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花粉症  作者: 木花
3/4

軽いあなた、小さな支え

 初めてのプレゼント選びという大きな冒険から僕は帰ってきた。

 お母さんにはこの短い時間にあんなことやこんなことがあったんだと、話したい気持ちで胸がいっぱいだった。

「お母さんお母さん!ちゃんと買えたよ!」

「それはすごいじゃない!私を頼らずにできるなんてさすがね。どんな物をプレゼントするの?」

「白いストールと紺色のニット帽にリップクリーム!」

「よく1人で選べたわね。」

 ほうほうと感心するお母さんに僕は首を横に振った。

「違うんだ。親切な店員さんがいてくれて、その店員さんがいろんなアドバイスをくれたの!」

「よく店員さんに声かけれたわね。」

「それはお母さんの真似をしたんだー。」

「私の?」

「うん!探しても見つからない時はそうしてたから勇気だして声かけてみたの!」

「すごく偉いじゃない!彩ちゃんも幸せ者だね。さて、そろそろ眠くなってきたから帰ろっか。」

「はーい。」

 無事プレゼントを買うことが出来て、数日の時が流れた。

 嬉しさの余り、プレゼントのことを言いそうになったり、褒めてもらいたくて勇気を出して買い物したことを話したい気持ちを頑張って僕は抑えていた。

 そして・・・3月14日になった。

 はやる気持ちを抑えて図書館へ向かった。

 いつもの時間、いつも一緒に座る場所へと。

 そしてそこにはいつもの彩お姉ちゃんがいた。

 僕のことを見つけたのか手を振って合図もしてくれた。今日は宿題だけじゃない特別な日。けれどドキドキした気持ちが先行していつ渡していいのかわからかった。

 それからいつも通り宿題やわからないところを聞きながら勉強していると帰る時間になっていた。渡す機会がないまま近くの公園まで来ていた。

 焦る僕が口を開こうとした時、先に話したのは彩お姉ちゃんだった。

「よし、この時間帯は人がいなくて助かるよ。図書館じゃちょっと人が多すぎてさ。」

 全くなんのことを話しているのかわからなかった。

「どうしたの、彩お姉ちゃん?」

「先月のバレンタインにチョコを渡せてなかったからさ!ホワイトデーの今日に渡そうと思ってね。」

「これを・・・僕に為に?」

「そうだよ!あそこのベンチに行こっ。そこで食べてもいいし、お家でゆっくり食べるてもいいよ。」

「やったー!今食べたい!」

 可愛い箱に梱包されていて、箱を破かない用に慎重に開けていった。

 そこには可愛らしいハートと星の形をしたチョコレートとハガキを半分に折った様な大きさの便箋が1枚入っていた。

「彩お姉ちゃんこれは?」

「あー、それは家で読んで。チョコは今食べていいから。」

「うん、わかった。それじゃあチョコレートいただきます。」

 星の形をしたチョコレートはカカオの香りが広がり甘くて美味しかった。僕に配慮したのか苦味が抑えられていて、すぐに口の中からなくなっていった。

 ハートの形をしたチョコレートはホワイトチョコだった。あっさりした甘さでこちらも食べやすくて美味しかった。

「彩お姉ちゃん!美味しい!美味しいよ!」

 ほっとした表情をした彩お姉ちゃんがそこにはいた。

「よかった、初めての手作りだったからどうしようかと思ったけど。今の笑顔を見れたから嬉しいな。お母さんが言ってたことはこういうことだったんだ。」

 なに感心した様子だった。

 僕は今しかないと思い、カバンから買ってきたプレゼントを出した。

「彩お姉ちゃん!その・・・誕生日おめでとう。」

 呆気に取られて固まる彩お姉ちゃん、勇気を出して取り出したもののこの後どうしたらいいのか分からず固まった僕、静まり返った公園に風が木々のコーラスを奏でていき、2人の頬も優しく撫でて通り過ぎていった。

