#4 ユニーク(過ぎる)スキル
俺の断言するような言い方に、二人の目が話の続きを待っている。
「タカシ、お前ゲームをしてる最中にここへ飛ばされたんだろ」
「ああ」
俺の質問にタカシが短く答えた。続いてサイコにも聞いた。
「サイコ、お前もか?」
「サイコって……、ああそうだよ」
彼女が面倒くさそうに答える。
「恐らくスキルはその時プレイしていたゲームと関係している」
俺がそう言うと、二人同時に「あ!」と声をあげ顔を見合わせる。思い当たることがあるという表情だった。
「お前なんのゲームをしてたんだ?」
「ゼビリアの伝説だよ」
サイコの質問にタカシが定番人気のアクションRPGの名前をあげた。恐らくそのゲームの中で爆弾のアイテムが登場するのだろう。
「なるほどねー、まあお子ちゃまがプレーするのにふさわしいゲームだな」
「名作ゲームに年は関係ないけどね」
サイコの軽口に、タカシも負けずに言い返し、ついでのように聞いた。
「で、あんたは?」
「そりゃもちろんエースプレジャーさ!」
手にした銃を構えながらサイコが答えたのは、ネット対戦が人気のFPSバトルロイヤルゲームの名前だった。様々な種類の銃火器が登場するゲームでもある。彼女の答えを聞き、タカシが小さくつぶやく。
「はー、サイコパスにはピッタリだな……」
「まあ、お子ちゃまには刺激が強すぎるかもな〜」
タカシの嫌味にそう言い返すと、手にした銃を見ながら感心したようにサイコが続けた。
「なるほどねー。スキルにはそういう意味があったのか」
そして最後に付け加えた。
「で、おっさんは?」
そう質問され急に口をつぐむ俺。彼女から”おっさん”呼ばわりされたからではない。いや、それはそれでショックだが、今はそっちではない。原因は、アームギアの画面にあった。その画面の中、スキル名表示の所にはこう書かれていたのだ。
> SSRの釣り竿
「どうした?」
俺が黙っているので、サイコがもう一度聞いた。タカシも興味津々といった顔でこちらを見ている。俺は何も答えず、貝のように黙って画面を見つづけていた。
「まさかエロゲーとかしてたんじゃないよな」
サイコがからかうように言った。それでも俺が黙っていると、
「あれ? あたっちまったか?」
──むしろそのほうがよかったかもな……
サイコのからかい声を耳にしながらそう思った。できることなら、俺のターンは飛ばしてもらいたいぐらいだ。しかし二人は黙って、しかしその表情は確実に期待する目で待っている。
俺は大きくため息をつくと下を向いたまま、アームギアに手を伸ばし、画面に表示された釣り竿のアイコンをタッチする。ピリッと軽い電流のような刺激が走り、すぐに具現化された釣り竿が俺の右手に現れた。びっくりした顔で、サイコとタカシが同時に口を開く。
「何これ? 釣り竿……どうゆうことだ?」
「何のゲームをしてたの?」
小さな声で俺が答える。
「モフぱら……」
一瞬の間を置いて、二人は腹を抱えて笑い出した。
「モフぱらって……、まじか? おっさん可愛いとこあるじゃん!」
サイコは完全に腹筋崩壊みたいな顔をしている。
「いやこれは俺のゲームじゃなく……」
言い返そうとしたが、よけい惨めになりそうな気がして途中で言葉を飲み込んだ。止まらないサイコは、ケラケラと笑いながら続ける。
「けどよー、これから起こるのがデスゲームだとしたら、その釣り竿、とんだ死亡フラグだな」
恥ずかしさか、それとも怒りか、遠慮のないサイコの言葉を耳にして、顔が真っ赤になる。怒鳴りつけたい衝動をなんとか抑え込む。落ち着け俺……、相手はまだ子供だ。ムキになることでもない。
すると俺の憮然とした顔を見ながらサイコがとどめを刺すように言った。
「ま、仲良くやろうぜ。釣り竿ニキ」
──こいつ勝手に俺にあだ名を!
