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侍女の過去の婚約事情


「私は今まで1度も彼氏は出来たことないの。元婚約者ともそんな恋人みたいなことしてなかったし」

「アンには婚約者がいたのね。やっぱり貴族って婚約者がいるものなんだ。でも婚約解消って……没落したから……あ……」

「そんなんじゃないわ。そもそも婚約していたのは没落した後だし。まあ相手は貴族令息だけどね」

「凄く気になるんだけど、話聞くことは可能?」

「まあ別に話しても良いけど、全く面白くないわよ」

「そう言われると逆に気になるから是非聞かせて」


 何故こんな流れになってしまったのか……でもルナなら聞くまで納得しないだろうし、軽く話してその後すぐに寝ることにしよう。



 私のところに婚約の話が来たのは17歳の時、成人して1年と早いところならもう結婚している年頃だ。もともと身分も高くなく現在は庶民である私のもとに婚約の話が舞い込んでくるとは思わなかったため、この時は何事かと本当に疑った。

 縁談相手はなんと現在ヴァーンズ領地を治める子爵の令息。理由は将来領主の夫人として経営に関わるようにしっかりと教育をされていたため、是非私に嫁いで欲しいとのことだった。

 また今回この縁談が来たのは、母とロゼリアが子爵家で働いており、信頼関係もあるからだ。ロゼリアに話が行かなかったのは、経営の勉強をしていないからだろう。そこで私に白羽の矢が立ったようだ。

 私は貴族令息と婚約するとは没落してから考えてこなかったものの、こういう利害一致での婚約は男爵家の長女の時から身を構えていたため、それが領地のためになるならばと躊躇わずに縁談を受け入れた。

 

 領地のことを勉強している私は、次期領主の妻としての勉強をする必要がなく、することと言えば婚約者と仲を深めることだった。

 そのため、ある程度の信頼関係を築こうと、一緒に出かけるように計画を立てたり、彼の仕事を手伝おうとしたりした。しかし蓋を開ければ、彼はいつも約束を放り出して1度もまともに話したこともないわ、そもそも今は家族でもないお前が関わろうとするなと突っぱねるわと、私への興味を微塵も示そうとしなかったのだ。

 でも貴族との結婚だと愛がないのは珍しくはないので、そこの面に関してはかなり苛立ちは感じていたものの、半ば諦めて次期子爵夫人としての役割を全うしようと決めた。


 この時はまだ私を蔑ろにするだけだから良かったのだが、彼はそれだけに留まらなかった。彼は領地から入ってきたお金で酒や女に充てようとし、挙句の果てには子爵や母の承諾もなく、勝手に婚約破棄だと叩きつけられたのだ。

 流石に私もこれには耐えきれなくてこっちから婚約破棄を正式に申し立ててやると思ったところ、子爵が跡を継がせることもないし、この領地には一切手を出すなと喝を入れたのだった。

 この時子爵からはこのどうしようもない愚息と結婚させようとしてしまい本当に申し訳なかったと謝罪をされて、賠償金も多く払われた。と言ってもその賠償金も2年で家の維持費で使い切ってしまったが。

 こうして、私の婚約は自然消滅してしまい、未だに婚約者もいない独身と、行き遅れになったのだ。まあ別に結婚に願望なんてないからそこは全く気にしていないのだけど。

 だけど誰よりも嫌いであり、私の1番の黒歴史を作ったあいつを一生許すことはない。


「本当に大変なことが続いてばかりだったんだ。アン、こんな辛い話をさせてごめん。でもどうしてここまで酷い目に遭っているのよ……」

「確かに私は家族に恵まれたこと以外はあまり恵まれていないかもしれないわね。父は2人亡くなるし、婚約も破棄になるし……だからこそ今ここで働けるのが幸せだなって思うの」

「アンの話を聞いて貴族がイメージが変わったかも」


 私の人生は貴族庶民関係なく良いとは思わないが、私の人生がルナにとってどのように貴族のイメージが変わったのか気になり首をかしげる。そのことに気付いたルナは少し顔をうつむきながら話してくれた。


 ルナのところは、本当に絵を描くような普通の家で、贅沢が出来るわけではないけれど、普通に働いていれば生活に困ることもなかった。そして、ルナも幼い頃はずっとこの領地で暮らして16歳か遅くても17歳ぐらいには家庭を築くものだと思っていたらしい。

 だけど14歳の時にあまりにも平凡過ぎて全く刺激が無かったことに不満を覚えたルナは、スキルも高められて、多くの貴族や平民と関わりを持てる王宮侍女を目指し、一発でクリアしたとのこと。

