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侍女の能力を告げた理由


 しっかりと食事も睡眠も取り、特にカラーの夢を見ることもなく、いつも通りに仕事へ向かう。ルナにはまだ休んだ方が良いのではないかと心配されたが、私はいつも以上に元気な姿を見せると、ルナも安堵して素直に見送ってくれた。また、ミナさんにも挨拶すると、先程と同じように心配されたが同じように対応し、無事にいつもと同じように仕事へ取り掛かった。

 ただ今回違うのは、午後2時までに王子様の執務室に向かわなければならないということ。そこだけは気をつけながら、少し緊張感を持って10分前の1時50分に執務室へ足を運んだ。


「アナ、こんにちは。少しは休めたかい?」

「アレクシス様、こんにちは。はい、十二分に休ませていただきましたので、問題はございません」


 その返事を聞いて安心したのか、王子様の頰が一気に綻んだ。そんな美形スマイルなんか目の当たりしたら心臓に悪いのでやめて欲しいが、同時にそのような顔を崇めることが出来て嬉しいという気持ちもあった。

 このままではいけないと、気を取り直して話を進めることにする。


「アレクシス様、午後2時に集まるよう仰りましたが、わたくしはどのようにすればよろしいのでしょうか?」

「アナは今はそこで立っているだけで良いよ。いや、座った方が良いかな」

「いえ、このままで大丈夫でございます」


 確か王子様は誰かに私の能力を明かしたいと言っていたから、きっと明かす相手は立派な方で間違いないだろう。そのような方の前でたかが一侍女である私が座っていて良いはずがない。王子様は座ったら良いのにと言ったが、私は先程よりも丁重に断りを入れた。


 ――――トントントン


「殿下、ダグラスとロジャーです。入室してもよろしいでしょうか?」

「あぁ、入ってくれ」

「「失礼致します」」


 入ってきたのは、またまたイケメンのお二人。この王城にはイケメンしかいないのではないかと思うほどの頻度でまた新たなイケメンと出会うことになってしまった。まあ、王子様の方が断然格好いいけどね。


「アナ、左にいるのがダグラスで、右にいるのがロジャーだ。2人とも情報機密部の者だ」


 2人は王子様の紹介に大変動揺していた。私も彼らのことは知っていたが、それはあくまでも上級文官としてであり、そんな具体的な部署までは知らなかったのである。まあ、文官の中でも2人は侍女の間でも人気であることは、例の通りルナから知っていたのだが……。2人の反応から鑑みると、きっと一般的に伏せている内容なのだろう。しかし、彼らは王子様に問い質すつもりはないようだった。


「初めまして。殿下から紹介されました通り、私は情報機密部の部長を務めております、コリン・ジョセフ・ダグラスと申します」

「私は情報機密部の副部長を務めております、サイラス・ドミニク・ロジャーと申します」


 殿下が私を紹介したからなのか、彼らは即座に私に対して挨拶をしてきた。それならば私も挨拶を返さなければならない。


「アレクシス殿下のもとで侍女として務めております、アナスタシア・ローズ・ヴァーンズと申します。ダグラス様、ロジャー様、本日はどうぞよろしくお願い致します」


 挨拶の言葉を交わしたら、手を前で重ねて添え、そして45度ジャストで綺麗に腰を折り曲げる。これは男爵家の侍女時代から修得していることなので、何の問題なくやってのける。2人は私の挨拶が終わると、よろしくと返していた。

 そんな挨拶を終えたタイミングで王子様が話を切り出した。


「昨日王城に侵入した男3人組の証言で、隣国のリンネ国が王城、もといオルガ国へ侵略を企てていることが分かった。だが、それは彼女の力があってこそだ」

「彼女のお陰?」

「すぐには信じられないかもしれないが、どうかこのことを受け入れて、また口外しないで欲しい」

「はい、分かりました。お話を聞かせてください」


 王子様は早速私のことを2人に紹介するようだ。2人からは何故この侍女が関係あるのか勘ぐった目を向けられ視線が痛いが、私は表情を崩さず無表情のまま王子様の話を聞くことにした。


「早速彼女の正体を明かそう。彼女は予知夢能力持ちの聖女だ」

「聖女? 魔法使いや魔女は殿下を含め王族にいらっしゃいますが、聖女がこの国にいるだなんて聞いたことがありません!!」

「そう声を荒げるな」


 ダグラス様の反応は当然のものだった。流石に貴族で上位文官として勤める2人は王族が魔力保持者だと知っているだろうが、聖女はこの国ではいないとされているのが通説なのだから、信じられるわけないのだ。


「具体例を挙げようか。まずフランクの怪我が大事にならずに済んだのは、彼女が怪我している彼を見つけたからだ。あの時は舞踏会中であの場所に近づく者はいなかったのに、彼女があの場所に向かったのは予知夢でフランクが怪我するところを見たかららしい」

「そんな馬鹿な」


 フランクというのはブラウン様のことである。あらは間違いなく予知夢のお陰で素早く助けることが出来たのだが、やはりこれだけでは根拠は弱いようでロジャー様は信じ切れずにいた。


