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#6 隔離病院

 ゾンビと遭遇したショックで押し黙る俺たち。


「これって、あれじゃない?」


 黙っていたタカシが突然口を開いた。


「あれ?」


 俺がたずねる。


「閉じ込めらた空間、タイプライター、それにゾンビって……」


 ──そう言われれば……これって、


「バイオ・ゾンビーズ」


 俺が口にするより早くサイコが言った。


 ”バイオゾンビーズ”、1990年代に発売され世界的にヒットしたサバイバルゲーム。近年までシリーズ化が続いている人気作だ。


 確かに「ゾンビが徘徊する閉じられた世界でサバイブする」というのは、今の状況に酷似している。

 しかしそうだとして、どういうことだ……?、つまり俺たちはゲームの世界に放り込まれたというのか?、誰が、なんの為に?、そもそもそんなことが可能なのだろうか?

 次々と疑問が思い浮かぶが、(いず)れの答えも見つかりそうにない。ただ謎が増えただけだった。


「ちくしょ、ふざけやがって。調子乗ってんじゃねーぞ!」


 握りしめた銃のグリップの底で床を叩き悪態をつくサイコ。だがそんな彼女も、誰に盾突くべきかわからず困惑しているようにも見える。


「とりあえず他の道を探さないか?」


 扉の方を振り返りながらタカシが言った。扉の向こうからは、相変わらずゾンビの気配が続いている。何かの拍子に破られて侵入してこないとも限らない。俺たちは立ち上がり周囲の探索を始めた。


 改めて周囲を見渡したが別の出口らしきものは見つからなかった。残るは上に行くしかない。まず俺たちは、エレベーターを調べてみた。しかし並んだ二台のエレベーターはどちらも電源が落ちているのかボタンを押しても反応がなかった。


 エレベーターを諦め今度は階段へ向かう。こちらは、少し上がった中段辺りに耐火扉のような鉄製の扉があり、しっかり施錠されていた。

 扉のノブの近くに画面があり、カタカナが入力できるキーボードがついていた。そこに特定の文字を入力することで、扉が開く仕掛けのようだ。入力に必要な文字は9文字。

 扉は丈夫そうで、タカシの爆弾でもこじ開けるのは厳しそうだった。それに爆弾の衝撃で入力パネルが壊れでもしたら二度と開けられないかもしれない。


「たくどうなってんだよ、この建物は」


 拳で鉄の扉を叩きながらサイコが苛立った声を上げる。そしてキーボードを叩き、適当な文字を入力し始めた。しかし、エンターを押すたびにエラー音が繰り返されるだけだった。


「やめろよ、入力に回数制限とかあるかもしれないんだぞ」


 キーボードを叩くことを止めないサイコを見かねて、タカシが声をあげる。


「じや、どうすんだよ」


 サイコが眉間にしわを寄せ睨み返す。険悪な雰囲気の二人を見て、俺は思わず声を掛ける。


「よせよ!これはゲームなんだろ? もしバイオゾンビーズに(なら)って作られてるなら、どこかにヒントがあるはずだ。手分けして手掛かりを探そう」


 俺の言葉を聞いて、しぶしぶ階段を降りていく二人。改めて一階で手掛かりになりそうなものを探し始める。


 手分けしてあちこち見て回ってみるが、目ぼしいものは見つからない。しばらくすると、受付カウンターの方を調べていたサイコがカウンターの奥から「おい」と声をあげた。俺とタカシが駆け寄りカウンターの奥へ回る。


 すると、そこに白骨化した一体の死体が横たわっていた。


「ひっ!」


 俺が驚いて声をあげる。元は警備員だったのか、死体は警備服にくるまるようにして床に伸びていた。


「大丈夫、そいつはゾンビじゃねえ」


 サイコが落ち着いた声で言う。いや、そういうことじゃないんだが……、そんな俺の心の声などお構いなく、サイコが言葉を続けた。


「それよりこれ」


 彼女が指さした先に、一台のエレベーターがあった。大きな棚の影で見えなかったが、業務用らしきエレベーターがそこに隠れていたのだ。


「動くのかな……」


 つぶやくタカシ。その疑問に答える代わりにサイコがエレベーターのボタンを押す。ランプが灯り、動き出す音が聞こえてきた。こちらのエレベーターは電源が通っているようだ。チーンと音がして静かに扉が開いた。


 すぐに乗り込むことはせず、慎重に様子を伺うが、特に異変はなかった。中に入り、操作パネルを見るとこの建物は15階建てで、その上に屋上があるようだった。サイコが15階のボタンを押す。


「使用にはカードキーを挿入してください」


 警告音と共にアナウンスが流れる。他の階を押してみるが、警告音とアナウンスが繰り返されるだけだった。結局、エレベーターは稼働していたが、カードキーがないと動かせないことが判明した。


「まじ使えねーな」


 力なくつぶやくサイコと共にエレベーターから降りる。カウンターの外へ出るため、白骨死体の横を通り抜ける。俺はあまりそっちを見ないようにしながら進む。


「ちょっと」


 タカシが何かに気づいた。白骨化した警備員の制服の胸元に何かがある。タカシが恐る恐る手を伸ばすとそれは一枚の白いメモだった。メモには汚い字で何か書かれていた。


 —----

 ちくしょう、もうダメだ

 あっという間に建物はゾンビに囲まれちまった

 しかも何故か病院内にもやつらの気配がする…


 あいつらはヤバい、やつらに触れて感染すると

 すぐに体が腐り骨だけになっちまう

 いや死ぬだけならまだいい…、下手すりゃ自分がゾンビになっちまう

 そしてヤバいのはゾンビだけじゃない、あんな恐ろしいやつまで…


 仲間はもういない。みんなやられちまった

 屋上にヘリコプターがあるはずだが

 俺にはエレベーターのカードキーがない

 階段のパスワードもわからない…


 もうダメだ、おしまいだ

 —----


 メモを読み終え、死体を見下ろす。マンガみたいに綺麗に白骨化している。この警備員も感染したのだろうか。それに、恐ろしいやつってなんだ……、そんな事を考えていると、


 ──!?


 俺たちが見ている前で、突然白骨化した死体がさらさらと砂のように崩れ始めた。みるみるうちに骨は細かい粒子となり、やがてチリのように消えていった。


「ふん、脅かしやがって」


 そう言って何事もなかったかのようにカウンターを出ていくサイコ。その後ろを、暗い顔をした俺とタカシがついて行く。


 結局倉庫から抜け出せたが、閉じ込められている状況は変わらなかった。そして今は屋上にあるというヘリコプターを信じて上を目指すしかなく、その上へ行く為にはエレベーターのカードキーか階段のパスワードを手に入れる必要があるようだった。


 再び手分けして探索を始める。俺は長椅子が並んだ待合コーナーを調べ始めた。椅子と椅子の間にはマガジンラックが置かれ、何冊かの雑誌が並んでいた。その中の一冊が長椅子の上に、開かれた状態で置かれていることに気づいた。


 手に取ってみると、開かれていたのはクロスワードパズルのページだった。縦と横にマス目が並ぶ表があり、それぞれのマス目に入れるべき単語ワードのヒントが表の下に書かれている。解くべき単語は全部で15問。全ての単語を埋めることで、最終的に一つの単語が導き出されるようだった。

 そして、導き出される最後の単語の文字数は、9文字。


 ──これだ!


 俺は心の中で声をあげた。


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