妹からの嬉しい知らせ
「そう言えばリアはどうしてルポを知っていたの? ここは隠れた名店と言われていて凄く知名度があるわけじゃないのに」
「あぁ、それは旦那様から教えていただいたのよ」
「え〜団長が!? 意外、意外過ぎる。凄い堅物なイメージがあるのに 」
「あとはラパーチェやカルマなども教えてくださったわね」
「何処も隠れた名店じゃないの。センスあるわね」
2人が知っていると言うから有名店だと思ったけど、隠れた名店だったのね。確かに騎士団長がこんな洒落た店をロゼリアに紹介するだなんて、ちょっと想像出来ないかも……。まぁ今回はルナが驚くのも納得ね。
「アン、ラパーチェもカルマもまた行こう。その時も特別に案内してあげるわ」
「別に今回は私が頼み込んで案内してもらったわけじゃないけど」
「そこは私が案内してあげたということにしておいてよ」
もう本当に調子乗っちゃって。ロゼリアの前だからってカッコつけようとしているわね。その思考は丸見えなんだから。
「お姉様のことはアンと呼んでいるのね。それも新鮮だわ」
「そうよね。私元々はアンナにしようかと思ったけど、ミナさんに取られたからアンにしたの。あ、ミナさんというのは、アンと同じく殿下の専属侍女さんよ。ミナさんは愛称で、ウェレミナさんと言うんだけど」
「やはり都市部の方では愛称で呼ぶのが普通なのね。私達は名前で呼ぶのが普通だったから」
私もロゼリアの話を聞いてなお都市部では愛称で呼び合うのが普通なのだと分かった。でも、ルナは短過ぎて愛称を付けるに付けられないのよね……ルナはそのことには不満なさそうだけど。
「まあ殿下のアンへの愛称は少し別の意味を持つけどね」
「ルナその話はもう良いじゃない」
「何でよ〜それは殿下認められた証じゃないの」
「お姉様、王太子様からは何と呼ばれているの?」
「アナよ」
「成る程、王道っぽい?」
「でも多分だけどアナと呼んでいるのは殿下だけよ。もしかしたら他の人にアナという愛称で呼んで欲しくないと思っているかもね」
「そんなわけないじゃないの。呼びやすいからそうしているだけに決まっているわ」
本当にこれ以上私をからかうのは止めて欲しい。何も考えないようにしているのに、変に意識しちゃうじゃないの。ルナはニヤニヤしているし、見事にハマってしまったわね……もう。
「チーズケーキ3つとアッサムミルクティー3つをお持ちしました」
ここでようやくメインが登場。出てきたのはベイクドチーズケーキだ。見た目はからして美味しそうね。凄くシンプルだけど目が引かれる。それでは早速いただきますか。
う〜ん、これはルナの食レポ通り、カリッとした部分と下の滑らかな部分が絶妙に舌を刺激して美味しいわ。確かにこれ以上に的確な表現は無いわね。本当にこんな美味しそうところを紹介してくれてロゼリアに感謝だわ。あ、勿論案内してくれたルナもね。本当はさせてあげただけど、そこは目を瞑るとしよう。
あとアッサムミルクティーもこの濃厚なチーズケーキに合って美味しい〜もう最高ね。
「お姉様、美味しいチーズケーキを堪能したところで、そろそろ本題に入っても良い?」
「あ、私抜けた方が良いかな?」
「いえ、この話は良ければルナにも聞いて欲しいな」
「え、本当? なら聞く聞く!!」
流石に領地のことはルナの前では言えないだろうから、きっともう1つの直接伝えたいことだろう。全く何を言われるか分からないから不安だけど、ロゼリアの満面の笑みを見るときっと良いニュースなのだと分かる。どんなことなのか楽しみだわ。
「ええじゃあ教えて」
「じゃあ伝えるね。これは是非とも直接言いたかったのだけど……実は……実は……じ・つ・は〜えへへへ」
何ニヤニヤしているよの。この不意打ちの笑みは止めて欲しい〜。こんな可愛い妹を見て興奮しない姉なんて居ないもの。
思わずその可愛さを直視出来なくて目を背けたけど、少し視線を逸らしたら周りのみんなが私達を見ていることに気づいた。というかみんなの目がロゼリアの可愛さでうっとりしている……ロゼリア、貴女はなんて罪作りな子なの。
それにしてもやけに溜めるわね。本当に一体どんなご報告なのかしら?
