第13話 次なる目的地は?
この2週間でフラウ村はかなり復興した!
アンデッド討伐のために呼ばれた冒険者さんたちがいろんな作業を手伝ってくれて、ギルドの支部誘致の件もとんとん拍子で話が進んだ。
今はもう壊れた建物をほとんど建て直し、どこにギルドの支部を建てるかを話し合う段階まで進んでいるみたい。
もともと冒険者ギルドの方でも、王国の要所であり住人も仕事も多いフラウ村に支部を置きたいと考えていたようで、それも話がスムーズに進んだ理由だと思う。
支部が設置されるまで村の警護を請け負った冒険者さんたちは、幸運にもかなりの手練れみたい。
私とガルーがいなくなっても、野生のモンスターから村を守ってくれるはずだ!
「ワンちゃんとお姉ちゃん……行っちゃうの……?」
フラウ村を離れる決断を一番揺るがしたのは、今にも泣きだしそうな子どもたち!
たくさん遊んだから、私の中にも離れたくない気持ちはある。
だけど、それでも私は……!
「お姉ちゃんもみんなと離れるのはとっても寂しいです。でも、私はこの世界を自分の目で見て回って、やらなければならないことがあると思ったんです。この村をアンデッドから守ったように、神獣の力を必要としている人がきっとまだどこかにいるから……。平和のために戦った勇者様の娘として、旅を続けようと思います」
子どもたちはきっと、私の言葉のすべてを理解したわけじゃないと思う。
それでも、悲しさを浮かべつつも「行ってらっしゃい!」と言ってくれた。
「いつかまたフラウ村に来ます。その時楽しくワンちゃんと遊べるように、みんな大人たちの言うことを聞いて元気で暮らすんですよ!」
「「「「「はーい!」」」」」
「うん! いいお返事! ……ガルーも何か言ってあげてください!」
さっきからガルーは子どもたちと目を合わせないようにしている。
お別れするのが寂しいって気持ちが、その大きな体から伝わってくる。
「むぅ……そうだな。お前たちと過ごした日々、なかなか楽しかったぞ。また会う日まで達者で暮らすのだ。くれぐれも怪我や病気には気を付けるのだぞ!」
「「「「「はーい!」」」」」
ガルーも最後にはちゃんと目を見て会話してくれた。
「セフィラ様……ぐすっ……忘れ物はございませんか? それとまだ必要なものがあればいくらでもお申し付けください……ひぐっ!」
子どもたちと違ってすでに涙を流しているゴルドンさん……!
これだけ別れを悲しんでくれるのは嬉しいんだけど、圧がすっごく強い!
「だ、大丈夫です! トランクの中は何度も確認しましたから。お土産に貰った水に溶かして牛乳が作れる全粉乳って白い粉に、戦争の時に比べて味が格段に進化した腐りにくいビスケット、それと小ビンに入った各種調味料もちゃんと入れてあります!」
ガルーの足なら野宿せずに街から街へ移動できるけど、非常食ってのは持ってるだけで安心感がある。
道中でお腹を空かせて動けない人に出会う可能性もあるからね。
「次の目的地は……クラグラ山脈のダムドー峠を越えてアスパーナでしたか。アスパーナは王国一番の温泉街ですから、戦いに疲れたガルー様やセフィラ様を必ずや癒してくれることでしょう……!」
ゴルドンさんの言う通り、次なる目的地は温泉街アスパーナ!
目的は当然温泉に入ってほっこり癒されること――それ以上でもそれ以下でもない!
子どもたちには何か大きな使命を抱えて旅立つみたいな雰囲気で話しちゃったけど、今回の旅に関しては私とガルーの休息が目的だ。
ここ1年間はあまり使ってこなかった聖なる魔力を、この1か月くらいでたくさん発動している。
特にガルーを遠くから呼び出した召喚魔法の影響は、まだ体のどこかにほんのり残ってる。
それにシオーネおばさんの家では、あんまりいい扱いを受けてなかったからなぁ……。
この機会にいろんな疲れやら何やらを名湯の力で洗い流してしまおう!
