妹の正体
あんな約束をして部屋を出たのは良いけど、凄く緊張した。確かに何を言われるか分からないと恐れていたけど、違う意味で恐れることになるとは夢にも思わなかったわ。
だけどこれからどう向き合えば良いのだろう。自分だけだと、とてもじゃないが出来る気がしない。でもこれは私自身の問題だから、私が解決しなきゃ。
あ、でも相談ぐらいならしても良いかな? だってもし本当に王太子妃になるのであるば、私だけではなく家族も巻き込むことになるのだから。それならば家族に会って相談したい……出来るだけ早くに。
それにこのまま王城にいたら、私と王子様、そして王妃様のお話で話題にもなるだろう。その姿を見られていて、噂が広まらないわけないのだから。そうなると、私の気持ちに真っ向で向き合えなくなりそうで嫌だった。
「アナ、どうしたの? 部屋で休んでいるよう伝えたのに。それにそのドレスは?」
急に後ろから声をかけられて大変驚いた。なんせ声をかけてきた相手は、今ずっと考えていた王子様だったから何だか気まずい。
「アレクシス様、お気遣いいただきありがとうございました。お陰で疲れが取れました。先程王妃様にお目にかかりましたので、この服装だったのですが……お気に召しませんでしたか?」
私は一体何を聞いているのだろうか。王子様が気にいるかどうかなんて、今は関係ないじゃないの。本当に口が滑ったわ。
「そんなことない。寧ろ素敵で直視出来ないぐらいだ。普段そんな格好をしないから驚いて」
直視出来ないぐらいって……なんて最高の褒め言葉を貰ったのかしら。今凄く嬉しい。
「さっき母上に会ったんだね。何か嫌なことを言われたりしていない?」
「いえ、とんでもございません。王妃様とは大変有意義な時間を過ごさせていただきました」
「ひとまずは安心と言ったところだろうか。私には言いにくいことかもしれないが、もし何かあれば教えて欲しい」
完全にオブラートには包んだけど、嘘はついてはいない。嫌なことでなく、ただひたすら驚くべきことを言われたのだから。有意義という点ではある意味考える機会を頂いたので、そうだとも言える。
王子様はその私の言葉に一息つかれたようだ。きっと親子だから王妃様の性格を知った上での心配だったのだろう。まぁ、強ちその心配は外れていないかもしれないが。
「アナ、話は変わるけど、これからシーモア領の話をしても良いか?」
「……はい、よろしくお願い致します」
また昨日と同じ真剣な顔に一気に切り替わった。王子様は本当にスイッチの切り替えが早い。
なんか怖くて聞きたくないところが本音ではあるけれど、その話を背けたところで後で分かるのだから、今聞く他ないだろう。
「確かに昨日騎士達の方は解決したと言ったが、その裏にいた黒幕が姿を現したらしい。そしてその黒幕をヴィオルとエラ嬢が捕らえた」
「黒幕とはアレクシスが仰っていた例の魔法使いでしょうか?」
「あぁそうだ。やはり彼だった」
何だか凄く悲しそうだ。王子様は彼と面識があるようだし、知人が黒幕だとハッキリしてやはり通常よりも悲しみが増したのだろう。
昨日の流れだと次は悲しい知らせを聞かされるはずだ。だけど、王子様の表情は次の報告で明るくなった。
「あと実は騎士団長が完全に回復したようだ。本来ならもう少しのところで亡くなるところだったらしく、奇跡の復活だったのだとか」
「それはやはり騎士団長の体力が桁違いだからこそ復活出来たのでしょうね。本当に安心致しました」
「いや、まあ確かに騎士団長の体力が人一倍あったからと言うのは大きいだろうが、今回ばかりは彼女の貢献が1番だ」
「彼女?」
「あぁ、アナの妹であるロゼリア嬢だよ。彼女は急遽聖力が開花したらしく、その力で完全に治したようだ」
確かにかなりの衝撃ではあるが、昨日のエラが魔女であることに比べたら全然その衝撃は少ない。なんせロゼリアには聖女であろう性質を持ち合わせていたからだ。
ロゼリアは昔から薬草が大好きで、よく勉強していた。その故に怪我をするとすぐにロゼリアが真っ先に手当をしてくれて、その適切な処理で普通なら1・2週間かかるところを数日で完治したり、また毎日淹れてくれるお茶を飲むと自然と体力が回復されたりした。
これはロゼリアの勤勉さ故だと思っていたが、その時から聖女としての素質があったと考えると、回復が早いのも納得だった。
それに祖母とタイプは違えと、聖女の血を引き継いでいるのだから、ロゼリアが聖女なのは何ら可怪しいことではない。たまたま私は予知夢能力で、ロゼリアが回復能力であっただけのことだ。
しかし、ロゼリアが聖女であるならば、きっと王妃様の予知夢には、ロゼリアを含めた3人を呼び寄せる理由があったとのだろうと新たに納得した。
「アレクシス様、これで本当に戦いは終わりですか?」
「これで本当に終わりだ」