「なんと私、薬師になりました!!」
「「薬師!?」」
「凄すぎない。アンと言いリアと言い、何でこんなに優秀なのよ」
「いやルナも優秀じゃないの。優秀じゃないと王妃様の侍女として抜擢されないでしょ。でもロゼリア、本当に凄いわ。薬師、おめでとう!!」
「リア、薬師おめでとう!!」
薬師は確かに年齢制限はないけど、試験に希少な薬草を使ったり、数少ない薬師で判定したりするから、そもそも受験料も高くて、金持ちか才能を見込まれて出してくれないと受けられないのよね。ロゼリアも昔から薬師には憧れていたけど、受けるお金がないことで諦めていたし。
でもそんなお金、ロゼリアの給金だけで出せるものなのかしら?
「お姉様、ルナ、本当にありがとう。旦那様が受けさせてくれたお陰でなれたのよ。感謝してもしきれないわ」
成る程ね。騎士団長がロゼリアの才能を買って受験料を出してくれたと言うわけか。本当に騎士団長から可愛がってもらっているのね……少し羨ましいわ。
私の場合はそんな風にはいかないもの……そんな風になってはいけないから……。
「でも本当に2か月間ずっと詰め込んでいたから大変だったわね。その分ちゃんと受かって嬉しいわ」
「薬師の勉強は普通の勉強の倍では効かないと聞くけど……王宮侍女の試験対策で手一杯だった私には到底無理な話ね」
王宮侍女だって普通に試験があって簡単に入ることは無理だ。私が本当に特例だっただけで……うぅやっぱりこんなに真面目に受けた人の前だと、事情はあるとはいえ忍びない。
でもそんなの比にならないほど難しいのは薬師試験。そもそも受験を出来たところで、合格するのは数人だけで、下手したら1回の試験で合格者が出ないこともあるとかなり低い。それも見込まれて受ける人達ばかりでの合格率である。それほど薬師は厳しくて責任もあるから簡単にはならせてくれないのだ。その分、給金は王宮侍女なんか比べて数倍高いだろうけど。
あと、大抵この試験に合格するのは30代以降と言われている。10代で薬師になったのは本当に数えるほどしかいないはずだ。
確かにロゼリアは昔から植物については凄く関心があって、その知識量はロゼリアよりも右に出る者は今まで見たことなかった。凄い子だとは思っていたけど、まさかここまで凄かったなんて……。
それにしても2か月間ってロゼリアが侯爵家に勤めてからすぐじゃないの。そんな短期間でロゼリアの才能に気づいた騎士団長も凄いわ。騎士団長だから洞察力は人一倍優れているのかもしれないけど。
「じゃあこれから薬師として働くことになるのかしら。だと侯爵家のメイドは辞めるの?」
「まさか辞めないわよ。だって雇ってくれた恩すらまだちゃんと返せていないのに、ましてや薬師になる機会を与えてくれた恩はまだ1ミリも返せていないもの。薬師としても働くけど、基本的にはメイドよ」
いくら憧れの薬師になったとは言え、あれだけ侯爵家での生活が楽しそうだものね。たった3か月間で辞めるのはロゼリアにとっても悲しいことではないかと思ったけど、それは杞憂だった。無事にそのまま働けそうで良かったわ。
今度騎士団長に会った時にはお礼を言わないと。
「お母様とエラちゃんにはもう伝えたの?」
「いいえ、まだ伝えてないの。その……手紙で先に言うべきか直接言うべきか迷って現在に至るって感じ。お姉様、私どうしたら良いのかしら?」
「もうここまで来たら直接伝えたら良いんじゃない。どうせすぐまた帰るでしょう」
「そうね……じゃあ直接伝えるわ。相談に乗ってくれてありがとう」
こんなところで悩むのがロゼリアらしいわね。私の場合はすぐに会えるから直接伝えることに戸惑いは無かったのだろうけど、お母様とエラはすぐに会えない分、ほんのさっきまでずっと悩んでいたことが容易に想像できる。
これでもう流石に吹っ切れたわよね。
「あの〜ルナ、これからはお姉様とだけと話したいことがあるから、その……」
「あ、そうなのね。なら私は席を移動するわ。アン、あっちの席にいるから、帰る時にはちゃんと呼んでよ。私を置いて帰ったら罰として何かしてもらうからね。絶対よ」
「何でそんなことで罰を受けないといけないのよ。それに置いてなんかいかないってば」
「分かれば良いの。じゃあ後でね」
ロゼリアが言いにくそうに言葉を詰まらせると、ルナはすぐに察して席を立ち上がった。状況把握が速い。
それにしても何よ罰って……子どもじゃないだからら。あぁ〜本当に構ってちゃんで困った人だ。
あ、席を移動したら早速何か注文している。流石に注文無しで席移動は出来なかったか……。
その件に関しては少し申し訳ないけど、そもそも付いて来たのはルナだしね。
まぁ確かにあれだけ離れていればルナには聞こえないだろう。そこは安心出来そう。でもこの後の話は間違いなく領地の話だからもう不穏しかないのだけど……。
それでももう覚悟して聞くわよ私。