王子様への告白
私はタイミングを見計らって、王子様のティータイムの最中に勇気を絞って話を切り出した。
「アレクシス様、2人きりで30分ほどお話がしたいのですが、可能な日はございますか?」
「早い方が良いのか? それとも遅い方が良い?」
「出来るだけ早い方が良いです」
「なら今すぐ話したいの?」
「可能なら、是非今からお願い致します」
「…………分かった」
まさかこんなすぐにオッケーを貰えるとも思っていなかったから、まだ心の準備が整っていなかったけど、もしこれが駄目だったらいつになるか分からないし、それにもう早く伝えたくて仕方がないのだ。
ここは覚悟を決めて伝えよう……例えどんな結果になろうとも。
「じゃあ移動しようか」
「え? 移動でございますか?」
「うん。だってここだと誰か入ってくるかもしれないから。誰にも邪魔されたくない」
王子様の手に引かれて即座にこの執務室から出ることになった。まさか移動することになるとは思わなったので、何処に連れて行かれるのだろうかと緊張する。
暫く歩くと、私が知らない場所に案内されていた。そこにはとても綺麗な薔薇やダリアなどの花で覆われた花園だったのだ。色々見回ってきた自覚があるのに、まだ知らない場所があるのだと驚いた。
「ここは王族専用の花園なんだ。ここなら邪魔されないだろう」
そんな所に案内してもらえるなんて、期待しても良いのだろうか? この美しい花達に力を貰えた気がする。もうここまで来たんだ。あとは告げるだけ。
一呼吸置いて後、私は話をゆっくりとだが始めることにした。
「アレクシス様は前に何度か私に好きだと仰ってくださりましたよね。正直に申し上げまして、最初はまともに受け取ってはおりませんでした。身分や年齢のこともあり、とても信じられなかったからです。あの時は自分に自信がなくて断っておりました。それなのにこんなことを今更申すのは虫の良い話なのかもしれませんが、今の私の気持ちを伝えさせてください」
ここが一世一代の本当の告白だ。しっかりと言わないと。緊張してきたから一呼吸置こう。
うん、今なら言える。頑張れ私。
「私はアレクシス様のことを、王太子としても、1人の男性としても心の底からお慕い申しております。常に国や国民のことを考えて行動している所は王太子として尊敬しておりますし、また一途で真面目でありながらも和ませてくださるところに人として好ましく思います。この気持ちは昔から変わりません。もし今もアレクシス様にその思いがあるのであれば、王太子妃としても、妻としてもお受け致したいです」
やっと……やっと言えた。この3カ月間、この気持ちをずっと留めていたけど、ようやく伝えることが出来たんだ。まだ何も返事も貰っていないのに、言えたことがまず嬉しくてほっとする。
だけど、肝心なのはこれからだ。王子様は私の答えにどう返してくれるのだろう。
「アナ……アナスタシア、本当にありがとうございます。しかし、私は貴女と違って気持ちは変わってしまったようです」
あ……そっか。私の思い上がりだったのか。何で変わらないと思ったのだろう。覚悟していたはずなのに、涙が出てきそうだ。勝手に私が物語のようなハッピーエンドを夢見ていたのね。
「私は昔よりも比較出来ないぐらい好きを超えて愛するようになりました。もうそんなことを言われたら絶対に逃がしませんけど、本当に大丈夫ですか? もし逃げるならこれが最後ですけど」
そんな言い方ズルい。そんなのとっくの前から私は貴方に捕まえられているのに、わざわざ確認してくるなんて。それも最後のチャンスだって言って逃がす気もないだろうに。
こんなの物語にもない最高の返答じゃないの。
「私も1つ間違いがありましたので、訂正致します。私は殿下のことを昔どう思っていたか忘れるぐらい愛しております。なので望むところです」
「アナ……じゃあ今回こそ本当に捕まえたな」
あぁもう王子様……いえアレクシス様の敬語が終わってしまったわ。本当に私の告白は成功したんだ。
まだすぐには実感は湧かないけど、でも身体が凄く熱くなっているのはよく分かる。心の底から喜びを感じられる。
だけど、この後少しアレクシス様から少し驚きの発言したのだ。
「でも少し悔しいな。本当は私からきちんとした形でプロポーズしたかったのに。先越された……」
そっかアレクシス様も私と同じことを考えていたのね。でも今回ばかりは私が先で良かった。だって今までずっとアレクシス様から言われて来たから、今回ぐらいは私から言いたかったもの。
そんな嬉しさに浸っている間に、アレクシス様は私の前で跪いて声をかけてきた。
「アナ、実は少し前に指環を用意出来たから、着けて貰っても良いか?」
「はい、よろしくお願い致します」
まさかもう指環を用意されていたなんて……本当にプロポーズするつもりだったんだ。私なんて3カ月もあったのに何も用意してなかった。
せめて着飾って来れば良かったかな。でも今すぐだと用意出来ないし、後日にしてもらった方が……いやいや結果的に成功したから、今日の方が良かったわよ。
でも本当に何も用意出来ていなかったのは、申し訳ない。
