思わぬ人物の発見
それにしても、本当に今私が王城の秘密通路にいるだなんて信じられない。とにかくここにずっと居て良いことなんてないのだから、早くここを出なくては。
出口までの道順は至ってシンプルで、この道を真っ直ぐ向かって、分かれ道の時に左に進むだけ。今ならそのまま出られるだろう。
勿論タイミングを見計らって外に出る必要はあるけれど、そこはさっきみたいに音で判断も出来るだろうし、取り敢えず出口付近までは行かなきゃ。
何ならこっそりと出て、この王城の秘密通路を使ったことを隠しておきたいぐらいだ。まぁ……流石に隠しもしないし、隠すことも出来ないだろうけど。
あぁ、そう考えるとあまりにも荷が重すぎるわ……どうしてこんなことになってしまったのだろう。
え、何? 今度は何かしら?
さっきとてつもない大きな音が鳴り響いたけど……こんなの放っておけるわけない。
もしかしたらあの魔法使いが何処からか侵入でもしてきたのかもしれない。ならば早くここから逃げないと不味いけど……何かここで逃げたら駄目だと脳が言っている。
怖いけど……でもその正体を確かめに行かなければ……もし敵にこの秘密通路がバレていたらそれはそれで大問題になるから。
確か……あの大きな音は右側から聞こえたわ。今すぐそっちに向かおう。
さっきも感じたけど、本当に少し歩くだけでここまで足音が響くとは……慎重に行かなくてはね。
はぁ〜少し歩くだけで疲れる。この道の整備がきちんとなされていなくて少し歩きにくいし、それに細心の注意を払わなければならないから、精神的にもどっと疲労がたまる。
だけど不思議だ。さっきはあんなに大きな音が聞こえたのに、あれっきり私の足音以外何も聞こえないだなんて……不気味にもほどがある。何か動きをしていたら少しは音がしそうなのに。
何だろう……何か妙な気配を感じる。親近感を感じるというか、知っているような気配がするのだけど……。
あ、何か音が聞こえる!!
「ぅぅぅ〜」
これはうめき声? それもかなりか細いわ。一体何があったと言うの? 早く確認しないと……。
そう思うと相手が敵であるかもしれないと言うのに、先程重かった足でいつの間にか駆けていた。
暫く走っていると、人影が見えたのだ。それも横たわっている形で。きっと何かあったに違いないと分かり、急いで倒れている人の所へ駆け寄った。
「嘘……王妃様!!」
王妃様に直接会ったことは無いけれど、何度も王城にある王妃様の肖像画を見ているので間違いない。
でも何でこんな所に王妃様がいるのか、全く持って理解が出来ないけど……。
だけど今確かに理解出来ることは、階段を下りる時に足を踏みはずしてしまい、体勢を崩して意識を失っているということ。なんなら額から流血していることまで確認出来てしまった。
これは不味い……一刻も手当てをするべきなのに、今ここで部屋に戻ったら魔法使いに捕まってしまうかとしれないから応援を呼べない。
とにかくまずは止血しないと。今ポケットに仕舞っているのは普段から使用しているハンカチと……王子様から頂いたお守りがわりにしている未使用のハンカチ……。
一瞬これを使うのを躊躇ってしまったけど、今はそんなこと思っている場合じゃないわ……王子様には使って欲しいと言われたし。これでどうにか止血しよう。
はぁ〜2分ほどで止血出来て良かった……。でもここから菌が入っても困るから、この布をくくりつけておこう。このハンカチは大きくて、頭に括り付けられるほどの長さがあるし。本当に王妃様、失礼致します。
あとは……ドレスも汚れていて多分様々な所を打ち付けているけれど……今はどうすることも出来ない。
かと言ってこのまま放っておくわけにはいかないし……ならばもう私が出口まで連れて行ってタイミングを見計らって助けを求めるしかなさそう……。
王妃様を連れて行かなきゃいけないだなんて……なんか勝手に身体に触れること自体が不敬だと思うけど、今は緊急事態だから……王妃様、お体を失礼致します。
「うぅ〜」
思わずうめき声を上げてしまったけど、でもうめき声を上げたところで、王妃様の身体はびくともしなかった。確かに意識を失った人間はとてつもなく重いと聞くけれど、こんなにも重いだなんて……。
とてもじゃないけれど、私の力では持ち上げられない。これだと王妃様を出口まで連れて行くなんて不可能だ。
ここから今すぐに助けを呼ぶことも出来ない。王妃様を移動させることも出来ない。じゃあ本当にどうすれば良いの?
