表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/28

第26話 夜明けの山に

「ムニャ~!」


 ムニャーが寝ころんでいる私とシャロさんの間にでーんと腰を下ろした。

 まるで自分もいることをアピールしているみたい。


「ムニャーも私たちと一緒に来ますか?」


「ムニャッ!」


 しっぽをピンと立てたムニャーの返事は、「行きたい!」と伝えているように聞こえた。

 私だけじゃなくてガルーにもそう聞こえたみたいで、ガルーはうんうんとうなずいていた。


「我らと一緒に来たいのならば、こちらとしても好都合だ。ムニャーをこの山に一人残していくわけにはいかんし、かといって嫌がる獣を引っ張って旅を続けるのは大変だ。自分の意思で動いてくれるなら、それに越したことはない」


 ムニャーはどこかに帰りたがっている様子もない。

 もし元は誰かの飼い猫だったとしても、そこへ帰りたいと思えるような扱いを受けていなかったのかも……。


 ガルーもハクアオオヤマネコは貴族やお金持ちの間で人気のペットだけど、誰にでも懐くわけじゃないから扱いに困って捨てられたか、人攫いに売りつけられたか……って言っていたもんね。


「じゃあ、ムニャーも一緒にアスパーナに行きましょう! 決定です!」


 傷が痛まない程度に軽く頭をなでなですると、ムニャーは喉をゴロゴロ鳴らし「ムニャ~!」と鳴いた。


 アスパーナは王国一の温泉街だ。

 きっと動物でも入れる温泉だってあるはず!


 というか、そうじゃないとガルーも温泉を前にしてどこかでお留守番になってしまう……!

 その可能性をまったく気にしていないかったけど……まあ行ってみれば案外何とかなるよねっ!


「セフィラ、シャロ、腹がいっぱいになった子どもたちが眠たそうにしている。そろそろ寝る準備をした方がよさそうだぞ」


 ガルーの言う通り、結構な数の子どもたちがまぶた(・・・)を重そうにしている。

 寝るなら外よりも屋内――アジトの中が本当はいいんだけど、子どもたちはあのアジトを嫌っているし恐れている。


 私たちのお手伝いのために出入りしてくれていた子はいたけど、本当はみんなにとってもう足を踏み入れたくない場所なんだ。

 だから、このままみんな一緒に外で寝ることにする!


 私とシャロさん、何人かの勇気ある子どもたちとで手分けして、アジトの中からブランケットとかタオルケットとか毛皮とか、被って温まれそうな物をかき集めて子どもたちに配っていく。

 大人数の人攫いが拠点にしていたアジトなだけあって、相変わらず物資には困らない。


 悪い人たちがここまで生活環境を整えられるくらい儲かっていると考えると複雑ではあるけど……今は子どもたちのために最大限利用させてもらうもん!


「よしっ! 子どもたちみんなに配り終えたし、私たちも寝るとしましょう。シャロさんもゆっくり休んでくださいね」


「火の番と見張りは我がする。安心して眠るといい」


「ありがとうございますっ! お言葉に甘えさせていただきます……!」


 シャロさんは最初の内は気を使って私やガルーの方をチラチラ見ていたけど、数分もするとすーすーとかわいい寝息を立てて眠ってしまった。


 彼女も子どもたちと同じく、人攫いに攫われた被害者なんだ。

 今までいっぱい怖い思いをしていただろうし、肉体的にも精神的にも相当疲れていたはず。


 そんな中でも美味しいシチューを作ってくれて、私と出会えたことを喜んでくれて……こっちもとっても幸せな気持ちにしてもらった!


「セフィラも早く寝るのだぞ。場合によっては明日すぐに救援が来て、ここを動くことになるやもしれん。子どもたちを安全なところに届け終えたら、我らは予定通りアスパーナを目指す」


 そう言うガルーはどこかそわそわ……いや、ドキドキしているように見えた。


「温泉に入るのが楽しみですか?」


「フフッ……まあ、それなりにな! 我のような獣にとっては温泉自体が貴重な経験の上、温泉の中には高い回復効果を持つものも存在するらしい。そこへムニャーを入れてやれば、全身の傷が(あと)を残さず綺麗に治るやもしれん。それにシャロが同行することによって我の心配事は1つ消えた。今は純粋に温泉を楽しみにしている!」


 ガルーの心配事には心当たりがないけど、今の言葉でガルーが温泉をウキウキするくらい楽しみにしていることがわかった。

 どうか神獣とヤマネコが入れる温泉がありますように――なんてことを考えながら、私も眠りについた。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝――日の出と共に山に入る人影あり。

 その人物は人間離れした脚力で山肌を駆け、ダムドー峠付近にある人攫いのアジトに接近する。


 ガルーはその人物が十数メートルまで近づいてきたところで存在に気づき、一瞬ハッとした顔をする。

 しかし、その顔はすぐに微笑みに変わった。


「我の警戒をくぐってここまで接近出来るのはお前しかいないな……オデット」


「完全に気配を消したつもりだったんだけど、まだまだ勘は鈍ってないいみたいだね……ガルー」


 木の陰から姿を現したのは、赤い髪の女性。

 見た目は20代(なか)ば、すらりと長い手足は筋肉質で、深紅の瞳の鋭い目が特徴的。


 ……いや、一番の特徴はその頭にぴょこっとかわいいネコの耳が生えていることだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