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戦闘地の状況


 こうして私達は私が目指していた出口を出て、一周して王城に戻ってきた。

 流石にこのままお姫様抱っこで戻るのは恥ずかしくて、出口前で肩を貸してもらう形で部屋付近まで送って欲しいと頼んだのだけど、王子様が頑なに譲らなくて、結局このまま運ばれることに。たまにすれ違う人が驚いた目で注目してくるので、私はまともに顔を上げることなんて出来なかった。

 しかも運ばれたのは、ベッドルームではなく、個室の救護室だった。


「アナ、今医師を呼んでくるからそこを動かないで」

「アレクシス様、私よりも酷い怪我をしている方が多くいらっしゃるでしょうから、私がそこまでの手当てを受けるわけには参りません」

「アナは自覚がないかもしれないけど、全体的に擦り傷があるし、足も捻っているし、かなり怪我している。だから素直に受けて」

「しかし……」

「お願いだから」


 ここまで言われたらもう手当を受けるしかない。だけど、やはり戦いが終わったばかりの時に1人の医師を呼ぶのは気を引けた。下手に怪我しなかったこんなことにはならなかったのに……。

 暫くすると女医師が来て、すぐに手当に移った。彼女はこんなに怪我してしまってと悲しそうな目を受けながら、痛くはないかと確認しながら1つずつ丁寧に手当をしてくれた。

 結局私の怪我は自分が気づいていないところにも多くあったようで、20分ほどの手当を受けることになったのだ。足は内出血は無かったものの、無理に動かすと悪化するから、無理するなと言い残して出ていった。


「アナ……今回の状況について話しても良いか? 」


 後ろから王子様に声をかけられて少し驚いた。てっきりもうここから出たと思っていたのに、片隅で残っていたのだわ。思いの他に時間が掛かったのでそこでも少し忍びなく感じたが、凄く話したがっているのが見て取れたので、私はお願い致しますと話をこの場で聞くことになった。


「今回の王城での戦いは半日ほどとすぐに収束した。それだけじゃなくて、死者も出ることもなく、また大きな怪我をした者は片手で数えるほどしかいなかった。それに意識不明になる者までは現れなかったのは幸いだった。流石に完全に被害をゼロにすることは出来なかったが、ここまで被害を抑えることが出来たのはアナのお陰だ。本当にありがとう」


 大きな戦いだったから、死者もいるだろうし、重症を負った人もそれなりにいると思ったけど、まさか死者が無しの重症もほぼいないだなんて……被害者もいるのでこんな風に思うのは良くないかもしれないが、凄く安心したし、嬉しくもあった。

 

「どうやら、魔法使い達は姿をくらまして攻撃を仕掛けて、騎士達を排除しようとしたらしいが、姿が露わになったことで焦って上手く攻撃が出来なかったようだ。本当にアナの機転がなければ悲惨な状況を迎えていたかもしれない」


 あの時は予知夢に対策して、集中してあの廊下に多くの騎士達を置いてもらったのに、騎士達が誰1人魔法使い達に反応をしなくて異変を感じたから、その場の思いつきでしてしまったが、それが奏をこうしたと思うと、本当に行動に出てよかったと思う。

 もしも一歩間違えていたら、迷惑をかけた上に足手まといにしかならないので、あそこで成功して本当に良かった……。まさか手がインクまみれになってしまったことがこう役に立つとは夢にも思わなかったけど。


「アナ、シーモア領の状況も知りたいか?」

「もうシーモア領でのご報告があったのですか? 可能な範囲でお伺いしたいです」

「そうか……なら覚悟して聞いてくれ」


 王子様は急に顔つきが怖くなり、一呼吸を置いてから語り始めた。その雰囲気に飲まれそうになりながらも、私はしっかりと耳を傾ける。


「実を言うとシーモア領も1日で決着がついたようだ。騎士達だけでなく医師や薬師も含めて死者も出ておらず、命に直結するような大怪我をした者はいなかったらしい……たった1人を除いて」

「その方はもしかしてお亡くなりに……」

「いや、亡くなってはいないが重症を負った上での意識不明状態だ。それがレオ……騎士団長だ」

「オールトン騎士団長が……意識不明……」


 騎士団長が意識不明状態であることに強い悲しみを感じたが、私にとってはそれ以上に悲しいことがあった。それはロゼリアだ。

 騎士団長はロゼリアの主人である。それもロゼリアは彼のことを心の底から敬愛していることは見て取れるのだ。なんせ、主人である騎士団長を助けるつもりでも戦地に向かったのだから。

 ロゼリアは今どのような心境でいるのだろうか。多分懸命に手当はしているだろうが、絶望的になっているかもしれない。悲しみに暮れているかもしれない。そう思うと、姉としてこれ以上になく苦しく感じられる。

