酒池肉林・婚約破棄
「毎日、毎日、練習するんやで」
「はい、精霊様!秘技、ドロップハンカチーフ!」
「技名は言ったらアカンねん!」
「はい、先生!」
わざと殿方の前でハンカチを落とす技だ。
私はリーナ、お腹をすかせて森に行ったら、尻尾が9本ある白ギツネが倒れていた。
お腹がすいたのだろう。ワナで捕まえたウサギを分けてあげたら、言葉を話し出した。
『殺生石がな。割れたってニュースあったやん?あれでね。異世界転生したねん』
意味の分からない事を言う。
今は、殿方の心を掴む練習をしている。御礼に教えてくれるそうだ。
何故なら、私の婚約者は義妹に夢中だからだ。
婚約者、ヨーゼフ様の心を取り戻さなければならない。
来る日も、来る日も、ハンカチ落としを練習した。
「まあ、まあ、やな」
白ギツネは岩の上に寝っこ転びながら、そう言ってくれた。
「次は殿方の心を掴む言葉や。引く言葉や『今日、お母様が家にいるの・・・』いうてみ?」
「申し訳ありません。実の母はいません。継母がいますが仲は良くありません」
「まあ、ええやろう。ハンカチ落とし一本や」
「はい!」
「ヨーゼフの前でハンカチを落としぃ」
「はい、先生!」
☆☆☆バドラー伯爵家
今日もお茶会なのに、義妹のメロリーと一緒にいる。
これで、本当に気を引けるかしら。
「キャ、ヨーゼフ様、お義姉様だわ。私、怖い」
「ウン、僕が守るよ!」
私が虐められているのに、蜂蜜色の金髪で義妹は可愛い。私は茶髪で平凡な容姿だ。殿方は可愛い子の方の意見を聞くのね。悲しいわ。でも、それも今日までよ。
(ドロップハンカチーフ!)
と心の中で叫んだ。
自然にハンカチが落ちた。私は体捌きだけでハンカチを落とすまで腕があがったわ。
しかし。
「メロリー!大丈夫か?」
「まあ、お義姉様、怖いわ。脅かそうとしてハンカチを落としたのね。性格が悪いわ」
全く、無視された。
そんな。毎日、ウサギを献上しているのに!
と思ったら。
黒髪、色鮮やかな東方の服を来た女性がしゃなりしゃなりとやってきたわ。大きな扇をもっている。
切れ目に、淡いピンク色の唇に、真っ黒な髪、美人だわ。
「・・・どなた様ですか?あの、僕はヨーゼフ・リリキー、伯爵の親戚です。エスコートさせて下さい!」
「ヨーゼフ!怪しいわ。放り出して!」
「・・・・・・・・」
女は何も話さない。
しかし、外国の貴人が迷い込んだと言う事で、うちで、お世話をすることになった。
父は目の色を変えている。義母は怒っているが、意に介さない。
「外国の姫よ!どうぞ。我家にご滞在下さい」
「・・・・・・・・・・」
それから、父とヨーゼフ様は、その女に構いまくるようになった。
明らかに口説こうとしている。
女は話さない。
でも、いつも最上級の食事、ドレスを与えられた。
まるで入れ替わったように森に行っても、狐の精霊はいない。
どうしたものか。私は屋敷にいるようになった。
あまり屋敷にいたくない。
ガチャン!
お皿を割ってしまったわ。
「リーナ!また、粗相をして、皿も安くはないんだぞ!」
「申し訳ございません!」
ヨーゼフ様も何故か屋敷に滞在するようになった。
「そうだ。リーナ、婚約者として恥ずかしいぞ!これは婚約を解消しなければな!」
すると、東方の女が珍しく椅子から立ち。私の手を引く。
そして、悲しそうな顔をした。
父は血相を変えた。
「リーナを気に入ったのですか?専属メイドにします」
それから、私は女の専属のメイドになったが、
彼女と同じ食事を与えられ、ドレスも新調された。
彼女は笑わない。
しかし、私が裏庭でドロップハンカチーフの練習をしたときに少し笑った。
父とヨーゼフの喜びは尋常でなかった。
「リーナ!もっとやれ!」
「美の女神様は笑うとやはり良い」
だが、私が同じハンカチで行うとやはり飽きるようだ。
私は布と色とりどりの糸を渡されて、ハンカチに刺繍をするように父から命令された。
「貴方!もういい加減にして下さい!」
「そうよ。ヨーゼフ様、お義姉様から虐められたわ!」
義母と義妹が抗議するが、
「うっせー!こちらは外国の高貴な姫だ!」
「そうだ。外交問題になったらどうする!」
「でも、外国で姫が行方不明になった情報はないわ!」
「そうよ。私もお母様も、もう半年もドレス新調してないわ。お義姉様は毎週じゃない!」
「「うっせー!」」
「「ヒィ」」
半年前では考えられない状況だわ。
いつも、私を抜かした家族4人は仲良しだった。
それから、私は刺繍を練習し、ドロップハンカチーフも披露した。
森に行ったが、やはり精霊様はいない。
「・・・・・・」
珍しく女が外出したいと手振りで催促した。
私と一緒に街に出た。
護衛騎士も一緒だが、何故か、この屋敷の殿方はこの女の意思が分かるように行動する。
☆☆☆城下町
「・・・・・・・・・」
「え、ここでドロップハンカチーフをしろと?」
コクッ!
