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蔵の中での一夜を終えて


「アレクシス様、改めましておはようございます」

「うぅ〜、アナ改めておはよう。もう1時間経ったのか……」


 やはり1時間ぐらいでは、眠気は全く取れていないらしい。本来であれば寝かしてあげたいほどだが、もう門も開く時間だし、そうもいかないだろう。王子様も寝具を魔法で仕舞って、備えているようだ。


「アレクシス様、私はこの棚の後ろに隠れておきますね。暫くしたら他の方と混じって外へ出ます」

「え、何でそんなことする必要があるの?」

「流石にアレクシス様と一緒に一夜を過ごしたとなりますと、あらぬ誤解を生む可能性もあります。また私は部屋に出かけてくるとメモを置いております。ルームメイトは、私は出かけた途中で嵐に遭い、部屋に戻ることが出来なかったと思っているはずです。すぐに帰ったら変に思うでしょう」

「確かにそうか……」


 いや一緒にいた方が不味いだろうと、その場で一蹴したくなったが、何とか抑え込み丁寧に説明する。

 まさか一緒に出ようとしていたとは驚きであった。しかし、ちゃんと受け止めてくれたようで安心する。


「ならば人の出入りが始まった頃に、こっそり抜け出してくれ。その後はミナの所に行って、昨日の嵐で体調を崩したから休むと伝えて欲しい」

「そんな休むだなんて……普通に仕事は致します」

「いや、凄く疲れているだろう。今日は寝た方が良い。これ以上体調を崩されても困るから。あと今日は色々しなくちゃいけないから、アナがいない方がやりやすいんだ。分かって欲しい」

「…………承知致しました。それではお言葉に甘えて休ませていただきます」


 まさか休むように言われるだなんて夢にも思わなかった。前回の職場では、体調が悪くて1日休もうとしたらその月の給料が半額になったり、体調が悪そうに勤務するとそんな不快な顔を見せるなと怒られたりと、心配なんてされなかったからである。

 王子様の方が間違いなく疲れているし、これからの疲労も溜まっていくのに、私の身体の方を大切にしてくれた。そう考えると一気に胸の鼓動が上がってしまう。私はこんなにも恵まれて良いのだろうかと、疑いたくなるほどだ。

 しかし正直に言って、完全なる寝不足のせいで現在眠気があるので、この申し出は有り難かった。


「その代わりと言って何だけど、明日は午後2時に執務室に来て欲しい。そこでアナの能力も一部の人に明かしたいのだけど、お願い出来るかい?」

「どうして私の能力を明かす必要があるのでしょうか?」

「もしアナの予知夢がこれから大きく影響してくるとなると、その都度隠さなければならないけど、ずっと隠し続けるって難しいだろう。変にアナに疑いが行くなら最初から明かした方が良いと思うんだ」

「その件についても承知しました。昼過ぎに向かえばよろしいのですね」

「あぁ、ありがとう」


 今まで自分の能力を明かそうという発想が無かったので、王子様からの提案に戸惑わずにはいられなかった。

 だけど、明かした方が良いと言うのであれば、明かした方が良いのだろう。

 きっとだけど、まだこれからも予知夢を見そうな気がする。正直どう反応されるのかは少し怖いけれど、この能力を知ってもらって役立てるならそれで良い。

 さてと、もうすぐで扉が開く時間だ。そろそろ私は隠れないと。


 ◇◇◇◇◇


 ――ギィギィーーー


 あ、隠れること約10分。ついに扉が開き始めた。管理長が扉を全て開けようと中に入った瞬間、王子様は彼の元へ駆け寄ったのだ。


「殿下!?」

「静かに。エドワード、ここの扉に鍵をかけた振りをして、すぐに騎士達を3人4人連れて来てくれ。理由は後で言うから今すぐに」

「あ、はい。承知致しました」


 管理長は驚きを隠すことが出来ないものの、王子様からの命令とのことでその言葉のまま従い、すぐに扉を閉めた。

 その後は多分騎士団の所に向かっているのだろう。この倉庫からだと騎士達が待機している所までそこまで遠くはないだろうから、そこまで時間は掛からないはずだ。



 約5分後、管理長は騎士達を連れてやって来た。彼らも戸惑いがあるようで、王子様に小声で早速用件を聞く。


「殿下どう致しましたか?」

「あぁ、昨夜この王城の敷地内に不審者が入った」

「不審者!? そのような報告を聞いておりませんが」

「声を抑えろ。取り敢えずそのことについては後で話す」

「不審者はまだこの王城の中に残っているのでしょうか?」

「あぁ、この近くに隠れている模様だ。今すぐに不審者3人を捕らえろ」

「捕らえた後はどう致しましょうか?」

「捕らえた後はすぐに牢に連れていけ。その後のことはのちに指示する。今すぐかかれ」

「「「「はい」」」」


 顔は見てないけど、最初に言葉を発したのは、騎士団長であるオールトン様だろう。普段は王子様のことをアレクと呼んでいるようだが、今は騎士としているためか、殿下と呼んでいた。

 他の3人は、順番にデイビッド様、ブラウン様、そしてウィルソン様だ。なんと騎士団四天王が集まっているようだ。

 しかし、そんなことがどうでもよくなる程、今この場ではとてつもない緊張感に包まれている。隠れている私でさえ心臓がバクバクしていて、バレないようにするのが精一杯だった。


 その後、彼らは素早い動きでこの蔵から出て行った。その様子は見えなかったものの、蔵の扉は開いているため、かすかに聞こえる声から情報を読み取ることは出来た。どうやらすぐにあの3人組は捕らえられたようだ。


