のふもとの街であるバナンバタウンに子どもたちを送り届ける。

 反対方面にはオデコさんが付き添い、登ってきた道を引き返していくことになった。


「じゃあ、そっち方面はよろしくね。子どもたちを送り届けたらバナンバにすぐ戻るから、積もる話はそこでするとしよう」


 オデコさんを温泉に連れていく話は、バナンバタウンですることにした。

 仕事中に休む話をされて、いい返事をしてくれる人ではないのはわかってるからね。

 一仕事終えたところで、本題を話した方が誘える成功率は上がる!


「それではみんな、ガルーについてきてくださいね~!」


 捜索隊の一部と子どもたち、そしてシャロさんとムニャーを連れて、私とガルーはダムドー峠を越えてバナンバタウンを目指す――!


 ◇ ◇ ◇


 早朝に下山を開始して、バナンバタウンに到着したのは昼過ぎのことだった。


 子どもたちは山を下りるのに泣き言を言うどころか、早くお家に帰りたいと元気を振り絞った結果、想像していたよりも早い下山完了になった。


 下山中に怪我をした子も、体調を崩した子もいない。

 それどころか元気すぎて危なっかしくて、下りるスピードを落とすようにお願いする必要すらあった。


「まあ、何はともあれ一段落だな。後のことは捜索隊や冒険者に任せてよいだろう」


「そうですね、ガルー。私たちは私たちで、今日泊まるところを見つけないといけません!」


「オオカミ1匹にヤマネコ1匹、それに女と子どもとなれば、泊まらせてくれる宿も限られてくるだろう。日が出ているうちから探すのが得策だ」


「ガルーが本当の姿を見せて神獣だということを証明すれば、特別扱いしてくれる宿もあるんでしょうけど……それではいけませんよね。ちゃんと動物OKの宿じゃないと、他のお客さんが困ってしまいますから!」


 ということで、動物OKの宿をひたすら探し歩く……必要はなかった。

 一緒に下山した捜索隊の人がバナンバ在住で、動物でも泊まれる宿を紹介してくれたんだ!


 ちょっと料金は高いとのことだったけど、ありがたいことに部屋はたくさん空いていた。

 ベッドが2つある広い部屋を選び、そこで荷物を下ろしてふーっと一息つく。


「ちゃんとしたベッドに座ると、何だかドッと眠気が押し寄せてきます~……」


 そのまま重力に押し負けて、ベッドにごろんと寝転がる。

 あぁ~、背中で感じるふかふかのベッドが気持ちいい……。


「ムニャ~!」


 眠りかけた私の上に、ムニャーが子猫のように乗っかってきた!


「ぐ、ぐふぅ~! ムニャー、重いです……!」


「ムゥ~?」


 よくわからないといった表情で、ムニャーは喉をゴロゴロ鳴らし、体もゴロゴロと転がして下敷きになっている私にこすりつけている……!


「本当に子猫ちゃんみたい……!」


 まさか、ムニャーは自分の体の大きさがわかっていない……?


「実際、ムニャーはまだ子猫と言って差し支えない。ハクアオオヤマネコはこれでも子どもサイズなのだ」


「ひぇ~! シャロさん、助けてください~!」


「わ、私がですか……!? えっと、こっちにおいで~……」


「ムニャッ!」


 シャロさんに呼ばれたムニャーは、パッとそちらに飛びついた!

 ベッドに腰かけていたシャロさんは当然押し倒され、私と同じ目に遭う……!


「本来は親に甘えたい時期にも関わらず、人間に捕まって劣悪な環境で生きてきたのだ。少しくらい甘えさせてやればよいだろう。ただ、人目のあるところではこういう甘え方はさせない方がいい。いくら首輪があるからといって、人を襲っているように見られかねんからな」


 黒柴犬状態のガルーがソファーでくつろぎながら言う。


 ムニャーの首に巻き付けられたコバルトブルーの鮮やかな首輪は、オデコさんがくれたものだ。

 これを巻いていれば、野生の猛獣ではなく誰かに飼われている動物だと照明出来る。

 飼い主のことを含め、魔法によって首輪にいろいろな情報が刻み込まれているんだ。


 戦闘とはまた違った魔法の使い方……昔のオデコさんには出来なかったことだ。

 つまり、これもまた戦後に冒険者をやりながら新たに身につけたと言うこと……。


 本人にそのつもりはなくても、やっぱり無理してるとしか思えない。

 なおさら温泉に連れていきたい気持ちが高まるってものだ!


「ム、ムニャー、こんどはガルー様のところで遊んでらっしゃい……!」


 ムニャーに下敷きにされていたシャロさんが、指でガルーの方を示す。


「おいっ、やめ……」


「ムニャ~!!」


 ガルーの静止もむなしく、今度はガルーにガバッと抱き着くムニャー。

 下敷きにするというより、前脚でガッチリとホールドして頭を擦り付けている。


「お、おおっ……! お前も我のように強くなりたいなら、このような甘え方はやめ……」


「ムゥゥゥニャーーーッ!」


 さっきとは真逆のことを言っているガルーの言葉も、今のムニャーには届かない!

 それからしばらく、ガルーは好き放題すりすりされるのであった……!

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