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花粉症  作者: 木花
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真っ赤な目、優しい瞳

某ラジオ番組のメールテーマから着想を得てストーリーを考えました。

 花粉症

「やーい、泣き虫ー!」

 いつもの様に近所のお姉ちゃんが僕をからかってきた。

「違うよ!花粉症でくしゃみと涙が止まらないんだよ!高校生の彩お姉ちゃんだって知ってるでしょ!」

「ごめんごめん、反応が可愛くて意地悪しちゃった。」

 マスク越しでも分かる様に彩は笑っていた。

「雅くんはどうして、マスクとか対策しないの?」

「去年したよ。でも効果なかったんだ。彩お姉ちゃんはそういう事ないの?」

「私はないかなー。ほら、私花粉の強いし!」

「えー!じゃあマスク取ってよー!絶対取れないでしょ!」

「むむむ、痛いところを突いてくるじゃない・・・。あ!私は口裂け女なのさ。」

 意味深な顔をしながらまたはぐらかそうとしている。たまにマスクを外す彩お姉ちゃんはとても綺麗な顔をしていることを僕は知ってるんだ。テレビや雑誌に載ってる女の子よりとても魅力的で綺麗だってこと。

「またそんなこと言って・・・。彩お姉ちゃん、今日も宿題教えてくれる?」

「それくらいならまかせて!雅くんと一緒に勉強するの楽しみにしてるんだよねー。」

 マスクの下で微笑んでいるのがわかった。それと同時に胸がキュっとなる気がした。いつもそうだった、彩お姉ちゃんと一緒にいたり、宿題をしたするだけで味わったことのない感情に浸っている。それを彩お姉ちゃんに相談しようと思うのだけれど、寸前で言葉がでなくなり話せなくなっていた。

 同じ学年の女の子とはそういうこともないのになんでだろう。

 彩お姉ちゃんとも普通にお喋り出来るのに急に話せなくなっちゃう。顔も見れない時もある。

「あ、ありがとう。」

「なーに照れてるのよ。可愛い弟みたいなもんだし、もっとわがまま言っていいんだよ?お姉ちゃんにまかせなさい!」

「ありがとう!彩お姉ちゃん!」

 それから時間は過ぎていき図書館が閉まる時間が迫っていた。

「ねぇ、彩お姉ちゃん。」

「どうしたの?」

「今日お母さんが夜勤でいないから寂しいなって思った。」

「そうなの?確かに1人じゃ寂しいよね。」

「まだ一緒に・・・いたいなって思ったんだけどダメかな?」

「んー。しょうがないわね、我が弟よ。幸い雅くんのお母さんと私のお母さんは同じ病院で働いてるし仲良しだから大丈夫だと思うよ!ちょっと連絡してみるね。」


 彩は携帯を取り出し、自分のお母さんに電話をかけ始める。雅は、その横でドキドキしながらも、彩の優しさにホッとした気持ちになっていた。


「もしもし?お母さん?私、雅くんが夜に一人でいるのが心配で……」と彩が話し始める。雅はその様子を見ながら、少し恥ずかしい気持ちになった。


「本当?じゃあ、今夜は雅くんを預かってもいい?」彩は嬉しそうに頷きながら電話を続けた。


 少し待たされてから、彩が電話を切ると、彼女の顔には安心した表情が浮かんでいた。

「オッケー!お母さんが大丈夫って言ってたから、今夜は一緒にいてあげるよ。」


「ありがとう、彩お姉ちゃん!」雅は目を輝かせて、心からの感謝を伝えた。


「でも、宿題とかはちゃんとやらないとね。遊ぶ前に片付けちゃおう!」彩は少し真面目な顔をして言った。


 雅は頷きながら、心の中で彩と過ごせる夜を楽しみにしていた。彼にとって、彩と一緒にいることは特別なことだったからだ。

 お母さん同士も仲良しと言うこともあり、僕の方もあっさり了承をもらえた。心の底から喜んだ。

「準備するから一度帰るね!」

「オッケー!宿題でも遊ぶ物でもなんでも持ってきたまえ!お家で待ってるね。」

 僕はドキドキしながら家に帰り、準備をした。

「雅は本当に彩ちゃんと一緒にいると楽しそうだね。」

 仕事の準備をしているお母さんがそう言った。

「うん!宿題教えてくれるし、なにより楽しいんだ!なんで僕にこんなに優しく相手してくれるんだろう・・・?」

 そう考えているとペチっと軽い衝撃がおでこに走った。

「そんなこと考えたってしょうがないわよ。男の子はどんと構えて堂々としていればいいのよ。そうじゃないと彩ちゃんと楽しく過ごせないよ。」

「んーそうかなぁ。」

「そうなの!あ、やばい、夜勤の準備急がなきゃ。おやつで買置きしてるお菓子は持ってっていいからね!彩ちゃんと真琴さんによろしくね!」

「真琴さん?彩お姉ちゃんのお母さんのことか!わかったー!それじゃあ行ってきます!」

 僕は母の言葉を胸に、彩ちゃんと一緒に過ごす時間を心待ちにしながら準備を整えた。宿題を教えてもらえるっていうのは嬉しい特典だし、何より彼女と一緒に過ごすだけで心が弾むのを感じる。