「え、え、え、どうしたの!?誕生日プレゼントって・・・私話してたっけ?いいの?もらっていいの?」

「実はお母さんから聞いてその日に買ってきたんだ!」

「雅くん・・・ありがとう・・・。これじゃあもっと、もっと・・・。」

 声が段々ろ小さくなっていき、最後の方は聞こえなかった。

 いつも明るく振る舞っている彩お姉ちゃんだったが、肩を震わせて泣いているのがマスク越しでもわかってしまった。

 喜んでくれると思っていた僕は予想と違う出来事にどうしていいのかわからず戸惑っていた。

「彩お姉ちゃん大丈夫?どこか具合悪くなったの?」

「ううん、違う、違うの。嬉しい過ぎてさ。誕生日なんて忘れてて、雅くんにチョコを渡して喜んでくれる姿を見れて今日はそれだけで幸せだったのに。雅くんありがとう。」

 そう言い終わると同時に彩お姉ちゃんが僕を優しく抱きしめてくれた。

 小さい頃の記憶にお母さんがたくさん抱きしめてくれて安心感があったのを覚えている。だけど、彩お姉ちゃんのは全然違っていた。喜んでる彩お姉ちゃん見ることがこんなに心が弾む感覚は今までにない感覚だった。

「彩お姉ちゃん好き、大好きです。」

 これが好き。お母さんや友達に向ける好きとは違う、とても複雑で暖かい感情。

 その感情を理解する前に僕の口から自然とそれが漏れていた。

「雅くん・・・私、私も好きだよ。」

「僕はまだ小さいけど頑張る、早く彩お姉ちゃんと一緒にいられるように。」

「ありがとう、雅くん。私もこれから頑張るね。」

 図書館を出る時間も遅かったため、世界が夜の衣へと着替えようとしていた。

「やっと落ち着いたし、もう暗くなるから今日は帰ろっか。」

「うん。彩お姉ちゃん、途中まで手繋いで帰りたい。」

「いいよ。ほら。」

 手を繋ぎ僕たちは歩き始めた。

「プレゼント気に入ってくれると嬉しいな。」

「暗いから開けれなかったけど、頑張って選んでくれたんでしょ?絶対気にいるよ!一生の宝物にする。明日も図書館に行くでしょ?その時に着ていくね。」

「うん!約束だよ!」

 先に僕の家に着き、そこで別れることになった。

「彩お姉ちゃんまた明日ね。」

「うん、ちょっと外にいて冷えちゃったから風邪ひかないように暖かくしてから寝るんだよ。それじゃあまた明日!」

 彩お姉ちゃんが見えなくなるまで見送って僕はお家に入っていった。

 お母さんにはプレゼントを渡して喜んだことや、遅めもバレンタインチョコをもらって嬉しかったことなど話をした。それを聞いてお母さんも一緒に喜んでくれた。

「これからが楽しみだね。早く身長を伸ばす為にもたくさんご飯食べなきゃね!」

「うん!僕、勉強もなんでも頑張る!」

 特別な日になった3月14日が終わっていった。

 学校に行き、少しそわそわしながら過ごしていた。先生からは「なにかいいことがあったの?」と聞かれることもあった。素直にいい事はあったと言ったが詳しいことははぐらかして答え、学校の時間を過ごしていた。

 学校のホームルームも終わり、軽い足取りで図書館へ向かっていった。

 中に入ると彩お姉ちゃんは既に勉強していたが、こちらに気づくと勉強そっちのけで僕の方へと歩いてきた。笑顔を絶やさない彩お姉ちゃんだったが、少し顔色が悪く感じた。

「雅くんこれいいよ!ニット帽はピッタリだし、ストールなんて厚さがちょうどよくて、肩から羽織ってもいいしマフラーにもなるから最高!あと・・・これ!この可愛い色付きのリップクリーム!近所のドラックストアには探しても見つからかなったのに・・・。私すごく嬉しいよ、ありがとう。」

