王妃様の正体
「ただいま」
王子様に送ってもらった幸せの時間は一瞬で、すぐに部屋前まで着いてしまった。そこで別れた後、目の前にある部屋の扉に入ると、部屋にいたルナがすぐさまに私の所に駆け寄って涙を浮かべる。
「アン、こんな時に何処行ったのかと思ったら、こんな姿で帰ってくるなんて……何をしたのよ」
「ごめんなさい。その色々あって……」
今回は流石に言い訳を何も考えてもいなかったから、どう弁明するべきか分からない。というか、そんな理由を誤魔化すことさえ出来ないぐらいに凄く疲れていた。
「色々って……毎回思うけど、アンは一体何を隠しているの?」
「ルナに隠し事をしているのは事実よ。でも今は打ち明けることは出来ないの。ごめんなさい」
そもそも私の能力って一部の人しか知らされていないから、自ら明かして良いのか分からない。それに貴族でも王族が魔力保持者であることを知らない・信じていない人も多いのに、庶民であるルナはもっと信じないだろう。おまけに私が聖女とか、なお信じられるわけない。
ルナには本当に申し訳ないけど、これ以上は言及しないで欲しかった。そんな想いが通じたのか、ルナは話せる時が来たら話してよねと言って、そっとしておいてくれたのだ。
こうして、私は食事を取った後で、あまりの疲れからすぐに寝付いしまった。
◇◇◇◇◇
「アン、寝ているところ悪いけど、今すぐ起きて!!」
ルナの声で目を覚ますと、時計の針は何と1時を指しており、完全に窓から見える景色を見ると完全に日が上がっていた。
私は寝坊と言い訳も立たないぐらいに、寝すぎてしまい、どうすれば良いのか思考が停止する。勿論完全な遅刻だ。そのため自分が悪いのに、つい感情でルナを責め立ててしまった。
「ルナ、どうして7時に起こしてくれなかったの? 13時になって起こされても困るわ!!」
「いや、今日はアンは休むように伝言が来たから起こしてなかったのよ」
伝言が来たと言う事は、私の身体に気を使って王子様が休ませてくれたのだろう。ルナも善意で寝かしてくれたのに、責め立ててしまったことをすぐに謝り、ルナは何も気にしない様子で許してくれた。
「そんなことより、王妃様がアンを呼んでいるのよ。だからすぐ着替えるわよ。13時半から話がしたいと言われたから」
ここで急に王妃様が出てきて頭の理解が追いつかない。というか残り30分しかないのだけど、私はどう心構えをしろというのか。
でも冷静に考えたら話と言うのは、間違いなく昨日のことだ。覚悟はしていたけど、まさか直接言われるとは思わなかった……何を言われるか素直に怖い。でも、あの時今後どうなっても受け入れると決めたし、覚悟を決めよう。
それにしてもルナは本当に手際が良くて、私はほぼ何もしていない中で、あっという間に着替えが終わっていた。というか、その流れに乗っかるかのように即座にメイクを始める。そして、こちらのメイクも先程と同じようにすぐに完了した。
1人でせずに他人に普段の身なりを整えてもらうのは本当に久しぶりだ。最後にしてもらったのは、男爵家が没落した直後だったからもう9年も前である。その時に感じていた心地良さと、父がもう亡くなってもう9年も経つのだという悲しみが同時に戻ってきたのだ。
しかし、感情に浸っていた気持ちから抜けて鏡を見ると、今更ながらも明らかに服装が可怪しいことに気づいた。
「どうしてドレスなの。普通こういう時は制服でしょう」
「いや王妃様がドレスで来てほしいと注文があったからドレスにしたのよ。私も正直なんでドレスなのか分からない」
ルナのミスではなく、まさかの王妃様からのご指定だったとは……ますます何を考えているのか分からなくなってきた。なんかこの姿で王城を移動することはほぼ無いため、気後れしてしまう。
でももうそんなことを考えていたら、あっという間に向かう時間になった。
◇◇◇◇◇
「王妃様、ルナです。ただいまヴァーンズを連れて参りました。失礼致します」
「失礼致します」
ここまで来てしまったからにはもう引き返せない。取り敢えず挨拶をしなければならないわ。
「ご機嫌よう。今回王妃様にお呼びいただきました、アナスタシア・ローズ・ヴァーンズと申します。どうぞよろしくお願い致します」
うぅ〜ドレス姿だからカーテシーをしているけど、捻挫しているから足が痛い……。でもカーテシーしないと可怪しいから我慢するしかないわ。制服だったら深く礼するだけで済んだのに。
「ご機嫌よう、アナスタシア嬢。急にお呼びしてごめんなさい。どうしても貴女と話したくて……。あ、ルナ。お茶を淹れたらここから出てくださる?」
「承知致しました」
ルナは手際良くお茶を淹れて私達の前にそれぞれセットする。何だか王妃様の隣で一緒にお茶を飲もうとしているのも、ルームメイトが目上の人に対して出すかのように自分にもお茶をセットしているのも、違和感しかない。自分が単なる侍女であることを忘れてしまいそうだ。