そんな反省をしているところ、私は嵌められた指環を見てその美しさに目を奪われた。
1カラット、いや2カラットはあるであろう透明度の高いサファイアの指環を左手の薬指に嵌められたのだ。こんな大きくて綺麗な宝石は初めて見たので、驚かずにはいられない。
正直、これはどれぐらいお金が掛かったのだろうと聞きたくなるほどだが、怖いので聞くのは止めておこう。
「素敵な指環をありがとうございます。大切に致しますね」
本当にこの指環を着ける時は、時と場合を考えて着けないといけないわ。ずっと着けられない分、大切にしないと。
これでもう終わったのかしら……ってそう言えばずっと聞きたかったことをまだ聞いてない。聞くなら今しかないわよね。
「アレクシス様、ずっと気になっていたのですが、私の何処に惹かれたのですか? 聖女だからという理由だけではないような気がしますが……」
「あ、そっか言って無かったのか……。もう伝えているものばっかりだと思っていた。本当にごめん」
「いえ、そんな謝らないでください」
だけどこの質問を聞いたことがこんなことになるだなんて、尋ねた時は全く思わなかった。
「アナの惹かれたところか……もう何から話すべきかな。まずは容姿から惹かれた。近づいた理由は聖力を感じてたけど、清楚で誰も寄せ付けない高嶺の花みたいで気高いそうなのに、威張った感じがしなくて、凄く私好みだったから緊張したんだ。それから女性なのに政治にも詳しくて知的なところにも惹かれて、もう出会った時からかなり心が傾いていた。それから侍女として接するようになって、その有能さや勇敢さにも惹かれた。それにたまに見せる笑顔が何よりも可愛くて虜になったんだ。あとは……」
「もうそれ以上は喋らないでください!!」
「え、まだまだ喋り足らないけど」
「十分ですから。アレクシス様の気持ちはもう収めきれないほど頂きました」
「これぐらいで零してもらったら困る。もっと受け取ってよ」
「今は勘弁してください……」
ここで止めなかったらどれほど語られていたことか……こんなに私に惚れ込んでいるとは思わなかった。確かにこの熱量なら、何度振られても諦めないと言われた理由が分かる気がする。
アレクシス様ってこんな人だったの。これは想像以上に重いかもしれない。一瞬逃げようかと考えたぐらいだ……いや逃げないけど。というか逃げられないよね、立場的にも。
もしこんなことが毎日続いたら私は耐えられる気がしないけど、大丈夫かな。いや、何とか耐えられるようになるしかない。だってここまでされることは間違い無く幸せだもの。
「あ、そうだ。これからはアレクって呼んでよ。アレクシスって長ったらしいでしょ」
「ではアレク様、よろしくお願い致します」
「呼び捨てにしてくれないの? あと敬語も止めて欲しいのだけど」
「今すぐはちょっと抵抗があるので、こちらも今はこのままでお願い致します」
さっきまで仕える雲の上の人だったのだ。そんな人をすぐにタメ口で話せと言われても無理がある。これから少しずつ慣らしていくから許して欲しい。
◇◇◇◇◇
次の日、アレク様が早く報告したいとのことで、今目の前に王妃様と初対面の王様がいる。あの3カ月間を取り戻すぐらいの早いスピードで物事が進み過ぎて怖い。
「父上、母上。私は彼女……アナスタシア・ローズ・ヴァーンズと結婚したいと考えております」
王妃様には太鼓判を押されたけど、王様は私との結婚をどう考えているのだろう。身分や年齢で駄目だと言われたらかなりショックなのだけど。
「まさかアレクシスから結婚報告を聞けるとは……夢にも思わなかった。無論、心より祝福する。アナスタシア嬢、アレクシスは色々無理し過ぎるところもあるから、是非貴女に支えて欲しい。よろしくお願い致します」
「勿論私も心より祝福するわ。アナちゃん、アレクシスをよろしくね」
アッサリと承諾を貰えた。そのホッとついた笑顔が大変眩しくて、思わず目を瞑りそうなぐらいだ。
舞踏会の時から思っていたけど、本当に義父の子爵に似ている。見た目は厳格そうだから、優しいほんわかとしていた義父との雰囲気は180度違うが、笑うと特に義父と似ていた。これはエラが見たくて舞踏会に来るのも納得だ。
それにしても、王様は私との結婚よりも、アレク様からの結婚報告に驚いていたのね。そこに関しては信用ゼロだったのか。まあ、王妃様からの話を聞くと納得ではあるけれど。
とにかく何事も問題なく認められて良かった。家族からは間接的ではあるけれど良いと認められているし、こちらも問題ない。
「私も至らぬ所はありますが、王太子妃として、彼の妻として支えていきたいと思っております。国王陛下、王妃殿下、こちらこそよろしくお願い致します」
この後、婚約書を書くことになったのだが、ここで使われたのは貴族間で正式に使われる青色の婚約書だ。王族で正式に使われる赤色の婚約書は、婚約式を開く時に記入するらしく、婚約式は早くて3ヶ月後、遅くても6ヶ月後にはすると言われたのだ。
こうして完全に正式ではないものの、王太子であるアレク様と婚約することになった。




