元令嬢の生い立ちと現状
お立ち寄りいただきありがとうございます。
こちらは「シンデレラと魔法使い」のスピンオフ作品で、一人称となります。
のんびりと更新しますが、お付き合いいただけると嬉しいです。
評価や感想などお待ちしております。
多くの人が集まっている?
それも綺麗にドレスアップした女性ばかりだわ。
それにこの場所はとても広くて煌びやかだし。
でも、1人だけ男性がいるみたいね。
あれ? あの顔って何処かで見たことがあるような気がするけど……誰だっけ?
◇◇◇◇◇
不思議な夢から目を覚ますと、カーテンを開け日光に浴びて体を起こす。これがいつもの私の1日の始まりだ。
クローゼットを開けて服をさっと着替えてから下にあるダイニングルームに向かう。
「アナスタシアお義姉様、おはよう」
「エラちゃん、おはよう」
ダイニングルームに到着すると、いつも通りに義妹のエラが、明るく笑顔で挨拶をしてくれた。そのため私も笑顔で挨拶を返すと、それに対して彼女はまた笑顔を浮かべてくれるのだ。それが私にとって1日で最初の至福の時間であった。その後に妹のロゼリアと母が来て、エラを除いた3人で朝食を取った。
本来ならエラとも一緒に食べたいが、彼女は早起きで起きた後にすぐに食べないと気が落ち着かないらしい。そのため、エラは話に加わるだけだった。それでも、この時間はとても幸せだ。
食事が終わると、ロゼリアと母を含めた3人は仕事場に通勤し、エラは家の家事を行うために私達を見送る。ロゼリアは地元の子爵家に向かい、母は近くにある大きな商家に向かった。そして、私は少し離れた大きな男爵家に向かうのだ。これからの勤務を思えば、やはり少し気分が落ちてしまい、思わずため息をついてしまう。何故暗い気持ちになってしまうのか。それは仕事内容が最悪だからだった。
私の仕事場は、数年前に莫大なお金を出して男爵になったようないわゆる成金男であり、自身が貴族になったことに鼻をかけて周りに威張り散らすような人間だった。
また周りの侍女や従者も最悪だった。彼らはとにかく少しでも面倒なことはしたくないのか、隙間を見て全て私に仕事を押し付けてくるのだ。
そんなの断わらない方が悪いだろうと責められるかもしれない。しかし、実は昔上司から仕事を押し付けられた時に、自分の仕事は自分でするように言ったら、上司が男爵に私が怠けたと理由のわからないことを言って告げ口をし、それを真に受けた男爵から次にそのようなことをしたら給金を減額にすると言い放たれてしまったことがある。
勿論それに対して私は押し付けられそうになっただけだと説明したものの、男爵は女のくせに生意気なと、一切話を聞かなかった。もし減額になんかされたら、生活費に大きなダメージを与えてしまうため、それ以来私はそれが怖くて仕事を受けざるを得なくなってしまった。
また自分で言うのもあれなのだが、私はこの中では間違いなく仕事が1番出来るため、必ずと言っていいほど面倒な仕事は私に回されてしまった。
それに加えて、私が全く笑みも浮かべずに、ただ仕事に黙々とするため、彼らは私のことを勝手に"鉄の女"と呼んでいるのだ。そのようにしているのは、彼らなのに本当に好き勝手言って本当に腹立たしい。しかしその怒りを何処にもぶつけるところが無く、私は常に負の感情が積もっていた。
勿論こんな生活を好んで送っているわけではなく、こうなってしまったのには立派な理由がある。
私の生まれはそもそもバーグ男爵家の長女と貴族だ。といっても祖父の代で賜った爵位であり、領地も持たないため、貴族だと最底辺である。とは言え金持ちであったため、しっかりとした教養を受けることもでき、豊かな生活を送っていた。
しかし、その生活は父が病死したことで幕を閉じてしまう。何故ならこの国では爵位は男性しか受け継げないため、女しかいなかったことから爵位を返上せざるを得なかった。そうなると、勿論繋がりも一気に途絶えてしまい、商店の経営も同時に出来なくなり、私達は1度庶民に成り下がってしまった。