それにしても何だろうか? なんか妙に王妃様に親近感が湧くというか……何か感じる。あの洞窟で会った時にかすかに感じたあの気配と同じだ。
「それでは失礼致します」
ルナは王妃様に言われた通り、お茶を淹れると即座に部屋から出ていき、たった今王妃様と2人きりになった。するとその直後に王妃様から声がかかる。
「どうかそんなに構えないで。今日はお礼を直接言いたくて来てもらったの。アナスタシア嬢、私を助けてくださりありがとうございました」
王妃様からお礼の言葉を頂いてしまった。確かに助けたのは事実だからそれが普通なのだろうけど、どうしても私には秘密通路を無断で使用したことに負い目があり、素直に受け取ることが出来なかった。
「あの時は意識がほぼ無くて、締め出された時に貴女を出すことが出来なかったことが本当に申し訳なくて……」
「いえ、結果的に助かったので問題ございません。それよりこちらこそ、勝手に王族専用の秘密通路を無断使用してしまい大変申し訳ございませんでした」
謝るならここだとこぞって謝罪したけど、王妃様の反応を見るのが怖くて顔をすぐには上げられない。王妃様に顔を上げてと言われてようやく上げることが出来たが、王妃様の真剣な眼差しに目を背けたくなるほど真っ直ぐに見つめてきた。
「あの時は緊急事態だったからそこは気にしていないわ。ただどうしてアナスタシア嬢が知っていたのかを教えて欲しいの」
「それは……………………少し話が長くなりますが大丈夫でしょうか?」
「ええ、お願い」
王子様が王妃様に明かしていないようだったから、私から話して良いのか分からなかったけど、流石に王妃様に頼まれて話さないわけにもいかず、私は蔵での出来事だけでなく、私の能力も含めて全て打ち明けた。その話を王妃様は疑うこともなく、全て聞き入れてくれる。
「まさかそんなことがあったとは驚きだわ。それに聖女がこの国にいることもね。本当に話してくださりありがとう」
「これらのことを全て隠しており、大変申し訳ございませんでした」
「それはアレクシスが話さなかったのが悪いし、アナスタシア嬢が謝ることじゃないわ。寧ろアナスタシア嬢のお陰でここまでこの国を救ってくれたもの。本当に感謝してもしきれない。実名ともに本物の聖女だわ」
「いえ、私はただ出来ることをしただけでございますので」
ここまで褒められると照れるを通り越して固まってしまう。褒められなていない私には刺激が強すぎるし、実際に持ち上げ過ぎだ。
「それにしても何か不思議だわ。アナスタシア嬢の予知夢の症状で私も似たようなことがあるから」
「王妃様も予知夢をご覧になるのですか!?」
「そうね……と言っても2・3年に1回、カラーの夢を見ることがあるぐらい。最近だと舞踏会の夢かしら? 元々の話だと伯爵ぐらいまでを呼ぼうとなっていたけど、夢では子爵令嬢や男爵令嬢、元令嬢、それだけなくて夫人達も参加していたのよね。そのことをウィリアムに伝えたら、本当に夢の通りになったというか……。私はただ聞かれたから答えただけなんだけどね」
王様に話したことで今回の舞踏会が実現したのね。
それって今回の戦いと同じパターンだ。私が魔法使い達が来る夢を見て、王子様に話したことで騎士達が配置され、予知夢と同じことになったのだから。
私の場合は予知夢能力があるから、見たものは必然になるけれど、王妃様のは単なる偶然だとでもいうのだろうか? いや、とても偶然だとは思えない。
「王妃様もカラーの夢の時に同じことが毎回起こるのでしょうか?」
「そうね……話さなくても話してもカラーの夢の時は現実に起こるの」
「王妃様……私の推測が正しければ王妃様も私と同じ聖力をお持ちです。先程からずっと何だか親近感が湧くと思っていたのですが、きっとそれは私と同じ力だからだと思います」
ずっと話している間にも気がかりだったこの感覚が、聖力だと考えたら話は早い。
きっと王妃様も自覚がないほど微々たる力だから、少なくとも王子様は気づいていないのだろう。なんせ私の聖力にすぐに気づかなかったのだから。
「私の周りで聖力を持っていたという話は聞いたことないけれど。でも確かにウィリアムにここ5・6年はカラーの夢について定期的に聞かれるようになった気がするわ」
やはり王様は王妃様の能力に気づいていたようだ。だからこそ金嵩むし、批判も高まる可能性が高いのに、あんな大々的な舞踏会を開いたんだ。きっと王妃様の予知夢に何かしら意味があると信じて。
そうでなければ、元令嬢や夫人達なんて呼びもしないだろう。これが王妃様の見た予知夢により起こる必然だったからこそ、私達も呼ばれたのだ。
でも、王妃様の予知夢に何らかの意味があるとすればそれ何なの? 別に王太子妃がその場で決まったわけでもないのに……もしかして……。