 しかし、私が驚くのはそれだけでは留まらなかった。


「それと……どうやら今戦場にはロゼリア嬢だけじゃなくて、エラ嬢もいるらしいんだ」

「エラちゃんが!?」


 ちょっと待ったと叫びたいほど今驚いている。なんでここで義妹の名前が出てくるの? 一瞬名前が同じである女性かとも思ったけど、文脈的にどう考えても義妹のエラだろう。

 いやそれが分かったからこそ、もっと意味が分からないのだけど。


「私も信じられないが、どうやら彼女はヴィオルに匹敵するほどの強力な魔力保持者だったらしくて、魔女として自らの意思で参戦したらしい。まあ彼女のお陰で決着がついたようだけど」


 エラが参戦しただけでも理解が出来ないのに、彼女が魔力保持者だったというのが話が飛びすぎて何をどう受け止めたら良いのだろうか? というか、王子様も驚きで不思議に思っているようだ。


「魔力保持者は王族だけだと思っていたのですが、義妹はどうして魔力を保持していたのでしょうか?」

「ヴァーンズ家は王家の血の繋がりはないから、親戚に魔力保持者がいたのだろうな。でもヴィオルに匹敵するほどとなると、親子ぐらいの血の濃さがないとほぼ無理なはずだが……」

「親子……もしかしたら子爵夫人が?」

「ヴァーンズ夫人が魔女だとでも?」


 思わず人物を上げてしまったけど、考えれば考えるほどそうな気がする。なんせ彼女は少し特殊だったから。


「いえ分かりません。ただ昔から気がかりではあったのです。彼女の名前にはミドルネームもありませんし、晩年の肖像画も嫁いできた時とほぼ何も変わらない容姿でした。その時は異国の人であることや肖像画の描き方の問題として納得させていたのですが……」


 王国創立初期からの歴史があるヴァーンズ家に魔力保持者がいるとはとても思えないから、疑うとすればエラの母である子爵夫人だろう。

 名前は国によって付け方も違うからまだ良いとして、ヴァーンズ家に嫁いで15年以上いて容姿があそこまで変わらないなんてあり得ないのだから。これは凄い濃厚な気がする。


「生粋の魔女や魔法使いはそもそもミドルネームどころかファミリーネームすら持たないんだ。それに容姿が年を取っても、ほぼ変わらないのも生粋の魔女や魔法使いの特徴だ。生粋の魔女である伯母上がそう言ってたらほぼ間違いないと思う。それもヴァーンズ夫人は、伯母上のようにとても魔力がある魔女だったのだろうな」


 王子様が伯母上と言う相手は、前ハワード公爵夫人のことだ。まさか王族の血を引いてもいない彼女が生粋の魔女だったとは新情報。確かに肖像画見た時は、子爵夫人のように凄く若々しかったから引っかかりを覚えたけど……やっぱり驚きが止まらない。

 でも王子様がいう魔女の特徴と全く同じある子爵夫人は魔女であり、エラは魔女のハーフだと考えるのが自然みたいだ。まあ、なぜ彼女が義父と結婚したのかは謎すぎるけどね。


「取り敢えず私からの報告はこれまでだけど、何か他に気になることはあるか?」

「1つ気がかりなことがあるのですが、何故私は魔法使い達の姿を見ることが出来たのでしょうか? きっと私が聖力持ちであることが理由でしょうが、やはりイマイチピンときておりません」

「きっとそれは私がアナの聖力に気づいたように、アナも魔力を感知出来るようになったからだと思う。自分では気づいていないかもしれないけど、アナの聖力はここ最近で凄く増えているから」


 ここに来た時なんて魔力を感じられなかったのに、私の聖力が増えたことで見えることになったなんて……凄く成長したのね。確かに前までは年に2 ・3回しか、見なかったのに、ここ最近は予知夢を見過ぎだもの。そりゃ強くなっているか……。まあ、予知夢の内容や時期をコントロール出来ないのは相変わらずだけどね。

 でも、聖力が増えたことで役に立てたならこれ以上に嬉しいことはない。


「まだあるかい?」

「いえ、ごさいません。ただもし私の方でまた予知夢があればその時は知らせます」

「ありがとう。私もまた何かあれば連絡する。アナ、本当にありがとう。今日はとにかくすぐに寝て休んで欲しい。部屋まで送ろう」

「そこまでされなくても、もう歩けますし……」

「アナ、そこは素直に甘えるところだ」

「ではアレクシス様、手を貸してくださりますか」


 ふふ、何だろう……凄く温かい。さっきはあれほどのショッキングな出来事があったのにも関わらず、その辛い気持ちが少し緩和された気がするのは気の所為なのかしら?

 でも……今は部屋に着くこの時間だけこの心地良さを感じさせて欲しい。


 

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― 新着の感想 ―
エラちゃんキターーー!!!!(大歓喜)
ついに出口から王子とともに出られたアナ、すぐに怪我の手当てもできて何よりです。そして、王城とシーモア領の戦い、一気の展開ですね。騎士団長が心配です。 さらに、ロゼリアだけでなく、エラも戦場に…!アナ…
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