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第17話 白いオオヤマネコ

「ちょうど現在地から一番近い牢屋のそばにネコがいるようだ。向かってみるとしよう」


 ガルーが感じ取った音と匂いを頼りに、子どもたちが閉じ込められている場所に向かう。

 迷路のような通路を抜けてひらけた空間に突き当たると、そこには鉄格子でさえぎられた牢屋があった。


 牢屋の中には不安そうな顔の子どもたち……。

 そして、牢屋の扉付近に明らかに人間より大きいサイズの光輝白繭(ルミナスコクーン)が転がっていた。


「この牢屋にはかなり幼い子どもたちを選んで閉じ込めてあるみたいです……! きっと牢屋の分け方は年齢だったんですね。私はなぜか20歳なのに10歳くらいの子どもたちがいる牢屋に入れられましたけど……」 


「まあ、シャロさんは若々しいですから……! それでガルーが感じた匂いは、あの光輝白繭(ルミナスコクーン)の中から匂ってきますか?」


「ああ、あの中にいる獣が匂いの正体だ。繭のサイズからしてかなりの大型種……。それにいきなり繭に閉じ込めたせいでパニックになって暴れている。解放したら我らや子どもたちに襲い掛かる可能性があるぞ。もちろん、この神獣ガルーが負けるはずはないが、しばらく放置しておくのも……」


「ネコちゃんはそんなことしないよっ……!」


 ガルーの言葉をさえぎって、牢屋の中の子どもたちが叫ぶ。


「そのネコちゃんは牢屋の扉を開けようとしてくれたんだ! いつもいつも……悪い人たちに殴られても蹴られても! だから、いい人は襲ったりしないよ!」


 1人の男の子の言葉がきっかけとなって、子どもたちは「そうだそうだ!」と言い始めた。


「子どもたちの言ってることは本当かもしれません。牢屋の扉……それも鍵穴の周りにたくさんのひっかき傷があります。それにこのネコちゃんは(おり)の中に入れられていません。人攫いにとって商品である子どもを襲う可能性がある存在を、放し飼いにはしないでしょう」


「しかし、セフィラよ……。放し飼いということは、このネコは売り物ではなく人攫いの飼いネコだったということになる。それはそれで危険な存在と言える。もちろん、我が負けることはありえないがな」


「それなら、一度解放してみましょう! ガルーがいれば安全ですし、手っ取り早い方法です!」


「む、むぅ……仕方あるまい。まあ、子どもたちも嘘を言っているようには見えんしな」


 ガルーと私、両方の同意で光輝白繭(ルミナスコクーン)は解除される。


「ムゥシャアァァァァァァーーーーーーッ!! フゥゥゥーーーーーーッ!」


 繭の中から出てきたネコちゃんは跳ねるように私たちから距離を取り、毛を逆立て威嚇する。


 やっぱり大きい……!

 流石に普段のガルーほどではないけど、家ネコとは比べ物にならないサイズ感!

 後ろ足で立ち上がったら、私やシャロさんの身長を越えるのは間違いない。


 でも、遠めに見ても体の大きさの割に肉付きが悪いのがわかる……。

 毛はほとんどが汚れて茶色や灰色になっていて、血や泥で固まっているところもある。

 目ヤニが溜まった目でこちらをにらみつけ、開いた口からは欠けた牙が見える。


「酷い……。なんて仕打ちを……!」


「特徴を見るにハクアオオヤマネコか。寒冷地に住む猛獣だが、その毛並みの美しさと人間に(なつ)く性質から、金持ちや貴族がペットにしたがると聞く。だが、誰にでも懐くわけではない。上手く関係を気づけなかった飼い主が人攫いに売りつけたか、捨てられたところを捕まったか……」


 ガルーの口調から、目の前のネコちゃんへの(あわ)れみを感じる。

 扱いの酷さを見るに、商品として管理されていたわけじゃないのは明らか。

 となると、山のモンスターたちを追い払うための番犬代わりをやらされていたか……。


「人間に酷い目に遭わされたのに、この子は人間の子どもを助けようとしてたなんて……! この子だけでも逃げようとはしなかったんでしょうか? 見たところ鎖でつながれているわけでもありませんし……」


「鎖ではなく、首輪にかけられた呪縛で行動範囲を縛られているんです」


 シャロさんの疑問に答えるため、ネコちゃんの首輪を指さす。

 首輪には血のように赤い光を放つ記号が刻まれていた。


「あの首輪をしている限り、決められた地点から一定距離以上離れることは出来ません。だから、あのネコちゃんはアジトの中や少し外を歩くことは出来ても、逃げることは出来なかったんだと思います」


「自分は逃げられないのに、子どもたちを逃がそうと……!」


 子どもたちがネコちゃんを信じるのも当然だ。

 きっとこの子はとっても心優しいネコなんだ。

 でも、初めて見る私たちをとても警戒している。


 敵意がないことを伝えるために、両手を横に広げてネコちゃんに一歩近づく。


「セフィラ、危険だ!」

「セフィラ様……!」


 心配してくれるガルーとシャロさんを手で制する。


「大丈夫です。この子はとっても優しい子です。それに私からはこれ以上近づきませんから」


 私から一歩歩み寄る姿勢を見せた。

 後はネコちゃんがそれに応えてくれるかだ……!

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