表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/33

王城での探索


 私達は通勤として馬車を利用しているため、馬車に乗ること自体は慣れている。しかし、家から王城まではかなりの距離があり、また多くの馬車で立て込んでいたため、思った以上に時間がかかってしまった。

 正直元々は舞踏会当日の早朝に出発をしようと思ったものの、いつもに増して時間がかかるという予想をし、また少し早めに着いて王城でどんな危険があるのか探りたかったこともあり、舞踏会前日の夜に向かうことにしたのだ。

 その判断は正しかったのだと分かり安堵するものの、その分長い間馬車で過ごすことになった2人には少し申し訳なく感じてしまう。

 2人の倦怠感が見られるのが、その気持ちを増幅させた。

 私も2人と同じくすでに少し疲れているのだが、来るだけが目的ではなく、これから起こるであろう災難を最小限にするために来たのだからと、気を起こさせる。

 馬車が止まると、私達は御者にお礼を言って馬車から降りる。すると、目の前に映ったのは、多くの参加するご令嬢と大変大きな王城だった。


「お姉様、王城ってこんなに立派なのね。想像以上だわ。本来なら首をあちこち動かして全般的に見たいと思うほど興味が惹かれるわ」

「私もよ。こんなに大きいなんて、思わなかったわ。これは大変そうね……」


 私達は王都には何度も訪ねたことがあるものの、王城に入ったことも、近づいたこともない。血筋が良い子爵家の令嬢であるエラですら訪ねたことがないのだから、歴史の浅い男爵家の私達が訪ねたことがないのは当たり前と言えば当たり前だった。そのため、初めて見た立派な王城にはお互いにため息をついてしまう。


「確かにこれは会場まで行くのでさえ大変そうね」

「え? あ……あぁそうね。移動大変そうだわ」

「お姉様、そんなに慌ててどうしたの? 少し様子が変よ」

「えっと……なんかこんな立派なところで出会いを求めに行くのだと思うと緊張しちゃってね」

「お姉様が取り乱すなんて珍しいわね。でも緊張するの分かるもの。私も同じよ」


 あぁ、危なかった。これから王城で物騒なことが起こるかもしれないなんて、言うわけにはいかないもの。これ以上不安にさせては駄目だわ。

 それにしても、こんなに不安を抱えるのは初めてだ。何が起こるか分からないことが、ここまで不安に感じるなんて知らなかった。今まで恐ろしい現象を何度も見たというのに、それらよりも怖さを増すのが不思議だった。



 招待状を門番に渡して許可が下りると、私達はそのまま続く長い階段を少しずつ登っていく。もうこれだけで疲れてしまいそうだなと思いながら足を進めていると、後ろからロゼリアが声を上げたのが聞こえて、条件反射で振り返り、ロゼリアを抱き支えた。


「お姉様、ありがとう。ヒールなんて普段履かないから躓いてしまったみたいなの」

「ロゼリアが怪我していないなら良かったわ」


 慣れないことをさせてしまったばかりに、こんな目に遭わせてしまい本当に申し訳なかった。それにロゼリアばかりではなく、同じ状況下にある母にも同じ気持ちが募った。


「ロゼリア、少し髪が崩れた……って髪飾りが無くなっているわね」

「え、本当だわ。お母様……私、落としてしまったのかしら?」

「でもそう言えば階段を上がっている時には髪飾りが無かったような気がするわ……」 

「ってことは、あるのは馬車の中ってこと? なら取りに帰らないと。お母様、お姉様、後で合流するから先に向かっていて」

「ロゼリア、ちょっと待って……ってもう行っちゃったわ」


 確かにあの髪飾りは、父がロゼリアにあげたお気に入りだもの。もう今では形見だから、取り戻したい気持ちは分かるものの、あれだけ多くの馬車から髪飾りを見つけるなんて無謀な気がする。

 それにしても、人混みに紛れて何処にロゼリアがいるのかもう分からないため、仕方がなく私と母は会場に戻ることにした。



 会場に辿り着くとそこはもう異世界だった。

 少し視線を上に向けるとキラキラと輝く大きなシャンデリアが多く上に存在し、壁の端には大量のそして多種類の美味しそうな料理がズラリと並んでいる。そして、これでもかと着飾ったドレス姿の令嬢が群がり、すでに様々なところで談笑していた。また、殆どの令嬢が宝石を身に着けているため、シャンデリアの光が反射して、会場全てが光り輝いていた。

