石像のメッセージの正体
「実はここに来たのは、少し前に予知夢であの石像を見たからなのです。私の夢は基本不吉なことの前触れが多いので、何かあれば対処しようと調査を進めながら、今日外に石像が置かれていたのでこの倉庫に移動をさせました。そこでアレクシス様と出会ったり、2人でここに閉じ込められたりするのは流石に想定外でしたが」
王子様は私が予知夢の力を持っていると分かっているため、そこの説明を全て省き、今回の概要だけ話したのだが、掻い摘み過ぎて理解されないのではないかと不安に思ったものの、それは杞憂に終わった。
「成る程。だからここ最近アナはずっとここに足を運んでいたんだね。ここは職場からかなり遠いからずっと気になってはいたんだけれど、それなら納得が行く」
本当に王子様は理解するのが早い。
一応私は色々な所に向かっているため、そこまで怪しまれることもないかなと思っていたが、どうやらそうでも無く、怪しまれていたようだ。そう考えると、少し悲しいが今はそんなどころではない。
「そして、この蔵に入ってまた予知夢を見ました。その夢では、3人の男性が外にあるはずの石像を探している模様でして、石像にメッセージがあるのに不味いと仰っておりました」
「メッセージ?」
「はい。ただ私もそこで目が覚めてしまったので、メッセージとは何のことなのか分からないのです。ただとても慌てていたので、凄く重要なことではないかと踏んでいるのですが……」
私の夢に意味が無かったことは1度もないのだから、絶対に何かあるはずだ。ただ分からないものをこれ以上何と伝えたら良いのだろうか。
「それならやっぱり石像を見る方が早そうだね」
王子様は私の発言を疑うことは微塵もなく、直ぐ様に次の行動に移る。私も彼に続いて石像の前に移動することにした。
「メッセージって何処にあるのだろうか? やはり普通の石像にしか見えないけれど」
「何処かにメッセージが刻まれているのでしょうかね」
「それだと万が一見られた時に困らないか。 とても気まずそうにしていたのだろう?」
「それなら……何か絡繰が存在するとか。 それだとしたら解き方を解読する必要がありそうですが……」
「やはりそうみたいだ。一見するとメッセージなんて見当たらないからな」
流石に簡単に分かる所には書かれていないようだ。かと言ってこのまま見過ごすわけにも行かない。今見つけないと、このまま何も無かったことにされて、迷宮入りをしてしまうかもしれないのだから。
しかし、予知夢ではどのようにメッセージがあるのかは言ってくれなかったため、本当に分からない。メッセージがあると分かっただけでは何も出来ないのが、とても歯がゆくて仕方が無かった。
―――ドンドンドンドン
え、何? 何か扉を叩く音が聞こえる。もしかして、助けでも来たとでも言うの? 王子様がいないことを心配してここまで探しに来たのかしら?
「アレクシス様、どうやら誰か来たようです」
「え? あ、本当だ。もしかして、3人の男達?」
「あ……てっきり助けでも来たのかと思ったのですが……」
「いや、もし助けが来たなら扉を素直に開けるはずだ。扉を叩くなんて怪しすぎる」
確かに王子様の言う通りだ。男3人組だとしたら、今何か会話をしているのではないだろうか? ということは、もしかしたら石像の何か手がかりになるかもしれない。
そう思うと、勝手に自分の体が扉の方に向かっていた。流石に中にいるとバレたら困るので、早歩きではあるが。
そして扉の前に着き、必死に扉の向こうにいる男3人組の会話に耳を傾けた。しかし、聞こえてくるのは雨のザァーザァーと降る音のみ。雨以外の振動も感じるため、きっと何か会話しているのには違い無いが、何も聞こえないので、足踏みをしただけになってしまう。何か掴めそうだったのに、何も出来なくて落胆してしまった。
「おいどうするだよ。石像はこの中にあるだろうに、取り出せねえじゃないか」
「だから言ったじゃないですか。王城の倉庫ですよ。簡単に取り出せるわけないでしょうが」
先程は何も聞こえなかったのに、急に外にいる人達の声が鮮明に聞こえたのだ。隣を見ると王子様が人差し指を唇の前に立てていた。どうやら静かにしろとのことらしい。王子様の魔法の力の凄さに気を取られてはいけないようだ。とにかく今は彼らの会話に集中しないと。
「でも本当に不味いぞ。もしこれを届けられなかったら、俺達クビだろう」
「クビだけで済んだらまだ良いよ。もし殺されることになったらどうしよう」
「なら何としても持って帰らないと……でもどう足掻いてもこの蔵から俺達の手で奪い返すのは無理だぞ」
彼は石像にあるメッセージを取り返せなくて大変戸惑っているようだ。それも失敗したら殺されるかもしれないほどの任務って一体どれほど重要なメッセージなのだろうか?
