家族への相談
「お帰り。ロゼリア、エラちゃん」
「「ただいま。お義姉様」」
良かった。王子様からは無事だと聞いていたけど、やはり実際に自分の目で2人の姿を見たことで、これ以上になく安堵出来た。
それにしても本当に4人で揃うのは久しぶりね。仕事と戦争が重なったらそりゃ仕方ないか。だからこそ凄く嬉しいわ。
「どうしたのお姉様。全体的に怪我しているわ」
「少し色々あってね。でも全て軽症だから問題ないわ」
「駄目よ」
ロゼリアが私の手に触れて目を瞑ると、私の怪我はみるみる治っていく。これがロゼリアが持つ聖力……治癒能力なのね。やはり実際に見るとやはり凄いわ。ロゼリア本当にありがとう。
あ、やっぱりエラも母も驚いているわね。と言っても多分エラは知っていたから私と同じような反応だけど、母は誰よりも目を瞠っている。そりゃそうなるか。
「今日はみんなが好きなシチューを作ったの。2人とも疲れているでしょう。ゆっくり一緒に食べましょう」
「本当に! 嬉しい! 私も準備手伝うわ!」
何となくだけど今日2人が帰ってくるような気がした。別にこれは予知夢でもなんでもないけど、こういう時の勘は鋭いようだ。2人にも笑顔が咲いて嬉しくなる。
それにしてもエラ早いわよ。誰よりも張り切って準備を始めているわ。そのお陰であっという間に盛り付けは終了だ。じゃあ後は一緒にダイニングルームに向かうとしますか。
◇◇◇◇◇
「とても美味しいわ。最近はこんな手の込んだ料理なんて食べていなかったもの」
「なるほどね。ただ戦いという面だけじゃなくてそんなところでも苦労していたのね」
エラは大きな声で感動ながらシチューを食べていた。確かに言われたそりゃそうだろう。私達は王城にいたから料理も充実していたが、戦場に駆り出されてまともな料理なんて食べられなかっただろうから。
でも私の久しぶりの手料理でここまで喜んでくれて本当に嬉しいわ。
「そうなの! あとベッドも簡易的なものだから硬くてあまり快適ではなかったかな」
「それも大変ね」
あ、そっか。この家のベッドは高級品だから凄く柔らかいもの。それに戦地で用意された簡易式のベッドはそりゃ硬く感じて当たり前だ。本当に私達にはない違うところで不便を感じていたのね。
それから2人は、戦いの間の出来事について話して始めたけど私には想像出来ない世界だった。こんなに恐ろしい目に遭っていたとは……本当に無事で良かった。
次にエラが魔女で、ロゼリアが聖女である話になったけど、これは王子様から事前に聞いたから、あの時ほどの驚きは正直ない。ただ母は最初聞いた時の私と同じように凄く驚いている。というか信じきれてなさそうな気もするけど……気の所為よね。
「でも、アナスタシアお義姉様も大変だったでしょう。怪我もしていたし。王宮でも大変だったって聞いたわ」
「ああ……とても大変だったわ。本当に色んな意味でね」
はぁ〜ついに私のターンに入ってしまった。2人に大丈夫かと聞かれたけど、とても「はい」とは言えなかった。だっていくら話すと決意したとはいえ、いざ話すとなるともう気が重い。
でももう覚悟するしかないだろう。
「どっちみっち話さなければならないから、もうここで全て話すわね」
◇◇◇◇◇
まずは王城での出来事を全て話した。その話を3人は真剣に聞いてくれる。
そして私はここからが本題だと言わんばかりに、1番の衝撃的な発言を落とした。
「それにしても私が王太子妃候補になっただなんて未だに信じられないわ」
ここぞと言わんばかりに、自分からこの発言をしたのだが、やはり言葉の通りまだ信じ切ることは出来ていないように思える。
3人は最初から驚いていたが、やはり王太子妃の話をすると顔が凍りつくように雰囲気が冷たくなった。まるでエラがヴィオル卿との婚約の話を持ってきた時と同じ状況だ。
そして、3人はお決まりのようにどうしてそうなったのと、食い気味で聞いてきたので、ここで私の能力も明かそうと決めた。
「実は今まで言っていなかったけれど、私は昔から少し先の未来を見ることが出来たの。いわゆる予知夢ってものよ。私は今回それを駆使して手助けしたからだと思うわ」
「それってお姉様も聖女ってこと?」
「ええ、私もロゼリアと同じく聖女よ。貴女とは能力は違うみたいだけど」
さっきの王太子妃の発言が強すぎて、ここにはあまり驚いていないみたい。というか2人も私と同じような立場だからというのも大きいだろうけど。
そんな中で、エラは首を傾げながら私に質問をしてきた。
