領民からのお祝い
「おはよう」
「おはよう、エラ」
「「おはよう、エラちゃん」」
私達3人は同じ時刻に起きたけど、エラは相変わらず早起きで、もう私達の朝ごはんを用意してくれていた。だけど今回もやはり3人分だけのようだ。
「エラちゃんは一緒に食べないの?」
「はい、お腹空いていたのでもう食べちゃって」
「あら今日ぐらい一緒に食べたかったのに」
「ごめんなさい」
「うんん、別に気にしないで」
気にしないでと言ったものの、やはり一緒に食事を出来ないのは悲しい。エラは完全な朝型で朝に愛馬の世話もするから、ご飯を真っ先に食べるらしいし仕方ないけど……。
でもエラはご飯は食べないけど、話には混ざってくれるから嬉しい。こうやって些細な話をする時間が何とも幸せだと感じられる。
そんな中で母がエラにこんなことを告げたのだ。
「エラ、今日は一緒に公爵家に行くわよ」
「え? 何で? もしかしてまだ退職していない扱いなの?」
「いいえ。驚きながらも受け取ってはくれたわよ。でも、前にエラが帰ってきたら次来る時に連れてきてと言われたの」
嘘……エラは公爵家を退職していたの? そんな話聞いていない。あんなに楽しそうに働いていたのに……もしかして戦地に行くことになったから、辞めたのかしら。エラはそう言う変なところで真面目さを発揮するから。
でも公爵家からの話って何だろう? 変なことでないと良いけど。
食事を終えると、2人は即座に公爵家に向かった。
「ロゼリア、一緒に市場に行かない?」
「ごめんなさい。今日は子爵家に用事があるからもう出るね」
ロゼリアにアッサリと断られ、家にいるのは私ただ1人。休みを貰ったのに何もしないのはこの上なく勿体無いので、1人で市場に出かけることにした。
◇◇◇◇
「こんにちは」
「おお〜アナスタシア様、お帰りなさい」
「アナスタシア様、帰ってきたのですね」
「安心しました。新聞見ましたよ。王城も攻められたのだとか」
「心配していたのですよ。アナスタシア様が王城に勤めていると聞きましたから」
「それも王子様付きの侍女だと聞きました。だから巻き込まれたのではと」
まさか私が市場に来ただけで、ここまで大騒ぎされるとは。話しかけた店主だけでなくて、周りにいる店員や客にも一気に話しかけられたのだ。これにどう対処すれば良いのか困惑するが、とにかくこの場を収めないと。
「皆さん、本当にご心配をおかけして申し訳ございません。私だけでなく王城も人々も無事でしたから、ご安心ください」
「一気に騒いですみませんでした。ただ本当に俺達はアナスタシア様を心配しておりまして」
「「「「「「ごめんなさい」」」」」」
私は本当にこの領地の人達に愛されているのだな。その優しさが何よりも温かい。
「そうだわ。今日は無事にアナスタシア様が帰ってきたお祝いです。是非好きなだけ持っていてくださいな。お金はいただきませんから」
「そうだお祝いです。私の方も好きなだけ持っていってください」
「私も」
「俺の所も」
「そんなお金はちゃんと払いますよ」
まさか私が帰ってきただけで、お祝いになるだなんて、本当に驚かされた。ここ最近驚くようなことしか起こっていないような気がする。王城だけでなく、領地に帰っても驚くことばかりね。
楽しい買い物になりそうだ。
◇◇◇◇◇
次の日も3人と一緒に行動出来なかったので、今日も1人で市場に行くことにした。今回は昨日行けなかった反対側から向かう。すると、なんと昨日と同じような状況になってしまい、再び驚くことになった。
まあ反対側での市場でも買い物を楽しくすることが出来たけど。こうやって好きに買い物出来るのは本当に気持ちいい。
そして帰る時間になった頃、少女が私にこんな質問をしてきた。
「アナスタシア様、次はいつ来れますか?」
何とも難しい質問だ。もし私が王太子妃になれば今のように頻繁に帰ることは難しいだろう。勿論ならないなら、定期的に帰れるだろうけど。
「ごめんなさい。本当に分からないの。でも多分来れても年に1・2回ね。下手したら数年に1回になるかもしれない」
「1年に1回も来れないのですか? どうして?」
ここで王太子妃になるかもしれないと、確定もしていない大きな話をするわけにも行かない。どう言い訳すれば良いのか。心が痛むけど、嘘を吐くしかなさそうだ。
「私は今回の出来事で昇進するかもしれなくて。あ、つまり上の立場で人を指導するかもしれないの。それはね、凄く責任のある仕事で簡単に休めないだろうから」
王太子妃になることへの言い換えが昇進とはなんとも酷いものだが、それ以外言いようがなくてこうなった。後半の内容は合っているのだけど。
「『昇進』とは凄いですね。アナスタシア様と滅多に会えなくなるのは悲しいですが、それ以上に嬉しいです。それって信頼されている証だから。アナスタシア様の昇進はヴァーンズ領の誇りです」
「そんな大げさな」
