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領民の不穏なお話


 昨日は市場を回ったけど、こうやってヴァーズ領を歩き回るのは何時ぶりだろうか? 少なくともここ半年以上はしていない気がするわね。やっぱりこういうことが出来るのは、長期休みだけだったもの。時間の流れって早いわ。

 

「「おはようございます」」


 エラちゃんは朝早くから買い物に出かけてしまったため、今日もロゼリアと一緒だ。2日続けて2人だけだなんて、珍しくて少しいつもよりもテンションが上がり、挨拶の声ですら少し高くなっていることが自分でも分かった。


「おはようございます……あ、アナスタシア様、ロゼリア様、お久しぶりです」

「メアリーさん、お久しぶりです」


 彼女は隣人の若手の農婦さんだ。見た目は幼く見えるものの、結婚もして子どももいるしっかり者である。


「少し前に、お2人揃って領地に帰ってきたのですよね。今はそれぞれ王宮と侯爵家に勤めていらっしゃると伺いました。その……新たな職場はどんな感じですか? 王宮とか侯爵家って凄そうだから気になっちゃって……」


 そして彼女は大変正直で、好奇心旺盛だ。このように、気になったことはすぐに尋ねてくるのだが、そのすぐに反応してくれる彼女に、私達は好感を抱いている。

 それにしても、1か月ぐらい前から始めた勤め先が何もしていないのに、私達の情報が筒抜けなのは少し驚いてしまう。まあ、そこまで隠すようなことでもないので、別に問題はないのだが、この領地はそこまで広くないこともあって情報が回るのが早いと改めて実感した。


「そうですわね……私は侯爵家というより侯爵令息様の元で働かせていただいておりますので、流石に私達の家よりは小さいのですが、1人だとかなり広い場所に住まわれております。それにガーデンも綺麗ですし」

「綺麗なガーデンがあるだなんて素敵ですね」

「はい。私も少しは手を加えさせていただいております」

「植物の扱いがピカイチなロゼリア様が手入れされているのであれば、更に綺麗になったのでしょうね。でも、侯爵令息様お一人だけなら、侍女もロゼリア様だけでしょうか? 寂しくないですか?」

「そんなことないですよ。その広さと騎士団長という忙しい立場上、侍女も従者もともには3人おりますから、退屈はしないですわ」

「快適な職場なようで安心しました」


 私が口を開こうとすると、ロゼリアが先に話し始めてしまった。私もロゼリアの職場の話はまともに聞いたことが無かったのでこちらも聞き入っていたのだが、どうやら充実しているようで何よりだ。それにしても、流石侯爵家令息である騎士団長だわ。私達は子爵令嬢の時でさえ、侍女が5人と従者が2人だったのに、1人でその人数なのか……。


「アナスタシア様は王宮での生活はどうですか?」


 あ、どうやら今度は私に話を振られているようだ。えっと……何処まで話したら良いのかしら?


「王宮は勿論比べ物にならないほどの大きさなので、人がとても多くて寂しいことはありませんわね。上司もルームメイトも良い方ですし、仕事の量も減ったので他のことに回れて有意義な時間を過ごしております」

「アナスタシア様も充実した日々を送られているのですね。因みに、アナスタシア様は何を担当されていますか?」

「私は、王太子殿下付きの侍女なので、主に殿下の身の回りの整頓やお茶汲みをしております」

「王子様の侍女なのですか!! それって大抜擢なのでは!?」

「いえ、単純に少し前に付いていた侍女さんが産休に入ったので、その代わりに私が入っただけで、タイミングが良かっただけですから。すぐに別のところに回されますよ」

「それでも凄いと思います」


 そこまで王子様付きの侍女というところに食らいついてくるとは思わなかったので、前のめりになっている彼女に圧倒されてしまった。別に本当にたまたまなのだけど……。


「やはり、王子様って格好いいのですか? 本当にそれこそ絵本に出てくるような」

「確かにその通りですね、見た目は未だに全然慣れないほど格好良くて、人当たりも良いですし、しっかりされておりますし、本当に絵本から抜け出したような方ですわね」

「やはりそうなんですね。それならアナスタシアも恋してしまうのでは?」

「いえいえいえ、そんなことありませんから。確かに憧れはしますけど、私如きが恋をしていいような方ではありません!!」

「そこまで否定しなくても良いじゃないですか。恋は自由ですもの。それにそこまで完璧なら恋しても何の問題もないでしょう」

「もう、メアリーさんからかわないでください」

「そこまで照れるアナスタシア様を初めて見ました」


 うぅ、これはルナと同じことが起こっている〜。どうして私はこう王子様のことになると上手くかわすが出来ないのよ。本当に面目ないわ。それにロゼリアまで一緒にニヤニヤして、もう〜。


