戦争の予知夢
何で王子様が……いや別に居たって可怪しくないわよね。そんなことを考える暇があったら予知夢のことを話すのよ。
「実は先程出かけている最中で予知夢を見まして、それがとても重大なものだと思いましたので、参りました次第です」
「お願いだ……話して欲しい」
「はい殿下。非常に悲しいことですが、残念ながらやはりリンネ国は戦争を仕掛ける模様です。一部しか映っていなかったのでハッキリとは分かりませんでしたが、見ただけでも2000人ほどの軍隊が襲いかかります」
「そんな多くの騎士達が王城に来るというのか!?」
「いいえ、それが王城では無さそうなのです」
「王城じゃない? では場所は何処なんだ?」
どうしよう。勿論場所は聞かれるは分かっていた。だけど、どうしても馬車の中では思い出せなかったのだ。場所が分からないだなんてガッカリされるだろうな。この場で予知夢を見れるのは私だけなのに。
でも嘘を吐くわけにもいかないし……正直に言うしかないわよね。
「正直に申し上げまして、分からないのです。予知夢では時計塔が見えたのですが、どうしても思い出すことが出来ずじまいでして……」
「思い出せない? ということは知っているのか?」
「はい、以前国内の領地について書かれた本でその写真を見たことがありまして……ただどの本だったのかも覚えていないのです」
そうせめて本のタイトルでも覚えていれば、そこから探したら一発で分かると思ったのだけど、それも出来そうになかった。領地の図書館にあるぐらいの本だから王城の図書館に無いわけないからだ。
本当に何も思い出せないのが情けなくて仕方無かった。でも3人はそれを責めることもなく、寧ろロジャー様がこれらの本の中で取り敢えず探してくれないかと3冊ほど渡してくれたのである。
「一応国内のそれぞれの領地について説明された本を目についたものですが取り上げました。写真付きですので、それらしきものがあれば教えてください」
え〜この3冊を取り出すのに1分も掛かってないのではないと思うほどハイスピードで持ってきた。確かにここには王城の図書館ほどではないが、多くの本は揃っている。でもここだけでもかなりの本があるのに、3冊もすぐ持ってくるとは、場所を覚えているのだろうか? 流石王子様から頼りにされる副部長だ。
取り敢えずそれらしきものがあれば教えろとのことだから、時計塔の写真があったらその都度見ていかなきゃ。と言っても量が膨大過ぎて見逃しそうだけど……。
「えっと……これは明らかに形が違うし、これは……色が違う。これは……角度が違うからハッキリしないけど可能性はあるかも……。あ、でもこれもそれかも。いや、でもこれかしら?」
「さっきそれらしきものと言ったものでしたら、これやあれでしょうか? 少し角度が違うので参考になれば良いのですが……」
「ダグラス様……あ、これです!! この数字が少し斜めに歪んでいる時計塔でした」
本当に2人とも仕事が早すぎる。私は名前も言ってないのにそこから直ぐ様他の本で調べるなんて……それもすぐに当たったし。さっきの心配は何処かに飛んで行ってしまったわよ。
「そこはシーモア領か。確かにリンネ国と隣接している辺境地ではあるが」
「しかしそれでは謎が深まるばかりです。リンネ国はここ最近希少な動物ばかりを求めて密猟や戦争を仕掛けていると聞きます。キツネを密猟していた今、あと残すは王城にあるレインボーバードのみですよ」
「レインボーバードって、虹色に光輝くここでしか見られない希少な鳥で、また1℃でも環境変化が変わると対応が難しくなるという幻の鳥でしょうか?」
「アナ、よく知っているな。その通りだ」
やはりあの幻の鳥なのね。これは王城にある図書館で読んだ珍獣珍鳥図鑑で見たわ。
確かにレインボーバードを狙っているのならば、王城を狙うのが1番早いわよね。わざわざ辺境地を攻める必要はない。もしかして狙いはレインボーバードではないのかしら?