わずかに頷いた。
こんな人通りが多い中で?
(ドロップハンカチーフ!)
自然と落とした。
ヒュー!
風が吹いたわ。
ハンカチが飛ぶ。
私はハンカチを追いかけた。
すると、前方から来た紳士がハンカチを手に取った。
「ご令嬢、ハンカチを落とされませんでしたか?」
「はい、これは私のです」
ジィーと紳士はハンカチを見ている。
ボツリとつぶやいたわ。
「ご令嬢・・惚れた」
「えっ」
「・・・・こんな丁寧に刺繍が出来るなんて、常々、母上が言っていた。刺繍でその人の性格が分かる。このきめ細やかさ。さぞ、家政も素晴らしいのだろう。失礼だが、どちらのご令嬢ですか?」
「いえ、この地のハドラー家の娘でございます」
「何と!」
女のいた方角をみたら既にいなかった。
「う~む。実は、私はハドラー家の寄親、ヴァーグナー侯爵家が第3子、ハインリッヒだ・・・父上からハドラー家の状況を探りに行くように言われたのだ」
「まあ」
「うむ・・・メイドを呼ぼう。なら、安心出来るであろう。この先の公園があった。来て欲しい。話を聞きたい」
「でも・・・いなくなったら」
家族は心配するかしら・・・・
話をしたら、怪異の仕業かもしれないからと、私は侯爵家に避難をするように言われたわ。
お姉様がいるらしい。
金髪碧眼、若干、おっとりした性格の美人だわ。
人族の美人を見て分かった。
あの女を見ていたので、感覚が麻痺していた。ハインリッヒ様のお姉様は人の美しさで、あの黒髪の女は、人の域を超えているわね。
そして、ヴァーグナー家も美の感覚が麻痺している。ハインリッヒ様も美男子だ。ご家族は皆美男美女揃いで感覚が麻痺し。顔でない所を重要視するようになったそうだ。
「まあ、ハインリッヒ、こんな可愛いお嬢様を連れて来て、刺繍美人ね。ドレスもきっちりしているわね」
「姉上、頼むよ。彼女、虐待に近い放置をされて、令嬢教育を受けていなかった」
「分かったわ」
それから、私は侯爵家の預かりになった。
父とヨーゼフはそれから・・・・
数年後、報告が来た。
☆☆☆ハドラー家
「「「「キャハハハハハハ!」」」
「待て~!」
庭の水を抜き全てワインでひたして・・・
木に干し肉を吊し。男女が遊び回っていたらしい。
その様子を見て女は笑っていたと聞いたわ。
財政は破綻して、侯爵様の兵が屋敷に突入したときには女はいなかったそうだ。
ヨーゼフ様は裸で庭を走っていてとっくに廃嫡。
父は、ワインの池の近くで酔っ払う毎日だったとか。
義母と義妹も裸で庭を走り回っていたとか。
もう、解消ではない。婚約は破棄になった。
破棄の手続きが終わってから、私は、ハインリッヒ様から婚約を申し込まれた。
「でも、私など・・」
「頼む!一緒にハドラー領を立て直そう」
「はい」
その時。
「コ~~ン!」
狐の精霊様の声が聞こえた。
だいたい、分かっていた。精霊様があの女だ。
多分、森に行ったらいるだろう。お供え物をもっていこうと思う今日この頃だ。
最後までお読み頂き有難うございました。