「では、私はそろそろ作業に入りますね。アナスタシア様とロゼリアと一緒に話ができて楽しかったです」


 彼女はニヤニヤとしながら、農地の方に向かってしまった。今度は今回みたいにならないように気をつけないといけないわね。


 ◇◇◇◇◇


「「ダリルさん、おはようございます」」

「あ、アナスタシア様、ロゼリア様、おはようございます」


 彼は中年の農夫さん。ずば抜けて働き者であるがゆえに、体が壊れないか心配になるが、そんな気配が微塵もない頑丈者だ。そんな彼は、話を切り出すと気前よく話に乗ってくれる優しい方である。


「ダリルさん、最近は元気にお過ごしいかがでしょうか?」

「はい、相変わらず元気ですよ。ちゃんと農作物も収穫出来ておりますし。だけど、やはり税が大幅に上がるのでないかという噂は少しビビってますね」

「「噂?」」

「あぁ、もしかしたらお二人様は知りませんか? 少し前に領主様が倒れて今は従者さんが経営を行ってくれていますが、息子さんが継いだら一気に税金が跳ね上がるって言われているんです」

「はい? あいつが領主ってどういうことですか? それも税を上げるって……」

「う〜ん、そこまで詳しくないからよく分からないのですが、そんな不穏な噂が立ってますね。領主様自身は本当に良い人なんだけど、息子さんはあぁだから少し信憑性があって、少し勘ぐりたくなるというか……。単なる噂だと思いたいですが」

「でも本当にそうなったら大変なことになるわね……ちょっとそれに関しては私が直接話を聞いてきますわ」

「ロゼリア様も忙しいでしょうにそこまでされる必要はないかと思われますが……」

「いいえ、お気になさらず。私が聞きたいだけですので」


 最初は私がいつも通りに話を切り出しただけなのに、ロゼリアの方が食いついてしまっていた。ロゼリアは本当にまっすぐで曲がったことが嫌いな子だから、不真面目で優柔不断な領主の息子が大嫌いなのだ。というか私はきっと彼女以上にあいつのことが嫌いだ。そのため、基本的にあいつのの話になると今のように私達は途端に機嫌が悪くなるので、我が家ではあいつの話はタブーになっているぐらいである。

 まあ彼女は、エラと同じくこうと強い決意をしたら絶対に実行するタイプ。そのため止めても無駄なのだが、不安が込み上がってしまう。

 それにしても、本当にその噂なら不味いことだ。あいつの場合なら税を上げるにも、とんでもない引き上げを行う可能性が否定出来ないのだ。ここは半信半疑ではあるが、ロゼリアに情報収集してもらう方が良いだろう。

 私も何か出来たら良いのだけど、なんせ彼とはもう会わないと決めているし、向こうからも会わないと宣言されたのでどうすることも出来ない。本当にロゼリアには悪いが、ここはロゼリアに任せるしかなかった。

 本当に頭が痛いわね。何の問題もなければ良いのだけど……。


 ◇◇◇◇◇


 結局話が1人1人で盛り上がりってしまい、そこまで多くの人々と話すことが出来なかったけれど、3分の1人程度から領主の息子の話を聞いた。その度に本当に信憑性が増してしまい、更に不安が募ってしまう。

 ロゼリアはもう少しここにいるみたいだけど、私は明日にはもうここを立って職場に戻らないといけない。

 あぁ、折角安定で安心した生活が出来ると思ったら、こんなことになって……。あと、嵐のこともどうにかしないといけないわね。

 どんどん不吉なことが起こりそうで本当に怖いわ。こんな時に予知夢を見れたら対処もしようがあるのに……ってこんなことを思うだなんて……。

 初めて予知夢を欲しがったことについて、私は自分自身で驚かずにはいられなかった。

 

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― 新着の感想 ―
良い領地かと思った矢先、いきなりの不穏な空気。 親である現領主が叱って教育して欲しいとこですけど、難しいのかな? (・–・;)ゞ
やはり予知夢は便利ですよね( ˘ω˘ )
ロゼリアとともに領内で人々と会話を交わすアナスタシア。何気ない会話から、ロゼリアの職場の話や、王子に関する噂を聞いて、色々なことを考えてしまう姿が、描写からとても伝わってきました。 税金は、人々にと…
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