「アナスタシアお義妹様、もしかしてリンネ国の軍隊が2日後に来るって分かったのもお義姉様の予知夢のおかげなの?」
「ええ、そうよ。だから急いで連絡をしてもらったの」
エラはどうやら2日後に来たと分かったことが不思議でたまらなかったのね。そりゃ急に言われたら驚くか……。
エラにお礼を言われたけど、直接伝えたのは王子様だから、彼に感謝して欲しいわ。
「でもよく分かったよね、聖女だって。普通なら勘の良い子にしか思わない気がするけど……」
「どうやら舞踏会の時点で、私に元々力があることは分かっていたらしいです。だだ、その時点では何者かよく分からなかったみたいで……。だからこそ私がどんな存在であるか突き止めるために侍女として採用したのだとか。何だか上手くいき過ぎているとは思いましたけど……」
自分で言って悲しくなってきた。そう最初の出会いはとてもロマンチックとはほど遠い裏側があるのよ。でも今は疑わずに就職出来て良かったとは思っているけど。
「それにしても皇太子妃候補ってことは、決定事項ではないのね」
「そりゃこの状況ですぐに決められるわけないもの。殿下からも前々からアプローチはされているけれど、最近は王妃様からも王太子妃に推されしまって……。何だか逃げられない状況になっていると言うか……」
「それほぼ決定事項みたいなもんじゃない」
だよね。一応私の意思を尊重して今ここにいるわけだけど、やっぱり外堀を埋められているような気がするのは私だけじゃなかった。決定事項という言葉があまりにも重く感じる。
「アナスタシア、貴女はこのことについてどう思うの?」
「そうですね…………正直身分や責任なども含めて不安だらけというか……不安しかないですが、それでも完全に拒否しているわけではないです」
「それは受け入れるということなの?」
「はっきりとは言えません……まだ自分の心が整理出来ていないのです」
それが今の答えだ。まだ心の中がぐちゃぐちゃで王太子妃への返事なんて出来やしない。受け入れきれないのだ。
「私はヴィオルの求婚について相談してもらった時アナスタシアお義妹様に、王族との婚約は貴族以上に解消することは出来ないからオススメしないと言われたわ。だからヴィオルと結婚するのはやめようとも思ったけど、それでも結婚することを決めたの」
「やはり、ヴィオル卿と結婚するの?」
「うん。もうお互いに約束したから」
え、エラもう婚約の約束をするまだに発展していたの? 多分結婚するのだろうなとは思っていたけど、その進み具合に今日で1番驚いたわ。
それにしてもエラの表情は本当に凛々しい。一切迷いがないのだ。それが不思議で仕方がない。
「私はアナスタシアお義妹様に覚悟があるなら大丈夫だと思う。それに賢明で行動力もあるお義妹様だから王太子妃もいけると思う」
「エラちゃんは、私に王太子妃になって欲しいの?」
「私だけの気持ちで言うと『はい』。実際に向いていると思うし、それに何より嫁いでも近くに家族がいるのは心強いもの」
「エラちゃん、後者の方が本音でしょ」
「違うわ。前者だって本音だもん」
そりゃ後者の理由が大きいだろうとは言え、ここでエラにも太鼓判を押されるとは……。私は本当にみんなから言われるほど王太子妃に相応しいのかしら? やはり不安だ。
「エラちゃん、助言ありがとう。1つ気になることがあるのだけれど聞いても良いかしら?」
「うん」
「王族に嫁ぐことになるのに、どうしてそこまで不安な要素を見せずに、笑顔で自信に満ちているの?」
「それはヴィオルのことを信じているからだと思う。彼と一緒ならどんなことがあっても絶対大丈夫だって思うから」
エラの笑顔が本当に眩しい。エラは本当に決意が完全に固まっているんだ。相手は王族だというのに、それでも自信を持って言えるほど、堂々としている。
私もここまでの状態に持っていけたら良いのに。
「信頼…………。分かったわ。教えてくれてありがとう」
「どういたしまして。アナスタシアお義姉様、どうか真剣に考えてね」
他の2人にも王太子妃になることについて聞いてみたけど、2人とも私なら大丈夫だと言ってくれた。
何だろう……ここまで言われるとは本当に王太子妃としては大丈夫な気がしてくる。
あとは信頼か……。きっと王子様は私のことを信頼してくれている。そして私も。それならば私は前に進んで良いのかもしれない。
私の話が終わると、それぞれ床に着くことになり、次の日を迎えた。久しぶりに何も悩みを抱えずに寝れたお陰か、頭と目が凄くスッキリしていた。