「こんなに喜んでもらえて僕もすごく嬉しい!勇気だしてよかった。」

「どんなことしたのか宿題が終わったら聞かせてね。ほらいつものテーブルに行こー。」

 出された手を握り、歩き出した。その手は少し冷たくてやっぱり具合が悪いんじゃないのかと心の中で僕は思っていた。

 宿題も終わり図書館を後にして、昨日の公園へと足を運んだ。その道中で勇気を出して店員さんに声をかけたことや、アドバイスをもらいながらも最終的に僕が選んだことも話していると公園に着いていた。

「彩お姉ちゃん、、今日はマスクしてないの?」

「うん。こんなに可愛いリップクリームをもらったんだもの。塗って雅くんに見せようと思ってね。」

 色白の彩お姉ちゃんに薄い桜色のリップクリームはとても似合ってい、いつもと雰囲気が変わって見えた。

「そうだったんだ!薄い桜色だけど使うだけで雰囲気変わるね。」

「そうだね、色彩ってちゃんと学んだことないけどすごいよね。」

「うん。もっと彩お姉ちゃんに似合う色を探したいから僕勉強するよ!」

「えへへー、やったー!その時は私も教えてね、せんせ・・・い・・・。」

 それは急だった、彩お姉ちゃんが息切れと同時に胸を抑えて苦しみだした。

「彩お姉ちゃん!どうしたの!顔色が悪いと思ってたけど無理して僕に付き合わせちゃった・・・?」

 大丈夫だよ、苦しみながら作られる笑顔と声にならない声で僕を優しく静止した。僕には聞こえない小さく掠れた声で何かを言っていた。

「なんで今なのよ。もっと、もっと雅くんとの時間を過ごしたいのに。なんで私ばっかり・・・。」

「彩お姉ちゃん動ける?家まで歩ける?無理ならお母さんか真琴さんを呼んでくる!」

「だ、大丈夫だよ。でも今日はもう帰ろうかな。家まで手を繋いで欲しいな。」

「うん!少しでも辛くなったら休むから教えてね。」

「ありがとう。こ、この前うちに泊まりにきた時にさ。ママと一緒に可愛くて小さな彼氏ちゃんって言ったの覚えてる?」

「うん、覚えてるよ。」

「ん・・・、あれは間違いだったよ。私よりもまだ身長は小さいけど、私を支えてくれる立派でかっこいい彼氏くんに訂正しなきゃ・・・。」

「彩お姉ちゃん息切れ酷くなってるよ、ちょっと休もう?やっぱりお母さんたちに声かけてくる?」

「や、だ。嫌なの。やっと自分に正直になれて雅くんと一緒にいれるんだもの。」

「わかった、僕頑張るよ。でも歩けないくらい辛くなったら絶対に教えてね。」

「え、えへへー、やった。」

 彩お姉ちゃんの顔色の悪さはやっぱり気のせいじゃなかった。それもとても酷いようだった。

 お母さんや真琴さんは知ってるのかな、頭の中でそれだけがぐるぐる回り、いつもの倍以上の時間がかかって彩お姉ちゃんの家までなんとか辿りついた。

「彩お姉ちゃん、家の鍵出せる?」

「ちょっと・・・待ってね。」

 力のない手でカバンを漁ってると、僕らの帰宅に気づいたらのか家の中にいた真琴さんが扉を開けてくれた。

「おかえりなさい、あら雅くん・・・彩!冬仁さん!彩が彩・・・!」

 力なく僕に寄りかかっている彩を見てパニックになりかけている真琴さんと声を聞いて奥から冬仁さんが急いで僕らのところへは走ってきた。