そう私とガルーは考えたわけだ。
「……セフィラ様たちに限って心配はいらないと思いますが、最近ダムドー峠には子どもを狙った人攫いの集団が出るというウワサがあります。しかも山中にアジトを作っているという話まで……。くれぐれもお気を付けください」
ゴルドンさんが周りには聞こえないようにボソボソと教えてくれる。
「人攫いの集団ですか……。そういえば最近、私も王都で人攫いに追いかけられた経験があります。悪党のくせにやけに堂々としていて、周りの目も大して気にしていない様子でしたね。やはり王国騎士団が腐敗して、犯罪の集団も動きやすくなっているのでしょうか?」
「そうなのだと思います、残念ながら……。大人の怠惰で子どもたちが苦しめられるなんて、本来あってはならないことです……!」
ゴルドンさんは怒りをあらわにする。
子どもは大人より小さくて攫いやすい上に高く売れる……。
だから、真っ先に狙われてしまうんだ。
「ねぇ、ガルー……。私とガルーが人攫いのアジトを見つけてぶっ潰せば、救われる子どもたちはたくさんいますよね?」
「人攫いのグループはたくさんあるだろうから、1つアジトを潰したところで誘拐行為の撲滅は出来ないが……少なくともそのグループに攫われていた子どもたちは救われるな。まあ、そもそもダムドー峠に人攫いがいるというのも、ウワサに過ぎないわけだが」
「それは……そうですね」
ガルーとそんな話をしていると、ゴルドンさんが慌てて割って入る。
「も、申し訳ございません……! 不確定な情報をお伝えしてしまって……! 私はただセフィラ様とガルー様が無事次の目的地に到着出来ればと思った次第で、人攫いの捕縛まで考えていただく必要はございません……!」
「いえいえ、謝る必要はありませんよ、ゴルドンさん! 不確定でも頭の片隅に入れておくべき情報だと思いますので……!」
楽しい記憶、美味しい思い出、そして次の目的地へ向けてほんの少しの不安、大きな期待――。
頭の中を駆け巡るいろんな感情……旅立ちの前って感じだ!
「それでは行ってきます! フラウ村のみなさん、ありがとうございました!」
「皆の者……また会おうぞ!」
私とガルーを見送るために、たくさんの人が集まってくれた!
ゆっくりと歩いてくれるガルーの背中の上から、みんなの姿が見えなくなるまでたくさん手を振り続けた。
その後はただ前を見て、次の目的地を目指すのみ!
◇ ◇ ◇
フラウ村を出て数時間後――私たちはクラグラ山脈の山中にいた。
クラグラ山脈はそこまで標高は高くないけど、植物が生い茂っていて薄暗く、視界が確保しにくい。
戦争中に作られた物資運搬用の山道から外れると、一気に遭難の危険性が増す。
逆に言えば、物資運搬用の山道さえ見失わなければそうそう迷わない。
大きな馬車が通ることを前提にした山道は、かなり広い上に地面が踏みならされている。
ガルーの背中の上から見た感じだと、結構歩きやすそうに見えるな。
「山を登るのは簡単で、道を少し外れたら簡単に身を隠せるほど植物が生い茂っている……。悪い人たちが隠れるための場所としては、最適なのかもしれませんね」
「ゴルドンが言っていた人攫いの話か。まあ、そんな奴らがいたら成敗してやるが、この山道を我の素早い足で駆け抜ける間に、そんな奴らに偶然出会うかと言われれば……」
「うーん、そんな偶然ありませんよね。それに誰かを人攫いって断定するには、それこそ犯行の現場を抑えないといけませんし、そんなのどんな確率かって……」
「いやああああああああーーーーーーっ!! 誰か助けてーーーーーーっ!!」
女の人の叫び声……!
ガルーは思わず足を止める。
「まさか……本当に人攫いが出たのか?」
「と、とにかく声のする方に行きましょう……!」
声は山道に沿って進んだ先から聞こえた。
風のように全速力でガルーは駆ける!




