第16話 アジト発見!
「ふむ、あれが人攫いのアジトか。よくもまあ、こんな場所に作ったものだ」
大きな岩の陰に身を隠したガルーがつぶやく。
数メートル先にある人攫いのアジトは、苔やツタに覆われた岩壁の中をくり抜いて作られていた。
一見自然に出来たの洞窟のように見える大穴はアジトの玄関。
岩壁のところどころには、外を警戒するための窓となる穴が開いている。
だけど、今はその窓から外を覗いている見張りはいないみたい。
「もう少し接近して内部の様子を探るとしよう。体を小さくするから、セフィラとシャロは降りるのだ」
「はい……。シャロさんも降りますよ」
「体を小さくする? よくわかりませんが了解です……!」
小声で話しながら、ガルーの背中から降りる。
その後、すぐにガルーは黒柴犬の姿になった。
「神獣様がワンちゃん様に……!?」
当然シャロさんは驚く。
大声で驚かれても文句は言えないけど、今回は何とか声を抑えてくれた。
「驚くのも無理はなかろう。これは戦後1年に及ぶ鍛練の末に身につけた力なのだ。さっきはこの姿を見せてシャロを泣き止ませようと思ったのだが、我の姿が怖いから泣いているわけではないとわかったから、寸前のところで見せるのをやめたのだ」
「私が神獣様のお姿を怖がるわけがありません……! 今の姿も大変かわいいですが、やはり神獣様はあの雄々しい黒き狼の姿こそが至高……!」
最初は儚げな雰囲気をまとった金髪碧眼の正統派美少女だったのに、今はとっても愉快な人になっちゃったな!
もちろん、美少女なのは今も変わらないけど……いや、本人は20歳って言ってるんだから美女と呼ぶべき?
「……とりあえず、物陰に身を隠しながらもう少しアジトに接近してみましょう」
余計な考えを頭の隅っこに押しやって、アジトに向けて前進する。
「人の気配は感じるが、全員アジトの内部にいるようだ。奴らの声の反響から考えるに内部は結構広いな……。よほど手間をかけて掘ったか、地魔法の使い手に地形を変えてもらったか」
ガルーが鼻や耳で内部の様子を探り、その情報を伝えてくれる。
さらにシャロさんも知っている情報を提供してくれる。
「私は捕まっていただけなので、詳しいアジトの内部構造は知りません……。ですが、子どもたちがいくつかのグループに分けられて、それぞれ離れた牢屋に閉じ込められていたのは知ってます。それと食堂とか会議室、武器庫に食料庫などがあると、人攫いが牢屋の前で話していたのを聞きました」
「ほう、外道どもにはもったいないくらいアジトの中は快適の様だな。内部の空間が広いのも間違いないようだ。となると、突入からの強行制圧は愚策。巣の中のハチを駆除するように煙でいぶしてやるとするか、セフィラよ」
「聖なる息吹ですね。私も賛成です……!」
「う、うむ……! そうだ、聖なる息吹だ」
ガルーがうなずく。
聞きなれない言葉にシャロさんはきょとんとしているけど、意味を説明するより実際に見てもらうのが早い!
「はぁぁぁぁぁぁ……神獣紋開放……!」
小さな掛け声でもおでこの神獣紋は光る!
同時に黒柴犬状態のガルーのおでこにも、金色の神獣紋が輝く。
「せーのっ……」
「「聖なる息吹」」
ガルーの口から白い煙のようなものが勢いよく吹き出し、アジトの入り口からどんどん内部へ入り込んでいく。
「なるほど、言葉通り煙で中から人攫いをいぶし出す……。でも、この方法だと子どもたちを煙を吸ってしまって……!」
「安心してください、シャロさん。これは煙のようなものですが、実際に煙ではないんです。細かな光の集合体だから、触れても吸っても害はありません。ただし、一定以上の魔力を持つ生物にどんどんくっついて、体の自由を奪う効果があるんです」
「つまり、魔力が未発達な子どもたちはそのままに、大人である人攫いだけを拘束する魔法ということですね……!」
「ふふふっ、正確には魔法ではなく私とガルーの必殺技です!」
しばらくして聖なる息吹を吐き終わったガルーが口を閉じる。
アジトは静かなもので、何も変わっていないように感じられる。
少なくとも人間の耳には……ね。
「うむ、人攫いどものもがく声がアジトの奥から響いている。全員の拘束に成功したようだ。子どもたちは……何が起こったのかわからず、押し黙っているようだな。少し位置が把握しにくいが、まあ中に入ればすぐわかる」
「では、アジトに突入しましょう! 行きますよ、シャロさん!」
「はいっ! セフィラ様の仰せの通りに!」
みんなで堂々と真正面からアジトにお邪魔する。
入ってすぐから分かれ道が多くって、なかなか複雑な構造をしていることがわかる。
「ひえっ……!? な、なんか白い繭のようなものがゴロゴロ転がってます……! しかもうごめいているぅ……気持ち悪いっ!」
「ああ、それが人攫いたちですよ。聖なる息吹に包まれて光輝白繭にされてしまったのです」
「は? ……あ、いえ、それはどういう?」
「セフィラは勇者グラストロに影響を受け、いろんなものに大仰な名前を付ける癖があるのだ。光輝白繭は単純に白い繭のことを言っているだけだ」
ガルーが横から丁寧に補足してくれる。
シャロさんは理解してくれたようで、ハッとした表情を見せてくれた。
「なるほどなるほど……! 素晴らしいネーミングセンスです、セフィラ様!」
「おおっ! シャロさんはわかってくれますか!?」
「は、はい……!」
むふふ~!
自分のセンスを褒めてもらえると気分がいい!
「早く子どもたちのもとへ向かうぞ、セフィラ、シャロ……ん?」
ガルーが鼻と耳をピクピクと動かし、アジトの奥の方を見つめる。
「シャロよ、このアジトで動物は飼われていたか?」
「えっと……ここに連れてこられて監禁される前に、一度だけ白くて大きなネコを見ました。それと夜な夜なガリガリと金属をひっかくような音も聞きました」
「ふむ……。やはりこの獣臭は人攫いどもが身に着けている毛皮ではなく、生きている獣の匂いか。しかしながら、今までに嗅いだことのない獣の匂いだ。どこかで希少な獣を捕まえ、子どもと同じく売ろうとしたのか?」
どうやらアジトにはネコもいるっぽい!
しかも、子どもたちと同じく売り物として捕まっている可能性も……!
「子どもたちも、ネコちゃんも、片っ端からどんどん解放していきましょう!」