 リュックを肩にかけ、家を出ると一気にワクワク感が増していく。道中、色々なことが頭をよぎった。彩ちゃんと遊ぶ時はどんなことをしよう?宿題を教えてもらったら、僕も頑張ってできるようになるかな?考えるだけでなんだか楽しくて、ついつい足取りが軽くなった。


 彩の家に着くと、ドアが開く音がして彼女が出迎えてくれた。

「雅くん、待ってたよ!」

 その言葉とマスクをしていない彼女の素顔でさらにドキドキが増す。彼女の笑顔を見ただけで、全ての不安が吹き飛んでいく。


「早速宿題しようか?」

 と彩お姉ちゃんが提案してくれた。僕は頷きながら中に入ると、部屋は明るくて、彼女のお母さんである真琴さんがキッチンで何かを作っている気配がする。


「雅くん、宿題終わったら遊ぼうね!」彩お姉ちゃんがそう言って、僕の方を見て微笑んだ。その笑顔には思わず心が温かくなる。僕は「うん、頑張るよ!」と前向きに答えた。


 宿題が終わったら、二人で何をして遊ぼうか?そう考えると、楽しみでたまらない。彩ちゃんと一緒にいると、日常がもっと特別になることに気づいた。今日はどんな素敵な一日になるんだろう?それを考えると、胸が高鳴った。 

 彩お姉ちゃんの部屋に行く途中で真琴さんがひょこっと顔だして挨拶をしてくれた。

「雅くんこんばんは。今ご飯作ってる最中だから彩の部屋でゆっくりしていてね。」

「はい!とってもいい香りがする。どんな料理を作っているんですか?」

「今日は小ちゃな可愛い彼氏くると言ってたので揚げ物だったりお刺身だったり色々よー。」

「小ちゃな・・・彼氏?・・・それって僕のこっ・・・!?」

 顔を通り越して耳まで紅くなる感覚が僕は自覚した。そして言葉を言い終える前に後ろからいい香りと一緒に優しく包み込まれる感覚があった。

「えっ!?」

 驚きながら上を向くと僕をニコニコ見ながら真琴さんと話してる彩お姉ちゃんがいた。

「そうよ?私の彼氏はとっても可愛いでしょ?」

 と笑顔の2人。その時もう一つの声がした。

「こらこら、雅くんが怯え・・・いや少し嬉しそうだな。それでも戸惑っているじゃないか。もうやめてあげなさい。」

 物腰優しげな声は彩お姉ちゃんのお父さんの冬仁さんだった。

「冬仁さん!助かりました・・・。」

 それでも彩お姉ちゃんは離さなかった。

「パパおかえり!今日は早かったんだね。」

「仕事の調子がいいから早めに切り上げることができたんだ。それに早く真琴の顔が見たかったからな。」

「私もよ、冬仁さーん!」

 とキッチンから声が聞こえてきた。

「パパもママも相変わらずお熱いことで・・・って、私は!?」

「ほら2人とも上の部屋でくつろいでなさい。ご飯ができるまでまだかかりそうだからな。真琴、私も手伝うよ。」

「ほんと?ありがとう。それじゃあ2人ともご飯楽しみにしていてね。」

「すぐそうやってはぐらかすんだから。雅くん行こっ。」

「あ、彩お姉ちゃん歩きづらい。」

「だーめ!こうやって行くの。」

 離れたくないけど強がりの僕の胸にはドキドキが止まらなく鳴っていた。 

 離れたくないけど強がりの僕の胸にはドキドキが止まらなく鳴っていた。

 彩お姉ちゃんの部屋は漫画やアニメのぬいぐるみなどが飾ってあるものの、綺麗に整頓されている部屋だった。ベットの下には宿題をするためか2人が座ると丁度いい大きさのテーブルが座布団と一緒に置いてあった。