「彩・・・!すぐに横になって休ませないと。雅くん、私が部屋へ運ぶから真琴さんとキッチンで待ってていなさい。」

「パパ!待って・・・、今日だけ、お願い。」

「彩、こんな時に。」

「冬仁さん僕なら大丈夫です。それよりお母さんに連絡したいんですけど、電話借りてもいいですか?」

 冬仁さんは少し沈黙し、すぐに話してくれた。

「わかった。真琴さん、雅くんのお母さん・・・栞里さんに電話をしてください。先に部屋に運んでおくから電話が終わったらしばらく彩の側にいてあげてもらえないかな。」

「パパありがとう・・・。」

「冬仁さんありがとうございます。」

 真琴さんはすぐにお母さんに連絡をとってくれて、僕に代わってくれた。

「お母さん、今彩お姉ちゃんのお家にいるんだけど、帰るの遅くなってもいいかな。」

「・・・。電話越しでしか真琴さんの状態がわからないけど、彩ちゃんになにかあったんだよね。いいよ、明日は体調不良で学校に休みと連絡いれるから

 雅にやりたい様にしなさい。」

「お母さんありがとう。」

「その代わり、お着替えとか寝る準備の荷物持って行くから雅の顔だけ見せてね。」

「うん、わかった。」

「それじゃあ真琴さんに代わって。」

「真琴さん、お母さんがまだ話すことがあるみたいです。」

「雅くんありがとう。」

 真琴さんの目尻には涙が溜まっているのがわかった。

 電話が終わってすぐに彩お姉ちゃんの部屋へ向かった。そこには冬仁さんが待っていた。

「彩お姉ちゃんは・・・?」

「「横になって雅くんを待ってるよ。彩が眠ったら話したいことがあるから声かけてもらえるかな?あ」

「わかりました。彩お姉ちゃん入るね。」

 なんとか着替えを終えて横になってる彩お姉ちゃんがそこにいた。

 僕が入ってくると、辛そうな表情をして起き上がって僕に微笑んできた。

「彩お姉ちゃん!横になっててよ。」

「そんなことしてたら雅くんに失礼じゃない。それに薬も飲んだからちょっとずつ良くなるなから大丈夫だよ。眠たくもなっちゃうけどね。」

「彩お姉ちゃん・・・手貸して。」

「んー?何するの?」

「茉莉花でもやってたおまじないだよ。辛そうな彩お姉ちゃんに僕の元気をあげるんだ。」

 冷えた手を僕に手で暖める様に包み込んだ。

「それじゃあ雅くんが元気じゃなくなっちゃうよ。あはは、でも手を解く元気ないや。雅くんの手暖かい。」

「僕・・・無理させ過ぎちゃったかな?」

「それは違うよ。私がそうしたかったの。初めてお喋りした時からずっと私が私にワガママを通してただけ。だから雅くんはなにも悪くないよ。」

 軽く首を横に振り彩お姉ちゃんは力なくそう言った。

「彩お姉ちゃんは病気なの?どうすれば治る?」

「そうだね、薬飲んで寝てたら良くなると思うよ。だから大丈夫、明日また図書館でお勉強しよ。約束。」

 彩お姉ちゃんはそう言ってたけど、僕は心のどこかで本当は重い病気で彩お姉ちゃんが僕のために嘘をついてるのがどこかわかってしまった。

「うん!約束だからね。」

「あ、やばい。眠くなってきちゃった。雅くん、ストールとニット帽とってくれるかな?