「大げさではないですよ。俺も誇りに思います」
「私も一緒です」
「勿論僕も思いますよ」
詳しい話を何もしていないのに、領地の人達は私の出世を喜び、それだけでなく口を揃えて誇りだと思うとまで言われたのだ。こんなに嬉しいことはあるだろうか。
確かに私は領地の人達と頑張って信頼を築いた感覚はある。最初ここに来た時は余所者の私達を受け入れてくれるのかという不安ばかりだったが、優しく受け入れてくれたのだ。だからこそ彼らに応えたいと、領主の養子として最善を尽くしてきた。まあ、庶民になって出来ることは半減してしまったが。
それでも領地の人達がここまで私を推してくれているのだ。ならば私も彼らの期待に応えるべきだろう。庶民の立場では出来ないことも、王太子妃として出来ることもあるだろうから。
勿論決まったわけではないけれど、私の中ではもう王太子妃になる覚悟が決まった。あとは王子様の妻としての覚悟はどうなのかという点だけど、それはもう私は王子様のことが大好きだから大丈夫だ。妻としても支えたいと感じている。
こうして決意が固まった中で、領地の人達とは別れ、そして次の日には家族とも別れて、1日かけて王城に戻った。
部屋に戻ると、すっかり完治している私の姿を見てルナは大変驚き、どうしたのと聞かれ、私はまたロゼリアの能力のことを話しても良いのか分からずに、色々あってと答えることになる。こうしてまたルナに不満を貯めてしまうのだった。
◇◇◇◇◇
次の日から私はいつも通り王子様付きの侍女として職場に戻った。本来なら王子様にすぐにでも伝えたいところだが、なんせ今は戦争の後処理に常に追われているため、そんなどころの話ではない。
王妃様も忙しいだろうから、手紙でも出したが、ルナが取り計らってくれたお陰で10分ほどだが、話をする機会を設けてくれた。
「王妃様、大変お忙しい中でお話する機会を設けてくださりありがとうございます」
「良いのよアナちゃん。ルナから貴女の手紙は受け取ったけど、やはり貴女の顔を見て返事を聞きたかったから、こちらこそ来てくれてありがとう。それで結論は出たの?」
「はい。私はもう決意が固まりました。そのためどのような結果になろうと、事が落ち着き次第ですが、その思いと覚悟を伝えるつもりです」
「そう……答えを出してくれて嬉しいわ。それだけ真剣であるならば、私もどのような結果になろうと受け入れます。聞かせてくれてありがとう」
こうやって王妃様と直接話すことで、それはなお盤石なものになった。
◇◇◇◇◇
結局戦争の決着はどうなったかというとこのように進められた。
今回の戦争について1番揉めた点は、黒幕であった魔法使いの処分について。
実はこの魔法使い、何故この戦争を仕掛けたのかと言うと、それは幼馴染であるリンネ国の王女様のためだった。彼女は私生児であり、王城で過度なイジメと監禁により心が完全に病んでしまったという。そんな彼女の唯一の癒しは動物であり、段々エスカレートして欲しいと言われた動物を得るために密猟まで働いたのだ。
そうなった原因はリンネ国の王族であり、特に王妃がイジメと監禁をしたらしい。しかし、それだけではなく自己中心的な政治をしており、国民に重税をかけたり、厳しい罰則があったりと国民が大変怒っており、一歩寸前で暴動が起きるところだったという。
本来なら彼が中心となって国で革命でも起こしてくれたら良かったのだが、なんせ1番助けたい王女様は王族として囚われている。革命なんて起こしたら王女様は彼の弁明を聞くことなく、国民の手によって処刑されるだろう。
その未来が見えた彼は戦争を起こした上で勝利し、王女様を王子様と正式に結婚させて逃がし、その後国内で革命を起こしそうとしたとのことだった。結果的には失敗したわけだけど。
では何故オルガ国にこだわったかと言うと、王妃様が毛嫌いしている王女様へ屈辱を味わわせようと、断られることが分かっていたオルガ国の王太子に結婚を持ちかけたことが原因だった。彼女はその時これでここから抜け出せると思い歓喜していたため、その拒否は絶望に落とされたらしい。そこから王子様への結婚を夢見たという。
今回は王女様を救い、そして後にリンネ国の国民も救おうとしたこと、そして彼が黒魔術使用の対価で、寿命が30年ぐらい縮み代償も受けたと、色々加味された上で、彼はリンネ国に戻り監視役という立場で戻るという軽い刑で終わったのだ。
その一方で国民を苦しめ、戦争を最終的に持ちかけたリンネ国の国王と王妃は死刑となり、監禁されていた王女様は精神病院に送られた治療中だという。
あとは戦争準備期間から終戦までの2ヶ月分の増加した軍事金も含めた国家予算と、遠縁である公爵が王となることで一旦事なきを得た。
まあ後でより有利になる条約を結ぶらしいが、それはゆっくりと行うらしい。
こうして、事が落ち着いたのは3ヶ月後と、事の大きさを考えれば早い方だが、時間的にはかなり経った。




