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第2話 神獣ガルム

「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーっ!!」


 ガルーににらまれた兵士たちは城の中へと逃げていく。

 中庭には私とガルー、そして腰を抜かしたバジル様だけが残った。


 ……いや、私を不要って言った人にいつまでも様を付ける必要はないよね?

 もうあの人は婚約者でも何でもない、ただの意地悪バジルだ!


「ガ、ガルー様だと……!? あなたはノーレイ大樹海の守護を命じられていたはず……! 勝手に持ち場を離れるとは何事ですかっ! 神獣といえど命令違反は大罪! 罰則を与えなければ……」


 情けない格好でよくしゃべるバジルに、ガルーは自分の鼻先を近づけて威圧する。


「ほう、お前に……いや、人間に神獣を罰するほどの力があるとは初耳だな。それならば我々が手を貸さずとも、魔族との戦争に勝てたと思うのだがな?」


 ガルーにそう言われては、バジルは「ひぃぃぃぃぃぃ!」と悲鳴を上げるしかない。

 その反応をひとしきり楽しんだ後、ガルーは私の方を振り返った。


「……それでセフィラ、これはどういう状況だ? 久しぶりに会えたというのに、状況がさっぱりわからんぞ」


 目を丸くしているガルーに、手短にここまで起こったことを伝える。

 するとガルーは深いため息をついて、やれやれと首を横に振った。


「なるほどな……。だから、この男との婚約はやめておけと言ったのだ。我は最初からこいつを好かんかった。それなのにお前もグラストロも『お姫様になれる~!』などと浮かれおって……」


 ああ、久しぶりの『我は最初から言ってたぞ?』のムーブだ……!


「し、仕方ないじゃないですか……! 女の子に生まれたからには、誰だって一度はお姫様になりたいんです!」


「その気持ちはわからんが……まあいい。そもそも悪いのはシオーネとかいう女と、そこで腰を抜かしている阿呆(あほう)だ。セフィラは何も悪くない」


「その通り! 助けに来てくれてありがとう、ガルー!」


 ガルーの後ろ脚に抱き着いて、ふわふわの毛並みにほっぺたをすりすりする。

 う~ん、いつ触れても最高の肌触り!

 そして懐かしい匂い……!


 ガルーが戦後ノーレイ大樹海に旅立って以来の感覚!

 あの森には魔人たちが戦時中に生み出した兵器としてのモンスターが棲みついちゃったから、ガルーくらい強くないと管理出来ないってのはわかる理屈だったけど……やっぱり1年も会えないのは寂しかった。


「む、むう……! くすぐったいではないか!」


 ぶっきらぼうにガルーは言うけど、もふもふのしっぽはぶんぶん揺れている。

 ほっぺたすりすりされて喜んでいる証拠だ。


 そのまましばらく昔を懐かしみながらすりすりしていると、腰を抜かしていたバジルが立ち上がって、こちらをにらみつけているのに気づいた。


「おい……! あ、いや、神獣ガルー様! 先ほどまでの非礼の数々、大変申し訳ございませんでした!」


 バジルは突然土下座をし、頭を地面に擦りつけて叫んだ。

 ……と思ったら、すぐにガバッと頭を上げて立ち上がる。


「もしお許しいただけるなら……私と神獣の契約を結んでいただきたい!」


「「そんなことだろうと思った」」


 私とガルーの言葉がハモる。

 どうやら同じことを考えていたみたい。


「だから我は言ったのだ、こいつはロクでもない男だと。そもそも婚約者なのにセフィラを城に住ませてくれなかった時点で……」


「そ、そこまではガルーも言ってませんでした! まあ、今となってはロクでもない男というのも同意見です!」


 ガルーと目を合わせて何度もうなずく。


「我らは十分に神獣としての使命を果たした。これからは気ままに放浪(ほうろう)の旅でもさせてもらおうじゃないか、セフィラ」


「いいですね! 戦後は体調を崩した勇者様とずっと王都にいましたから、戦争を乗り越えて復興し始めた世界をゆっくり見て回りたいです」


「決まりだな。さあ、我の背に乗れ」


 地面にぺたんとお腹をつけて姿勢を低くしたガルーの背中に、もふもふの毛を掴んでよじ登る。

 私みたいな体の軽い女の子に毛を引っ張られたくらいじゃガルーは痛みは感じない。

 なんてったって神獣だからね!


