新たな不気味な予知夢
「た・だ・い・ま。今1人で帰ってきたわよ」
うわ〜滅茶苦茶怒ってる。これは想像以上だ。
私がロゼリアと別れてから2時間ということは、ロゼリアと喋ってから帰ってきたのだろうけど、それでも怒りは収まらないのか。
「ぉかえり……あのねルナ。実は急用を思い出して」
「急用って何よ」
「その〜お茶買いたかったの。でも市場って17時までの所が多いでしょう。だからどうしても買いたくて」
「お茶!? そんなの後日でも良いし、なんなら前に一緒にお茶を買ったじゃない。どうしてまた新たに買う必要があったわけ?」
「どうしても欲しいロゼリアから教えてもらったお茶の銘柄があったの。その銘柄って凄く珍しいらしくて、次いつ買えるか分からないから……折角今日外に出ているしその銘柄が今日はあるのかどうしても確かめたかったわけよ」
「ふ〜ん。で、買えたわけ?」
「えぇ、買えたわ。お詫びと言って何だけど一緒に飲もう」
「…………分かったわ」
本当はロゼリアから貰ったお茶なんだけどね。でも実際に凄い珍しい銘柄で、中々売られていないみたいだし、この銘柄を調べられても問題はない。ルナがいない時に受け取っていて良かった〜。
お茶を淹れたらルナも気持ちが少しは穏やかになったみたいで、安心したわ。
「アン、勝手に帰って心配だったんだから。気をつけてよね。今回の罰は特別にこれで許してあげる」
「うん、ありがとう」
以前の嵐の時で相当心配が加速してしまったのか。今回は仕方無かったとはいえ、少しだけ申し訳ない。次は一緒に喫茶店でも行って買い物して帰ろう。
◇◇◇◇◇
それから騎士団や戦時に関わる者達の間では慌ただしいやり取りが相次いだ。
文官側では、私が大砲を持っていると言ったため、どのような経緯でどのぐらい仕入れたのか調べる者もいれば、シーモア領地の領主と連絡を取り避難させるように説得する者もいた。
騎士団ではどのぐらいの騎士達をどれぐらい配分するのか、またどうやって対応するのかなど話し合いも進み、そして次第にシーモア領へ派遣されて行った。
そうやって様々なことが一斉に進み、1カ月も経つと王宮内では戦争が始まることが完全に明るみになってしまい、皆の動揺が走っていた。
そして私の妹に関わる辛い決定もロゼリアの手紙で知ることになったのだ。ロゼリアの手紙にはこう書かれていた。
『アナスタシア・ローズ・ヴァーンズ様
最後に出した手紙は1か月前とつい最近ですが、何だか久しぶりな気がするのは気の所為でしょうか?
さて、今回伝えたいことはもう王宮侍女のお姉様ならご存知かもしれませんが、私は薬師としてシーモア領へ向かうこととなりました。
まさかの薬師としての初仕事が負傷兵の手当になるだなんて、予想だにしておりませんでしたわ。
率直に申し上げても良いですか……私は怖いです。
私達の手当てが間に合わず亡くなる方が多く出るかもしれないと思うと辛くて仕方がないのです。
でも、シーモア領には主人でもあるオールトン騎士団長も参加されますので、主人も助けるつもりで参加の決意が固まりました。
お姉様の方は大丈夫でしょうか?
お返事をくださいと言いたいところですが、私はすぐにシーモア領へ向かうので、残念ながら直後の手紙を受け取ることは出来ません。
どうかご無事であらせられますように。
こんなことならないと信じておりますが、後悔しないために書かせてください。
私ロゼリアはアナスタシアお姉様をずっと大好きですからね。
ロゼリア・ルイーズ・ヴァーンズ』
ロゼリアはどういう気持ちでこの手紙を書いたのだろう。いつもよりも文字が少し歪んでいる……震えながら書いたんだ。
怖いと書かれていたけど、本当は怖いと一言で済ませないぐらい恐怖を抱いていたのではないの。でも自分の心配ではなく周りの騎士達の心配をするのがロゼリアらしい。
薬師としての初仕事がこれはやるせないわ。私に直接伝えたいぐらい喜んでいたというのに……。神様の仕打ちかと思うほど私も辛い。
勿論そうなるのは仕方がないと分かってはいる。それが薬師としての役割だと分かってはいるけれど……。
勿論戦争が近づいているのは嫌でも分かっている。それでも妹が駆り出されると分かると、それは思っている以上に悲しい現実であると突きつけられ、本当に生死を覚悟して戦争が起こるのだと理解し、一気に背筋が凍った。
「アン、蹲ってどうしたの?」
「ルナぁぁぁ……ロゼリアからシーモア領に行くと手紙が……」
「あ、薬師としてなのね。そんなリアが……」
詳しくは何も言ってないのに全てを察してくれたルナは、その場で泣いてくれた。私はそれを通り越して涙さえ出なかったから、私の分まで泣いてくれたのだと思う。本当にルナは優しい子ね……ありがとう。
◇◇◇◇◇
実を言うとあの予知夢から私は新たな予知夢を見ることが出来なかった。
ただこの1カ月間何もしてなかったわけではない。まずダグラス様やロジャー様と共に情報収集するのを手伝っていた。それだけでなく、騎士団の方でも予知夢の情報をより的確に共有するために、あの騎士団三銃士であるデイビッド様とブラウン様、ウィルソン様にも私の予知夢能力を明かされ、彼らと作戦の一部も考えていた。
またあの2回目の告白から私は冷静にいられるのだろうかと不安になっていたが、あれから忙しくなり過ぎてそんなトキメキを感じる場面などありやしなかった。そのため、本当に戦争が近づいているのだと日に日に実感していた。
しかし、こうしてもう特に何も出来ることはないのかもしれないと思っていたある夜に私は予知夢を見た。
◇◇◇◇◇
え、人がいるわ。それもえっと……7人ね。
ここは王城の廊下? でも周りに人がいないわ……どうして?