「良かった……」
日数にしてはたったの2日。正直こんなに早くに終えられたのは快挙と言っても良いだろう。それも死者も出さなかった無血戦場だったのだ。準備期間も3カ月ほどで短かったのに、無事に終わったのだ。こんなに嬉しいことはない。
「アレクシス様、これから私がこの戦争に関して行うことがありますか?」
「そうだな証言などはあるかもしれないが、少なくとも直近ではないと思う」
「それならば、少しの間休暇を頂いてもよろしいでしょうか? 1度実家に帰りたく思いまして」
「勿論大丈夫だ。期間は1週間ぐらいか?」
「1週間は多すぎではありませんか?」
「別にそれぐらい構わない。明日から取るのか? 早いほうが家族も安心するだろう」
「はい、お言葉に甘えて明日から5日間休暇をください。1週間は長すぎるので」
「分かった。じゃあ気をつけて。ただ怪我しているから無理だけはしないでくれ」
アッサリと交渉は成立した。まさか1週間近くも直近で休暇を取れるとは思わなかったけど。でも折角取れたならこの5日間を絶対に無駄には出来ないわ。
こうして王子様と別れたわけだけど、よく考えたら5日間は会えないのか。3日間の時でもかなり寂しさを感じていたのに大丈夫かしら。いえ、今はそんなことを考えちゃ駄目。早く準備しないと。
「アン何処に行ったのかと思ったらこんな所にいたの? 少し仕事が入っている間に話が終わっていたから、心配しちゃった」
「大丈夫よ。王妃様も優しかったし。今部屋に戻るわ。明日から実家に帰るから」
「もう帰るの、早くない? まだ怪我治ってないのに。でも家族も心配しているものね。行ってらっしゃい」
「ルナは帰らないの?」
「私は何も無かったから無問題よ。家族に手紙を送って終わったわ。それに元々2週間後に祖父の命日だからという理由で休暇を申請していたの」
確かにルナは直接参加はしていないから、まず被害に遭うことはないものね。私とは事情が違う。まあ、本来であればルナと同じ立場だったはずなのだけど。
それにしても、王子様と同じことでルナにも心配されているわ。でも何も引き留めないところと同じね。こんな扱いをされると、私は大切にされているのだなと実感出来て幸せに感じる。こんな気持ちがずっと続けば良いのに。
◇◇◇◇◇
次の日の朝から馬車に乗り込み、まずは王都の端まで行き、そこでヴァーンズ領地の馬車場まで移動した。やはりヴァーンズ領は田舎で王都から離れているので、朝から出ても夕方までかかるのだ。
その馬車から降り、15分かけて徒歩で向かうと、この領地で1・2位を争うほどの立派な豪邸に着いた。まあ、今は王城で暮らしいているから霞んで見えてしまうところはあるけれど。
今回は即座に帰ってきたので、手紙も送れていないから迎えもなく、私はとても久しぶりに家の鍵穴に鍵を差し込んだ。カチャという音でゆっくりと扉を開ける。
きっと母がいるのは、この時間帯だとキッチンだろうと思い、キッチンに向かうと今料理をしている母の姿があった。料理中なので声をかけて良いのか戸惑っていたところ、母が気づき火を止めて駆け寄ってきたのだ。
「アナスタシア、おかえりなさい。こんなに怪我して……でも助かって良かった」
母はとても弱々しい力で私を抱き寄せ、涙を流した。やはり心配かけてしまったか。戦争が始まる1週間前の手紙には万が一のことも考えて巻き込まれるかもしれないと書いてしまったから。
もし王子様の時のように私が聖女だとバレたら攻撃されるかもしれないと考えたのだ。結果は自分から突っ込みに行った感が否めないけど……。
それに軽症とは言え、隠しきれないほどの怪我をしてしまっているにを見たら、そりゃ悲しくなるよね。
こうなるなら後1週間遅れて帰った方が良かったかもしれない。今回は私が王城に居たくないという理由も含めて帰って来てしまったから。
私は母に謝罪したのち、ただこの後静かに食事が進められた。母は私に無理強いしたくなかったのか、何も聞かずに、話せる時に話して欲しいと床に着いてしまい、私は1日中馬車に乗っていたことから疲れもたまっており、話すこともないまま次の日の朝を迎えた。
「お母様、昨日は報告は出来ませんでしたが、ご安心ください。殿下から聞いたのですが、ロゼリアもエラも無事だったようです。きっとすぐに帰ってきますわ」
「そう………それは本当に良かったわ」
まずは2人の安否が気になるだろうからと、そのことを最初に告げたけど、母はよほど心配だったのか今回も涙を流し続け、とてもではないがその場ではそれ以上の話が出来なかった。
結局、朝食が終わると母はすぐに職場に向かったため、結局王城での出来事の話を出来ず、話せるのは母が帰ってきた夕方になった。
この時私は夕飯の準備をしていたのだが、ここで母がロゼリアとエラ2人を連れて帰ってきたのである。