「あとは……2人は32年前の大凶作を知っているか?」

「それは勿論存じ上げておりますが、それが何の関連があるのでしょうか?」

「今から32年前にオルガ国の複数の領地で小麦の大凶作に見舞われたものの、カペル商会が事前に近隣国から大量の小麦を購入し、そして各領地に格安の値段で売りさばいて飢餓を救った店主がいたのだが、その孫が彼女だ」

「え、もしかしてその店主の奥様が聖女?」

「その通り、店主の妻が生粋の聖女だったんだよ。そして、彼女はその聖力を受け継いでいる」

「あれが聖女の予知夢のお陰だなんて……」


 2人とも話を飲み込むのが早いようだ。まさか王子様から言われる前に正解にたどり着けるだなんて驚きである。ただまだ私が聖女だとは決定打にはならなかったようで、信じ切れずにいる。


「あとヴァーンズ領地は分かるか? そこが彼女が住んでいる場所だが、ここ10年ほど災害などの助成金をほぼ出していないだろう? それも彼女が予知夢により予想される災害を未然に防いでいたからだ」

「まあ確かにそれを全て合わせて考えると、まあ聖女なのも納得ですね」


 ここでようやく2人は、完全にとまでは行かないものの納得はいったようである。正直私的には、どんなに説明しても無駄だと心の中では思っていたので、少し意外だった。ただ他の場所では聖女もいると分かっていることから、納得に至ったのだろうと感じた。

 それにきっと私の髪が黒髪であることも納得した理由の1つだろう。まずこの髪は異国の人の血が流れていないとこの髪はほぼいないだろうから。実際にこの髪色は異国の祖母譲りである。

 ただやはり何故そこまでして聖女の存在を、私の存在を2人に認知させたいのか、この時はまだ分かっていなかった。


「アナ、改めて確認したいのだけど、最近高頻度で予知夢を見ているんだよね?」

「はい、仰る通りです。今までは多くても年に3回ほどで、どれも次の予知夢を見るまでに数カ月は掛かっていたのですが、今回は2ヶ月で3回、もっと言いますと今年の初めにもヴァーンズ領地での予知夢を見ましたので、今年でもう4回になります」

「その理由は心当たりある?」

「それはほぼ間違いなく、この国に危機が迫っているがゆえに予知夢を頻繁に見るのかと思われます」

「じゃあこれからもすぐに予知夢が訪れる可能性はあると思うかい?」

「それは可能性は十二分にあるかと。私の予知夢は不吉な前触れなので無い方が良いのですが、今回ばかりはそうはならないでしょうから」


 さっきまでは2人と話していたのに、急に私に話しかけてきたから驚いたが、倉の中で確認したことをより詳しく尋ねている。そこまで詳しく知る必要はあるのか疑問に思ったが、途中からそれは2人にその予知夢の現状を知ってもらうためだと気づいた。

 2人は相槌を打ちながら私達の会話を最初から最後まで聞いていた。


「アナ、この状況だと私は今までのように勤務をすることが出来ないだろう。多分ここに来られない日も増えてくるし、私に会わない日もある。そんな時に予知夢を見たら、2人のどちらかに予知夢の内容を告げて欲しいんだ。絶対にどちらかは王城にいるから。2人も何かあったら彼女の話に耳を傾けて欲しい」

「「「はい、承知致しました」」」


 まさか王子の頼み事に対して、ここまで綺麗に揃って全く同じ返事を出すとは思わず驚いたが、それ以上に2人が受け入れてくれたことに安堵した。

 きっと王子様の命令に背くことが出来ないというのが1番大きいだろうが、流石に嫌そうな態度を表面的に出されると、気分が沈んでしまうのでそうならなかったことへの安堵である。

 

 それにしても、これから私は予知夢能力者として隣国の企てに対策する側として参加することとなる。舞踏会の夢を見た時にはこんな展開になるだなんて思えるわけない。成り行きでこんな重役を任されてしまい、正直怖さしかなかった。もし万が一国全体が殲滅している予知夢なんて見てしまったら、実際にそうなってしまうのだから。

 今までは対処が可能な予知夢しか見てこなかった。だけど、予知夢の頻度が一気に増えたり、その場で倒れて短い夢を一瞬見たり、また自分の行動した後のことが予知夢になったりと、体験したことが次々と起こっているのだから、油断なんて出来ない。

 ただ私は自分の予知夢がどうか国と国民を救う手立てに少しでもなるようにと、今は祈ることしか出来なかった。



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― 新着の感想 ―
もう少し疑われるかと思いきや、王子への信頼の高さですんなり受け入れられましたね。 今後は対処のスピードも上がる反面、アナにもリスクが増えそうです。 王子のアキレス腱に見立てられ、敵勢力から狙われる事…
聖女の予知夢、そのことが王子から語られていく場面から目が離せませんでした。そして、ダグラスとロジャーとともに、国を守るために。大きな仕事になりそうですね。 舞踏会の夢から、物語のスケールがどんどん広…
まさしく聖女ですね( ˘ω˘ )
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