「エドワード、このことは内密に頼む。今日もいつものように行動してくれ。私は仕事に向かうから」

「殿下……承知致しました」


 幹事長に変なことはするなと念を押した上で、王子様はようやくこの蔵から出ていった。私はとうとうここで1人残された形になったのだ。

 幹事長に隠れていることがバレないか不安に思ったが、彼はただ扉を全開するだけでそれ以上中に入っては来ることは無かったため、バレることは無かった。


 そして約30分後に、ようやく人や物が蔵の中を出入りするようになり、賑わってきた。そのため、私は人混みに紛れた涼しい顔で、顔を下に向けながらサッサと蔵の外へと出る。もし私の顔を知っている人と鉢合わせをしたらどうしようと不安を持ちつつも、何も無く無事に出れたため、そっと胸を下ろした。

 外に出ると気持ちが良い空気でも吸えるのかと思ったが、昨日の嵐のせいで空気は湿気が高く、全く持って美味しくは無かった。そんなどんよりとした気持ちは晴れることないまま、一旦職場に向かうことにした。


 ◇◇◇◇◇


「ミナさん、おはようございます」

「アンナ……おはようございます」


 ここ最近はそのまま職場に向って仕事をしていたため、朝一に上司である彼女と立ち会うことは無かった。そのため、彼女は突如現れた私に戸惑いつつも、しっかりと挨拶を返してくれる。

 これから嘘を吐く罪悪感に苛まれながらも、あそこまで王子様から休めと言われて、休まずにはいられないから仕方がないと割り切り、少し声を小さくしながらゆっくりと話しかけた。


「ミナさん……実は昨日買い物の途中で嵐が来たので、今日の朝に王城に帰ってきまして。その……情けないことなのですが、大雨に打たれたことで体調が芳しくなく……もし殿下に風邪などが移ってしまいましたらお困りになられますので、急遽で申し訳ないのですが今日は仕事を控えてもよろしいでしょうか?」

「アンナ、それは大変だわ。すぐに休んでくださいな。そのことは私の方から殿下に伝えておきますから」

「ありがとうございます。それでは今日は休ませていただきます」


 私は体調が悪そうにいつもより猫背で部屋に戻ることにしたが、その私の姿が見えなくなるまで彼女はとても心配そうに見守っていた。体調が良くないのは本当ではあるが、働けないほどではないため少し罪悪感がありながらも、その彼女が見守ってくれる瞳は悪い気はしなかった。



 ――ガチャ


 部屋の中からは何の反応も無く静まり返っていた。やはりルナは職場に向かっているようだ。

 机の上を見ると、間違いなく最初に置いてあった位置とは異なる場所にメモが残されていた。ルナはこのメモに気づいて読んだのだろう。もし気づかれずに、私を探すとなったら大変なことになるので、そのような事態にはなっていないようで安心した。

 メモの位置を確認し終えると、直ぐ様自分のベットの上に寝転んでしまう。なんとか布団を被って、寝る体勢を整えると、そのまま間も置かずに夢の中へと連れ込まれてしまった。


 ◇◇◇◇◇


 ――バタン


 扉を開ける大きな音で先程眠りについていたのに、一気に目が覚める。その音が聞こえた方へ目を向けると、そこには涙目を浮かべながら、私の元へやって来る鼻息荒いルナが入ってきた。

 

「アン、大丈夫だった? 怪我とかない? 寒さは? 布団まだいる?あとは……」

「ルナ、ストップ〜。そんなに慌ててどうしたの?」

「どうしたもこうしたもないわよ。昨日買い物の途中で嵐に遭ったって分かって驚いたんだから。無事に帰って来れたのは良かったけど、今日までに帰って来なかったら、全力でアンを探したわよ。それに体調が悪いのよね。もう心配で心配で、今休み時間だからすぐに駆けつけたの」

「本当にごめん。今日は体調も良くなくて、万が一風邪などが移ったら大変だと思って休むことにしたの。でも、さっき眠ってもう体調は戻ったわ。今から働けるぐらい」

「今日は絶対に休んで。数時間で疲れなんか取れないのだから。仕事なんかしちゃ駄目よ!!」

「分かってるわよ」 

「食欲はある? あるなら今から一緒に食べに行こう。体力をつけなくちゃ」

「ええまだ朝ご飯も食べていないからお腹空いたわ」

「朝ご飯も食べていないの? なら尚更だわ」


 本当にこれは心の底から心配している。まさかここまでルナが取り乱すだなんて夢にも思わなかった。

 本当にルナには悪いことをしてしまったな。

 でも、ミナさんの時もそうだったけど、心配してくれて嬉しく感じてしまう。今まで心配してくれたのは、家族以外でいなかったから不思議な感覚だ。

 そう言えばそもそも王子様が心配してくれたから、こうやって休めているものね。本当に心地の良い職場だわ。 

 これ以上心配されないためにも、この後ご飯食べたら、また寝て明日に整えよう。


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― 新着の感想 ―
前職の、一日休んだら月謝半額は、さすがにブラック過ぎますね。 王宮勤め以外は、それが標準の労働環境だとすると、先にそういった問題を片付けた方が良さそう……。 (。ŏ﹏ŏ) 王宮は色んな人が心配してく…
王子様は、自分も疲れている中で、アナのことを気遣い、予知夢のことまで考えていて、その思慮深さがさすがですね。 アナは無事に帰れて何よりです。心配してくれていたルナ、本当にいい人ですね。この後の続きも…
良い職場ですね( ˘ω˘ )
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