「狙いは本当にレインボーバードなのでしょうか? もしかしたらオルガ国を征服することなのかもしれません」
「でもそれだと騎士の数が少なすぎます。今までの対戦国はどれも小国だったので、人数も足りたかと思いますが、オルガ国はリンネ国の5倍ほどの領地と人口がいます。勝てるわけないのにそんな無謀なことに挑むでしょうか?」
「ロジャーの言う通りだ。あまりにもそれだとズボラ過ぎる」
確かに私の言う通り征服するのが目的ならば無謀としか言いようがない。よほどのことがない限り勝利する可能性はゼロと断言しても良いだろう。
いくら大砲を多く持っていたとしても攻撃には限界もあるだろうし、ここ最近戦い続けているならば騎士も多く集めることはかなり厳しいだろう。
じゃあ他に目的があるの? それともやっぱりレインボーバード? レインボーバードが目的で辺境地に攻撃を仕掛ける理由は……。
「もしかして、王城に騎士を置かせないことが目的なのでしょうか? 辺境地に軍隊を送ればその分軍隊は減ります。そうすれば王城に侵入しやすいと考えているのかもしれません」
「やはり目的はレインボーバードか?」
「はい恐らく。もし本当に征服するなら、舞踏会の時が1番良いと思いませんか? 騎士達は一斉に王城に集まりますし、人も多く集まりますから威嚇も出来ます。それが出来なかったのは王城の警備が厳し過ぎて侵入出来なかったからです」
「確かに筋は通っているか」
「しかし、それだと騎士を辺境地に送りすぎな気がします。王城は数人の騎士で忍び込むのですか?」
確かに目的はレインボーバードなのにどうしてあそこまで騎士を多く派遣するのかは謎だ。いくらそちらにオルガ国の騎士を多く送れるとは言え、目的を達成出来なかった意味がない。なら騎士が少なくても目的が達成出来る策があるのかも……あ。
「もしかしたら忍び込むのは騎士達ではないのかもしれません。今回の黒幕が直接奪いに来るのかも……だからこそ地図が必要だった」
「もしかして……あの魔法使いか」
「魔法使い? もしかして前に言っていたあの優秀だと仰っていた方でしょうか?」
「あぁ、その通りだ」
あの蔵に閉じ込められた時、私をスパイだと思った理由が、その魔法使いによるものだと考えていたと話をしていた。王子様の顔が一変するぐらいなのだから本当の実力者なのだろう。そんな人が加わったらそりゃ脅威になる。
「ダグラス、ロジャー、申し訳ないが、このことを他の文官達にも伝えてから帰って欲しい。彼女からの情報であることは上手く誤魔化しておいてくれ」
「「承知しました」」
2人は王子様の命令でこの部屋から出ていってしまった。私はようやく伝え終わったのだと分かり、一気に肩の荷が下りた。
「アレクシス様、私も何かした方が良いことがございますか?」
2人には命じていたから、私にも何かあるかもしれないと聞いたのだが、王子様は今は何もないと返ってきたので、この部屋から退出しようとした。
しかし、王子様は不安そうな顔でこのように質問をしてきたのだ。
「アナ……こんな時にこんな質問するのは本当に場違いだと分かっているけど…………さっきデートでもしてきたの?」
あ、そうだ服を着替える時間が無くてお洒落をしたままだった。普段何も飾らない私がこんな格好をしていたらデートだと思われても仕方ない。でも王子様には誤解はして欲しくなくて、慌てて否定してしまう。
「違います。今日は妹と会っておりまして。このコーデはルナ、いえルームメイトのテイラーにしていただきました」
「母上の侍女のルナさんか。だからセンスが良いんだな」
「ルナのことをご存知なのですか?」
「あぁ、母上が衣装の話をするとほぼ必ず彼女の名前が出てくるからね」
ルナって本当に信頼されているんだ。まさか王子様の口からルナの名前が出てくること思わなかったけど。
「恋人でもいたのかと勝手にガッカリしてしまった」
「恋人? 私は今まで恋人が出来たことはありません。元婚約者とも仲良くなれませんでしたし」
「そうなのか? 凄く意外だ」
ルナと言い王子様と言い、どうして私に恋人がいると思うのだろうか? どう見ても恋人がいそうな雰囲気を出していないのに。
それにあの意味ありげな言葉って……。
「どうしてガッカリされたのですか?」
「そりゃ好きな子に恋人がいたらガッカリするのは当然だろう」
「好きって……またそんなことを……。私はその気持ちには応えられないと申し上げたと思いますが」
「私はね、諦めが悪いんだ。こんな状況じゃなかったらガンガンにアプローチしたいぐらい好きなんだよ」
まさかここでまたストレートな告白を聞くとは思わなかったわ。この状況じゃなかったらもっとアプローチしていたなんて……こんなの毎回されたら私が耐えられない。この状況で良かった……いやいや全然良くないわ。
「アナ、いつもの綺麗なアナも素敵だけど、今回の可愛いアナも似合ってる。見れて良かった。じゃあ、そろそろ私も行くよ。アナもしっかり休んで」
もう〜言いたいことだけ言って帰るのズルい。と言っても時間があっても何も言い返せなかっただろうけど。
こんなの本当に耐えられない。あの時は1回目だったから気にしないようにも出来たけど、2回目は流石に無理だわ。明日から大丈夫かしら。
◇◇◇◇◇
はぁ〜部屋に帰ったのは良いけど、これから帰ってくるルナに対してどう言い訳すれば良いのかしら? 確かロゼリアには急用を思い出したと言って帰ったから、それに合う言い訳を探さないと。
どうしよう……あ、これからいけるかな? 無理矢理過ぎるけど……もう思いつかないし、これにかけるしかない。
もうあとはルナを待つのみよ。




