表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/33

石像の居場所


 "買い物に出掛けます アナスタシア"


 これなら今日部屋に戻っていなくても不思議には思わないだろう。何故なら今はそこまで曇っていないし、必要な物があるからと買い物に行くことは日常的によくあることだから。それに、あの石像が倉庫の中に仕舞われているのを見たら、すぐに帰るつもりだし、何の問題もないだろう。


 人目に付かないように、出来るだけ人通りが少ない場所を通る。少し遠回りしてしまったため、いつもよりも少し遅めの20分ほどをかけて、あの倉庫に着いた。まだこの時間でも荷物の移動があるようで、少し安心する。もう倉庫の鍵が閉まっていたら、倉庫の中がどうなっているのか分からないのだから。


 それにしてもここに来て衝撃的事実を目の当たりにしてしまった。それはなんと、例の石像がまだ倉庫の中に仕舞われていないのだ。夢では倉庫の中に仕舞われていたのに、これは一体どういうことだろうか? これからこの石像が倉庫に仕舞われる気配も無いし……。

取り敢えず少しだけ待つことにしよう。


 ◇◇◇◇◇


 これは不味いな。どうしてあの石像だけ運ばれないの? もしかして忘れられている? 確かに少し死角の場所にある気もするけど……そんな馬鹿なことあるのかしら?

 あ、もしかして石像を嵐の中に置き去りにしたら危険だから中に入れろという意味なのかしら? それなら予知夢を見た意味があるかもしれない。あれはそうなるようにしろという指示なの? でも……今までは予知夢で見た出来事を元に周りの事柄を対処してきたのに、そんなことってあるの? 一体あの予知夢は何を伝えたいの?

 あれ? 管理長、一体どうしたのかしら? 何かを探している? でも何を……え、そのまま帰るの? でも急いで走っているわ。もしかして、鍵を持ってくるのを忘れたとか?


「管理長!!」


 駄目だわ……全然声が届かない。これだと石像を倉庫の中に入れて良いのかも分からないわ。どうしよう。

 でもあの石像を倉庫の中に入れなければならないような気がする。何故か分からないけど、なんとなくあの予知夢はそのことを示しているような気がするの。 

 でも、もしかしたらわざと石像を置いているのかもしれないわ。それだと、管理長に頼んだとしても石像を中に入れることが出来ないかもしれないわ。そうなったらどうしよう。

 あ、もしかしてこれは今、石像を倉庫に入れろということなのでは? 何だかこれも分からないけれど、今すぐ入れなければならない気がする。

 どうしたのだろう? いつもはこんなこと思わないのに……どうしてここまで使命感を感じてしまうのだろう? でも今は取り敢えずこの直感に頼ろう。そうすれば……夢の通りに石像は倉庫の中に入るのだから。私のカラーの夢には意味があるのだから大丈夫よ。

 そうなると、早く石像を移動させないと………………この石像あまりにも重いわ。でもどうしよう、このままだと石像を倉庫の中に入れられない。


「アナ、こんなところで蹲ってどうしたの?」

「え……殿下?」


 困っていた中で、声をかけてきたのはまさかまさかの王子様。いや、どうしてここに王子様がいるのかも謎だし、どうしてこんな展開になるのかも意味不明だ。状況だけだと、ヒロインを救い出すヒーローみたいな構造だから、無駄に胸の鼓動が高まるのが本当に嫌である。


「それって石像? もしかしてそのその石像を運ぼうとしていたの?」

「えっと……そうなのです。たまたまこの石像が外に放り出されているのを見てしまい、倉庫に仕舞おうとしたのですが……」

「そりゃ、女性1人で石像を運ぶのは大変だろうね。私も手伝うよ」

「そんな、殿下にそのような手を煩わせるわけには参りません!!」


 唐突過ぎて嘘を吐く時間も無かったが、それ以上に王子様が手伝うという発言に戸惑いを隠すことが出来なかった。勿論、王子様に手伝ってもらうなんて以ての外であるためすぐに否定したが、彼は私の言葉なんか気にせずに勝手に動かし始めていた。そのため、私も慌てて一緒にあの石像を運ぶことになったのだ。


「まあまあ重かったね。アナ、お疲れ様」

「殿下こそお疲れでした」

「殿下じゃなくてアレクシスでしょう」

「あ……すみません。アレクシス様、お疲れ様でした」


 いつも執務室での姿ばかり見ているので、かなりの力があることに少し驚きを感じるのは野暮というものだろうか。そりゃあ、王子様がへなちょこだとそれはそれで困るけど、それでも凄いと感じてしまう。まあ、さっきは驚き過ぎてつい元の呼び方に戻ってしまったけど。

 ……というか、こんな呑気に王子様を眺めている場合ではないじゃないの!! もう石像を倉庫の中に入れたのだから外に出ないと。

 だけど、そんな矢先にまさかの出来事が起こってしまったのだ。


 ――ギィィィー ギィギィー

 ――ガチャン


 そう、なんと管理長が戻って来てそのまま倉庫の扉を閉めて施錠したのである――中に人がいるのも気づかずに。


「待ってください。人がいます!! 開けてください」


 そんな叫びは届くことはなく、扉が開けられることもないまま声が谺するだけだった。

 

 しかし、これは大問題である。何故ならこの中には王子様がいるからだ。もし王子様が何処かに行方をくらましたら、間違いなく大騒ぎになるのは目に見えている。従者は特に黙ってなんかいられない……。

 そもそも近くに従者がいるはずだわ。大声を出せば気づくのではないかしら?


