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第10話 小麦は命の源!

 コップに入れてもらった牛乳を一気に飲み干し、改めて食べるパンを探す。

 今度は具材を乗せたり挟んだりしたような調理パンが食べたいかも……!


「……むむっ! あれはたまごサンドイッチ!」


 耳を切り落とした食パンを三角形に切り、間に具材を挟んだ料理サンドイッチ。

 その具材として刻んだゆで卵をマヨネーズやペッパーで味付けした『たまごフィリング』を挟んだ物がたまごサンドイッチだ。


 マヨネーズを作るのに生卵を使用するから新鮮さが命……というか新鮮じゃないと命取り!

 ジャムサンドとかピーナッツバターサンドとかに比べると、食べられる場所はそう多くないちょっと高級志向(しこう)のサンドイッチなんだ。


「セフィラ様、たまごサンドをご所望(しょもう)ですか? どうぞ、ぜひ食べてみてください! 我が村のニワトリの生みたて卵を使ってますので新鮮ですよ!」


 ゴルドンさんが私の前にたまごサンドが乗った皿を持ってきてくれる。


「あ、ありがとうございます! いただきまーす!」


 噛んだ時にたまごフィリングが飛び出さないよう、そーっとパクリッ!

 柔らかふんわりほんのり甘い食パン、気をつけていてもあふれんばかりのたまごフィリングが口の中で混ざり合って……。


「こっ、これは何というか……! パンがとっても美味しいだけじゃなくて、たまごフィリングも今までにないくらい新鮮で濃厚……!? フラウ村は卵の名産地でもあるんですか!?」


 なめらかな口触りの黄身、大きめに切られ心地よい食感が残る白身。

 濃厚でまろやかなのにくどくなくて、ほんのりとした酸味が爽やかなマヨネーズ。

 そして、全体をピリッと引き締めるペッパーの辛味!


 パンと具材、どちらも同じくらい強い存在感がある……。

 それはつまり、使われているいる卵の品質がフラウ村の小麦にも劣らないということ!


「おおっ、流石はセフィラ様! 違いがわかる良い舌をお持ちです! フラウ村ではニワトリのエサにも小麦を利用していますから、そのニワトリが産んだ卵は栄養豊富でとっても美味しいわけです!」


「なるほど……!」


 王国最高品質の小麦を食べて育ったニワトリが生んだ卵なのだから、当然高品質ってことだ!


「小麦を生きる(かて)にしているのは、何も人間だけではありません。さっき述べたニワトリはもちろんのこと、村の家畜にはほぼすべて栄養豊富な小麦を与えています」


「だから、さっき飲んだ牛乳も美味しかったわけですね。とっても濃いんですけど、後味がスッキリしていて飲みやすかったです」


 王国全体の食事を支える広い広い小麦畑――。

 ただ単にその小麦を食べるだけじゃなくって、家畜のエサにも使えることを考えると、フラウ村の小麦畑が使えなくなった時の影響は大きすぎる……!


 戦争中に魔人軍の隠密部隊が攻撃目標にするのも納得だ。

 もしさっき壊した魔造結晶(マゾクリスタル)が戦争中に起動していたら、前線にいた私たちは飢えて死んでいたかもしれない……。


「……セフィラ様、ガルー様。あなたたちからすれば、私は不愉快な存在なのではありませんか?」


「はい……?」


 突然ゴルドンさんがそんなことを言う。

 私とガルーは意味がわからず、食べる手を止めて顔を見合わせる。


「応接室でポロリとこぼしましたが、私はあの戦争――魔人との境界戦争で親から受け継いだ数々のコネを使って徴兵を逃れました。それは若くして前線にいたセフィラ様や、人のためにわざわざ戦ってくださったガルー様にとって不愉快な行いなのではと……」


「なんだ、そんなことか」


 ガルーは心底どうでもよさそうに言ってのけた。

 その反応に驚くゴルドンさん。

 続けてガルーが穏やかな口調で語りかける。


「望まずに戦っている者からすれば、確かにそなたの行動は許せんものだろう。だが、我とセフィラ様は望んであの戦いに身を投じた。他人がどこでどのような行動をしていようと、我らの覚悟は変わらなかっただろう。それにそなたはあくまでも武器を持って前線で戦わなかっただけで、あの戦争の中で確かに戦っていたはずだ」


「私が……戦っていた?」


「ずっと小麦農家一筋と言っていただろう? 戦争中ずっと家にこもっていたわけではなく、日々小麦の世話をし、前線へと食糧を送っていたはずだ」


「ええ、それはその通りです……。戦前も、戦中も、戦後も……ずっと小麦を」


「神獣とて食う物がなくなれば死ぬ。前線で共に戦った勇敢な戦士たちも、飢えれば子どもにすら勝てぬだろう。それは敵兵も同じことだ。つまり、そなたが食べ物を作り続けてくれたから、我らは飢え死にせずに今ここにいるということだ。それはそなたが我らと共に戦ってくれたと言って、過言ではないだろう」


 食べ物がなければ死ぬ。

 だから食べ物を作ってくれる人たちは、私たち前線の兵士の命を守るために戦ってくれた仲間だと、ガルーは言っているんだ。

 もちろん、私も同意見!


「それは……理屈ではそうなのかもしれませんが、実際は……!」


「少なくとも我らがいた戦場で食べ物を作ったり届けたりする者を馬鹿にする者は1人もいなかったし、馬鹿にしようものなら味方であっても許されはしなかったと思うがな。それほどまでにありがたかったのだ、食べ物があるということは」


 そう言ってガルーはまた子どもたちからパンを食べさせてもらい、嬉しそうにしっぽを振った。


「うぅ、うううっ……ありがとうございます……! 神獣様……ガルー様……!」


 どこか申し訳なさをずっと抱え込んでいたんだと思う。

 それから解放されたゴルドンさんは涙を流し、ガルーに感謝の言葉を伝えた。


「こちらこそ感謝するぞ、ゴルドン。そなたと村の者たちが作り続けてきた小麦は……美味いっ!」


「ほんっとうに美味しいです! ごちそういただき、ありがとうございます!」 


 ガルーと私もみんなに感謝を伝える。

 だってだって、本当にどのパンも美味しいんだもんっ!

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