「はい、どうぞ。」

「えへへー、これで少しは雅くんの温もりを感じながら眠れそうだよ。お母さんが心配するからもう帰る?」

「まだいる。せめてお母さんが来るまでは側にいるよ。だから安心して。」

「ほ、んとー?じゃあ眠るまで手を握っちゃおうっと。雅くん大好き、ずっとずっと大好きだよ。」

「うん、僕のずっと大好きだよ。」

「もう限界みたい、寝るね。また・・・あ、したね。おやすみ、雅くん。」

「彩お姉ちゃんおやすみ。」

 言い終えると同時に手から力が抜けて眠りに入っていった。

「彩お姉ちゃん・・・。」

 ずっと我慢していた感情が少しずつ溢れていき、ついに僕は溜まっていた物が溢れ出してきた。

「雅くん大丈夫?」

「・・・。」

 俯いたまま首を横に振った。

「雅くんのお母さんが今着いたみたいだから下に行こう。」

 心配そうな顔をしたお母さんがいた。

「お母さん・・・。彩お姉ちゃんとっても苦しそうだった。」

「そっか。雅はどうしたい?」

「側にいたい。でも今日はもう何も出来ないから帰る。」

「わかったわ。ちょっと玄関で待ってて、冬仁さんと真琴さんと3人で話してくるとよ。」

「わかった。」

「2人とも少しいいかしら。」

 お母さんたちがキッチンに消えていった。

 話し声が聞こえてきてたが、彩お姉ちゃんとの思い出が頭の中でいっぱいになった僕の耳に届くことはなかった。

「いつからあの状況に?」

「今日の夕方からみたい。こんな急に悪化するなんて。」

「栞里さん、私たちどうしたらよかったのかしら・・・。」

「感冒だけでも今の彩ちゃんは辛いからそれかしら。真琴さん、私たちは職業柄こう言った人たちを見てきたはずよ。大変だと思うけどいつも通りに振る舞ってあげることが一番よ。冬仁さんはいつでも動けるようにしてあげて。」

「わかりました。雅くんはどうする?彩も雅くんも側にいたいと言っていたが。」

「栞里さん・・・。2人を明日だけ一緒にいさせてもらえないかしら。」

「私の方は問題ないわ。」

「ありがとうございます。雅くんには私の方から伝えてくるから真琴さんと栞里さんは今後の対応を話しててもらえますか?」

 そう言いながら玄関で待つ僕の方へと向かってきた。

 そして目線を僕の高さに揃えて話しかけてきた。

「今日はいろんなことがあって大変だったね。雅くんは彩のことは好きかい?」

 静かに首を縦に振った

「よかった。大切な娘のことを好きでいてくれる男の子がいてくれて私は嬉しく思うよ。一緒にいたいと言う彩の願いを叶えたいと持っているんだ・・・雅くんさえよかったら明日も来てくれないかな?彩のあんな姿を見るのは辛いと思うけれど。」