 王宮侍女は頑張って対策したら受かる自信はあったが、まさか1年で王妃に気に入られてそこで勤めることになるとは夢にも思わなかったと、笑いながら話してくれた。


 その話をしてくれたことで、ルナが感じたことが分かった気がした。きっとそれは……。


「貴族って私達よりも裕福で幸せな幼少期時代を過ごしていると思ってたんだ。だけどやっぱり家庭それぞれで事情って変わるんだね」


 平民から見ると貴族ってだけで金持ちと思う人は多い。また婚約相手も最初から決まってきて将来安定していると考える人も少なくない。きっとルナもその1人だったんだ。

 

「そもそも最初は貴族ってだけで一生楽に暮らせると思っていたのだけど、ここに勤めてみんなそれぞれ大変な業務をこなしていると分かって、そこから改め直したのだけどね」


 ルナは本当にそういうことも含めてここに学びに来たのだろうなと感じた。そういう前向きな姿勢になお好感を持つ。


「アン、話を戻すのだけどルポなら私が当日案内するわ。勿論案内したらすぐに去るから安心して」

「でもそんな申し訳ないわ」

「良いの良いの、是非妹さんに会わせてよ。挨拶したい〜」

「そっちが目的でしょう……なら言葉に甘えるわ」

「やったー!!」


 確かに私よりは年下だが、立派に成人している彼女が無邪気に燥いでいるのは子どものように見えた。まさかロゼリア会いたさでここまで喜ぶとは……驚き半分嬉しさ半分と言ったところだろう。


「そうだ折角アンの妹さんと会うのだからお洒落しないと。あ、アンはどのコーデで行く予定? ちょっと参考にするわ」

「え、たかがロゼリアに会うだけでそこまでする必要ないでしょう。私は普通の私服で行くわよ」

「え〜、折角ならお洒落しようよ。こうなったら私がコーディネートするわ!! 私はコーディネートのセンスの良さを買われて王妃様付きの侍女になったのだから、そこは安心してちょうだい」

「それで王妃様付きの侍女になったの……凄いわね。それなら安心だわ……って別にそこまでしなくて良いって!!」


 結局ルナはやる気スイッチがオンになったようで、彼女を止めることは出来なかった。こうして次の日は、なんと仕事が終わるとすぐにルナと一緒に出かけることになったのである。

 ルナは私がお金を払うから気にしないでと言われたが、いくらなんでもそれは私の服を買うのだから、流石にそれは私が払うと阻止した。

 ルナは不満そうながらも、楽しそうに服を選び始める。


「アンは背が高くてスラッとしているから、基本的にどれを合わせてもキマるのよね。でもどうせなら普段しなそうなコーデにしてみようかな」

「いや冒険するのはちょっと……私はもう20よ」

「そんなに年を気にしなくても良いのに」

「気にするものなの」

「分かったわよ……それならいつもよりは明るめででもしっとりとした服にするわね」


 ルナのいう冒険は危険な匂いしかしないので、ちゃんと釘を刺しておいた。本当なら落ち着いた色が良いのだが、ただそこは叶いそうもない。


「アンこれはどうかしら? 淡いピンクが乗った明るめの水色のドレス。花柄も小さくて派手さはないし、可愛くてアクセントになっているわ。そして丈も膝下と大きな露出はしていないけど、少し見える美脚で魅力的よ」

「それって……素敵ね」


 最初はちょっと明るすぎないかと忌避したくなったけど、それでも私が着れそうなぐらいの可愛いワンピースを選んでくれて嬉しかった。

 正直こういう感じの服は着たことがないため、客観的に見て似合うかどうか想像がつかないが、優れたコーディネートセンスで抜擢されたルナが似合うと言っているのだから問題はないのだろう。

 何だか幸せ……そんな風に感じている自分に驚いてしまう。こんなに大変な状況にも関わらず一息抜こうとしていることに呆れながらも、たまにはこういうことも許されるのだろうかと楽しみたい自分がいた。


「あとはパンプスとイヤリングと……いやここはカチューシャの方が良いかしら。アン、次の店に行くわよ」

「まだ行くの?」

「当然よ。早く買って!!」


 その後実際に靴屋へ行き、雑貨屋へ行きと合計で3軒を巡ることになり、その度に商品を買っていたのだ。私はただルナについていくことしか出来ず、少し疲れたが、ルームメイトにコーディネートされるのは気分が良かった。

 その後コーディネートが終わったらそのまま帰るのかと思ったら、そのままお買い物へ移ることになる。そしてその買い物でも様々なものを買い、楽しんでいたらあっという間に時間が過ぎていた。

 結局夜8時に帰ってくると、ロゼリアからの手紙が届いており、その日で大丈夫だと返事が来たので、こうして4日後にロゼリアと会うことになった。



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― 新着の感想 ―
アンとルナ、互いの生い立ちやこれまでを語り合うことで、互いをより理解し合うことにつながったようですね。 ルナのことや自分のことを、落ち着いて冷静にみている主人公が印象的でした。また、二人で行く買い物…
微笑ましい( ˘ω˘ )
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