 キョロキョロと初めての彩お姉ちゃんの部屋を見回している僕を横目に彩お姉ちゃんはベットでくつろいでいた。

「珍しい物もないからそんなにキョロキョロしないでよ。それとも女の子の部屋初めてだった?」

「う、うん。そもそもあんまり友達の家に行ったりしないから緊張しちゃって。」

「そっかー。いつも通り過ごしたら緊張は解れるかな?」

「いつものって言うと?」

「それはだね・・・」

 ぐぃっと僕の顔に顔を近づけてきた。急な事でびっくりして動けなくなっているとあっけらかんにこう言った。

「一緒に宿題やろっ!」

 元気よく、それでいて笑顔で眩しい彩お姉ちゃんがそこにはいた。

「確かにいつも通りなんだけど・・・びっくりしちゃったじゃないか!」

「えへへー、雅くんはからかいがいがあるね!」

「もうやめてよぉ。もういいや。宿題なんだけどこの算数が難しくて。」

「どれどれ、私に任せなさい。」

 側からみれば他愛のない時間が過ぎ去っていくが、僕には甘酸っぱいけど暖かい時間が彩お姉ちゃんと共に流れていった。

 宿題も終わってお喋りをしているとドアから真琴さんの声が聞こえてきた。

「雅くーん、彩ーご飯が出来たわよー。」

「タイミングいいねーママ!今行くー!さぁ美味しいご飯が待ってるから行きましょー。」

「とってもいい匂いがする!お腹空いたから楽しみだよ、彩お姉ちゃん!」

 そういいながら彩お姉ちゃんに振り返った。すると彩お姉ちゃんが少し苦しそうに咳をしていた。

「彩お姉ちゃん大丈夫?」

 心配して近づいてみるとすぐにいつもの素ぶりをしていた。

「ふっふっふ、騙されたわね。まだまだよ、雅くん。」

「えー!心配したのに・・・本当に大丈夫?」

「花粉だよ花粉。いつもよりたくさん飛んでるみたいで強くアレルギー反応がでちゃったみたい。お手洗いで顔洗ってくるから先にママたちのところにいっててー。」

「わかった。一緒に食べたいから早く来てね。」

「そういうところが可愛いんだからー!大丈夫、すぐ行くよ。」

 彩お姉ちゃんが違和感のある咳を繰り返ししながら部屋を出て行った。

 下に降りると真琴さんと冬仁さんが待っていた。

「雅くん、こっちこっちよー。」

「あれ、彩はどうした?」

「少し咳が出ててのでお手洗いに行ってから降りてくると言っていました。」

「そうか。3人で彩を待って、みんなで食べようか。」

 少しだけ空気が変わったが、僕にはわからなかった。

「そうしましょうか。雅くん、待つのもあれだし味見してみる?」

「彩お姉ちゃんに悪いなぁ・・・。でもどれも美味しそうなので味見したいです!」

「そうこなくっちゃね。どれがいいかしら。」

「お味噌汁が飲みたいです。」

「あらお味噌汁でいいの?ちょっと待っててくださいね。」

 真琴さんがお椀によそってる間に少しだけ冬仁さんとお話しをする機会が訪れた。

「冬仁さん、いつもこんなに賑やかなんですか?」

「んー、そうだね。賑やかではあるんだけどここまでじゃないか。2人とも・・・いや、私含めて雅くんが来てくれて嬉しいんだよ。」

 穏やかな声でそう言った。

「雅くんも彩と一緒にいたから分かると思うんだけれど、真琴さんに似て世話好きなんだ。」

「確かに初めて話す様になった時も・・・。」

「そうだろう?ちなみに彩とはどこで話す様になったんだい?」

「それは確か・・・」

 彩お姉ちゃんとに出会い。それほど特別な出会いかたじゃなかった。

 僕は本が好きでよく図書館に入り浸っていた。僕の特等席と言ってもいいくらい同じ場所で座り、本を読んだり宿題をしていた。

 たまに息抜きで周りを見渡すことが習慣だった僕は、そこで見つけたんだ。僕と同じ様に決まった時間に決まった場所で読書をする彩お姉ちゃんを。

 いつもいるお姉ちゃんだなって思いながら見ていると目が合った。キョトンとしてる僕は目線が外せなくて戸惑っていると彩お姉ちゃんがマスク越しに微笑み返してくれたことをすごく覚えている。

 それから彩お姉ちゃんが歩み寄ってきてくれてお話をするようになって言った。

「そうか、そんなことがあったんだね。彩と仲良くしてくれてありがとう。きっと彩も嬉しいと思うよ。」

「い、いえ!僕の方こそこんなに仲良くなれるとは思っていませんでした。正直僕は学校でも友達は少ないし、話すのが得意じゃないんです。」

「それは意外だ。彩は平気だったのかい?」

「最初はあんまり話せませんでした。でも今は特別です。彩お姉ちゃんは大丈夫みたいです。」

「特別なんだね。」

 冬仁さんの顔には嬉しさと寂しさが混ざった様な表情をしていた。

「きっと彩がそれを聞くととっても喜ぶと思うよ。いつか言ってあげるといい。それと・・・その感情は大切な物だから忘れないで。」

 不思議そうに見る僕に冬仁さんは優しく頭を撫でてくれた。幼い僕はその意味がわかなかった。

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