「そのつもりです。」

「ありがとう、本当にありがとう。」

 冬仁さんの声はいつも温かく優しい声をしているが、少し震えている様に感じた。

「あとこれを渡しておくよ。」

 そういうと冬仁さんはスマホを渡してくれた。

「これ冬仁さんのスマホですか?」

「予備で持ってたスマホなんだ。明日、彩が目覚めたら連絡するから持っていてくれないかな。」

「分かりました、ありがとうございます。」

「話はこれくらいにして、栞里さんを呼んでくるよ。」

 奥からお母さんが出てきた、その時に少しだけ奥の2人が見えた。そこには冬仁さんの方へ寄りかかる真琴さんの姿があった。

 帰りながらお母さんと話した。

 楽しかった思い出も大切な人が苦しそうな姿がこんなに辛いことも。そして、彩お姉ちゃんが好きだと言うことも。

 家に着いてからの記憶がなく、朝になっていた。バスタオルを顔の近くで握り締めていたことから、泣き疲れて眠ったんだと僕は思った。

 台所に行くとお母さんの姿はなく、朝食と一緒に手紙が添えてあったのを見つけた。

「ご飯食べたら少しは元気になるからしっかり食べてね。彩お姉ちゃんのところに行くならちゃんと前を向いていきなさい。」

 あまり箸が進まなかった。それでもお母さんなりの励ましなんだと思い朝食を食べ進めていった。

 朝食を終え、お風呂に入り準備をしていると冬仁さんが渡してくれたスマホからメッセージが届いた。


「彩が起きたからいつでも来ていいよ。」

 メッセージ読んだ僕は喜びと不安が同時に押し寄せてくる感じがした。

 それでも僕は行かなきゃと奮い立ち、準備もそこそこにして彩お姉ちゃんの家に向かった。

 僕の気持ちとは裏腹に青空が僕を見守っていた。

 あれこれ考えて歩いていると彩お姉ちゃんの家に着いていた。

 深呼吸をしてチャイムを鳴らした。

 待っていると扉が開き、そこには昨日より元気になっていた彩お姉ちゃんが顔を覗かせた。

「雅くんおはよう。学校もあるはずなのにごめんね。」

「ううん、彩お姉ちゃんの力になりたいから大丈夫だよ。それより体調は大丈夫?」

「うん!あの薬が効いてくれてたみたいだからだいぶ良くなったよ。まだ外は寒いし私の部屋に行こっか。」

「うん。お邪魔します。」

 廊下を歩いているとキッチンから真琴さんと冬仁さんがいた。

 真琴さんの目は少しだけ赤く腫れていたが、この前と同じ調子で挨拶をしてくれた。冬仁さんもあの優しい声で話しかけてくれた。

「雅くんおはよう、朝ごはんは食べたかしら?まだなら後で部屋に持って行くわね。」

「おはよう。今日は私も真琴さんも1階にいるけど、我が家だと思って過ごしていいからね。」

「真琴さん冬仁さん、ありがとうございます!」

「ママー、私お腹空いたからご飯食べたい。」

「食欲が出たのね。それなら2人分作って持って行くわね。」

「ママありがとう!雅くん行こっ。」

 彩お姉ちゃんに手を引かれて部屋へ向かった。

 いつもの様に勉強道具をテーブルに広げて、彩お姉ちゃんとお喋りしながら勉強をすることにした。

「昨日はごめんね、雅くん。」

「大丈夫だよ。たまにあんなに苦しくなるの?」

「たまにかなぁ。ここ最近は安定していたんだけど・・・急に来ちゃった。」

「本当に大丈夫?今日も無理してない?」

「・・・ちょっとだけ辛いかな。」

「じゃあ横になってないとダメだよ。」

「ううん、違うの。起きてても横になってても辛さは変わらないから。」

 そう言いながら笑顔を見せてくれたが、それを見た瞬間、胸を締め付けられるような苦しみが僕を襲った。

 弱気になりかけた僕だったが、お母さんの言葉が僕を支えてくれた。

「んーじゃあどうしたらいいかな。」

 そう考えていると真琴さんが食事を運んできてくれた。

「あら、勉強中だったかしら。彩の机に置いておくから食べてね。」

 野菜スープの入ったマグカップに目玉焼きにベーコンとトースト。軽く食べれる朝ごはんには丁度いい料理を運んでくれた。

「真琴さんありがとうございます。とっても美味しそうで楽しみです。」

「おかわりも作れるから声かけてね。」

 それだけ言うと真琴さんは下に降りていった。

「テーブルの上片付けるからそれから一緒に食べよ、彩お姉ちゃん。」

「うん、ありがとう。」

 片付けはすぐに終わり、2人で真琴さんの料理を食べることにした。

 家でも食べてきたが、お母さんの料理もそこまで多くはなかったので食べることができた。

 ふと彩お姉ちゃんの方をみると、少しずつ食べて、スープだけ飲んでいた。

「彩お姉ちゃん、さっきお腹空いてるって・・・」

「・・・、お母さんを心配させたくなかったの。よかったら、私の分も食べてくれない?私は野菜スープだけでいいから。」