そんな中、縁があって母はなんとヴァーンズ子爵と再婚することになり、私達は子爵の養女となり子爵令嬢となった。 そして同時に新たな家族が出来たのだ。
それが義父となる子爵と、義妹となる子爵の前妻との令嬢のエラ。彼女に出会った瞬間、私は天使に出会ったのかと思うほどの衝撃を受けた。後光が差しているのではないかと思うほど彼女自身が輝いていて、それでいて見ていると癒されるような少女だった。また実際に純真無垢な子で、この子は私が守ってあげなくちゃと思うほど保護心を駆り立てるものがあった。実はそう思っていたのは私だけでなく、母やロゼリアも同じように思っていたらしく、私達は彼女のことは目一杯可愛がった。
また子爵はとても優しい人であり、すぐにこの家庭に馴染んでいった。正直言って前みたいな贅沢な暮らしは出来なかったけど、この家族の温もりがこれ以上になく幸せにしてくれていた。
しかしこの3年後に、今度は子爵の事故死という形でエラも交えてこの幸せな生活に終止符を打たれてしまう。男の跡継ぎがいなかったため、私達は再び庶民に成り下がり、今度は自分達がまともに働かなければならなくなってしまった。
そんな中でエラはまだ12歳の少女で、また何より国建設から爵位を賜ったヴァーンズ子爵家と血筋の良い令嬢であるため、どうしても外で働かすことは躊躇われ、家で留守番させている。
本来なら誰かが常にエラのそばにいてあげたいのだが、子爵が残した唯一の遺産であるこの大きな屋敷を維持するためには膨大な費用がかかるため、3人がかりで働く必要があり、心が痛むものの1人にさせてしまっていた。と言っても彼女は田舎令嬢であるためか家事も大変得意で、何の文句も言わずに家で働いてくれるのは大変ありがたいことであった。
その話は一旦置いて本題に戻るが、何故私が嫌々こんなところで働いているかと言うと、それは先程も挙げたが家の管理費を稼ぐためだった。この費用を調達するためには多くの給金を稼ぐ必要があり、工場や売り人では到底払うことが出来ない。
そのため、元令嬢であることを武器として、遥かに給金が良いこの職場で働いているのだ。母もロゼリアも同様で口には出さないが、職場が大変らしいものの、給金が良いという理由で貴族に仕えて働いているのだ。
けれでも給金が良いところで勤める3人分とはいえ、この維持費は実に半分を持って行かれてしまう。勿論この家は大切な遺産なため売り渡すつもりは微塵もないし、後悔も一切ない。だけどこの生活が何時まで続くのだろうとふと不安になってしまう――このままでは幸せを掴むことが出来ないのではないかと。
母もロゼリアもエラも幸せになって欲しいのに、その兆しがまだ見えなくて、今日も気が憂鬱になった状態で職場に到着し、いつものように馬車馬のように働いた。
日が落ちて夕方になると仕事が終わり、ヘトヘトになって家に帰る。そしてこの後4人で晩食をして就寝することで、いつものルーティンが終わるのだが、今夜は少しばかり違った。
「アナスタシア、ロゼリア、エラ宛に招待状が届いたわ。どうやら妙齢の女性達を集めて、王子の婚約者を決めるために舞踏会を行うみたいよ」
「お義母様、どうしても舞踏会なんて開かれるの? わけわからない」
「理由は書いてないけど、王子が隣国の王女の求婚を断ったことが大いに関係あるだろうって言われているわ」
「エラちゃん、あとこれは噂なのだけど、どうやら運命の相手と結婚したいとのことよ。でも、美人である前公爵令息様と恋仲だから今まで婚約を拒んでいたのではないかとも言われているのよね。何が真相かは分からないけど」
母とロゼリアとエラの3人が配られた舞踏会への招待状について盛り上がっているけど、私はある事実に気づいて青ざめてしまう。
今日夢で見た不思議な光景に映し出されていたものは、ドレスアップした女性の集まり、広くて煌びやかな場所、1人の男性――これらを全て満たす条件とはまさに舞踏会。
そして気がかりを覚えた見覚えがある男性は、肖像画で見た王子様だったのだ。