あら、7人がバラけているわ。
あ、1人だけしか映らなくなった……彼が向かっているのは何だろう? 見たこともない扉だわ。その中に入って行った……。
あれ、今度は他の5人の視点になったわね。彼は騎士達に追われている? それぞれ杖を持って攻撃を仕掛けているわ。
◇◇◇◇◇
あれは間違いなくカラー……つまり予知夢。早く王子様かダグラス様達に伝えなきゃいけないわ。ってまだ朝の4時じゃないの。まだ時間早いし、少しだけ寝よう。
「アン、起きて!! もう7時よ」
「おはようルナ……ってもう7時?」
「アン珍しいわよね。私よりいつも起きるの早いのに全然起きる気配がないもの」
「なんで起こしてくれなかったのよ。ルナはいつも6時半起きじゃないの」
「いやスヤスヤ眠っているのに起こせないわよ。別に遅刻するわけじゃないし」
普段はそれでも良いけど、今回ばかりは不味い。少しでも早く報告しようと、7時に向かう予定だったのに、もう過ぎてる。最近予知夢を見るとすぐに疲れが出て本当に困ったものだわ。
「起こしてくれてありがとう。じゃあもう出るわね」
「アン、着替えや髪のセット早すぎ。え、もう行くの? 一緒に朝ご飯食べようよ」
今回のセットは本当に最低のことしかしてないけどね。まぁルナに何も言われなかったから問題無さそうだ。朝ご飯なんて食べる暇はもう無い。とにかく早く報告しないと。
◇◇◇◇◇
「アレクシス様、おはようございます。アナスタシアです。急用で早く参りました」
「あぁ、どうぞ」
まずは王子様の声を聞けて一安心した。やっぱり王子様に直接伝えるのが1番早い方から良かったわ。
「おはよう、アナ。いつもより早いから驚いたよ」
「おはようございます。今日は予知夢を見ましたので、少しでも早くご報告をと思いまして」
「予知夢を見たのか?」
「はい、今回見たのはきっとこの王城に入り込むリンネ国の魔法使い達で、人数は7人でした。そしてその1人は何処かの扉を開けており、そして残りの5人はその彼の行動に目を移させないためか、彼らはバラけて魔法の杖と箒をを使いながら騎士達を相手しておりました」
ずっと予知夢が見れなくてウズウズしていたけど、ようやくこれで言えた。それもかなり重要そうなことが……。これが現実に起こると思うと悲しいけれど。
でも王子様は何だか腑に落ちない表情を浮かべていた。今まではすぐに受け入れてくれたというのに。一体何が駄目だったのだろうか。
「アナ、扉は今は置いておくとして、本当に7人だったのかい? 1人は扉を向かう者、そして5人が騎士達を撒くものとしたら、合計6人となるだろう。計算が合わない」
確かに王子様の言う通りだ。私はただ予知夢で見たものをそのまま言っただけだったが、冷静に考えたら可怪しい。でも今まで見間違えたことはないのにどうして……。
でも確かに最初は7人だったし、それに扉に向かったのは1人、撒いた者は5人と、どんなに思い出しても数に間違いはない。可能性としてあり得るのは……。
「もしかしたら予知夢が途切れた?」
「予知夢が途切れることはあるのか?」
「そうですね……途切れたと言うよりももっと先を見せてくれたら良いのにというところで終わることはたまにあります」
「ならばそのパターンか。不気味だな……1人分からないだけだと言うのに」
ここまで情報を掴んだのに、残りの1人が何をしていたか分からないのがこんなにも恐ろしく感じるだなんて……。
今までどうしてもっと見せてくれないのと思ったことは多々あったけど、これほど悔やんだことはない。
「申し訳ございません。ちゃんと見れなかったばっかりに」
「いやアナは何1つ悪くない。寧ろ感謝している。とにかく彼らのことは警戒して損は無さそうだ」
「はい……」
「そんなに落ちこまないで欲しい。それより扉探しに協力してくれないか?」
「はい、勿論です。宜しくお願い致します」
王子様は気にしなくて良いと言ってくれたが、やはり不甲斐なくて泣きそうになる。そんな私を見かねたのか、王子様は立ち上がって私の傍に移動し、そして私の背中を優しく擦ってくれた。それがとても温かくて、少しだけ気持ちが晴れた気がした。