「わかった。でも無理はしないでね、彩お姉ちゃん。」

 辛い体でも両親を心配する彩お姉ちゃんを見てなんとも言えない感情が湧き、自然と僕は立ち上がり彩お姉ちゃんを抱きしめていた。

「ちょっとぉ・・・びっくりするじゃないのさ。」

「や、やめないよ!これが一番効くってことを僕は知ってるもん。」

「そうだね。大好きな雅くんのこれが一番落ち着く。」

「今はこれしか僕には出来ないけど、たくさん勉強して彩お姉ちゃんの病気を治すよ。」

「雅くん・・・ありがとう。私も病気に負けないyいうに頑張るね。」

「だから今はゆっくり休んで、ご飯も少しずつでいいから食べてね。僕との約束だよ。」

「わかった。将来のお医者さんの言ううことは聞かないとね。」

「それじゃあ僕は勉強に戻るね。」

「うん!私は少し眠ろうかな。今日はずっと家にいるの?」

「流石に明日は学校に行くから夕方には帰っちゃうけど、それ以外はずっといるよ。」

「えへへへ、嬉しい。それじゃおやすみさない。」

「彩お姉ちゃんおやすみ。」

 少し安心したのか彩お姉ちゃんは眠りについた。

 これ以上は食べれないと残した料理を食べながら勉強を進めていた。

 食べ終わってから食器類を下に持って行くと真琴さんと冬仁さんが2人で迎えてくれた。

「ごちそうさまです。とてもおいしかったです。」

「それはよかったわ。私はこれを洗ってお昼ご飯の準備に入るわね。」

「雅くん、彩は今どうしてる?」

「今は眠っています。ただ・・・」

「ただ?」

「あんまり食事を取ろうとしないです、それにまだ体調が悪いみたいです。」

「そうか・・・。辛い役割を押し付けたみたいですまない。」

「僕は大丈夫です。それより少しでも彩お姉ちゃんに苦しさを忘れさせてあげたいです。」

「それは私も同じ気持ちです。すまないが彩を頼む。」

「分かりました、頑張ります。」

 そう返事をして部屋に帰っていった。

「雅くんおかえり、食器ありがとー。」

「美味しい料理を食べさせてもらえたんだもん、食器の片付けくらいやらなきゃ。」

「偉いんだらー。勉強中なにかわからないとこあったりした?」

「それならここなんだけど、解き方見てもわからなくてさ。」

「これって中学生の範囲じゃなかったかな?」これはねー。」

 少し元気なった彩お姉ちゃんと一緒に勉強を再開した。あっという間に時間は過ぎていき、夕方になっていた。

「もうこんな時間だ。彩お姉ちゃんと勉強してると時間過ぎるのが早いよ。」

「私の方もだいぶ体のこと忘れてた。晩御飯はどうするの?」

「お昼も食べちゃったから・・・迷惑じゃなければ食べたい!」

「そう言ってくれるとママも喜ぶと思う!それじゃあママところへ伝えに行かなくちゃ。」

「それなら僕が行くよ。」

「だーめ。今日ずっとベットの上で全く動いてから体が鈍っちゃうよ。だから私が行くの。」

 そう言って上体を起こし歩こうとするもバランスを崩してベットに座り込む彩お姉ちゃん。

「1日でこれだもん。少しは歩きたいよ。」

「わかった。彩お姉ちゃん手を貸して。」

「んー。」

「よいしょ。これで立てたから後は・・・。もうちょっと身長が欲しい。」

「あはは。これでも支えてくれてるし十分だよ。それに雅くんはまだまだ成長期だから私なんてすぐ追い越すと思うよ。」

「そうかな?それじゃあ歩くよ。ゆっくりでいいからね。」

 部屋からキッチンまで1人では短い距離だ、2人で歩くとこんなに遠く、まるで冒険する感じで降りていった。

 びっくりする真琴さんと冬仁さんがそこにはいて、どうしたのかと聞いてきた。

「彩!どうしたの?なにかあれば私が上にいったのに・・・。」

「頑張って降りてきたよ、1日動かないだけでこんなに動けなくなるんだね。」

「大丈夫?下で休む?」

 ううん、自分の部屋に帰るよ。降りてきたのは雅くんに晩御飯もあげたいなって思ったからママと話に来たの。」

「そうだったのね。もちろん大丈夫、腕によりをかけて作るわね。」

「いくら男の子でも彩を支えながら降りてきたんじゃ少しは疲れたんじゃないかな?少し休んで行くといいよ。」

「冬仁さんありがとうございます。ほら、彩お姉ちゃんも椅子に座って少し休んでから部屋には帰ろうよ。」

「そうだね、流石に息切れしてきたよ。」

「雅くん、料理する前に私から栞里さんに連絡しておくわね。」

「ありがとうございます。」

彩お姉ちゃんの姿を見て少しは安堵したのか、真琴さんと冬仁さん2人の雰囲気が少しだけ柔らかくなっていく。そう感じる夕方だった。

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