予知夢という能力
今朝見た夢が、王子様の妃を決めるための舞踏会であるとなると、これはかなり不味いことになる。なんせ私の夢は普通の夢とは理由が違うのだ。
信じてもらえないかもしれないが、私は予知夢を見るという特殊な夢を見る。それもその予知夢というのは間違いなく悪い出来事なのだ。そのことに気づいたのは、私がもう物心がついた頃でハッキリとは言えないが、幼い時から予知夢を見ていた。
1番最初に覚えている予知夢と言えば、大雨や強い風が吹いている夢を見たら1週間後に実際にやって来て、その時は多くの田んぼや畑が荒されてされてしまったことである。その時私は驚きはしたものの、これはきっと偶然だと思い、この時はあまり気にしないことにした。
その次に覚えている予知夢は、大きな雷が落ちる夢だった。実際に5日後に住んでいる町に雷が落ちて、橋が崩れてしまった。この時やはりあの夢は偶々ではなくて、予知夢だったのと戦慄いてしまった。
そしてその次に見た予知夢は、私達の屋敷と隣にある家の窓から薄っすらと煙が上がっているものだった。
私はもしかしてこれは火事になる前兆なのではと思うと、どうにかして防ぐことは出来ないのかと思ったものの、隣人に火事が起こるから逃げてなんて言っても信じてくれるわけがないし、また両親から伝えてもハッキリした理由がなければそのように伝えることがないのも目に見えていた。
そのため、当時の私に出来ることと言えば、隣の家を見張ることぐらい。幸い、その窓は私の部屋から見ることが出来る位置にあったため、ずっと見張ることが出来た。眠りと葛藤しながら見張っていた。
次の日の夜、夢に見た通りあの窓から煙が上がったのだ。私はすぐに両親を起こして、隣の家に煙が上がっいることを知らせると、両親は驚いてすぐに確認し隣の家に向かった。両親の手助けで幸い火事を抑えることができ、怪我人もいなかったため、私は安堵と共にその予知夢の恐ろしさに戦慄いていた。
それからと言うものの、私は予知夢を見るとあらゆる手で最悪の事態は防いできた。具体的にどのようにかと言うと、自身が見張ったり、それに関連することでいちゃもんを付けて近づけないようにしたり、またそれを保護したりとその時に応じて様々である。
ただし、予知夢を見て、防いで来た中で分かったことがいくつかある。
1つ目は、予知夢を見るのは不定期であること。そのため、いつ来るのかは全く予想がつかない。
2つ目は、予知夢であるのはカラーであること。普段の夢はモノクロであり、モノクロは夢は現実に起こりそうにない夢や過去に起こった夢をベースとしたものと関係のないものである。
3つ目は、予知夢で見た内容事態は変えることが出来ないこと。私はある時、自身の行動のせいでこのような出来事が起こっているのではないかと考えたこともあり、2回ほど何もしなかったことがあったが、その結果予知夢の内容はそのまま起こり、さらに被害にあってしまったのだ。そのため、それからは被害を避けるために全力で対策に取り掛かっていた。
そして最後の4つ目は、自身が望む予知夢を見ることが出来ないことだ。もし父男爵の病や義父子爵の事故に関する予知夢を見ることが出来ていたのならば、2人は死なずにすんだのではないかと常々思ってしまう。どうして大切な人のためにこの能力を使えないのだろうと悔やんでいた。
このように私が見た夢は良くない予知夢なのだ。しかし、今回の夢は本当に不思議だった。カラーであるため、予知夢で間違いないのだが、いつものようにこの後に何が起こるか分からないまま、目が覚めてしまったからだ。
こんなことは今回が初めてで、これをどのように受け止めて良いのかがよく分からない。でも、あと1ヶ月後に舞踏会が開催されのは揺るぎない事実。そのため、何か良からぬことが起こるのではないのかと思うと、舞踏会に行かないという選択肢はなかった。