私が1人で出口から出て、誰かにここまで来てもらう? いや、そんなこと出来るわけないわ。ここは王族以外は知らない場所だもの。私はたまたま知っただけで、本来なら王様と王妃様と王子様だけのはず……。
なら王子様を呼べば良いのかしら? でもそんなすぐに見つかるの? それにあの扉に向かった魔法使いと戦っているのにも関わらず、どうやって呼びつけるのよ。
今の私が出来ることと言えば、ただ王妃様の傍で王妃様が目覚めることを待つしかない。見た感じ気を失っているだけだから、目を覚ませばきっと私が肩を支えることで出口まで出られるだろう。
もしくは、戦いが収まるのを待ってここから出るかの2択よね……ってそう言えば秘密通路に入る方法は知っていても、出る方法なんてあの出口以外知らない。もしかしたら、この入ってきた所からは出られるのかもしれないけど……。それも王妃様が目覚めてくれないと分からない。
ならば実質もう一択……お願い致します王妃様。どうか少しでも早く目をお覚ましください。王妃様が目覚めてくださらないと、私達はここから出られませんし、王妃様の手当てもすることが出来ません。
早く目覚めて……。
私はただこの王妃様が目覚めるのを……そして戦いが終わるのを待つことしか出来なかった。この場所では上で繰り広げられている戦いの掛け声や駆け足がよく聞こえてくるのだ。それは声しか聞いていないのにも関わらず、その様子が脳内に浮かぶほど、白熱しておりこれは夢ではないのだと告げる。
そうやってどれぐらい時間が経ったのか分からない中で、突如1つの声が聞こえた。
「ただいま無事に魔法使い達7人全員を捕らえることが出来た。本当にありがとう!! 怪我している者はすぐに治療を受けるように」
これは間違いなく王子様の声だ。彼が今7人の魔法使いを捕らえたと言ったのだ。そう王城での戦いは幕を無事に閉じられたのである。
いや、怪我人もいるので無事とは言ってはいけないかもしれない。しかし何とてあの長く感じた戦いがついに終わったと思うと、ホッとした。本当なら凄く短いのだろうけど、私には長いようにしか感じない。
「うぅ…………貴女は?」
「王妃様!!」
タイミングを見計らったかのように、丁度王妃様が目を覚ました。良かった……本当にこのまま目覚めなかったらどうしようかと不安で不安で仕方が無かったから。でも、ここで喜びに浸っているわけにはいかない。
「王妃様、私はアレクシス王太子殿下の侍女であるアナスタシアと申します。訳あって今ここにいるのですが、後で詳しく説明しますので、私の話をお聞きください」
「うぅ……」
「王妃様、大丈夫でしょうか!? 先程まで意識を失われていたのです。ですが、今だけはどうかもう少しの間だけ保ってください」
「うぅ……」
「王妃様……私達は今は王城の秘密通路におります。たった今戦いが終わりました。えっと……とにかくここから早く抜け出す必要がございまして、出口まで移動しないければならないのです」
「うぅ……あそこまで連れて行って……」
あそこって、この階段の上まで登れってこと? でも出口を行かないといけないのに……だけど王妃様の申し出を受けないわけにはいかない。
「王妃様、肩を借りますね」
今は王妃様の意識があるせいか、凄く重たいけど何とか持ち上げることが出来る。このまま肩を貸した状態で階段を登れそう。
うぅ、王妃様やっぱり苦しそうね。意識も朦朧としているみたいだし。本当なら私が完全に持ち上げられたら良かったのだけど、やはり意識がハッキリしていない人を持ち上げるのは至難の業みたいだ。私は力はある方なのに悔しく感じる。
「ぁりごとう……」
王妃様、呂律が全く回っていないわ。本当に今でもまた意識を失いそうなほど疲れている。
あ、王妃様が手を伸ばして、壁……いや床を押した。え、なんか床の一部が開いて王妃様が何かカチカチ動かしている。何をしているのかしら?
――ガラガラゴトゴトゴトゴト
あ、あの時のように床が開いた!! これでここから出られるわね。
早く出ないとって……また王妃様の意識が失ってしまったわ。いけない、このままだとまた王妃様が階段から落ちちゃう。支えないと……いやそれだけでじゃなくて、まず王妃様から外に出さないといけないわ。
もう完全に意識を失ってしまったからまずは上半身だけでも出さないと……はぁはぁはぁ何とか行けた。後は下半身を持ち上げて……はぁ〜これで無事に王妃様を外に出せたわ。
さて私も外に出るかって……え、あぁーー。まさかここで階段を踏み外すなんてやらかしてしまった。早くこの階段を上りらないと。
あ、階段が動き始めた……まさかこんなに音が五月蝿いだなんて。
嘘ーーー。ここで階段が閉まるなんて。待って、私はまだ出てない……待って!!
あぁ〜完全に閉じられてしまったわ。どうしようこれだと助けが呼べない。王妃様、あれだけ怪我して意識も失っているのに……。どうすれば良いの?




