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王子様とご対面

 

 会場に参加している者達がざわざわとしながら待機していると、上から階段を使って下りてくる人がいた。そうみんながお待ちかねの王子様である。そのため、その場いる多くの者が歓喜の声を上げ、手を叩いて歓迎する。私も周りに合わせて手を叩いて歓迎の振りをしていたが、内心は不安が募るばかり。しかし、実際に王子様が自分達の前を通り過ぎると、私は思わず息を飲んでしまった。

 王子様の顔は目も大きくパッチリとした二重、鼻も高く鼻筋も綺麗に通っており、体はスラッとしているものの、輪郭がゴツゴツしていて眉毛が太く、高身長とまさに童話に出てくる王子様そのもの。そのため、周りの目は皆ハートとなっており、私もそこまではいかないもののその美しさに釘付けになっていた。今まで他人に好感を持ったことがなかったため、とても不思議な感覚だった。


 


「初めましてお嬢様、少しお話しませんか? 私はオルガ国の皇太子アレクシス・アーサー・フィリップ・オルガと申します。貴女の名前をお聞かせ願いますか?」


 突如王子様に真正面から話しかけられてしまった。彼に見惚れて上の空だったため、私からすると唐突の出来事で何が起こったのかがすぐには理解出来なかった。目を少し左右に動かすと、それぞれの令嬢が羨ましそうに私を見つめていた。これはやはり私に話しかけられているのだろうと受けいてると、何とか震えを抑えてカーテシーを取って挨拶をする。


「お初目にかかります。私は、元ヴァーンズ子爵のジョージ・リー・ヴァーンズの養子である、アナスタシア・ローズ・ヴァーンズと申します。王太子殿下、お目にかかれて大変光栄ございます」

 

 勿論相手に失礼のないよう、最大限に敬意を払う。しかし、内心は何故私が1番最初に声を掛けられたのか本当に謎でしかなかった。私より美しい女性も、高貴な女性も多くいるというのに、何故平凡で身分の低い自分なのかが理解出来ない。

 というか、これだと周りの令嬢から怖い目で見られるのが確定してしまい、この後1人で行動するのが大変になるのは嫌でも目に見えてしまった。こんなことになってしまい、この後起こるであろう災難に立ち向かうことが出来るのだろうか? それに繋がりを求めるのはもっと厳しくなるのではないかと過ってしまう。そう考えると、王子様には憎しみの感情すら抱いてしまった。

 

「少し移動しませんか? 折角なので2人きりでお話がしたいです」

「え? ええ…………」


 まさか王子様の方から移動の願いをされるとは夢にも思わなかった。てっきりお互いに挨拶でもしたら、次の人に移ると思っていたため、本当にお話をすることになるとは。

 どうしてそこまでしたいのか分からないものの、王子様の言葉には逆らうことも出来ず、そのままついて行くことになった。人混みが少なくなったところで、王子様が笑みを浮かべて口を開いてきた。


「アナスタシア嬢は、舞踏会を楽しんでおられますか?」

「ええ、楽しんでおります」


 もしかして、勝手に王城の周りをあちこちと移動していたことを不審に思って咎められることもあるのだろうかと、不安を抱えていた。しかし、普通の質問であったため、そうでは無いことが分かり少し安堵した。そもそも私がそんな行動をしていたことを知るはずもないのだから当然なのに、いつもに増して過敏になっている自分に嫌気がさしてしまう。

 取り敢えず返事は無難なものにした。ただ、大事な本当は楽しむどころか不安しかないもの、こんなの嘘でも楽しいと嘘をつかざるを得なかったが。もう少し話が続くのだと思うと憂鬱であるのに、この美形を見ることが出来るのは嬉しいと思う自分が信じられなかった。


「ではアナスタシア嬢は、どんなところが楽しいと感じられたのでしょうか?」

「えっとですね………この美しい王城を見ることが出来たのが楽しかったですわ」


 本来なら料理や王子様に出会えたことを挙げるべきだと分かってはいる。ただ料理は勿論食べていないどころか、まともに何が並んでいたのか知らないため、もし深掘りされた時に、無いものを答えても困る。また別に王子様に会いに来たわけではないし、もしそんなことを言っているを聞かれて王太子妃の座を狙っていると周りの令嬢に誤解でもされたら、この上なく面倒なことはない。そのため、あんな風に言うしかなかった。


