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第15話 世話係を追う者

 勇者様に養女がいることを知っている人は多い。

 でも、その養女の名前や見た目、役職まですべて把握している人は限られてくる。

 この人はどこまで知っている……?


「ど、どうして私が神獣の世話係だと思ったんですか? 確かにガルーと一緒に行動はしていますが、それだけで世話係と断定は出来ないはず……」


「どうか疑わないでください、セフィラ様! 私はあなたたちに危害を加えるつもりはまったくないんです!」


 な、名前まで把握されている!?

 これで知られていないのは、私が真の神獣の契約者であることくらい……?


「自己紹介させてください! 私の名前はエシャロット・レシピナ、20歳! 出身は魔人国ダージェンドとの国境に近い街……プレトーです!」


「プレトー……!」


 プレトーは戦争の時、魔人軍の大侵攻を受けて壊滅した街の名前だ……。


 当時の王国軍はその大侵攻を察知出来なかったから、戦線の一部を破られて深くまで進軍されてしまった。

 対応も後手後手になって、国境上に形成されていた戦線の支援拠点でしかなかったプレトーは、大した抵抗も出来ず火の海に……。


「私は街が炎に包まれる中、光を操る少女に命を救われました。頭に怪我をしていて記憶はおぼろげですけど、それでもその少女が大きな黒い獣を連れていたのはハッキリと覚えていたんです。その黒い獣の正体が神獣様だということは、後から調べればすぐにわかりました。問題は光を操る少女の方……。彼女の情報は勇者様や神獣様のようにハッキリとは残されていませんでした」


 その少女はおそらく私。

 魔人軍に突破された地点から離れた場所に配置されていた私とガルーは、その報告を受けてすぐに乗せられるだけの戦力をガルーの背中に乗せてプレトーに向かったんだ。


 結果として街を焼かれるのは防げなかったけど、救えた命もあった……。

 その中の1人がこのエシャロットさんなんだ。


「私がセフィラ様の存在を確信したのは、戦後しばらくしてたくさんの兵士たちの戦争体験記が本として出回り始めて、その中にちらほら神獣の世話をする少女の話が記されていたからです。本ごとに表現はまったく違いますし、時に食い違う内容もありました。ですが、それは現実に存在した誰かをモデルにしているとしか思えなくて、検証に検証を重ねた結果……セフィラ様の名が浮かび上がってきたのです!」


 何冊も出ている戦争を記した本の中から、私の存在を匂わせる部分だけ抜き出して、つなぎ合わせて、存在を確信した上で本人を探す旅に出るなんて……すごい熱意だ!


 共に戦争を戦った仲間たちが私を本に登場させたのは、隠さないといけないとわかっていても、私があの場所にいた証をわかる人にはわかる形で残したかったんだろうなと思う。

 記録しないと、その存在は歴史の影に消えていってしまうから……。


「お見事です、エシャロットさん。確かに私はセフィラ・ローリエ。勇者様の養女にして神獣の世話係です。そして、あなたを救ったという光を操る少女も私だと思います」


 神獣紋を開放し、その輝くおでこをエシャロットさんに見せる。


「あぁ……! これこそまさにあの日、炎の中で見た輝き……! やっと巡り合えた……! 命を助けていただいて、ありがとうございます! それをずっと伝えたかったのです!」


 エシャロットさんは涙を流しながら、感謝の言葉を言い続ける。

 その気持ちはありがたいし、よくわかるけど……ちょっと今はそれどころじゃないかも。


「エシャロットさんの感謝の気持ちは、子どもたちを助けた後で受け取ろうと思います。申し訳ありませんが、今は人攫いの無力化を優先させてください」


「あ、謝らないでください……! こちらこそ優先順位がわからず申し訳ございません……! 私のことはこれから気軽にシャロとお呼びください……! 敬語も不要ですので……」


「私、誰に対しても敬語なので! 呼び方はシャロさんと呼ばせていただきますね」


「セフィラ様の(おお)せの通りに……!」


 まるでお姫様みたいな扱いだ。ちょっと慣れない……。

 元から私にお姫様適正はなかったんだなと思い知らされる。


「それでは、ガルーに乗ってください。すぐに人攫いのアジトに向かいます!」


 普段の姿のガルーの毛を掴み、背中によじ登る。

 でも、シャロさんはガルーの毛を引っ張るのが(おそ)れ多いようで動き出せずにいた。


「今の私と同じように毛を掴んで登ってください! 大丈夫、ガルーはこの程度痛くも(かゆ)くもありませんから!」


「で、でも……神獣様の毛を引っ張って、背中に乗るなんて……!」


 動物の毛を引っ張るってこと自体に抵抗がある上に、その相手が神獣なら当然の反応だと思う。

 しかし……今はシャロさんの心の準備が整うのを待ってられない。


 先に心の中で謝っておこう……。

 ごめん、シャロさん!


「シャロさん、私の言うことが聞けませんか?」


「い、いえ……! セフィラ様の仰せの通りに!」


 シャロさんはガルーの毛をガシガシ掴んで、すぐに背中まで登ってきた。

 冷たい言い方して本当にごめんなさい!

 そして、ごめんついでにもう1回……!


「そのまま振り落とされないように、毛をしっかり掴んでおいてくださいね?」


「はいっ! セフィラ様の仰せの通りに!」


 ガルーの背中を抱きかかえるような体勢で、シャロさんはガッチリ毛を掴んだ。

 これなら振り落とされる心配はない!


「ガルー、お願いします!」


「では、出発する。ちなみに気絶している男たちの匂いを覚えたから、アジトまでの道案内は不要だ。匂いをたどればわかる。とにかく、シャロは振り落とされぬようにな。全速力で行くぞ!」


「はいっ! 絶対に振り落とされません!」


 山道を外れ、ガルーはクラグラ山脈の樹海の中へ突入した。

 それからアジトまでの道中――シャロさんは見事振り落とされなかった!

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