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侍女と王子様のそれぞれの誓い


「取り敢えず見取り図は私が仕舞っておくよ」


 王子様が杖を一振りすると、一瞬にして見取り図は消えてしまった。そして、その後には杖もいつの間にか消えていたのだ。いくら魔法だとは言え、まともに見たことが無かったから、驚きを隠すことが出来なくて、ついつい質問をしてしまう。


「火を扱ったり、先程のように物を仕舞ったりする時には杖をご使用しておりましたが、杖自体はどのように仕舞われるのでしょうか?」

「あぁ、これは念じたら魔力で仕舞えることが出来るんだよ」

「魔法ではなく魔力で仕舞うのですか?」

「あー確かに物を仕舞う時は魔法を使うのだけどね。杖は特殊な素材で出来ていて、その素材が魔力を溜めたり放出したりと、量の調整の役割をしているから、杖を仕舞う時はその魔力を流せば魔力を放出することもなく、念じたら仕舞われる仕組みになっているんだ」

「成る程……杖を仕舞う時は魔法を使わないので魔力で仕舞うと仰ったのですね」


 それと同時に、どうやら魔法使いにとって杖は魔法を使う上で必要不可欠でありそうなことが分かった。きっと、杖がないと魔力のコントロールが上手く出来ないのだろう。


「納得したなら今度は私から質問しても良いかな?」

「あ、はい大丈夫です」

「聖女は基本魔法使いと同じように先代に聖人か聖女がいるはずだ。アナの場合は誰がそうだったの?」

「私の場合は祖母が生粋の聖女でした。ひょんなことで祖父と結婚したようです」

「生粋の聖女だったのか。能力は予知夢、それとも回復?」

「祖母も予知夢です。そのため、私も予知夢なのかと思われます。祖母はとても優秀だったようで、祖母が小麦の大凶作を見た予知夢によって、カペル商店は多くの国から小麦を輸入することになったそうです」

「成る程。だから大凶作になった時に多くの小麦を供給して、多くの場所で飢餓を救えたことが功績となって爵位が渡されたのか」


 え、まだそこまで説明していないのにどうしてそこまで詳しいの? もしかして、私をスパイだと疑った時に、詳しく調べたとでもいうのだろうか。

 そんな不安な顔が表面に出たのか、王子様は優しく違うと否定してきた。


「まあ貴族がどのようにして爵位が渡されたのかとか、その領地の簡単な特色は全て知っているよ」

「流石ですね。私も独学でそれぞれの貴族や領地について学んではおりますが、そこまで全般的には分かりませんから」

「アナは独学で多く分かるなら凄いよ。本格的に教えられたら、ほぼ完璧に覚えられるんじゃないか。王太子妃の勉強をしてもすぐに乗り越えられそうだけどな」

「アレクシス様……お戯れはおやめください」

「けっこう本気だよ」


 さっきからずっとこの調子は如何なものか。

 流石に冗談だと思いたいのだが、ここまで言われてしまうとまた変に意識してしまうのだから、本当にやめていただきたいところだ。

 もう本人はニコニコと笑顔を浮かべているし……。

 また胸の鼓動が高まって苦しくなりそう。


「まあ話を戻して、アナは実際にどのようにして聖力が発揮されるの? 何か法則があったりする?」

「えっと…………私の場合、普段は就寝している時に予知夢を見ますね。普通の夢はモノクロなのですが、予知夢の時はカラーなのでここでハッキリ今回見た夢は予知夢なのかどうか判別しております。また時期もいつ起こるのか分からず、その時から出来ることを前以て対策する感じです。期間としては、数日から1ヶ月ほどですね」

「そういう形で予知夢って現れるのだね。でも……さっきは寝てはいなかったけど予知夢を見ていたよね?」

「そうなのです。実は舞踏会に来た時からそれが3回も起こりまして、理由が分からなくて……。ただ、ブラウン騎士様の怪我も、石像の場所も共に直前の出来事でした。もしかしたら直近で起こることはその場で倒れてしまうのかもしれません。ただ今までにないことなので不思議で」


 あれ、そう言えばよくよく考えたら今まで無かったことが起こっているわね。

 直近の夢ではその場で寝込んでしまうこともそうだけど、あとは自分が行動したことが予知夢として現れていることもそうだ。対策は自分で出来て被害を防いだり緩和させたりすることは出来たが、今までその出来事について自分の力ではどうすることも出来なかったのだから。

 でもどうしてこんなことが急に出来るようになったのだろうか?