ただここで少し厄介なことは、誰もが舞踏会に行きたがらないだろうということ。前に言った通り、私達は金欠であるため、舞踏会にかけるお金なんて無いと一蹴することは目に見えていて実際に、現在進行系で私達には関係ないことねと一刀両断していた。
このままでは、舞踏会に行くことが出来なくなってしまう。もし王子様や王宮に何か問題が起これば国の問題にもなってしまうのだ。それを防ぐことが出来るかもしれないのに、見過ごして家で呑気にいることなんて出来ない。
そのためどうにかして必ず説得しなければと思いながらも、その日は何も言うことが出来ずにそのまま就寝する羽目になってしまった。
次の日、私はどう説得するか考え過ぎたせいで少し寝不足になってしまったが、何とか思い付いた考えで説得を試みることにした。正直不安の方が大きいがこれぐらいしか思いつかなかったのだ。タイミングは、エラがいない時。エラといると癒されるものの、それと同時に彼女のペースに乗せられてしまい、私の説得が流れてしまう可能性が高いと踏んだ。
エラが買い物に出かけて、母とロゼリアの3人になったところで話題を切り出した。
「お母様、我儘かもしれませんが私は舞踏会に参加したいです」
「どうして? アナスタシアがそのように言うなんて意外だわ。貴女が1番反対するかと思ったのに」
確かにいつも出来るだけ節約しようとしている普段の私なら1番反対するはずだった。そのため、このようなことを言うのはいつもの性格からしても不利に働いてしまう。だからこそ今ここが勝負どころだ。
「現在の私達は元貴族とは言え、今は庶民です。だから繋がりがどうしても薄くて、他の場所と関わることが出来ない状況です。舞踏会と言えば、多くの貴族女性が集まります。これは新たな出会いを掴めるチャンスなのではないのでしょうか? このままだと何も変わりませんわ。だからこそ舞踏会に行きたいのです」
これは自分で言っていても良い案なのではないかと思う。実際にこの状況を打破したいのは間違いないのだから。そのことは2人も同じように思っていたようで、確かにと受け入れつつあった。後はもう一押しで行けそうと追い打ちをかける。
「ドレスとかは今持ち合わせているものを少しアレンジすれば、見劣りはしないと思います。だって、そもそもの素材は良いのですから、あまりお金もかけずに行けますし。あと、たまにはリフレッシュもしたいですしね」
2人が心配しているお金の心配をクリアにし、気分転換しようと気持ちを乗らせたらいけるのではないかと付け加えたけど、それがやはり決定打になったようで、2人は舞踏会に行こうと乗り気になってくれた。成功した瞬間、久しぶりに緊迫と安心を強く感じた。
その後エラには前半の話は伏せて、お金は工面出来るからリフレッシュするために舞踏会に行かないかと誘った。
何故前半部分を隠したかというと、エラにそのことを話すと心配して必ず行くというのがわかっていたからだ。
私達は元々経営に関わって苦労するのは決まっていたものの、由緒正しい血筋である彼女は本来であれば苦労のない幸せな人生を送るはずだった。そのため、彼女に苦労して欲しくないと伏せたのだ。
しかし、彼女は残念ながら行きたくないと反対されてしまった。その理由は自分がしっかりとしたマナーを身に着けていないから。
私達は今からでも出来るから一緒に行こうと誘ったものの、今からだと完璧に出来ないからと再び断られてしまった。実際に彼女は甘やかされてしっかりとしたマナーは身に着いていない。前に何度も教えようとしたが、結局上達しなくてそこからあまりマナーのレッスンはしなくなってしまった。
3人とも1ヶ月という短い時間で完璧に仕上げるのは無理だと判断し、彼女の意志も汲んで3人で行くことが決定した。
そうして勤務と共に、準備をするという慌ただしい1ヶ月を送った。
母とロゼリアはこの後直前まで誘ったけど、エラはその度に断り、最後は最近あまり体調が良くないから行けないと言われてしまった。
そのため、舞踏会の前日になり、私達はエラを留守番させて、母とロゼリアの3人で舞踏会に向かったのだった。