流石に黙ってられず、口を開きかけるが、言葉を口にする前にサイコにぴしゃりと言われた。
「最初にアタシのことサイコと呼んだのは、そっちだかんな」
思わぬ反撃を受け、鬼の形相で睨みつけながら俺は押し黙った。いや、最初に言い出したのはタカシなんだが……、だが言い訳じみたその言葉を口にするのははばかられた。
「釣り竿ニキって……ちょっと止めてよ、今はふざけてる場合じゃないだろ」
いや俺はふざけてないし。てかそういうタカシ、お前もおかしくってしょうがないって顔してるんだが……。
──ふーっ
心の中で大きなため息をつく。いつもそうだ。昔から。学校のクラスでも会社でも、気づけば周囲からいじられてきた。自ら望んだわけでもないのに気づけば道化の役回り。そんなことの繰り返しだ……。笑いあう二人を横目にそんなことを思いながら俺は黙っていた。
「でもちゃんと調べた方がいいよスキルも、このアームギアのことも」
しばらくして、今度は真顔でタカシが言った。確かに今のこの状況は笑いごとではすまされない。その言葉を聞いてやっとサイコもふざけた態度を引っ込めた。
それから俺たちは腕に巻かれたアームギアをあちこち操作しながら何ができるのかを確認していった。
その結果わかったことは、まずスキルは、アームギアからいつでも出し入れが可能なこと。仮に遠くへ投げたり無くしたりしても、アームギアで一度キャンセルすれば再度手元に具現化させることができる。
ただし使用には二つの制限があった。一つ目は時間制限、タカシの爆弾は一度使用すると、一時間具現化できない。サイコのハンドガンは、15発の弾があり、一度使うと残弾数の有無に関わらず、フル装填されるまで一時間かかる。そして俺の釣り竿だが……なんと無制限となっていた。使い放題らしい、マジうける。
二つ目の制限は他人のスキルは使えないということ。サイコの銃やタカシの爆弾を渡されても俺は使うことができないようだった。
一方アームギアで表示されるのは、時刻、使用可能スキル、カウントダウン、それとピンク色で点滅するハートのマークがひとつ。このハートが消えたらどうなるのか、そのことはあまり考えたくはない。
それ以外にアームギアには通信とマップの機能がついていた。試しにマップを起動させてみたが、今いる倉庫の中、しかも自分が確認した所しか表示されず、あまり役に立ちそうにはなかった。
そうしてる間にもカウントダウンは進んでいく。
「とにかくまずここから出よう」
俺はそう言った。ここを出ないことには何も始まらない。三人で手分けして扉の鍵、または他の出口を探していく。
タイプライターや机を調べ直す俺、段ボールを開けていくタカシ、そして奥の棚を調べるサイコ。姿が見えないサイコの足音がペタペタと響く。彼女はここに来る前自分の部屋にいたらしくスリッパのままだった。そう言う俺も靴下のままだ。ここへ飛ばされる前に公園にいたタカシだけがスニーカーを履いていた。
二人の足元に気づいたタカシが、開いた段ボールで見つけた白いシューズを手渡してくれた。靴ひもの代わりにチャックのついた白い上履きのようなそれは、中敷きに抗菌医療用シューズと書かれていた。よくわからないが、ないよりましだろう。俺とサイコはそいつに足を通し探索を続ける。
しかし、倉庫中を探しても手掛かりはなかった。アームギアを調べても、鍵はおろかヒントになるようなものも見つからなかった。
「なんだこのゲーム、いきなりバグってんじゃねえのか」
サイコがぼやく。
「ゲーム……そうか」
タカシがそうつぶやき腕のアームギアにタッチした。直ぐにスキルにより具現化された爆弾が現れる。
それを扉の鍵穴の所に接着する。そのまま、扉から距離をとる。タカシが何を始めたのか理解した俺とサイコも慌てて扉から離れる。棚の後ろに避難した俺たちを確認したタカシがアームギアの画面をタッチした。
ドンッ!
低い破裂音と振動が伝わり、遅れて火薬と薬品が混ざったような匂いが鼻をついた。見ると薄煙の向こうにある扉は、鍵穴の部分が破壊されそこから光が差し込んでいた。
「よし!」
タカシが小さくガッツポーズをして扉へ向かう。
「やるじゃねーか」
物陰からサイコが立ち上がる。俺もホッとした顔で後に続く。三人が揃うと、タカシがゆっくりと扉を開けた。