「なぜだ……!? なぜそんな何の力もない小娘に従うのです!? 神獣は人間と契約することで、その神聖な力を増幅すると聞きます! また王国が戦火に包まれた時のために、いずれこの国の王となる私と契約することは、人々の平和を守ることにつながるはず……! 人類のために戦ったガルー様なら、私の言葉の正しさを理解出来ないわけはないでしょう!?」


 必死に食い下がり、ガルーとの契約を望むバジル。

 対するガルーの方は「やれやれ……」と首を振った。


「性格が悪ければ、頭も悪く、察しも悪いようだな……お前は。我が人と共に戦ってやったのは、尊敬に値する一部の戦士たちが平和を望んでいたからに過ぎん。別に全人類を愛しているわけではない。特にお前のような奴はどうなっても構わん」


「そ、そんな……!」


「そして何より、我は契約者を失っていない。今も我と共にある。なぁ、セフィラよ?」


 ガルーの問いかけに、私はドンと胸を張って答える!


「その通りっ! 神獣の契約者は勇者様ではなく、最初からこの私――セフィラ・ローリエなのですっ!」


 その事実が知れ渡れば私が悪しき者たちに狙われると考えた勇者様は、あたかも自分が神獣を従えているように見せかけていたんだ。

 勇者の力と神獣の力はどちらも強力だけど、そのルーツはまったくの別物!


 そのことを知る人はほとんどいない最重要機密なんだけど、ガルーと一緒に旅をするならもはや隠す必要のないことだ。

 私のおでこに刻まれた神獣との絆の証――神獣紋(しんじゅうもん)の輝きも見られちゃったからね。


「……ということで、我は契約者と共に旅に出る」


「王都を出る前にシオーネおばさんの家に寄って、旅の支度をしたいです!」


「ああ、いいだろう。我はその女に言っておきたいことがたくさんある」


 ガルーの行く手を塞ごうとする人は誰もない。

 そのままお城から出て行こうとすると、後ろからふらふらした足取りでバジルが追いかけてきた。


「ま、待ってくれ……! もう一度婚約者に……結婚してくれないか、セフィラ……!」


 こういうのを(つら)の皮が厚いって言うんだよね?

 しつこくて情けないバジルに、ハッキリと決別の言葉を言い放つ。


「あなたみたいな意地悪な人とはぜーったい結婚しません! お姫様には憧れましたけど、正直バジル様と一緒にいた時間は短いし、あんなひどいことを言われたら未練なんてありません! これからは心を入れ替えて、とにかく国民のために働くことですね! このバカ王子っ!」


 あースッキリしたっ!

 ……と思っていると、またガルーが「やれやれ」とため息をついた。


「セフィラよ……もっと口汚く(ののし)ってやってもよいのだぞ?」


「お上品に育てられたので、汚い言葉なんて使い慣れてませーん!」


「まあ、頭の悪い男にはこのくらい簡単なお叱りの言葉がお似合いか」


 今もグダグダと言い訳をしているバジルを突き放すようにガルーは加速し、お城を飛び出してシオーネおばさんの家へ向かう。


 その途中で私を追いかけていたヒゲもじゃのおじさんたちとバッタリ遭遇!

 この人たちは明らかに私を売ろうとしていた……。

 私の代わりに他の子が人身売買されたら大変だ。


 なのでガルーの本気の咆哮(ほうこう)を浴びせて気絶させ、憲兵さんの詰所(つめしょ)にお届けしておきました!

 これで一件落着っ!

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