 こんな豪華で鮮やかな光景は初めてで、何もかもが圧倒されてしまう。私よりも冷静沈着な母も私の同じく息を呑んでいた。

 何とか見栄えのするドレスを繕ってきたものの、その努力の差が嫌でも伝わってきて、戦慄きすら覚えてしまう。私は誘導して母やロゼリアに、繋がりを求めてここに来させたものの、私のように怖さを感じさせてしまったかもしれないと思うと、再び後悔が募った。本来なら1人で来た方が良かったような気もするが、私だけが行く言い訳が思いつかなかったからと、ここでも言い訳してしまい少し自分に腹を立ててしまうのだ。せめて2人が嫌な思いをしなければ良いなと願うばかりだ。

 それにしても、今はここでウジウジしている場合ではない。早く異常を見つけて対応しなければならないのだから。


「お母様、少し緊張して今は人と話せそうにないので、少しだけこの会場から離れます」

「アナスタシア、大丈夫なの? 帰らなくて平気?」

「ちょっと気を落ち着かせたいだけですから大丈夫です」

「……分かったわ。無理そうだったら遠慮せずに言うのよ」

「はい」


 確かに驚いたのは事実だが、だからと言って別にこのままコミュニケーションが取れないということはない。そのため、嘘を付いて母を心配させることには少し心を痛めるものの、もう数え切れないほど嘘を吐いているため、変な意味で慣れていた。

 それに今回はいつもと違い、この後何が起こるかは全く持って分からないのだから、原因を見つけないと。

 そのため、私は可能な限り続ける範囲で一通り王城を見渡すことにした。


 ◇◇◇◇◇


 この広い王城を時間を掛け、あらゆるところを見渡して原因の探索を続けるも、ただ分かるのはこの王城がとても手入れされていることぐらいで、全く持って何処に何が異常あるのかは分からなかった。

 また誰か変な動きをしていないかも同時に見ていたが、こちらも分かったことは、それぞれテンションが高いだけで、誰一人も変な動きや表情はしていない。寧ろ私の方が不審者だと思う。

 ただ私の場合は地味すぎるせいか、全く誰にも変な目で見られることなく探索は出来たため、そこばかりは安心していた。

 と言うものの、本当に分からずにもうお手上げだ。もしかしたら、本当に今回ばかりは何も無いのかもしれない。でも、それならそちらの方が良いに決まっている。あの予知夢が気がかりなものの、今回ばかりは手を引いて会場に戻ることにした。ただし、この後に良くないことが起こるかもしれないため、警戒だけはしておこうと心に留めておくことを決めた。


 会場に戻ると、母は付き添いで来たマダム達と打ち解けており、柔らかな表情をしていた。ただ無理をしている可能性もあるため、そうではないことを祈るのみだ。

 また、ロゼリアはまだ会場には来ていなかった。いつになったらロゼリアは戻ってくるのだろうとかと不安になり、探しに行こうとした時に後ろから私に声がかかった。


「お姉様、今大丈夫? 」

「ええ、大丈夫よ……ってやっぱり髪飾り見つからなかったのね」


 ロゼリアの姿を見て安心したものの、髪飾りは見つけることが出来なかったのだと知ると、無理だろうなと分かっていても、やはり悲しくなってしまう。大切な髪飾りを無くさせてしまって申し訳ないとも思った。


「ええ、すぐには。でも優しい騎士様が見つけて届けるから行っておいでって言われたの。だから来たわ」

「もしその方に会っていなかったらまだ探していたのね」

「ええ、騎士様にも怒られたわ……危機感が無いって。探すのに夢中でそのことすら欠如していたわね」

「本当に……」


 その言葉の続きとして、困った妹ねと言おうとしたものの、自分が言える立場じゃないなと気づき、ぐっとその言葉を押し込めた。

 

 

 まだ時間があるため、ここは折角だから繋がりを求めてロゼリアと共にグループに入れさせてもらおうと、声をかけて話に交えさせてもらった。最初は自己紹介から始まり、そしてこれからもっと話をしようとした矢先に、周りがざわめきだし、みんなが端に避け始める。これから舞踏会が始まるのだと分かり、私達も端に移動しながらも、私はこれからやはり何か起こるのだろうかと不安を抱えていた。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
髪飾りは何か予知夢と絡むのか、騎士が絡むのか分かりませんけれど、何となく関係してきそうでついつい細かい描写をチェックしてしまいます。 一体何が起こるのかのハラハラ感がありますね〜。 追伸:地の文で「…
[一言] ドキドキ( ˘ω˘ )
[良い点] アナスタシアの予知夢、今まではあまり良くないことが続いてきた中で、今回の舞踏会では何が起きるのか、とても気がかりです。 また、ロゼリアがなくした髪飾りの行方も気になりますね。 アナスタシア…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