 

「舞踏会の時にかなり大きな聖力を感じたけど、もしかして聖力が強くなっているのかもしれないな」

「強くなったですか……しかしそのような話を祖母から聞いていた記憶はないのですがね」

「それは単純に男爵夫人がすでに能力が完全に開花されていたからだと思うよ。だって生粋の聖女なんでしょう」

「あ、確かにそうですね。私が幼い時に祖母は亡くなったので話もそこまで聞いておりませんし……」


 何だか意外だ。なんせ全く魔力が高まったような気がしないのだから尚更だけど。そもそも私に聖力が流れているということがそもそも実感出来ていないのだけどね。

 だけど、更に考えたら私が最近見ている予知夢は本当に気付かなければ恐ろしいものが多い。確か聖力が強ければ、より重大な予知夢を見やすいとも言っていたし、確実に強くはなっているのだろう。


「アナ、お願いがあるんだけど」

「はい、何でしょうかアレクシス様」

「もしまた予知夢を見たら、どんな些細なことでも良いから、その時は透かさずに私に知らせて欲しい。今回でも分かる通り、これから国が大変なことになりそうなんだ。だから侍女だけでなく、聖女としても手助けして欲しい」

「そんな跪かないでください。勿論協力します、もう隠す必要はありませんから。それにもし本当に国の危機に陥ることでしたら、どうにかして策を立てないと不味いことになります。私の能力が役に立つか分かりませんが、聖女としても手伝わせてください」


 まさか王子様を跪かせることになるとは……そんな恐れ多いわ。どんな内容を見るのか、いつ見られるのか、そしてそもそも予知夢を見ることは出来るのかは分からないのに……。最近は異常に多くの予知夢を見るが、普段は年に数回程度なのだから。

 でもこんなにも真剣に頼み込んでくれているのだから応えないわけにはいかない。

 正直に言ってこの役割を担うのはとてつもなく責任が重いし、何よりも不安だ。なんせ私の予知夢は良くないものだから、つまりそれだけ夢を見るのも危機が迫っているのとイコールである。

 でも、この国が潰されるなんてことは絶対に嫌だ。もし、私の力で救う手助けになるのであれば絶対に協力したいもの。こんなに使命に燃えるのは久しぶりな気がする。


「ありがとうアナ……恩に着る。ずっと話していてごめん。もう疲れただろう。そろそろ寝ることにしよう」

「そうですね。私では護衛にはなりませんが、何かあればすぐに知らせますから、体をお休めになってください」

「いやそういうことじゃないよ。アナも寝ないと駄目だ。そもそもアナは体調が優れていないのだから尚更だろう」

「ただ万が一狙われてしまったらどうなさいましょう。普段とは違う状況なのですから」

「それなら大丈夫だ。一応軽くだけど結界を張っておいたから、不審者が来ても私達の所には近づくことは出来ないよ。だから安心して欲しい」

「本当に宜しいのですね。私も疲れましたし、言葉に甘えて横になります」

「あぁ、そうしてくれ」


 あれ? 王子様の言葉に甘えて寝ることにしたものの、あまりにもそれぞれの布団の距離が近すぎるのだけれど。だって30センチほどで、1メートルも離れていないもの。流石にこんなに近くは不味いわよね。


「アナ、それ以上は動かさないで。魔力がより消耗されるから我慢して欲しい」


 そう思って布団を動かそうとしたけれど、王子様から早速忠告を受けてしまった。

 確かにそうかもしれないけれど、それでもあまりにも距離が近すぎると思う。


「アナ、流石に今は襲わないから警戒しないで良いよ」


 いやそんなことを考えていたわけでは無かったわよ。確かに貴族とかだとよくあるらしいし、さっき好きだと告白してくれたけれど……。

 万が一に御子でも授かったら問題が発生することは、王子様だって分かっているはずだから、そんなことをするなんて思わないけれど。

 それに万が一あんなイケメンと至近距離になったら、私の鼓動は究極に高まって少なくとも精神はノックアウトしてしまうわよ。体もそのままやられそうだけど……。

 もう今の時点で今日1番で心臓の鼓動が早いのだから間違いないわ。って、いやこれは王子様が変なことを言うからよ……本当に翻弄させないで欲しい。

 

「じゃあお休みアナ」

「お、お休みなさいませ、アレクシス様」


 うぅ~、王子様は言葉の通りすぐに寝付いてしまった。どうやら彼は寝入りがとても良いらしい。

 その一方で私はと言うと、先程の王子様の発言と、王子様と相変わらず近い距離でいるせいで、すぐに胸の鼓動が収まることがなく、中々寝付くことが出来なかった。本当に王子様は色々な意味でズルい。どうして私だけこんなにもドキドキしなければならないのよ。

 結局寝不足のまま、私は次の朝を迎える羽目になってしまったのだった。

 

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― 新着の感想 ―
結界が張ってあっても倉庫じゃ眠れませんよね〜。 しかし、権力持ちの有能な協力者として、王子は頼もしいです。 見取り図も先回り出来たので、色々と事前に鎮火出来そう。 (*´ω`*)
もう素直になろうよ( ˘ω˘ )
国のために、アナに跪いて予知夢の力を貸してほしいとお願いする王子は、その気持ちがさすがですね。 そして、その言葉に使命感に燃えるアナもまた印象的で、その熱が冷めやらぬまま迎えた夜の心臓の鼓動が、こち…
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