「アレクシス殿下が倉庫の中に閉じ込められています。誰か近くにいらっしゃったら返事をお願い致します。誰かこの扉を開けてください!!」

「アナ、叫んでも叩いても無駄だ。声も手を痛めるから今すぐ止めて」

「しかし殿下、もし従者の方が気づかなければ大変なことになります」

「今日は従者はいないから、聞こえるわけないんだ」


 ちょっと待ったー!! え? 何故従者の方がいらっしゃらないの? いつも誰かしら傍にいるのに、どうして今日に限っていないわけ? いくら王城の中とは言え、中々無防備なことをしているわね。

 それにしても、従者の方もいないとなると明日の朝まで待たなければ無理なのでは? そんな何時間もこの狭くて薄暗い倉庫の中で、王子様を過ごさせるだなんて……やはり駄目でしょう。


「私はたまにこうやって人目を抜け出して1人で行動することがあるから、そこまで気にしなくて大丈夫」


 え? そんなことして皆さんから心配されないのかしら? それもそこそこの頻度であるって……。

 いや、それでも駄目なものは駄目。どうにかして外に出ないといけないわ。何処かあの扉以外で出るところはないかしら?


「アナ、残念ながらあの扉以外に出入り口はないんだ。探そうとしているところ悪いけどね」


 本当に何もかも私のしようとすることが見透かされている。多分私よりも詳しい王子様がそのようにいうのならばそうなのだろうけど……どうしてそこまで冷静でいられるのかしら?

 

 ――ガタガタ、――ドンドン。


 これって……嵐? 目の前にはあの石像…………あの予知夢で見た通りだわ。でも……今まで自分の手でしたことで作られた状況の予知夢なんて見たことがないのに。

 そもそも最近予知夢の頻度が増えているし、あといつその出来事が起こるのかハッキリと分かるようになってきているわ。もしかして……予知夢能力が強くなってきているのかしら?


「アナ、寒いからこっちにおいで」


 石像に目を囚われている中、王子様に声を掛けられてそちらに顔を向けると、手を振って来るように命じられる。そのため、言われるがままに王子様の方に向かうと、何故か温かい空気が流れてきたのだ。そして、先程までは暗かったのにも関わらず急に明るくなり、一気に倉庫の中にある品物が多く目に入ってきたのである。


「アレクシス様……これは一体どうなっていらっしゃるのでしょうか?」

「実はね、この倉庫には温度管理と光の調節が出来るようになっているからね。それを触っただけだよ」

「その電源は何処にございますの?」

「それは秘密」

「どうしてでございますか?」

「何でも」


 何故そこまで隠す必要があるのかしら? でも……そもそも電源どころか、温度や光を調節する機械らしきものも見つからないのだけど。この倉庫にはぱっと見では分からないところに、機械があるとでもいうのかしら?


「あと毛布もあるし、1日ぐらいは凌げると思うよ」


 その毛布も一体何処から出てきたのだろうか? 多分届けられた倉庫の中にあった物だろうけど、それにしてはかなり質素な気がする。何だか違和感を感じるわよね。


「端は温まりにくいし、電気もつきにくいみたいだから、出来るだけ真ん中にいて。風邪をひくから」


 それにこの発言からも違和感を感じてしまう。どうして端の方は機械が上手く機能しないのだろう? 倉庫の中にある品物を守らなければならないのであれば、全般的に機能しないとあまり意味がないだろうに……故障しかけているとでも言うの? でもしっかりと管理しているであろう王宮の倉庫でそんなことあるのかしら?


「アナ、こっちに来ないと」

「え?」


 ちょっと待って!! 今、王子様に手を握られているわ。これって、人目があると完全にアウトな行為なのに……胸の高まりが抑えきれないのがもどかしい。本当にこういう行為を急にするのを止めて欲しいわね。折角封印した気持ちが、解かれそうになるのだから。温度管理をしなくても、体が一気に温まるぐらいに体温が上がった気がした。

 それに伴い、目はハッキリと覚めた気がしたのに、何故か急に睡魔が襲ってきたのだ。数時間前に予知夢を見たばかりなのに、どうして本日2度目の予知夢が訪れるのか?

  今も王子様が目の前にいるのにも関わらず、睡魔に勝つことが出来ず瞼を閉じてしまった。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
倉庫……大ピンチじゃないですか。 悪い余地夢はこのことでしょう。 何時間も中にいたら、おトイレをどうするのか……壮絶な我慢大会が始まりそうですね……。 (。ŏ﹏ŏ) そして更に睡魔。 もし私が王子の…
ここまで読ませていただきました。予知夢と異なり、倉庫に仕舞われない石像を、予知夢に合わせて動かそうとするアナが印象的です。 今まで予知夢が現実になるのを待っていたのが、予知夢のように行動することで、…
まさか……!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