「なら明日の朝まで茂みに隠れよう。そして取り出された時のみんなが目を離した瞬間に受け取るしか無い」
「でもそんな上手くいきます? 人目が多いんですよ」
「もうやるしかないんだ。お前達分かっているな。お前が右目を押さえて、貴様が左足の小指を同時に押さえるんだ。その間に俺が腹にあるメッセージを受け取る。そして、すぐに逃げるぞ」
「「はい」」
どうやら彼らはこの蔵にある石像を取り出すのを諦め、会話を終えて離れて行ったようだ。まさに今欲しい情報を言ってくれたなんて、上手く行き過ぎなような気もするけれど……多分これも予知夢の延長線な気がする。
だって、もしあの予知夢を見ていなかったら、誰かの助けが来たと疑っていなかったはずだ。そうすると、彼らの話を聞くことも出来ないし、そのまま逃げられていただろう。
「アナ、手伝ってくれる? アナには左足の小指を押さえてもらいたい」
「承知致しました」
私達は直ぐ様に再び石像の前に行き、私は左足の小指を押さえ、王子様は右目を押さえると、彼らが言う通りに、腹から1枚の紙が出てきた。その紙を王子様の長い左手が取って無事にメッセージを手に入れることが出来たのだ。
「これは!!」
王子様はその紙を開いた瞬間、大きく目を開き明らかに動揺をしていた。私は本来は勝手に見てはいけないと分かっているものの、気になって思わず覗き込んでしまうと、驚くべき内容が書かれていたのだ。
「これは王城の見取り図……」
なんときめ細かく、王城の作りや方角など書かれていたのである。また、秘密通路までも書かれているようであった。
「まさかこんなやり取りが行われそうになっていたなんて。アナがいなければどうなっていたことか……」
「でもこんなことが出来るだなんて……」
「ああ、間違いなくスパイか裏切り者がいるな。でも最近王城では新たな人は入れていないが……」
「となると裏切り者がいらっしゃるということでしょうか?」
「多分そうだろうな」
王子様はとても苦い顔をされていた。そりゃそうだろう。まさかこの王城の中に裏切り者がいたのだから悲しくないはずがない。
「誰がこんなことをしたのかも探さなければなりませんね」
「ああそうだな。ただ検討は付くからすぐに見つかるだろう」
「もう検討が付いていらっしゃるのですか?」
「勿論。こんなの盗めるのは限られているからな。私ですらこの見取り図を見たのは、10年以上前だ」
「そんなに昔なのですか!?」
確かに見取り図なんて普段から見るものではないだろうが、王太子の彼がそこまで長らくの間無縁であることに驚いたのだ。定期的に確認しないと忘れてしまい意味がないような気がするのだが、そのところは大丈夫なのだろうか?
「12歳以上の王族と王族に嫁いで来た人に、この見取り図を見せられるんだ。そして、その場所を記憶させられる。何かあった時のための逃げ道としてだ。だが、どうやらこれは王太子妃用の見取り図みたいだな」
「もしかして、同じ王族でも覚える見取り図が異なるのですか?」
「あぁ。国王なら国王の部屋や近辺の隠し通路通路が書かれているし、王太子なら王太子の部屋や近辺の隠し通路が書かれている。これはどうやら王太子妃の部屋の周りが特に細かく書かれているから間違いないと思う。今は王太子妃がいないからこれが1番最適だと思ってこれにしたのだろうが……」
え、これは絶対に私が見てはいけない物じゃないの。不味い……不味過ぎる。詳しくは見ていないけれど、大体の見取り図は覚えてしまったわ。あぁ、どうして私は見てしまったの。でもこれは嘘を吐くしかないよね。
「アレクシス様……その見取り図はほぼ見ておりませんし、覚えてもいないので、どうぞお許しください。決してこのことは口外しませんのでどうかお願い致します」
流石に見ていないと言うのは無理があったので、これは許しを請うしかない。虫が良いような気がするけれど、だって私も殺されたくはないもの。
「別に大丈夫だ。アナはそんなことしないと信じているよ」
「本当ですか……ありがとうございます」
あぁ良かった。どうやら私のことを信頼してくれているようなので、本当に助かった。
ただ、やはり不安が残ってしまい、浮かない顔をしてしまったようだ。
「アナ、そんなに心配なら、王太子妃にでもなるかい? それなら心配しなくて良いだろう」
「そのような御冗談はおやめください。ただ気を使っていただき嬉しく思います。もう疑いはしません」
「そう……でも言っていることは嘘ではないけどね」
どうしてそんな意味深なことを言うのだろう。
確かに間違いなく先程、王子様は私のことを女として好きだと言ってくれたし、また諦めきれないとも言われたけれど……流石に王太子妃にしたいという意味ではないはずよね?
勘違いさせるようなことを言わないで欲しいものだ。
この急速な胸の高まりのせいで、少しの間息をするのが苦しくなってしまった。