「王城ね……確かに綺麗ですよね。ただ無駄に大きいとは思いませんか?」

「えぇ、確かに大きいですわね。でも、王城は多くの重要なものを仕舞うところでもありますし、また国の威信にも関わりますから何の問題はないかと思いますわ」

「国の威信ですか……ならどうして威信に繋がるとお考えですか?」

「まず建物を建てるためには、設計士や大工などが必要ですし、また多くの材料も必要になります。それが王城が大きくなればなるほど構造も複雑になりますし、王城となれば優秀な人や優れた材料も必要でしょう。つまり、大きい王城を作れたら、少なくともその時点では、それだけの運営出来るほど優秀な国となります。しかし、それは建てた当初のことでありまして、そこから維持するのもまた大変なことです。維持するためにもしっかりとした運営が必要になります。それを今でもここまで綺麗に保っておりますもの、こんなに素敵なことはないでしょう。十分国内にも他国にも示しがつくと思います」

「成る程……凄い賢明なお方ですね。まさにその通りでして、そう理由で王城は国の威信に関わりがあります。では、他にも国を保つためには何が必要でしょうか?」

「そうですね……必要なのはまず資金と人だと思います。どちらも欠けては国は崩壊してしまいますもの」

「ええ、その通りです。だから国には税金という資金を過不足なく集めて、また優秀な人材も引き抜く必要がありますからね。なら……」


 カーンカーン。

 これから更に話がヒートするのではないかという時に鳴り響いたのは、お城にある大きな時計の鐘の音だった。

 つい熱が入ってしまい、彼が王子様であることを忘れ、またこれから起こるであろう災難のことを忘れて時間を過ごすところだったと気づいた。こんなことをしているわけではないのだと。

 しかし、王子様の誘いを断るのにも角が立つし、一体どうすれば良いのだろう。本当に面倒なことに巻き込まれてしまった。どうにかして離れないと。

 かと言って、今その場で良い言い訳が見当たらないため、ここはもう1つの理由でお暇をしようと決めた。


「王太子殿下、用事がありますのでここで失礼させていただいてもよろしいでしょうか。本当に申し訳ございません」

「アナスタシア嬢、一体どのようなご用事か伺っても大丈夫でしょうか?」

「ええ、私達ヴァーズ家は現在は庶民でありながら、屋敷を持っており、そのためには膨大な費用な必要です。今ではかなりギリギリの生活をしているため、さらなる仕事の出会いが欲しいのです。私達はそれが目的でここまで参りました。どうか察していただけると嬉しく思います」

「そうだったのですね。引き止めて申し訳ございませんでした」

「いえ、失礼なことを申しているのはこちらなので謝らないでください。では、私はここで失礼させていただきますね」


 こんなことで同情を買って引き下がろうだなんて浅ましいとは思うが、取り敢えずこの場から離れなければどうにもならないのだから仕方がない。寧ろこれで1人で行動出来るのだと安堵してしまった。しかし、この後王子様がとんでもない発言をかましたのだ。


「アナスタシア嬢、仕事を探しているだというのであれば王宮侍女として勤めてみませんか?侍女なのでお勤めの経験があれば私から話を通しますよ」


 私は幻聴でも聞いたのではないかと戸惑ってしまう。しかし、こんな都合が良い妄想なんて出来るわけでないと悟り、これは本当なのだと正気を戻した。正直もし本当に王宮侍女になれるとすれば、こんなに美味しい話はない。何か裏があるのではないかと疑ってしまうほどだ。でもこれを逃したら、勿論2度とこんなに良い条件はないし、それに何故か他の何かも失ってしまうのではないかと、根拠も何もないのにも関わらず、これ以上に無いほどの不安を覚えた。そのため、私は首を縦に振ってしまった。


「私は5年ほどラッセル男爵家でずっと一線で侍女として勤めて参りました。そんな私で良いと仰るなら、是非王宮侍女として勤めさせてくださると嬉しく思います」

「それだけ長く1つの場所に勤められるのは素晴らしいことですね。それなら何の文句なく話を通せるかと思います。詳しい話はまた手紙などで連絡しますので、今度ということで如何ですか?」

「はい、よろしくお願いいたします」


 まさか災難を防ごうと思って母やロゼリアに舞踏会に行くことに説得した理由が、本当に実現するとは夢にも思わない出来事だった。

 

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― 新着の感想 ―
悪夢限定で予知夢を見ると言う設定が斬新ですね! 身分差の恋愛ものは初めて読むのですが、面白いと同時に勉強になります(^^)
[一言] 仕事ゲットだぜ♪
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